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三章、悪役の流儀

55、最初の世界と開拓王リサンデル

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 最初の世界。

 その時の王様は、リサンデルという名前だった。
 
 彼は開拓王と呼ばれていて、人族の居住地を積極的に拡大する政策を進めた。海を航海して未知の島を見つけて旗を立て、深い森の木々を伐採し、道を整え、都市を建て家を並べ農耕地を増やした。
 やがて国中の魔術師が口々に滅亡の預言を唱えると、開拓王リサンデルは魔女家に預言についての調査を命じた。

 魔女家当主、父フューリスは僕を連れて王城に参じた。

 僕はその時、初めて二人の王子――ノウファムとカジャに出会った。
 母妃が違うという異母兄弟の二人は、髪や肌の色が黒と白の正反対といった色合いで、まるで互いの足りない部分を補い合うみたいに、生まれつきペアであれと神様から定められたように寄り添っている姿は絵になって、僕に不思議な感覚をもたらした。
 
 ――僕は魔術の才能があった。
 同じ年齢の者はもちろん、歳が離れた魔術師相手でも、負ける気がしなかった。
 そのせいだろうか。
 僕は、ひとりだった。
 誰かに守られる必要もなかったから、僕を守る者はいなかった。
 起きている時間は暇さえあれば魔術の研究に没頭していたから、友達もいなかった。

 ――仲睦まじい王子たちをみて、僕は彼らが自分と別世界に生きている全く違う種類の生き物だと思った……。
 当然、彼らと親密になることはなかった。
 王族と魔女家の魔術師として、僕と彼らは互いに打ち解けることもなく、距離感の開いた主家と従家の関係でしかなかった。

 はじめのうち、穏やかで優しそうだったリサンデル王は年々その気質に変調をきたし、不安定になっていった。
 国土のあちらこちらで自然災害や魔物の出没が確認されて、吟遊詩人らは暴君の悪政を批判し、世の変事を「天が暴君にお怒りなのだ」と歌い上げた。
 ――リサンデル王は、それを知ってますます荒れた。
 
 現在行われているのと似た雰囲気の船上パーティが同じぐらいの時期に行われ、東方の獣人たちとリサンデル王は厚き友交を誓い合った。
 獅子の王とリサンデル王は、気が合ったのだ。
 彼らは共に大森林地帯の妖精たちを制圧・支配しようと意気投合し、侵略同盟を結んだ。

 その直後――僕は偶然その言葉をきいた。
さくは半月の後に見られる」
 開拓王リサンデルはその夜、暗殺された。
 
 ワインに盛られていた毒だ。
 魔力を蝕まれて意識を朦朧とさせたリサンデル王の寝所には、【救世】を唱える暗殺者たちが乗り込んできた。

 僕はその時、護衛をしていた記憶がある。

「魔術師エーテル、余を助けよ」
 朦朧としたリサンデル王に助けを求められ、僕は魔力を喰らう毒を中和しようとした。中和がうまくいかないと気付くと、他に移そうと術を変えた。

「リサンデル陛下、お任せください。この毒は移せます」
 僕には自信があった。
 
「エーテル公子! その術をお止めください!」
   
 暗殺者たちが乗り込んできて警備の兵をあっという間に倒し、施術中の僕を斬ろうとした時――王太子であったノウファムが駆け付けて、僕を庇った。
 その時ノウファムは左眼を負傷したのだった。

 これが、最初の世界での暗殺事件だ。
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