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第9話 至高の日常

掌握 Episode:02

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「ごめんね、お洋服ないから、これを着てて」

 床に毛布を敷いてシーツや何かで身体をくるんであげると、この子たちの表情が少し和らいだ。
 赤ちゃんたちも毛布をたくさん敷いて、その上にちゃんと寝かせる。

 ただ嬉しいことに、どの子も暴行された様子はなかった。
 服が汚れたまま放置されていたほかは、あざや傷跡は見当たらない。

 体調も幸いなことに、大丈夫そうだ。
 偶然なんだろうけど、重症の子がいなかったらしい。

 それでも念のために、訊いてみる。

「痛いこと、されなかった?」
「うん」

 どの子も同じ答えだ。
 怖い目にあって怯えてはいるけど、どうにかそれだけで済んでいる。

「――おねえちゃん」

 女の子がひとり、傍に寄ってきた。

「大丈夫よ」

 頭を撫でてなだめる。

「静かにしてようね。そうすれば後で、ちゃんと看護士さんが迎えに来てくれるから」
「うん」

 それからこの中では大きい子たちに、小さい子たちを、ひとりづつ割り当てた。
 子供ばかりの学院で、よく使われる方法だ。

「ちゃんとおてて繋いで、しっかり抱っこしてあげて。大きいからできるよね?」
「わかった!」

 それまで怯えるばかりだった子が、たちまち顔に決意をみなぎらせる。
 幼い子たちにも繰り返し言い聞かせた。

「静かにしてれば、お部屋に帰れるから」
「ふぃなちゃんの、べっど?」
「そう。フィナちゃんのベッド、今看護士さんがお掃除してるの。だからここで、静かに待ってようね」
「きれいきれい、まってる~」

 そんな話に納得して、喋れるくらいの子たちも静かになる。
 あとは赤ちゃんと、やっと歩けるくらいの子だけど、これはもうどうしようもなかった。

 なにより、もっと差し迫ったことがある。

「そのうるさい赤ん坊も、どうにかしろ」
「そんなの、ムチャよ!」

 夕食の時間なんてとっくに過ぎている。
 なのにこの子たちは放って置かれて、何も食べていないはずだ。

「ミルクがなくちゃ、泣きやまないわ」

 話ができる子は、どうにか事態を飲み込んで黙っているけど、赤ちゃんにガマンさせるなんてできるわけがない。

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