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第10話 空(うつほ)なる真実

そして、学院にて Episode:06

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「ようやくご帰還?」

 もう一人ディオンヌの後から来たのは、シェリーだ。
 同じ上級傭兵で、ディオンヌを通じて知り合った。

「ずいぶんゆっくりだったわね。もうとっくに、休みは終わってるわよ?」
「ああ。現地で急遽、任務が入ったんだ」

 私の答えを聞いて、ディオンヌがうなずいた

「なるほどね。でも考えてみりゃそうよね。シルファのカレシじゃあるまいし、消えたりするわけないものねー」

 酷い言いようだが、否定できないところが辛い。
 ディオンヌとは対照的に、いつも冷静なシェリーが口を開いた。

「ところで、シルファ。タシュアと別れたって本当かしら?」

 言葉の意味が分からず空回りする思考で、なんとか聞き返す。

「……誰が?」
「シルファが」
「……誰と?」
「タシュアと」

 余計に分からない。

「……なぜ?」
「わたくしに聞かれても困るわ」
「そ、そうだな。すまない」

 何がどうなっているのか私にも分からないのに、シェリーに分かるわけがない。
 ただ彼女自身は、何か納得したようだった。

「その反応なら、ただの噂にすぎないってところかしら」

 そんな風に訊かれて答える。

「そうだな。別れたつもりはないな」
「ん、それならいいのだけれど。じゃぁ、タシュアが年上金髪美人人妻と不倫しているっていうのも、根も葉もない噂なのね」

 今度も思考が空回りしかけたが、少し考えてどうにか理解した。
 どうも私が出かけていた間に、かなりややこしいことになっているらしい。

「その人妻に心当たりはあるが……その人は、私とタシュアの依頼人だぞ」
「あらそう、やっぱりね。そんなことだろうと思ったわ」
「え、じゃぁやっぱりあれ、誰かの勘違いだったんだ」

 幸いディオンヌとシェリーは、あっさりと分かってくれた。
 そのことがなんとなく、嬉しくもあり誇らしくもある。

「――シルファ、旅行中何かいいことでもあった?」

 私の態度に気づいたのか、シェリーが今度はそんなふうに訊いてきた。

「前のあなたと、少し違うわね」
「いいことかどうかは分からないが、いろいろあったのは間違いないな」

 本当に、いろいろあったと思う。
 出かける前はこんなことになるなんて、自分でも想像もしていなかった。
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