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第9話 至高の日常

掌握 Episode:03

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「お願い、看護士さんに言って!」
「ダメだ」
「じゃぁ、あたしが行くわっ!」

 構わず扉に向かった。

「ダメだと言ってるだろう!」
「痛っ――」 

 すごい力で腕を掴まれる。

「放して!」

 ふりほどこうとしたけど、容易にはできそうになかった。

「お願い、放して! あたし、看護士さんに――」
「No.8、止めろ」

 ふと、腕を掴む力が緩む。
 腕に痕がついていそうだった。

「まったく、とんでもないお嬢ちゃんだな。大人しそうな顔してるってのに」

 ――誉められてるんだろうか?

 ここのリーダー(全体のリーダーはまた別だ)の言葉に考え込んだけど、結局あたしは応えなかった。
 その間にリーダーは、他の男の人に命令する。

「ガキどもを黙らせるのには、お嬢ちゃんの言った方法しかないのは確かだ。
 お前、行って看護士どもにどうにかさせろ」

「了解」

 ひとりが出て行きかけた。
 その背へ、またリーダーが言葉をかける。

「だが、この中へは入れるな。部屋の外まで持ってこさせるんだ」
「わかりました」

 今度こそ男の人が出て行った。

 ――よかった。

 さすがにほっとする。
 これで……この子たちに、何か食べさせてあげられるだろう。

 あたしは傍にいた赤ちゃんを抱き上げた。

「待っててね。あとちょっとで、ミルクあげるから」

 赤ちゃんを抱くのは、慣れていた。

 大勢が暮らすシュマーの本拠地は保育施設もあって、たくさんの子供がそこで暮らしてる。

 なにしろシュマーの親はみんな世界中に散ってて、面倒をみるどころじゃない。
 だから大規模な保育施設で、集団で育つのがふつうだった。

 ただ、もともと限られた血縁を中心とするシュマーは、人手が不足気味だ。
 そのうえどうしても軍事が優先になるから、あたしはそこへ帰るといつも、保育所なんかで手伝いをしていた。

 そういえばあの子たち、どうしてるだろう……。

 メインファクトリー・END――シュマーの本拠地はこう呼ばれている――の子たちの顔が、脳裏に浮かぶ。
 最後に帰ったのは、この間の夏だ。

 それからもう、一年近く。
 全員が無事とは思えなかった。

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