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case.2 独占欲◇3

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 青年が彼女と対峙したのは、青年が初めて戦場に駆り出された14の時だった。

しなやかな身体付きで美しく乱舞するヴァン・ヘルシングの娘。

ヴァンパイアの屍しかばねの頂で、長い黒髪を靡かせ、翡翠の瞳を月夜に光らせる。

返り血を全身にまといながら。

青年は彼女の狂気にはらむ美しさに惹かれ、彼女になら殺されてもいいとさえ感じた。

しかし初めての戦場で怯えが招いたものか、青年は一人のハンターに背後を取られ、背中に深手を負う。

一人一人が生死をかける戦いの最中さなかで負傷者を助ける余裕など当然ない。

細くなる息を荒げ、喧騒の中ひたすら死を待つのみ。

そんな時現れたのが彼女だった。

殺されてもいいとさえ願った彼女が今自分の目の前にいる。

青年は最期に神へ感謝の意を捧げた。

しかし彼女は、あろうことか青年を人気ひとけのない草むらへと連れ出し、傷の手当てを施した。

敵である彼女は何も言わず只手を動かすのみ。

応急措置が終わると立ち上がり、無言のままその場を去ろうとする女。

青年は彼女との繋がりをこのまま終わらせたくない一心で女に勇気を振り絞り声を掛けた。

「何故敵である僕を助けるのですか!!」

去ろうとした足取りが止まると、朧月夜おぼろづきよに照らされる彼女が青年の方を振り返る。

何一つ、曇りのない笑顔で────。

妖艶さも黒さも感じられない真っ直ぐな優しい、温かみのある笑顔。

青年の彼女への想いが憧憬しょうけいから恋心へと変わった瞬間だった。


 彼女の強さに少しでも近付こうと鍛練を惜しまず剣の稽古にひたすら励む日々。

しかし戦場で幾度となく彼女を目で追ううちに、彼女の瞳に写るものを知ることになる。

彼女が視線を追う先にいる存在、それは、赤髪の男だった────。

当時赤髪の男は部隊の隊長、青年はその隊の一等兵だった。


「あなたのあの時の優しさは僕に対するものじゃない····あの人のための優しさだったんですよね────」

「っ····」

女は赤髪の男の隊に所属する兵士を只助けただけ。

彼が手にかける大事な兵士を。

「何故···何故僕じゃないんですか····。
僕はこんなにあなたのことを想っているのに····愛しているのに───っ!」

青年が女のスーツのジッパーを荒々しく下げる。

「強いあなたがこうして捕まったのだってあの男に会うためなんでしょう?!」

スーツを思い切り左右に開き中から身体を剥き出しにする。

「はあ─はあ─はあ──ッ」

女が更なる欲求に身を焦がし息を次々と暗い牢に響かせる。

しかしスーツの中から汗ばむ白い肌と膨らみが現れるも、胸には既に赤い紋しるしが一つ付けられていた。

それを見た青年は、自分の胸に黒い炎が灯されたようなざわつきを覚える。


 初めての戦場で彼女に与えられた命。

一刻も早く女の元に追い付こうとようやく一等兵の地位に就く頃には、自分の想いが全て無駄なものだったと知る。

何故赤髪の男なのか、自分は地位をも駆け上がる程に想い焦がれているのに。

辛さを辿れば辿る程、その焦がれが徐々にとぐろを巻き女への執着へと染め上げていく。

自分の想いは無駄なものではないとその証を女の身に刻み、美しい器ごと自分のものにしてやると────。

「僕の方がずっとずっとずっと深くあなたを想っているのにッ!!!!」

彼から嫉妬心を感じ取った女は、それすらにも性的興奮を感じ、舌なめずりをするような期待の目を向けた。

瞼が下りそうな瞳を甘く鈍にぶらせ、赤髪の男の噛み痕が付いた自らの身体を青年に差し出すように────。

囚われたのは青年か、女か。

青年が両手をスーツの中に入れ、腰を上下に擦り始める。

「ふぅんッ····」

早く早くと急かすように女は何度も腰を浮かせる。

スライムが背中から下の方へと這っていき、後ろの割れ目をなぞり始めた。

求めている箇所とは違う箇所を刺激されるも、女が快楽の表情に咲き乱れる。

「────僕だけがあなたを満たすことのできる存在だと知らしめてやる。」

青年が左右の胸の頂を指で摘まみながら女の唇を貪むさぼり始めた。

女の口内を舌でかき回し、歯の裏側を舌先でまさぐる度に下半身に打ち付けてくる女の腰。

青年は、自ら差し出してきた媚薬に溺れてやるというように女の胸から下へ下へと掌を滑らせていく。

スライムに弄ばれた芽を親指で押さえながら彼女の中へと二本の指を差し込んだ。

「んはああ"ッ」

華奢な身体の青年には似つかわしくないその指は太く長く、ほとばしる熱が指先まで帯びている。

「ほら、早く····僕だけを見て?僕に愛してると言って?!」

「あ、愛してるッッ」

「もっとですよ!!もっともっと!!!」

「愛してる、愛してます───」

青年が一瞬かげりの表情を落とすも再びその唇に噛み付いた。

赤髪の男を追い払い、媚薬を使い、スライムを使い、どんな手を使ってでも自分だけのものにしたい

はずなのに────····。

視えない畏おそれを引き剥がそうと再び彼女の口から媚薬を吸い必死に喰らい付く。

愛撫など既に不要である身体に激しくも荒々しく指を深く抜き差しした。

ぐちゃぐちゃと音を立て女の望むままに。

「────ああああぁ"ぁ"ッッぁッ」

床には熱い濁水が滴り落ち、男のブーツを濡らしていく。

欲望だけの女に徐々に侵食されていくように。

唇からはお互いの唾液と媚薬が行き来し、口から全身を流れ青年の熱い部分へと到達する。


 青年が唇を離すと、彼女のいく瞬間を見計らって女の首筋に思い切り牙を立てた。

音を立て血を吸い上げると胸の青筋がずるずると蠢うごめき始める。

肌に開けられた小さな快感が、雛罌粟ひなげしを咲かせるように女の身体を赤へと染め上げた。

青年はこの機を逃すまいと女がいっては責め、いっては責めを繰り返し、いき狂う最中さなかでも責め続けた。

「いってる、今いってるのにぃッ!!!!」

「もっともっと僕だけを求めて、僕だけを愛してっ!!もっともっともっと!!!!」

指で壁を擦り、舌で突起を転がし、スライムに芽を吸い付かせ、

そして哀しくも怒張する彼のもので女を突き上げる。


『媚薬で私の美しい器を手に入れても、中身までは手に入らないかもね』

どこからか聞こえてきそうな彼女の声。

そのとぐろを巻く畏れを掻き消すよう、全身に幾つもの赤い紋を刻みながら青年は女を責め立てた────。


 彼女から受けた媚薬が

青年の彼女へ向けた憧憬と恋心と嫉妬と畏れが相まって一つの毒となった。

その媚薬は甘い毒か、それとも猛毒か。



~case2. fin~

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