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第9話 至高の日常

日常 Episode:21

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「あの、えっと、ごめん……!」

 自分のせいだとでも勘違いしたのだろう、ルーフェイアがまた謝り始める。

「あなたが謝ってどうするんですか」
「す、すみません!」

 こうなると、いつもの堂々巡りだ。

「なんでも謝ればいいとでも思っているなら、大間違いですよ」
「………」

 これがとどめになって、見事にルーフェイアが泣き始めた。声をあげるようなことはないが、涙が次々とこぼれ落ちている。

「やれやれ、今度は謝る代わりに泣くわけですか。呆れたものですね」

 だがタシュアはそれ以上言わなかった。
 ただし可哀想に思ったわけではない。単純に注文していた食事が来ただけのことだ。

 とりあえず口を閉じたタシュアに、シルファが隣でそれと分かるほどはっきりと安堵の表情を見せたが、これにも彼は突っ込まなかった。
 通常より3ケタほどずれているとは言え、タシュアにも一応加減というものはある。

「ほら、泣いてねぇで食べろって」
「あ、うん……」

 向かいでも後輩たちが、運ばれてきた食事に手をつけ始めた。

「あ、これ……おいしい♪」
「だろ?」

 とは言えルーフェイアにどこまで味がわかっているかは、かなり謎だ。

「それが何か、わかっているのですか?」
「えっと……お魚ですよね……?」

 試しに突っ込んでみると案の定、要領を得ない答えが返ってくる。

 なにしろこの少女、華奢で繊細な外見に似合わずなんでも食べる――というか、何を食べさせられても文句を言わない。
 どうも基準は「毒でないこと」程度のようで、いざとなれば木の根でも「おいしい」と言うのでは、と思うほどだ。

(確かにそのほうが、戦場ではいいのでしょうが……)

 ともかく色々な意味で、ルーフェイアは基準がずれている。

「まったく。自分が食べているものくらい把握しなさい。
 それも分からないようでは、いざという時に生き残れませんよ」

「すみません……」

 食べている最中にもかかわらず、ルーフェイアがうつむいた。もうひと押しすれば、また泣くだろう。
 だが今度はそれより早く、イマドが口を開いた。

「ほら、泣かないで食えよな? 早くしねぇと晩メシの材料買うヒマ、なくなっちまうから」
「う、うん」

 涙を飲みこんで、ルーフェイアが慌てて食べ始める。

「買い物に、行くのか?」

 シルファが尋ねた。
 「材料」と聞いて気になったのだろう。
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