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第3話 葛藤

転機 Episode:02

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「つか、何する気だ」
「き・り・く・ず・し」
「切り崩し?」

 何のことか分からない。
 そもそも、切り崩すようなものなんてまわりに見当たらない。

「――ルーフェ、もしかして、話見えてない?」
「ごめん……」

 物分りの悪さが申しわけなくて謝ると、ミルがイマドたちのほうへ顔を向けた。

「三人もいて、だーれも状況説明してないんだ?」
「いや、だってこいつ、気づいてねぇし」
「ホントのこと分かったら、よけいかわいそうだよ」

 口々に言いわけするのを聞いて、ミルが言い放つ。

「ばっかじゃないの!」

 さっきまでの楽しそうな雰囲気とは一転、厳しい声と視線だ。

「何がどうなってるか分かんなかったら、ルーフェだってやりようないじゃない。
 分かんないのもアレだけど、教えないってもっとヒドいでしょ。
 共犯みたいなもんだよ!」

 ほとばしるような怒りかただった。
 そしてこんどは、優しい表情であたしのほうへ向き直る。

「ルーフェ、いい? あのね、ルーフェはいじめられてるの。分かる?」
「いじめ……?」

 言われてることがピンと来なかった。

「ふだんいろいろ言われたり、やられたりしてるでしょ? それ、全部そうだよ」
「え、でも、あれは……」

 あれはあたしが違いすぎて、馴染めないせいだ。
 肝心なことはひとつも知らなくて、できることと言えば……。

「あ、泣かした」
「あれ、泣いちゃった」

 下を向いたあたしを、ミルがしゃがみこんで見上げた。

「ルーフェ、だからね、ルーフェは悪くないの。それ分かる?」
「え?」

 驚いて彼女を見返す。
 くるくるっととした水色の瞳が、笑った。

「ルーフェがね、ふつうとはちょっと違うのは、たしかだけどさ。
 でも、それといじめは別だよ。いっしょに考えたらダメだよ」
「そう、なの……?」
「そだよ」

 ひょいっと彼女が立ち上がる。

「違う違うって言うけどさぁ、同じ人なんて、ぜったいいないじゃん。
 みーんなどっか違うもん。
 なのに比べるとか、あたし分かんないなー」

 はっとした。
 たしかにミルの言うとおりだ。
 何もかもすべて同じ人は、どこにも居ない。

「ちょっと、分かった?」
「……うん」

 少しだけ、楽になった気がした。

「よーし、そしたらイタズラいこー!」

 彼女はどこまでも楽しそうだ。
 そのようすに呆れ顔で、イマドの友だちが突っ込んだ。

「もしかして、ルーちゃんのためってより、単に面白そうだからって言わないか?」
「うん」

 きっぱりとミルがうなずく。

「でもさ、悪くない話だと思うんだ~。
 あたしは楽しめちゃうし、上手く行けば片付くし。
 サイアクでも、現状維持ってだけだし」

 彼女の魔を秘めた笑顔。

「イマドたちも利用できるものは、利用したほうがいいんじゃない?」
「………」

 三人とも言い返せないみたいで、そのまま黙る。
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