ヴァンパイアからの凶愛にその身を吸い尽くされて

由汰のらん

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case.1 目合い◆1

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   真っ黒な髪に真っ黒なボンテージ調の全身スーツ。


髪は細かくうねり、その豊満な形がはっきりと分かる身体に密着したスーツ。

風も通らない最下層の地下牢で目隠しをされ両手首を天井から吊るされる女が一人。

しかし床から繋がる鎖の足枷は何故か両足首ともに外れていた。

その足元から冷えたコンクリートの床を辿ると、細々とした血の川が流れている。

更にその川に沿っていけば床に転げる5体のヴァンパイアが寝そべっていた。


   重い鉄の扉の外からは口々にかしこまった言葉を放ち整列させられた部隊。

両脇に綺麗に並べられた隊の間を少し毛だるそうに歩いてくる赤髪の男が姿を現した。

「こんな時間に起こすなよ。」

「はっ!申し訳ありませんっ!」

髭の男の看守が赤髪の男に敬礼をした。

「しかしながらここからは我々の管轄外でして!」

「わあってるって。」

赤髪の男の腰には二本のサーベルが下げられている。

嫌々被ったであろう帽子のつばを深く下げるとその扉に付けられた重たいハンドルを回した。

この重いハンドルを回せる力を持つのはヴァンパイアの中でも限られた者だけ。

ギギィッ

分厚い鉄の扉から暗いコンクリートの床にゆっくり目を這わせていく。

「····やってくれたなNo.824。」

赤髪の男が言葉とは裏腹にニヤリと笑みを浮かべた。

「よし、お前ら死体を片付けろ」

男が隊の兵士たちに指示を出す。

すると 小さな声がコンクリートに木霊した。

『 殺してない 』

声の主は吊るされた女だった。

「····しゃべれんのかお前。」

兵士たちが恐る恐るその空間に入ると怯えながらも倒れているヴァンパイアをそそくさと運び始める。

赤髪の男が全員運び出されたのを確認すると兵士に向かって言った。

「ここからは嫌でも俺の管轄だ。
全員上に行ってろ。」

「はっ !」

兵士たちが声を揃え返事をするとその重く分厚い扉が轟音を鳴らしながら閉じられていく。


 水滴すら進入出来ないその空間に、赤髪の男と吊るされた女が取り残された。

赤髪の男がつばを持ち帽子を取ると、その左頬にはナイフでつけられたような傷があった。

女は目隠しをされているが、男の帽子を取る音に少し顔を上げ反応を示す。

「俺の声が誰か分かるか。」

「····」

「···まただんまりかよ。」

男は女の足枷が外れているのを確認するとそのまま女の方へと近寄った。

女の顔面を目の前に再び男が口を開く。

「俺の頬につけた傷、覚えてるか?」

「····」

「俺らが境界線に乗り込んで行った時、お前の剣につけられた傷だ。」

「····」

「そんな強ぇ女がわざわざ捕まりにくるとは···一体何を企んでる?」

「····」

「こういう時に俺らがするのを何て言うか知ってるよな?」

「····」

男は一つ溜め息をつくと女の耳元で囁いた。

「"拷問"だよ。」

「····」

しかし女は微動だにしない。

表情は見えないが手首を吊るされるその姿は怯えでも諦めでもない様子で堂々と立ちはだかっていた。

「···さっきの5人、お前を襲おうとしたのか。」

「····」

足枷が外されていたのはそのためだと、見た瞬間にこの男は悟っていた。

「····アイツらは下っ端だ。いくら5人とはいえやり方が悪い。
なんせヴァン・ヘルシングの娘だからな。」

「····」

男が女の鎖骨あたりから下腹部まで続くボンテージのジッパーに手を掛けた。

ジーーー····

その刹那、女が真横から男の腰を狙って蹴りを繰り出した。

が、男はそれよりも早く女の首元に小さな注射器を刺していた。

「!」

注射器が無造作に抜かれ床に捨てられる。


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