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三章、悪役の流儀

56、二回目の世界と拒絶の王ノウファム

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 二回目の世界。

 僕の人生は、記憶を持った状態で始まった。
 僕が最初の世界が滅びると確信した時にその世界を諦め、その時点で僕に従順であったカジャと一緒に「僕とカジャが記憶を引き継いでやり直しできるよう」術を施したからだ。

 カジャは幼少のうちに「同年齢の魔女家の学友が欲しい」と可愛らしく駄々をこねて、僕と接する機会を作ってくれた。
 
「カジャ、君は記憶があるんだね。よかった」
「エーテル、そなたも記憶があるのですね」
 カジャの保護者ぶって立ち会う兄王子ノウファムが呆然と見つめる中、僕たちは涙を流して抱きしめ合った。
 
「僕たち、やり直すんだ」
「ええ。滅亡なんて、させませんとも。これから起きることをわかっているのですもの。きっと防げます」 
 
 二回目の世界で、僕たちはたった二人だけの盟友だった。
 世界でただ二人だけ、同じ視点で世の中をみていた。
 同じ記憶を共有していた――現在の僕は、その一部をまだ失ったままだけれど。
 ……同じ目的地を目指していた戦友だった。

「カジャ、開拓を止めるんだ。妖精たちの恨みも、これ以上募らせてはいけない」
「すでに行われてしまったものはどうしようもないですが、これから行われるものは止めましょう、エーテル」
  
 僕たちは滅亡の一因が開拓王の国政にあると考えていた。
 人間たちによる自然の破壊、虐げられた妖精たちの恨み、呪い――そういったものが積み重なって、滅亡の原因になっていると考えたのだ。

「リサンデル王の御心を変えよう、リサンデル王が暴君化しないようにしよう」
 最初、父親にあれこれと働きかけていたカジャは、早い段階で諦めた。
「――父王は、根底からそういう方なのだ」
 そう判断した声は、優しく無垢だった王子が発したとは思えないほど殺意が籠められていて、人が変わったようだった。

「変えられない。あの父王は、変えられない。……ならば、他に手段はない」

 カジャはそう言って父王を排した。
 その震える背を僕は支えた。共に手を血に染めた。
 その時、僕たちは顔を合わせて歪に笑ったのを覚えている。

「ノウファム陛下、万歳!」
「王国の若き太陽に祝福あれ……!」

 戴冠した新国王、青年王ノウファムに王弟カジャが仲睦まじく寄り添い、僕は臣下として「よしよし」と思ったものだった。
 カジャが絶対の味方であり、実直な気質で経験浅き青年王ノウファムが玉座にいる。
 自分が権勢をふるいやすい、良い形ができた、と思った。

 ……しかし、ノウファムは変わった。
 彼もまた、気質に変調をきたし、不安定になった。カジャや僕の言葉にも反発する事が多くなって、何を言っても拒絶するようになり、暴君と呼ばれるようになってしまった。
 
 二回目の世界では、僕たちは船上パーティ自体を中止するように求めた。
 けれど、パーティは行われてしまった。

 変わった点といえば、東方の獣人たちをノウファムは招待しなかった点だ。
 
さくは半月の後に見られる」
 聞き覚えのある言葉をきいた瞬間に、僕はその者たちを取り押さえた。
 
「前回とは違うけれど、暗殺が起きようとしていたようだ。カジャ、暗殺はこれで防げたはずだ……けど、一応気を付けて」
「わかったよエーテル。最大限警備を増やし、毒物への警戒も呼びかける」
 
 しかし、暗殺事件は起きた。

 毒見役が毒見をする前にノウファムは自らワインを取り、狂気を思わせる歪な笑みを浮かべて止める暇もなく一気に煽った。
 魔力を蝕まれて意識を朦朧とさせたノウファムの寝所には、【救世】を唱える暗殺者たちが乗り込んできた。

 僕はその時、やはり護衛をしていた。

「エーテルは、さがれ。治療も護衛もいらん」
 朦朧としたノウファムは、僕を拒絶した。

「ノウファム陛下、お任せください。この毒は移せるのです。貴方を助けられるのです」
 僕には自信があった。なにせ、一度た毒だ。最初の世界では手間取って中和を試みたりしてリサンデル王の体力を大きく低下させる事態を招いてしまったが、二回目は最低限のダメージで毒から解放する自信があった。
 
 なのに、ノウファムは僕をかたくなに拒絶し続けた。
「エーテル! その術を止めろ! お前はさがれ、邪魔だ……!!」
 
 暗殺者たちが乗り込んできて警備の兵をあっという間に倒し、施術中の僕を斬ろうとした時――ノウファムは、まるで最初の世界の行動を再現するみたいに僕を庇った。

「――陛下!」
 リサンデル王の時と違い、生命を落とすことはなかったが――この時ノウファムは、決められた運命を繰り返すように、その左眼を負傷した。

 ……これが、二回目の世界での暗殺事件だ。
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