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ホスト怖い
しおりを挟む「おっも。この人、細身の割に重量ある。」
「そうねえ。まあ俺が178の65キロだから、184のキラはせいぜい72、3キロってとこじゃない?あ、でもこいつ甘党だから80キロくらいあるかも。」
「(細)」
「ミウちゃんを2倍にした感じかな?」
「(そんなわけあるか)私をものさしにしないで下さい。」
地下鉄の沿線上でもない、郊外エリア。目立つような物件でもなく、ただし1人で住むにしては広すぎる。
当人をリビングのソファに寝かせて周りを見渡せば、おおよそ2LDKはある。リビングがやたら広くて落ち着かない。
「ではシュンヤさん、今日はお疲れ様でした。サヤ姉とよい新婚生活を。」
なぜ私が倒れたキラ君を運ばなければならなかったのか。男手ならホストが沢山いる癖に。
そう心の中で文句をつぶやき、玄関へと向かう。
でもシュンヤさんが「待て。」と、犬を躾けるような言い方で私を引き止めた。
「はい?」
「ミウちゃん、はい、そこ座って。」
「は?」
「いいから。ここ、この女子が好きそうな、バブル調のふわふわなラグの上にお座り!」
「シュンヤさん、私は室内犬ではありません。」
Mo-ment No.2ことシュンヤさんにはドッグトレーナーの素質があるらしい。私は疲れているにも関わらず、クリーム色のふわふわでぽこぽことしたラグの上に座ってしまった。
キラ君が眠るソファはカボチャ型の可愛いベルベット生地。その前に敷かれたラグはぽこぽこ。なにこのデザイン。女子か。
そんなプリチーなラグの上で正座をするシュンヤさん。そういえばシュンヤさんは昔、剣道をやっていたという噂を聞いたことがある。背筋が綺麗に伸びている。
私もシュンヤさんにならい、正座をして対峙する。シュンヤさんが深いグリーン系のさらりとしたアッシュヘアをかき上げた。
「ここは、茂道さんと俺しか知らない場所なんだよ。」
「はあ。」
「俺はミウちゃんを信用して、キラをここに運ぶのをミウちゃんに手伝ってもらった。」
「(大迷惑)。」
姿勢を崩さず、真っすぐに私の目を見て話すシュンヤさんは、チャラい風貌の割に日本男児のような威厳がある。
「キャバ嬢だったんだから、ホストなんて相当軽いと思ってるよね?」
「はい!」
「いい返事!その通りなんだよ。」
どこかの時計が針を鳴らしている。この時間はどうせ無駄なんだと思いながらも、どこかシュンヤさんの真っ直ぐな眼差しから反らせない自分がいた。話に耳を傾ける。
「俺等は金を貢がせるためならどんなに軽い言葉だって吐くし、逆に、軽い気持ちで重い言葉を吐いたりもする。わかるよね?」
「はい。」
「今までどれだけの女がキラに執着してきたと思う?」
「……」
「後をつけられることもしょっちゅうあったし、後ろから刺されそうになったこともあるんだよ。」
「え」
「キャバ嬢は男を相手にするけど、ホストの相手は女なんだよ。ホストがどれだけ執着されやすいか、この意味分かる?」
「な、なんとなく。」
「うん。」
ジェンダーレスの時代に男や女を区別していいものかは分からない。でも、男は割り切ってキャバクラに遊びにきているのに対し、ホストに貢ぐ女の擬似恋愛には底がない。
一途脳を持つ女性が、疑似恋愛から本気の恋愛になるのはよくあることだ。なにかに沼る女の執着というものは、爆発寸前のダイナマイトに似ている。
お姉ちゃんのように1人の男に徹底的に執着する例もある。私だって、ある意味1位に執着しすぎているのだけれど。
「ミウちゃんなら大丈夫だと思って、ここにミウちゃんを連れてきたんだ。」
「……」
それは、私が絶対的にキラ君に恋愛感情や執着心を抱かないから大丈夫という意味なのだろうか?
その通りなので、ウンウン、と首を縦に振った。
「というわけだから。後のことはよろしくね?」
「は……」
「意外とキラ、寂しがり屋だから甘えさせてやって。」
「は??」
「服脱がして身体拭いたげて?それから着替えさせて冷えピタ貼ってあげてお粥作ったげて、ふぅふぅしながら食べさせたげて?」
「注文多くないです?」
「あと頭をよしよし撫でたげてね。薬、ここ置いておくから!」
「いえ、あの、いや私帰らないと、」
「じゃあせめて起きるまでは居てやって。」
「いやです。」
「じゃあ俺、沙耶乃のとこ帰るから!」
「……」
いや大の大人が看病とか、いらないでしょう。
シュンヤさんがあっという間に玄関へと行ってしまったため、私も慌てて追いかけようとする。
すると正座をしていたせいか、足がしびれて思うように動けず。「頼んだよ~キラを煽った張本人が看病もせず帰るなんてこの薄情者~」という声が聞こえて、ドアが閉まる音がした。
「(嘘。まさかシュンヤさん、私が動けなくなるように正座させたんじゃ)」
ホストこわい。
夜のお店が3年続けばすでに老舗といわれるように、ホストも3年続けばベテランになるらしい。ホスト業6年目のシュンヤの威力を思い知った。
スマホを取り出し、ここからうちまでの帰るルートを検索する。一番近い駅でも歩いて30分はかかる。ここどこよ。
もう深夜だしタクシーしかないと思って調べれば、ここからうちまで2万円近くかかる。別にいいけど、ただ人を運んで帰るだけで2万消耗ってどうなの?
どうにか安く帰れる方法はないかと、自分のうちを何度かマップで見ていれば、後ろから生ぬるい声が迫った。
「へえ、そこ住んでんの?こっから歩いて…1日半かかるかんじ?」
ビクリとして後ろを振り返れば、キラ君がソファから私のスマホを覗いていた。
「ちょ、ちょっと!」
「なに?プライバシーの侵害?ミウさんこそ勝手に俺んち上がり込んでて心外。」
「ちがうって!これは回りくどいホストのやり口で連れてこられただけで!」
「えっちしよっか。」
「はいお邪魔しましたー。」
「俺、回りくどくなくない?直球で言ったし。」
元気そうな言葉……とは裏腹に、言葉の合間合間から聞こえる呼吸音。気管支と心臓がひゅーひゅーと悲鳴を上げている。
キラ君を見れば、瞼の落ちかけた甘い目つきが、私をじっと見つめていた。
「体温計、どこ?」
「ここ。」
ソファから垂れ下がっていた手が、ゆっくりと私の右手を捕まえる。
彼にとらわれた右手が、そっとキラ君の額に置かれた。
「ミウさんの手、冷たくて気持ちい。」
「ちょっと、相当熱いじゃん。」
「俺のおでこ、何度くらいある?」
「さあ?たぶん、39℃近いんじゃない?」
「ねえミウさん、なんでドレス着替えちゃったの?俺の金魚がみえないよ?」
「オフなんだから着替えるに決まってるでしょ。」
私の手を離さないキラ君。火照った顔で、瞬きのスピードもノロノロ運転だ。
雨の中、捨てられた仔犬を拾いそうな衝動に襲われる。でもシュンヤさんに言われた、私を信じるという言葉を思い出して、鞄を手にした。
「帰んの?」
「うん。帰るから手、離して。」
「あと7秒したら離してあげる。」
「ちゃんと着替えてから寝なよ?」
「んー。」
7秒、経ったよ?
手をキラ君の額から離そうとする。でも私の手の甲には、キラ君の熱い左手が被さったまま。
キラ君の額から伝わる体温。目を離さない瞳。
心音のリズムとテンポが狂いそうな中、キラ君がか細い声でつぶやく。
「なんで、サクラ守ったの?クソむかつく。」
「なにが?」
「サクラのこと、抱きしめてさ、守ってたじゃん。」
「ああ。。って、別に守ったわけじゃ、」
「なんか、俺が悪モンみたいで寂しかったんですけど」
ダメダメ。不貞腐れるキラ君をかわいいだなんて絶対に思わないから。
額から手を離そうとすれば、潤んだヘーゼルイエローが私の胸をキュンと射抜いた。
「いやだ行かないで。」
「(くっ)」
「俺もさ、童貞、アッキーナに捧げればよかった。」
「は、はあ?」
額の上にとらわれている手を、力任せに引っ込める。
ホストの、お客さんを引き止めるやり口には乗りたくない。
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