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第2話 抱えきれぬ想い

秘密 Episode:03

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 ◇Rufeir

「そこまで」

 鋭い声で、はっと我に返った。

「出来たかね?」
「あ、はい」

 慌てて答案用紙を渡すと、教官の顔色が一瞬変わる。
 朝から連続で試験を受けて、疲れて半分うとうとしていたのが、いけなかったのかもしれない。
 ぜんぶ答えは書いたから、だいじょうぶのはずだけど……。

「きみはたしか……5学年だったね」
「えっと、そう、聞きました」

 本当のことを言うと、自分でもよく分からない。
 ただ先輩や学院長が、そう言ってたはずだ。

「うーん、5学年ねぇ。
 それならなんで、この解法を知っているんだ?
 そもそも今まで正規教育を受けていないのに、これだけというのは……」

 教官、何かぶつぶつ言っている。

「あの……?」

 どうしていいか分からなくて、おそるおそる声をかけてみた。

「ん? あぁ、今日はこれで終わりだから、部屋へ戻ってかまわんよ」
「はい」

 荷物を持って立ち上がる。

「明日は実技だから、指定の時間に指定場所へ来なさい。遅れないように」
「はい」

 立ち上がって身体を伸ばす。
 座りっぱなしなんて初めてで、身体じゅうが重い感じだ。

 学院に来る前の分校でもテストを受けたけど、何日かに分けて少しづつだったから、こんなことはなかった。
 本来は何のためなのかよく分からない、小さな部屋を出る。

「どうだった?」

 外でロア先輩が、待っててくれてた。

「えっと……身体、痛いです……」
「そう来るかー!」

 あたしの言葉に、先輩が笑い出す。
 何がそんなにおかしかったのか、お腹を抱えての爆笑だ。

「先輩……?」
「あーゴメンゴメン。
 えっとさ、身体じゃなくて、試験ちゃんとできた? 難しくなかった?」

 そういう意味だったのかと、やっと理解する。

「いちおう……ぜんぶ答え、書きました。
 でも思ったより、難しくなかった……かな」
「やっぱそうかぁ」

 思ったとおり、そんな表情でロア先輩がうんうんとうなずく。

「教えててびっくりしたもん、頭よくて」
「そう、なんですか?」

 あたしいつも、母さんたちに笑われてたのに。

「そそ、自信持っちゃってダイジョブダイジョブ。
 でさ、なんか食べる? 疲れたでしょ」

 言いながら先輩、あたしを食堂のほうへ引っ張ってく。
 答えがNOってケースは、考えてないみたいだ。

 もしかするとあたしはただの口実で、何か食べるのが目的なのかもしれない。
 先輩は昨日もケーキをおかわりしてたし、そのあとの夕食もちゃんと食べていた。
 だからきっと先輩、食べるのが好きなんだろう。

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