【完】愛が重いNo.1ホストに追いかけられています

由汰のらん

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ホストクラブに殴り込み②

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「わかった、から。い、痛くしないで」


自分の声が震える。格好悪い言葉しか出てこない。

殴られる時って、どんな顔をすればいいのかな。  
  
泣きたくない。いやだ。全力でむかつく。絶対に絶対に泣かない!

こんな理不尽なことで、泣いてなんかやらないんだから―――

そう胸に決めて、ぎゅっと唇を固く結んだ。


 
「クソ、かわ……」
  
そんな声が上から降ってきて、そっと目だけで見上げてみる。

そこには、ため息を吐き、じっと私を見つめるキラ君の美麗があった。火照ったような頬で、いつもの鋭い瞳がとろんと溶けそうになっている。

目の下のクマまで、なんだか甘ったるい。
 
「え……な、なに」

「ほんとさあ、駄目だって。ホストの前でそんな顔されちゃ、こっちも商売下がったりだし。」

「……え?」

じっと、キラ君の顔を見つめる。

なあに?

なにがなんだか分からず。キラ君の手が、ふわりと自分の肩にのびてきた。

「そんな格好で、マジやめて?」

肩が顕になる素肌に触れられた手が、熱い。

今にも私を抱きしめるみたいに、キラ君の手に身体が囲まれる。あ、だめ。急に優しくされたら涙でる。

でも誰かの小さな笑い声が聞こえて。それがサヤ姉の声だと気付けば。一斉にクラッカーが鳴らされた。


「ミウ~!!卒業おめでとう!!お疲れ様!」

「えっっ……!?!サヤ姉??」

「超久しぶり!もう、勝手にキャバ卒業しちゃうんだから!」

「(びっ、くりしたーー!卒業って一瞬処女のことかと思った!)」  


カウンターの下から私服姿のサヤ姉が出てきて、私をぎゅっと抱きしめた。ただ目を丸くする私は、とりあえず背のあるサヤ姉に手を回す。

そしてその向こうでお腹を抱えて笑うサクラが目についた。  

「ウケる!痛くしないでだって!!けっこうかわいんだねミウちゃん!」

左端にはカウンターにもたれかかるシュンヤがにこやかに私達を見ていて。後ろではキラ君が扉を開けた。 

「ミウミウー!!騙された大賞受賞のコメントをお聞かせ願えますぅ?」

「えっ、ええー……」

「勝手に辞めたんだから、これぐらいの寸劇には付き合ってもらわないとね~!」

「ねえ~」と顔を見合わせるサヤ姉とコマキちゃん。え……。いつから寸劇が始まっていたの?美容院でのあの泣き顔も寸劇の一部だったのコマキちゃん?
 
騙された。大賞、初受賞しちゃった。

コメントは『不測の事態に誠に遺憾であります。』のひと言しか出てこない。

ちょっぴり安心の涙が目頭に浮かぶ。

そんな私を見てか、キラ君が私の頭を無でて―――などはくれなくて。

胸の金魚を、人差し指でふにふにと押してきた。
  
「……なんで金魚?金魚弱えじゃん。すぐ死ぬじゃん。」

「私の客は金魚のフンのように離れないって意味で金魚にしたの触るなこの変質者。」

「ふうん。」(遠い目)



   

Mo-mentとQUOMのメンバーで仕組まれていた壮大な寸劇。本当に殴られると思っていた私の時間を返して欲しい。  
            
でも私の驚きはそれだけにとどまらなかった。

「はい!?いま、なんて??」
        
Mo-mentフロアのソファに無理矢理座らされた私。なかなか腰がソファまでたどり着かなかった。

「だからぁ~、シュンヤと私、結婚することになったんだって~。」

「ケコーーン??」

「実は沙耶乃さやのとは2年前から付き合っててね。もういい年だし、結婚しようかってことになってさ。」

沙耶乃さやのとは、サヤ姉の本名。

サヤ姉は今25歳、シュンヤは今29歳らしい。付き合っていたことすら知らなかったというのに、まさか結婚まで話が出ていたなんてにわかには信じられない。

だって、キャバ嬢とホストですよ?異性のお客さんに至れり尽くせりの世界で、どうやって2年も付き合ってこれたというのだろう?

「キャバ嬢なんて相当理解ないと誰とも付き合えないじゃん?」

「でもホストとキャバ嬢ならお互い理解があるし、」 
         
「ね。」と隣に座るサヤ姉に甘い顔を向けるシュンヤ。ソファの後ろへと手を回し、サヤ姉もその腕に身を寄せる。

つまり今日は、私のキャバ卒業パーティーとシュンヤとサヤ姉の結婚祝いパーティーということで店は貸し切りらしい。

初めてMo-mentのフロアに入った私。2人の結婚に驚きながらも見慣れぬ装飾にソワソワしてしまう。

ソファの色も紫のような真紅のようなドドメ色だし、シャンパンタワーのグラスもよく見ればプラスチックだ。

「ミウちゃんって普段はそんなに能面だったの?ちょっとビックリなんだけど。」

私とサヤ姉の間に入ってきたサクラ君が、注文したビールを持ってきてくれた。  

「ありがとう。能面というか、無駄に顔の筋肉を使いたくないだけ。」

「むしろ表情を無にしている方がよっぽど表情筋使ってそうなんだけど。」


そういうサクラ君はふわふわと常に笑顔、白王子というよりも天使という雰囲気だ。背も私より少し高いくらいだしベビーフェイスというだけあって可愛い顔をしている。

「サクラ君て何歳なの?」

「僕?今22。」

「わっか!」

「でもこの世界の寿命なんて短いんだから稼げる時に稼いでおかないとね~。」


Mo-mentNo.3のサクラ君はこの世界に入ってすでに2年目らしい。若いうちからそんなに稼いで何をしたいのだろう?

サクラ君ほどのビジュアルがあればホストじゃなくたって稼げるだろうに。

ホストの事情に深入りするほど馬鹿ではないため、目の前に置かれたビールに口をつけた。すると、ふとイチゴの香りが口の中に広がる。

「すごい、これ、なんのビール?」

「ストロベリービールだよ。」    

「へえ。おいしいね。」

「うーん。もっと表情豊かに喜んでくれると思ったんだけどなあー。」      
      
ごめんねサクラ君。心の中ではめっちゃ美味しいって満面の笑みを咲かせてるんだけどね。
 
コマキちゃんも、初めて見るMo-mentの内装に、物珍しく目を輝かせている。樽に入ったワインサーバーの前で、キラ君にワインの銘柄を聞いていた。

そんなキラ君とふと目が合う。すんごい冷めた作り笑いで手を振ってきたので、私は東大寺の大仏のような顔で返しておいた。

   
「ねえミウちゃん、今日の装備際どくない?」

「え?そう?」

「ミウちゃんのイメージってもうちょっとお上品系だと思てたんだけど。」

 
隣のサクラ君が、極自然に私の太ももに手を置く。私も極自然に鳥肌が立った。

散々キャバで触られてきたんだし、これくらいなんともないんだけれど。こういう金銭の発生しないオフの時にされるのは不愉快だ。

「……」

「なになに?今日はなんでこんな気合入ってんの?誰か堕としたい相手でもいた?」

さすが。すごいなホスト。太ももの撫で方が、相当慣れている手つきだ。

指のお腹でふにふにと素肌を押されて、ワンピースの裾をまたいで行ったり来たり。でもワンピースの中に入ってくることはない。 

マネーさえ積んでくれれば一晩共にしてあげますけど?とサクラ君の可愛い猫目がいっている。

ホスト地獄は悪魔の手腕だと耳ダコで聞いている。なんせ一晩で1億稼いだ猛者もいる世界だ。耳年増なこの私が、そんな手腕に引っかかるはずもない。

というか、負けてられない!No.1の名がすたる。 

私は、太ももに乗せるサクラ君の手の上に自分の手を乗せる。そして脚を組み、サクラ君へと身を寄せた。

「なに?私と寝たいの?それともただの社交辞令?」

サクラ君の手の甲に、上から指を絡ませ彼の耳元でささやく。

「ねえ、今日の私の下着、何色か当ててみて?」

「触って確かめてもいい?」

「じゃあ私もサクラ君の下着、触って確かめてもいい?」

「いいけど、もしミウちゃんが当てられなかったらこのまま個室に連れ去っちゃうよ?」

「ふふ、楽しいことでもしてくれるの?」

「個室入ったら真っ先にミウちゃんの下着下ろして匂いかがせてね。」

「ぐは。」
  
吐血。

瀕死状態の吐血。サクラ君の首筋にある心電図のタトゥーは、私の脈を表しているのかもしれない。発狂して身悶えしそうなほどに羞恥心を煽られる。

はァァァああああーーーーホストこわい。だって下着脱がすんじゃないんだよ?下ろすんだよ??表現が生々しくてやっぱりサクラ君は白王子というよりも生玉子だ。(?)

ムリムリ、顔から火が出そう!ホストにハマる女史の心境なんて絶対に信じられない!    

顔が熱くてパタパタと手で仰いでいれば、サクラ君が笑いながら私を馬鹿にしてきた。

「こんなんで赤くなってたらNo.1なんてキープできるわけないって!どうせキープできるほどのメンタルに自信がないからキャバ辞めたんじゃないのぉ?」

「はいはい。そうですね。」

「はは、No.1が真っ赤になっちゃってかーわうぃ~。」 

顔を冷ますにも冷ませるものはない。能面で顔を赤くしてたら世話ないわ。

組んでいた脚をそろえて、気持ちを整える。ここで休息のビール……ビール?アルコールは余計に身体が熱くなるって。

お水が欲しくてサクラ君に頼めば、「ミウちゃんからディープしてくれたらあげる。」と言われて、履いていたヒールを脱ぎかけた。(頭に刺すために)

ベビーフェイスに怪訝な目つきで対抗していれば、目の前のテーブルでコトリと音がする。綺麗なカットグラスに入ったアイスが置かれた。

キャラメルソースと金粉がかけられ、イチゴが添えられたバニラアイス。サクラ君なんかよりもずっとかわいらしいそのアイスに自分の顔がゆるむ。  
   
「わあちょうど冷たいものが食べたかったんだあ。」

能面の顔が思わず崩れて、ふとアイスの送り主を見上げる。

見上げれば、そこにはドンペリの瓶を持ったキラ君が立っていた。

じっと、鋭い目つきで見下している。

あらなんだか……不穏な、雲行き……

でもキラ君は、私ではなくサクラ君を睨みつけている。 

「No.1もとれねえヤツがNo.1を馬鹿にする筋合いはねえよ」

「え」

テーブルに、ダンッと勢いよく片足を乗せたキラ君。瓶を逆さにした。

サクラ君の頭に、ロゼ色のドンペリがかけられていく。

――――え

なにごと――――。

 
「……なっ」

 
かけられているサクラ君も声にならないのか、キラ君にされるがまま頭の上から流されていく。

わあー。こういうの、平成トレンディドラマで見たことあるー。でも今はそんなこと言ってる場合じゃないー。だって今キラ君が手にしているのはゴールドラベルのドンペリだものー。

それって、100万近いお酒じゃない?

どこからかスマホのシャッター音が鳴って、見ればコマキちゃんが写メを撮っている。

他のメンバーの中からは「いィっちゃってるう」という声が聞こえてきた。でも再び沈黙になり、なかなかざわめきは起きない。


「キラ。お前って、そんなサイコなやつだった?」

シュンヤが大きくため息をついて、キラ君からドンペリの瓶を取り上げた。サヤ姉が慌てた様子で「なにか拭くもの!」と走っていく。   
             
「……は。はは。あはははは!」

ドンペリまみれになるサクラ君が、気が触れたように笑いだした。そして、ふうっと息を吐いて。キラ君を見上げて牙を剥く。

「妬いたの?」

挑発するような目。口は笑っているのにまるで目は笑っていない。ベビーフェイスが跡かたも無く消え去っている。

このままじゃ危うい雰囲気になりそう。そう思った私は、頭に血が昇りつつあるサクラ君をなだめた。

「さ、サクラ君!大丈夫?!スーツがシミになっちゃう!早く着替えたほうがいいよ!」

サクラ君の手を引いて、どこにあるかも分からないロッカールームへ連れて行こうとする。

でも後ろから、声が聞こえて 
   
「サクラ、ぶち殺されてえの?」

そんなことをいうキラ君の声に、全身が凍りつく。

「っ」

ふと振り返れば、脅威を携えたモンスターがサクラ君の首根っこに手を伸ばしていた。
  
思わずサクラ君を抱き寄せる。

サクラ君を腕で囲うようにして、ぎゅっと目をつむれば―――。すぐに何かが倒れる音が室内に響き渡る。

何かが割れるような音が続いて目を開ければ、なぜだかキラ君が倒れていた。

「キラッ?!!」

シュンヤが慌ててキラ君に駆け寄り、周りも騒然としてキラ君の元に集まる。

踏んだり蹴ったりとはまさにこのこと。

「あちゃー。こいつ。熱がある。」    
 
「えぇええっ」

それを聞いたサクラ君も、まるで超心配していますというように眉を下げて、キラ君の元へとしゃがみ込んだ。

そして今しがたMo-mentoの入口から入ってきた茂道さんが、大きなクレマチスの花束を抱えて明るい声で叫んだ。

「やっっときたわねミウーーー!!卒業オメデト愛してるワーーー!!!ってうぉおういッなんやねん"この参状はゴるラぁッっ」

オネエ口調から40代後半のおじさんに幅を利かせた声がフロア内に響く。    
 
信じられない惨劇から茂道さんの登場に、ようやく肩の荷がおり始める。

テーブルのアイスはすでに溶けていた。 

  
           
 

 
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