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第8話 言葉ではなく

尋ね人 Episode:03

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 ――あ、そうだっと。

「そうそう、うちの娘、あなたになんか渡してるわよね? 返してもらえるかしら」

 こういったらこの男、子供みたいに泣き出しそうな顔になっちゃった。

「別にタダでとは言わないわ。ちゃんとその分は払うわよ」

 あのねぇ、露骨にほっとした顔しないの。情けないったらありゃしない。

「さ、出してもらえる?」
「これです……」

 内ポケットから男が、指先ほどもある紅玉を出して見せた。
 受けとってよく眺める。

「本物みたいね」

 この紅玉、あの子けっこう気に入ってたのよね。
 にしてもいくら人のためだとは言え、それをあっさり差し出しちゃうんだから、あの子ったらたいしたもんだわね。

「あの、すいません、お金は……」
「あのねぇ、何言ってるのよ。ちゃんと案内してから。いいわね?」
「げ……」

 なんだかカエルが絞め殺されたみたいな声。

「もう、さっきから情けない声出して、みっともないわよ。
 ところであなた、名前は?」

 さすがに名前がわかんないと、不便だし。

「え? あ、レードって言いますが……」

「あ、そ。あたしはカレアナ。呼び捨てで構わないから。
 さ、どっち?」

 レードとか言うチンピラを先に立たせて、歩き出す。
 場所は、ここからそんなには遠くないんだそう。

「その、そこの近くに住む家族が借金返してきませんで、俺が取りたてに行ったってワケで」
「ふぅん」

 ここじゃよくある話なんだろうけど。
 でもそんなに必死に取りたてなくたって、自分が困るわけじゃないのにねぇ?

「そしたら娘さんが割って入って、代わりに払ってくださったんです」

 すっかり子分みたいな調子で、この男が弁解する。

 ――やっぱりみっともないわ。

 もっとも嘘ついたまま知らん顔してたってのが、いちばん腹立つんだけど。

「あ、ここいらあたりです」

 割合広めの路地で、レードが立ち止まった。

「いないじゃない」
「そりゃそうスよ。もう何時間も前の話ですから」
「それじゃ話にならないでしょ。どこ行ったか聞いてらっしゃい」
「はぁ……」

 彼が渋る。

「あら、いいわよ。じゃぁお金払わないもの」
「そ、それだけは勘弁してください! んなことになったら、社長になんて言われるか……」

 ――根性なし。

 ここまで情けないと、もう形容詞がなくなってくるわ。
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