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二章 黄昏インソムニア
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『あー、真壁だが、ご家庭の都合で一学期で転校することになったそうだー』
高校二年の二学期、始業の日に友哉の姿がなく、不審に思った凪の耳に届いた担任の言葉は、余りにも衝撃的だった。
慌ててLINEを送ってみるも既読にならず、休み時間に通話してみたら繋がらず、そこで漸くブロックされたのだと理解した。
ふざけるな。ショックの次に訪れたのは激しい怒りだった。夏の海、不甲斐ない友哉に最大級の勇気を振り絞って、口付けを交わした。そこから、さあこの臆病な男を前にどう距離を詰めようかと、思った矢先の引っ越しである。
担任を問いつめても当然行き先などは教えて貰えず、完全に詰んだと分かった時の絶望感と来たらなかった。
勉強も手に着かず、成績はがた落ちし、部誌に載せる原稿も完成しない始末だった。
あからさまに調子を崩す凪を、一番心配したのが美奈子だった。
やっぱり家庭環境が、私の所為で。無駄な自責が夫婦仲を悪化させ湊にまで悪影響が――などという二次被害は流石に看過できず、結局全てを打ち明けることになってしまったのは不覚だったが。
実の親だったら告げられなかったかも知れない。けれど、家族とすら呼べない中途半端な距離感が、互いに気遣いと気安さをもたらした。
結果として、友哉との顛末のあれやこれや、一切合切をゲロる羽目になった。
若い子の恋バナってキクー! と目を輝かせていた、美奈子曰く。
――それ、その作家先生っていう叔父さんに聞いてみればいいんじゃないの?
簡単に言ってくれる。超有名作家の先生に、こんな一高校生が接触なんて出来る訳がないじゃないか。
とはいえ他に取れる手段もなく、重い筆を執って友哉の叔父たる作家の、真壁彰造にDMを送ったのは、高校二年の冬のことだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『拝啓、真壁彰造様。突然のご連絡失礼します。真壁先生の作品、いつも楽しく拝読しています。特に最新作の展開が…………
ところで、真壁先生は真壁友哉君の叔父と伺いましたが、お間違いないでしょうか。自分は高校二年の時、引っ越してきた真壁君と同じクラスでした。一緒にショッピングモールに行って、諸事情あって駅のホテルに一泊した者です(その節は保護者同意書をご用意いただき、ありがとうございました)
真壁君が引っ越してしまい、連絡が取れなくなってしまいました。もし可能でしたら、白瀬凪が連絡を取りたがっていると、真壁君にお伝えいただけないでしょうか――』
今後のご活躍を応援しております草々。不慣れな敬語を駆使し、真壁彰造にコンタクトを取ってみたが、まあ返信は来ないだろうと思っていた。
我ながら、怪しすぎるDMだ。こんなものはスパムと弾かれるだろうと、高を括っていた凪の予想と裏腹に、返事は一両日経たずに返って来た。
『初めまして、白瀬凪君。連絡をありがとう。真壁友哉は確かに自分の甥です。白瀬君の話をしたら、顔を真っ赤にするやら真っ青にするやら、とんでもない百面相をしていたので、君の知り合いだということは間違いないと思う。最初何の悪戯かと疑ってしまったよ、すまない。
友哉は君と話をする資格がない、などということを、もごもご不明瞭に言っていた。全く不甲斐ない甥だ。
どうやら友哉の方から君に連絡を取らせるのは無理そうだ。申し訳ない。何かあれば僕の方に連絡を――』
真壁彰造からのメールを、何度も読み返した。何度も、何度も、一日経ってから、もう一度。
――友哉の方から君に連絡を取らせるのは無理そうだ。
そんなことはLINEをブロックされたことからも明白で、それでもと藁をも縋る思いで頼った友哉の叔父も、力にはなれないという。それ程に、友哉は凪を避けたいと思っているのか。
消沈に次ぐ消沈、ならばとやけっぱちで、真壁彰造に友哉の進路を聞いたところ、教えられたのは東京の私立大学だった。
幸運なことに、友哉の志望する大学には凪の志望する学科もあり、そして偏差値もぎりぎり今から頑張れば届くだろうと思われる範囲だった。
もうこうなったら自棄だ。勢いのまま凪は猛然と受験勉強に励み、受験に挑み、合格し――そして春から東京で母と二人暮らしを始め、今日から大学に通い始める。友哉と同じ東京の大学に、友哉に会いたい一心で。
我ながら重い、そして酷い執着心だ。
たかがひと夏を過ごしただけの男の為に進路を左右されるなどと、正気の沙汰ではない。
不幸なことに、凪の暴走を止めるものは誰もいなかった。母も美奈子も碌でもない男の為に身を持ち崩した筆頭であるから、当然凪を止められた立場ではないし、湊にご執心の祖父母は今更凪の進学先などに口出ししては来ない。父親は当然空気だ。
それで、友哉はこうして東京の大学に通うことになった。友哉を追って――友哉に会う為に。
高校二年の二学期、始業の日に友哉の姿がなく、不審に思った凪の耳に届いた担任の言葉は、余りにも衝撃的だった。
慌ててLINEを送ってみるも既読にならず、休み時間に通話してみたら繋がらず、そこで漸くブロックされたのだと理解した。
ふざけるな。ショックの次に訪れたのは激しい怒りだった。夏の海、不甲斐ない友哉に最大級の勇気を振り絞って、口付けを交わした。そこから、さあこの臆病な男を前にどう距離を詰めようかと、思った矢先の引っ越しである。
担任を問いつめても当然行き先などは教えて貰えず、完全に詰んだと分かった時の絶望感と来たらなかった。
勉強も手に着かず、成績はがた落ちし、部誌に載せる原稿も完成しない始末だった。
あからさまに調子を崩す凪を、一番心配したのが美奈子だった。
やっぱり家庭環境が、私の所為で。無駄な自責が夫婦仲を悪化させ湊にまで悪影響が――などという二次被害は流石に看過できず、結局全てを打ち明けることになってしまったのは不覚だったが。
実の親だったら告げられなかったかも知れない。けれど、家族とすら呼べない中途半端な距離感が、互いに気遣いと気安さをもたらした。
結果として、友哉との顛末のあれやこれや、一切合切をゲロる羽目になった。
若い子の恋バナってキクー! と目を輝かせていた、美奈子曰く。
――それ、その作家先生っていう叔父さんに聞いてみればいいんじゃないの?
簡単に言ってくれる。超有名作家の先生に、こんな一高校生が接触なんて出来る訳がないじゃないか。
とはいえ他に取れる手段もなく、重い筆を執って友哉の叔父たる作家の、真壁彰造にDMを送ったのは、高校二年の冬のことだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『拝啓、真壁彰造様。突然のご連絡失礼します。真壁先生の作品、いつも楽しく拝読しています。特に最新作の展開が…………
ところで、真壁先生は真壁友哉君の叔父と伺いましたが、お間違いないでしょうか。自分は高校二年の時、引っ越してきた真壁君と同じクラスでした。一緒にショッピングモールに行って、諸事情あって駅のホテルに一泊した者です(その節は保護者同意書をご用意いただき、ありがとうございました)
真壁君が引っ越してしまい、連絡が取れなくなってしまいました。もし可能でしたら、白瀬凪が連絡を取りたがっていると、真壁君にお伝えいただけないでしょうか――』
今後のご活躍を応援しております草々。不慣れな敬語を駆使し、真壁彰造にコンタクトを取ってみたが、まあ返信は来ないだろうと思っていた。
我ながら、怪しすぎるDMだ。こんなものはスパムと弾かれるだろうと、高を括っていた凪の予想と裏腹に、返事は一両日経たずに返って来た。
『初めまして、白瀬凪君。連絡をありがとう。真壁友哉は確かに自分の甥です。白瀬君の話をしたら、顔を真っ赤にするやら真っ青にするやら、とんでもない百面相をしていたので、君の知り合いだということは間違いないと思う。最初何の悪戯かと疑ってしまったよ、すまない。
友哉は君と話をする資格がない、などということを、もごもご不明瞭に言っていた。全く不甲斐ない甥だ。
どうやら友哉の方から君に連絡を取らせるのは無理そうだ。申し訳ない。何かあれば僕の方に連絡を――』
真壁彰造からのメールを、何度も読み返した。何度も、何度も、一日経ってから、もう一度。
――友哉の方から君に連絡を取らせるのは無理そうだ。
そんなことはLINEをブロックされたことからも明白で、それでもと藁をも縋る思いで頼った友哉の叔父も、力にはなれないという。それ程に、友哉は凪を避けたいと思っているのか。
消沈に次ぐ消沈、ならばとやけっぱちで、真壁彰造に友哉の進路を聞いたところ、教えられたのは東京の私立大学だった。
幸運なことに、友哉の志望する大学には凪の志望する学科もあり、そして偏差値もぎりぎり今から頑張れば届くだろうと思われる範囲だった。
もうこうなったら自棄だ。勢いのまま凪は猛然と受験勉強に励み、受験に挑み、合格し――そして春から東京で母と二人暮らしを始め、今日から大学に通い始める。友哉と同じ東京の大学に、友哉に会いたい一心で。
我ながら重い、そして酷い執着心だ。
たかがひと夏を過ごしただけの男の為に進路を左右されるなどと、正気の沙汰ではない。
不幸なことに、凪の暴走を止めるものは誰もいなかった。母も美奈子も碌でもない男の為に身を持ち崩した筆頭であるから、当然凪を止められた立場ではないし、湊にご執心の祖父母は今更凪の進学先などに口出ししては来ない。父親は当然空気だ。
それで、友哉はこうして東京の大学に通うことになった。友哉を追って――友哉に会う為に。
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