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第4話 温もり

神話 Episode:02

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◇Rufeir

 話して……いいんだろうか?

 あたしは悩んでいた。
 自分がシュマー家だと言うのは、どのみちイマドには話さなければならないと思っていた。
 だからそれは、別にいい。

 だいいち今でも、イマドはあたしの特異体質に併せた薬を持ってくれていて、何かあったときは対応してくれることになっている。

 でも……その先は別だ。
 聞けば、いやでもあたしにまつわる一連の流れに、巻き込まれるだろう。
 そんなことに、イマドを巻き込んでしまっていいんだろうか?

 ――グレイスは死神。

 そう、昔ファールゾンが言っていたのを思い出す。
 でもそんなあたしに、イマドが意外な言葉をかけた。

「『グレイス』は、ンなに珍しいのか?」
「知ってる……の?」
「お前の普段のラストネームが、ホントはミドルネームだってことはな」

 どうやら母さんから聞いたらしい。

 ――またお節介して!

 ほんとうに母さんと来たら、油断も隙もない。

 あたしの本名は、ふだん学院などで使っているのとは、少し違う。
 グレイスは実際には、ラストネームではなくミドルネームだ。
 ルーフェイア=グレイス=シュマー。それが本当の名前だった。

 シュマー家と言うのは、軍関係者の間ではわりあい有名だ。
 かなり長い間続いている傭兵の家系で、子弟を戦場で育てることで知られている。

 ただ家の人間は実際にはシュマー姓を名乗らないから、ちまたじゃ噂だけで誰も実態はしらない、という状況になっていた。
 それにしてもいったいどこまで聞いているのか、不安になる。

「けどそしたら……何を、知ってるの?」
「だから、お前の名前だけだって。
 けどグレイスってのがメチャクチャエライのは、さっき分かった」

「そっか……」

 ――こんなに察しがいいなんて。

 でも思い出す。イマドに隠し事は、できたためしがない。

「で、グレイスってなんなんだよ?」

 気軽な調子で彼が訊いてきた。
 どう説明するか迷う。
 だいたい、ちょっと説明して分かるようなものでもないし……。

 違う。
 それ以前にあたし、どうしてこんなにすらすら話してるんだろう?
 イマドは……関係ないのに。

 知ってほしいのと、言ってはいけないのとの間で、あたしは黙ってしまった。

「ま、さっきも言ったけど、言いたくなきゃそれでいいしな。
 けどよ……他に誰も知らないっての、けっこうつらいぜ」

 はっと顔を上げる。
 イマドと視線が合った。
 寂しいのか哀しいのか分からない、イマドの不思議な表情に、なぜか涙がこぼれた。

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