【完結】夕凪モラトリアム

赤坂 明

文字の大きさ
7 / 37
一章 夕凪モラトリアム

2-3

しおりを挟む
「……ふざけんなよ何でここにいるんだよ茶化しに来たのかよ出てけ」
「まあ、そうつれないこと言うなって。凪は文芸同好会だったんだなー」

 図書室の片隅、物憂げに本の頁を繰っていた凪は、友哉が近寄るとあからさまに嫌そうな顔をした。

「……何の用だ」
「文芸同好会が図書室で活動してるって聞いたけど。今日活動日?」
「いや……一応水曜日だけど、部としての活動は正直……」
「ほーん、部員何人」
「俺と、幽霊が四人」
「都合いいな、じゃ、俺も入部しよー」
「はあ?!」

 凪の向かいの椅子を引き座る。苛立ったような凪が睨みつけて来るも、友哉には堪えることはなかった。

「……何でだよ」

 潜めた声音で凪は険しく問う。鞄から出した入部届を机上に置きながら、友哉は肩を竦めた。

「や、どーしても部活入んないといけないらしいんだけど、変に相手の時間食って手間取らせんのもあれだろ? だから人も少なくて活動も少ない部活探しててさ」
「だからってうちに来られても……」
「文芸同好会って何すんの? 小説書いたりする?」
「……年に一回、文化祭で部誌を発行する。創作する奴もいるけど、感想文みたいのでお茶を濁す奴が大半だな」
「凪は?」

 凪は渋い顔で黙り込んだ。その間に友哉は入部届に鉛筆を滑らせる。クラス、名前、部活名、保護者署名欄があるのが面倒臭いが、何とか叔父の意識がこっちにある時に目の前に出せば、きっとミミズののたくったような字で書いてくれることだろう。
 沈黙したままの凪に、友哉は苦笑する。

「まあ、去年の部誌とか見れば分かるんだけどさ」
「…………小説を……書いている」
「へーすげぇ。俺、小説書く人っていっつも凄いなって思うんだよ。だって何もないとこから物語作り出すんだからさ」
「……いっつも?」
「あれ、言ってなかったっけ。叔父さん小説家なんだよ」

 叔父のペンネーを告げると、凪はぎょっとしたように目を見開いた。著名な作家である叔父の名は、本を読まない人間でも流石にちらと聞いたことがある程度には有名である。ましてや本を読み、あまつさえ書く凪にとっては、その名は覿面だろう。

「あ、でも叔父さんあんま詮索とかされたくないみたいだから、他の人には内緒な」
「あ、ああ……」
「でも俺の友達っつったら会えるかもしんないけど。どうする?」
「…………ともだち?」

 まるで聞き慣れない単語とでも言うように、凪は口の中で呟く。会ったばかりの無神経なクラスメイトを友達扱いしたくない気持ちと、著名な作家に会ってみたい気持ちと。
 まるで波間のように、青い瞳が揺らいだ。
 暫しの逡巡の後、凪は重々しく口を開いた。

「会わなくて、いい。俺は真壁の叔父さんの本は好きだけど、作家に興味がある訳じゃない」
「あっそ? ならいいけど。俺と友達扱いされんのが嫌なのかと思ったわ」
「……あんた、本当無神経だな! 折角濁してんのに」

 一応こちらに気を使ってくれたらしい。凪は罰が悪そうに視線を反らした。

「……その内いなくなるなら……友達なんていらないだろう、あんたも」

 友哉は口の端をシニカルに歪めた。それはそうである。そうだが、相手に言われると些か腹に据えかねるものがある。
 けれど、機嫌を悪くする程ではない。元より他人とマイナスな感情のやり取りをするつもりもない。喧嘩など遠い世界のおままごとだ。
 押し黙る凪に、友哉も敢えて何を言うでもない。二人の間で、記入済みの入部届が窓から入り込む潮風に揺らいでいた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

【完結】期限付きの恋人契約〜あと一年で終わるはずだったのに〜

なの
BL
「俺と恋人になってくれ。期限は一年」 男子校に通う高校二年の白石悠真は、地味で真面目なクラスメイト。 ある日、学年一の人気者・神谷蓮に、いきなりそんな宣言をされる。 冗談だと思っていたのに、毎日放課後を一緒に過ごし、弁当を交換し、祭りにも行くうちに――蓮は悠真の中で、ただのクラスメイトじゃなくなっていた。 しかし、期限の日が近づく頃、蓮の笑顔の裏に隠された秘密が明らかになる。 「俺、後悔しないようにしてんだ」 その言葉の意味を知ったとき、悠真は――。 笑い合った日々も、すれ違った夜も、全部まとめて好きだ。 一年だけのはずだった契約は、運命を変える恋になる。 青春BL小説カップにエントリーしてます。応援よろしくお願いします。 本文は完結済みですが、番外編も投稿しますので、よければお読みください。

今日は少し、遠回りして帰ろう【完】

新羽梅衣
BL
「どうしようもない」 そんな言葉がお似合いの、この感情。 捨ててしまいたいと何度も思って、 結局それができずに、 大事にだいじにしまいこんでいる。 だからどうかせめて、バレないで。 君さえも、気づかないでいてほしい。 ・ ・ 真面目で先生からも頼りにされている枢木一織は、学校一の問題児・三枝頼と同じクラスになる。正反対すぎて関わることなんてないと思っていた一織だったが、何かにつけて頼は一織のことを構ってきて……。 愛が重たい美形×少しひねくれ者のクラス委員長、青春ラブストーリー。

【完結】恋した君は別の誰かが好きだから

海月 ぴけ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。 青春BLカップ31位。 BETありがとうございました。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 二つの視点から見た、片思い恋愛模様。 じれきゅん ギャップ攻め

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

【完結】俺とあの人の青い春

月城雪華
BL
 高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。  けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。  ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。  けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。  それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。 「大丈夫か?」  涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。

視線の先

茉莉花 香乃
BL
放課後、僕はあいつに声をかけられた。 「セーラー服着た写真撮らせて?」 ……からかわれてるんだ…そう思ったけど…あいつは本気だった ハッピーエンド 他サイトにも公開しています

処理中です...