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第8話 言葉ではなく

証拠 Episode:14

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「この国に住んでるのに、うっかり変なものに楯突いたりしたら、それこそ暮らしていけなくなっちゃうわよ」
「そうだね……」

 基本的にシュマーの人間は国籍がなくて、あたしなんかもいつも偽造したもので通過してる。
 だから法の庇護も期待できないけれど、反面何をやってもお咎めなしのところがあった。

 何よりシュマー自体がある意味国のような形を成しているから、たとえ国籍がなくても困るような事態にはならない。

 けど、普通の人は違う。
 そうおいそれと国を捨てることはできないし、そうしてみても後のことは見通しが立たない。

 それに不法滞在している人ともなれば、見付かるだけでも致命的だ。
 だから母さんは父さんと相談して、二人で行くことにしたんだろう。

「でも、どうして夕べ行かなかったの?」

 ふっと気になって訊いてみた。
 こういうことは時間をあけるより、いきなり畳みかけたほうが有効だ。

「眠かったんだもの」
「………」

 何も言えなくなる。
 確かに母さん、こういう人だけど……。

 逆に言うと屋敷に行くのが「今」になったのは、どこかで寝てたからなんだろう。

「ともかくそーゆーわけだから、これから行ってくるわ。ディアスがもう、車回して待ってるしね。
 あんたは――どうする?」

 母さんが訊いた。
 いつもそうだった。
 どんな時も、どんなことも――やむをえない理由であたしを戦場に連れ出したという以外は――母さんはあたしに、無理強いしたことはない。

「行かなかったら……どうなるの?」
「どうってことないわ。ちょこっとてこずる程度かしらね」

 それが嘘なのもすぐに分かった。
 母さんが「ちょこっと」と付け加えるときはたいてい、普通の人なら「絶対無理」と言うような場合だ。

「――あたし、行く」
「いいの? また辛い思いするわよ?」
「かまわないわ」

 父さんや母さんが怪我をしたり――最悪死んでしまうくらいなら、自分が出るほうがよっぽどマシだ。

 それに実を言えば、両親よりあたしのほうが強い。
 生まれつきの強大な魔力と、考える以前に身体が的確に動くという特異な能力は、パワー不足を補って余りある。

「ありがと、助かるわ。
 ――ごめんね、頼りになんない親で」

 そう言って母さんがあたしを抱いて、頭を撫でた。
 久々の――この感じ。

「ううん、いいの」

 ちょっとだけ泣きたくなる。
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