奴隷か?奴隷なのか? 

八十三広

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シュジは戸惑った

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「よく分からない報告ね」   「申し訳ありません。ダンジムル、奴隷、1人という単語は分かるのですが、後は理解出来ませんでした」    「…本人から聞くしかないか。分かった、下がって休みなさい」   「はっ。失礼します」   哨戒と国境の見張りの任務から帰ってきた部下から報告を受けたサラ・ドワイトは意味がよく理解できない報告に頭の中は疑問に占領された。   伝声管で「ダンジムル語が話せる尋問官は第四取り調べ室で中にいる少年を尋問しなさい。女も1人つきなさい」そう告げた。   サラ・ドワイトは、この街カーメトの領主である。  騎士の称号を賜り、戦争で多大な功績を上げてこの街を女王から褒美として授かった。  自身はもう騎士を引退してただの領主となっているが、後継者の娘は騎士見習いである為に近々カーメトから1番近いダンジムルの領土一帯を占領する為の作戦に自らも出陣する予定である。   サラ「素直に話すと良いんだけど…」  尋問官は聞き出す為には暴力も平気で振るう。   敵国の者とは言えただの少年であるので見張りは女の見張りは必要だった。   暫く部屋で待っていると、若い男女が入室した。   女の方が身長が高い事で、ソーアの女は大きいという噂は真実だと知った。  2人はシュジの左右に立ち、見下ろす。   女「ダンジムル人ね?」   シュジ「そうです」   男「ソーアに何しに来た?」   シュジ「奴隷になりにきました」   2人は互いの顔を見合わせ、女は対面の椅子に腰を下ろす。  女「…言葉は理解できる?」   シュジ「はい」   男「何故奴隷になりにきた?」   シュジ「村で仕事の手伝いをして生活してたんですけど、ソーアが攻めてくると知って殆どの人が引っ越ししてしまいました。それで食べる事も出来なくなりそうだったので。両親も死んでるので食べさせてくれる人もいないので」   女「どこの村?攻めてくるとどうやって知ったの?」   シュジ「トリンクという村です。国境のすぐ近くにあります」   男「どうやって攻めてくると知った?」   シュジ「村の大人達が噂してたので聞きました。後になって教会の人達が逃げる様に村から出て行きました。そしたら本当なんだって思ったらしくて…皆も続々と引っ越ししていきました」   女「本当に?」   シュジ「本当です。もう10家族程度しか残ってません」   2人とも信じられないといった風にシュジを見つめる。   男「1人できたと言ったが、途中で襲われたり兵にその場で殺されるとは思わなかったのか?獣に襲われる事だってあるぞ」   シュジ「死んだら死んだでかまいません。村にいても死ぬか捕まって奴隷になるかです」   女「他の村や町に引っ越せばその必要は無いわよ」   シュジ「他に移っても家借りるお金も無いし住み込みで働けるかどうかも分かりません。この町で駄目なら他の町に行って奴隷になります。殺すなら楽に死なせてください」   女は男に目配せすると、男は退出した。   女「ソーアに家族や知り合いは?」   シュジ「いません」    女「ソーア語はどの程度できる?」   シュジ「少し単語が分かる程度です。話すのは…お互い聞き取れないみたいです」    女「算は?」   シュジ「できます。あまり難しくなければ」   女「ダンジムル語の読み書きは?」   シュジ「できます」   女「荷物は預かるわ。少し待っていなさい」   席を立った女はバッグを持って出ていった。   サラ「確かなの?」   男「嘘をついている様には見えません」   女「算とダンジムル語の読み書きは出来る様です」    サラ「分かった。下がって」   男と女「はい」   ドアが閉まってサラは意見を求めた。   サラ「ロイア。貴女どう思う?」   ロイア「尋問官2人が言うなら本当の事だと思います。問題なのはどう扱うかですね」  ロイア・トーイ補佐官はサラがこの街カーメトを褒美にもらった時から以来の付き合いである。  通常、連れて来られた奴隷は無理矢理にでもソーア語を習得させ、全裸にして広場でオークションにかける。   家族が奴隷になってしまい、自分も奴隷になる事を望むなら家族の所有者に買わせるなり、奴隷一家として家を与えて住まわせる。  子供が自ら奴隷に志願するなんて事はカーメトに例が無かった。  無論ソーア語は習得させるが、裸にして広場でオークションにかけるのは気が引ける。   サラ「自分から奴隷になる子はオークションにはかけられないわね…」   ロイア「お嬢様の専属奴隷として引き取れば宜しいのでは?」   サラ「ランの?」   ロイア「騎士の昇格祝いにでも」   ラン・ドワイト。  ソーア国首都で騎士見習いとして励んでおり、4ヶ月後には騎士学校を卒業になって帰ってくる。   サラ「そうするのが良いわね。その子もそれが良いでしょう」   伝声管で部屋に連れて来る様に指示した。   ロイア「ラン様は主席間違い無し取る聞いておりますが?」    サラ「敵国の最前線で大きい街の領主になるのよ?それくらいなってもらわないと。性格はどうしてあんな子になったのか…」   ロイア「それは騎士学校で矯正されている事をご期待下さい」   ノックが響いた。   女「お連れしました」   サラ「ご苦労様。ついでに通訳をお願い」  女「かしこまりました」   シュジは大きい机の持ち主から何かが感じる。  それは気品溢れるも目は鋭く、オーラのある女性に見えない何かで威圧されている様に緊張した。   女「この街の1番偉い人よ。礼をなさい」   シュジはソーア式の礼は知らず、ダンジムル式の礼をした。   サラ「シュジ。あなたには私の娘であるランの奴隷として働いてもらう。異論はある?」   シジュ「ありません。ですかねまだ言葉も喋れませんのでご容赦ください」   サラ「ランは4ヶ月後にこの街に帰ってくる。その間、お前はソーア語とこの街の事を学びなさい」   シュジ「精一杯頑張ります」   サラ「良い返事よ。少し待ちなさい」   館の執事宛に手紙を書いた。   サラ「今日から屋敷でダンジムル語が使える者に全てを教わりなさい。お前はもう奴隷よ。ちゃんと言う事を聞くように」   シュジ「はい。分かりました」   サラ「この子と手紙を館に」   女「かしこまりました」   手紙を預かり、部屋を退出した。   ロイア「良さそうな子ではありませんか」   サラ「そうね。ランもあの子で治ってくれれば良いんだけど…」   サラは深く息を吐いた。   先程の女尋問官と馬車に乗り込んで移動しているシュジは、窓から街の外観と人々を見ていた。   シュジ「首輪をした子はなんですか?」   女「子供の奴隷よ。大人になると手首に着けるの。どっちも主人の名前が焼いて書かれてるわ。どちらも着けてないのは奴隷じゃない人よ」   シュジ「でも、奴隷と言っても皆出歩いてるし笑顔の人もいますけど」   女「奴隷にも休息があるからね。子供は特に休息が多いしお小遣いもらってお菓子や甘い物食べてるわ。奴隷の一家なら家も与えられてる」   シュジ「それ…奴隷なんですか?」    女「奴隷よ。粗相をすると罰は与えられるし…色んな事させられるから。奴隷は子供よりも身分が下よ」    シュジ「奴隷らしい扱いもあるんですね」   女「そうよ」   閑静な住宅街で馬車は止まった。    女「降りなさい」   促されて降りると、大きい屋敷の門の横にある何かを押した。   シュジ「なんですか?」   女「ここの人に教えてもらいなさい。私が帰るまで1言も話さないで」   そう言い終わると館から人が出てきた。  黒と白の服にスカートを履いた女性が出てきた。   「……?」   女「サラ……奴隷……?」  全く聞き取れない事にがっくりと肩を落とす。   やはり本だけでは発音は聞き取れないのだ。  女に背中を押されて門を通る。   左右は庭になっていて手首に革を着けてる男や女が手入れしている。   中に入ると外観と比べて質素に見受けるも、正面に武器を持った甲冑に、褒章が所狭しと並べられている。   これまでの身内の絵も飾られていた。  女と玄関で待つと、若い女が気品溢れる佇まいで、絵で見た事のある執事らしい服を着ている。   女が挨拶し、手紙を渡す。   「奴隷……少年………教育……はい」    女「……お願い…」    女「この方は執事さんよ。この方の言う事を聞いて従って」   シュジ「はい。ありがとうございました」   女尋問官は出ていった。   「シュジね。私がダンジムル語を使えるから、私が教育するわ。私は執事のシエラ・クライス。シエラでもクライスでも好きな方で呼びなさい」  シュジ「はい。宜しくお願いします」   シエラ「ダンジムル式はおやめなさい。奴隷の礼は右手で首根を掴んでお辞儀よ」  シュジ「すみません」   言われた通りに礼をした。   シエラ「素直で宜しい。ついて来なさい」  歩くのが早く、小走りになりながら着いていくと、備品置き場に着いた。   シエラ「荷物の中で持っておきたい物は出して」  シジュ「は、はい」   さっさとしろという雰囲気の中で着替えと靴を取り出した。   シジュ「後は必要ありません」   シエラ「では後で処分させるわ。服と靴を持って着いてきて」  また移動する。  シエラ「しかし本当にダンジムル人は背が低いのね。歳いくつ?」   シジュ「13歳です」   シエラ「まだ11歳ぐらいに見えるわね」  ドアを開けると二段ベッドがいくつも並んでる大きい部屋に入る。  シエラ「空いてるベッドの上は何も置いてないからそこに持ってる物を置いて玄関ホールまで早く来なさい」   シジュ「は、はい!」  1つ1つ見ていき、遂に空いているベッドを発見して服を置いて、駆け足で玄関ホールに向かう。  背を正して待っていたシエラはシジュを見て「背が小さいから歩幅小さいのね」   嫌味を言われたシジュは怒りよりも傷ついた。  確かに背は小さい方で、村の2歳下の少年並であって村人によく背が小さいと言われてきた。   シエラ「気にしてるのね。じゃあもう言わない。少しゆっくり歩いてあげるから着いてきなさい」  階段を上がって廊下を進む。   シエラ「腕輪が着けてない者は全員平民よ。着けてない者には敬意を払い、ちゃんと様を付けて」   シュジ「はい。他に子供はいないんですか?」   シエラ「あなただけよ。子供だからある程度は甘くしてもらえるけど、あまりに酷いようなら遠慮なく叩くし罰を与えるわよ」   シュジ「わ、分かりました」  赤い髪を靡かせ、美人であるが怖そうで厳しいという印象を抱いた。  ドアを開けて入った部屋は数人で使う大きいテーブルに6脚の机があった。   シエラ「座って」  もう上下関係が染み付いたシュジはさっさと座る。  シエラは棚から棒と本2冊と小さく白い物を机に置いて座った。  シエラ「1冊はソーア語の教本。もう1冊はただの紙」  シュジ「本当だ…」   シエラ「この本に、これを使って書いていきましょう。書いたら、この白いので消せる」  紙に棒で横線を引く。  そして白い物で消す。    シュジ「おおおおお…」   シエラ「鉛筆と消しゴムと言うらしいわ。さあ、勉強を始めましょうか」   そこから言われた事を聞き、書いていく。  発音を聞き、発する。   そして夕食前となるとまず1日目の勉強が終了した。   シエラ「綴りは覚えてるみたいだけど、発音は滅茶苦茶悪いわね。殆ど何を言っているのか分からないわ」   シュジ「す…すみません…」  シエラ「若いからお嬢様が帰られるまでには何とかなるでしょう。さ、夕食前に挨拶をすませましょう」   シュジ「はい!」  玄関ホールで働く者達をも集めると結構な数の者がいる事が判明した。   平民の者は興味津々でシュジを見ている。   シエラ「今日……自分…シュジ……子供…………ソーア……奴隷……」   勉強の成果か少しは聞き取れる。   シエラ「礼をなさい」   言われた通りに礼をする。   シエラ「仕事……奴隷……」  そう言うと平民達は皆が仕事に戻り、腕輪をした者達が集まった。  シエラはまた同じ様な事を言っているのだろう。  最後に礼をした。   「リンリンリンリン」   玄関ホールに何かの音が響いた。   腕輪付の者達は慌ただしく外に出ていく。   シエラ「ご領主様のお帰りよ!貴方も外出て!」  背中を押されて外に出ると、外で左右に別れて整列していた。   シエラ「どっちか寄って!」  シュジ「はい!」  整列に加わる。玄関前に止まった馬車から昼にあったサラ・ドワイトが姿を現す。  皆が礼をするのでシュジも伴った。  それはサラが玄関に入ってドアが閉まるまで礼は続いたが、閉まると皆が礼をやめて散らばった。    「おい」  腕輪付きの中年が声を掛けてきた。   「お前ダンジムル人か?」   シュジ「そうです」   「そうか。だったら俺も話せる。俺はこのサラ・ドワイト様の奴隷のまとめ役を仰せつかってるカムイだ。よろしくな」    シュジ「シュジです。宜しくお願いします」   カムイ「おう!さあ、飯食いに入るぞ。裏口からな」  大男で筋肉質な人物であり、豪快な性格。  決して嘘はつかず、よく皆をまとめているカムイはサラから気に入られてる。   カムイ「でかい屋敷だから裏口に周るのも大変だ。サラ様は腹一杯食わせてくれるから良いけどな」   シュジ「他の主人はそうでもないんですか?」   カムイ「食い物は金掛かるからなあ。お前は子供だからどこ行ってもちゃんと食わせてくれるがな」   シュジ「え?そうなんですか?」  カムイ「おう。子供は腹一杯食わせて多めに休息取らせないと処罰されるんだってよ。子供も不当に扱われたらチクれる様にほら、お前もここに来た時外壁と同じ高さの建物入っただろ?あそこの偉いさんに直接チクれるんだよ。俺等にも行き過ぎた暴力は処罰されるし休息取らせないといけないらしいわ」   シュジ「へえ。じゃあ、そんなに悪い訳でもないんですね」   カムイ「優しい人は優しいという感じだな。暴言が酷い奴や差別は罷り通るしな」   シュジ「…」   カムイ「さあ入るぞ」   裏口からぞろぞろと列をなして入る。   その集団に従って広間に入ると机と椅子が並べられている。  そこに配給係が台車に乗せて食事を運んできた。  パン、スープ、林檎1個の夕食だった。 パンは柔らかく、スープは温かい、林檎は甘かった
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