上 下
590 / 743
第10話 空(うつほ)なる真実

アヴァンにて Episode:04

しおりを挟む
「あの、申し訳ないんですが……とてもこんな部屋に、泊まる予算は……」
「そのことでしたら、ご心配には及びません」

 ホテルの人が、穏やかに笑いながら答えた。
 それからちょっと悪戯っぽい表情で、付け足す。

「何よりグレイス様や、そのご学友様からお代を頂いたなどと知れたら、私どもの首が飛びます」

 どうやらこのホテルは、ルーフェイアの家が所有しているとか、そういうことらしかった。

「どうぞ、お掛け下さい」
「あ、はい」

 気圧されながらも、私もソファにかけた。汚さないかと、つい気を使う。
 ホテルの人はもう一通りいろいろ説明してくれて、それから私たちに訊いた。

「夕食はいかがなさいますか?」

 問われて、困ったようにルーフェイアがこちらを見る。
 例によって、自分では決められないのだろう。

 だが私も勝手が分からない。結局訊いてみることにした。

「その、ここで……食べられますか?」
「もちろんでございます」

 外へ行くのはもちろん、ホテル内のレストランを利用してもいいし、この部屋でのディナーも可能だと、この人が答えた。

 少し考える。
 外での食事にも興味があるが、アヴァンには2泊する予定だし、今日はルーフェイアも疲れているだろう。

「今日はここで……食べないか?」
「あ、はい♪」

 この子も、異存はないようだ。

「では後ほど、夕食をご用意致します。
 他何かございましたら、いつでもお申し付け下さい」

「あ、えっと、申し訳ないんだが……」

 丁寧に一礼して出て行こうとするホテルマンに、慌てて訊ねる。

「何でございましょう?」
「その……少し、出かけたいので……」

 せっかく着いたのだ。
 いくら明日観光に出かけると言っても、夕食までホテルにこもりっきりでは、あまりにも勿体ない。

「では、お戻りになられましたら夕食に致します。ごゆっくり、このアヴァンをお楽しみ下さい。
 行き先等でお困りのことがありましたら、どうぞ何なりと呼んでお尋ね下さい」

 ホテルの人が再び一礼して出て行き、2人だけになって、なんだかほっとする。
しおりを挟む

処理中です...