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第8話 言葉ではなく

戦闘 Episode:15

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「誰かこいつを――うわぁっ!」

 カニがまた兵士めがけて爪を振り上げたのを見て、あたしはとっさに呪文を唱えた。

「フルグラトル・ラースっ!!」

 対魔法防御が施してあったらどうしようかと思ったけど、幸いそれはなかった。
 中規模の雷魔法で、間一髪のところで動きが止まる。

「効いたみたいだな」
「うん」

 そのとき鋼鉄のカニの目が、あたしたちを見た。

「なに……?」
「ちょっと待て、あのクズ鉄、俺らターゲットにしたんじゃね?」

 カニの目が赤っぽくなったのに、あたしも同じ感想を抱いた。
 ぎしぎしという音を立てながら、カニがツメを振り上げて一歩こっちへ出る。

「くるぞっ!」
「でも、どうしよう? ここじゃ……」

 こんな大きい相手と戦おうと思ったら、広い場所でないと周囲の建物まで巻き込んでしまう。
 そしてその建物の中には、人がたくさんいる。

「ちっ、まいったな……そだ、駅前の広場、ここからすぐじゃねぇか?」
「あ、うん。じゃあ場所移動して……」

 イマドと一瞬視線が合った。
 あたしの考えてることが伝わってる、そう確信する。

 何の合図もなしに、あたしたちは同時に駆け出した。
 左右に分かれながらタイミングを合わせて雷系呪文を放って、一瞬だけこいつを食い止める。

「ったく、こんなとこでランニングするとは思わなかったぜ」

 カニの向こう側をすりぬけながらイマドがぼやいてるのが、なぜか聞こえた。

「喋ると、息が続かなくならない?」

 すり抜けて合流してから、思わずそう返す。

「このくらいでネあげてたら、学院の訓練で死ぬぜ?」
「それはそうだけど」

 後ろではまた兵士を巻き込みながら、鋼鉄のカニがこちらへと向きを変えたようだった。
 思惑通り、ターゲットのあたしたちを追いかけることにしたらしい。

 走りながら後ろをちらっと見ると、追いかけてきているのは例のカニだけだった。
 ロデスティオ兵は巻きこまれるのが怖くて、追って来れないみたいだ。

 ただ追いかけてくるカニのスピードは、けっこう速い。

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