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しおりを挟む「シュンヤ~、俺、今ハマりそうな女がいてヤバい。」
晩がそう言い出したのが、もう随分も前の事のように思う。
朝4時。散々店で騒いだ客が酔いつぶれて、その後始末をし終えた頃だった。
真冬だから寝たら死ぬ気がする。そう思いながら掃除を乗り切った頃、ホール内のソファで寝転ぶ晩が俺に言った。
「女?また年増の女?」
「違う。タメ。」
「珍しいな。金持ってるの?」
「そういうんじゃない。」
晚が金銭なしに好きになる女ってのは、俺も今までに見たことがない。大概晩が身体の関係を持つのは、年増の女。莫大な資産を抱えている女ばかりだ。
単純に驚いたものの、どうせ晚の気まぐれだろうと思っていた。
ミウちゃんがQUONを勝手に辞めて1週間が経ったある日のこと。ぼやく茂道さんに、晩が珍しく意見した。
「もう!!ミウちゃんが辞めてお客さんにどれだけドヤされたことか!信じらんないわ!」
「でも今までだって勝手にバックレたキャバ嬢やホストは沢山いるでしょう。」
「あの子はNo.1だったのよ?!どれだけ太客つかむのが上手いキャバだったか分かってる?」
ある日突然No.1がいなくなったとなれば、当然店にとっては相当な痛手だ。客からの苦情対応にも茂道さんは手を煩わせていた。
「あんた、知ってる?ミウちゃんは経営者3人から囲いたいって言われてたくらいなのよ?!」
茂道さんがホールのテーブルを叩きながら言った。
「は?囲うって何時代の言葉?そんな人権無視した発言自体おかしいでしょう。どうせミウさんは突発的に金に困ってただけなんだから。このまま静かに辞めさせてやればいいんじゃないっすか?」
「ならこれからミウの売上分はどうするっていうの?!引き戻さない限り売上が元に戻ることはないのよ?!」
茂道さんもその道の上司に、売上を増やせと相当まくし立てられているのだろう。必死な様子だった。
「だったら俺が替わりに補填しますよ。ミウさんの分、俺が稼ぐんでそっとしといてやって下さい。」
ミウちゃんを庇うようなその発言に、俺も茂道さんも目を丸くした。だって晩が彼女を庇う理由が全く分からなかったから。
「そ、それならあんた!この半年間でミウの分も稼いでみなさい!そしたらもうミウとは一切関わらないでいてあげる!」
「うっす。金がありゃいいって意味ですよね?」
「わ、分かってるの?!ミウの売上ってことはあんたと一緒って意味なのよ?2倍ってことなのよ?!」
「うぃー。」
「きぃーーーなによそのやる気のない返事!」
どう考えても無謀だった。
ただでさえSEの仕事をしながらホス業もこなしているというのに。それだけでいっぱいいっぱいのはず。だから、どうせ冗談半分で言っているのだと思った。
「俺、SEから営業に転身することにしたから。」
「はあ??」
牛丼屋で俺が牛丼を食べる隣で、晩がプリンを食べている時だった。
昔からIT関係に興味を持っていた晩。いずれソフトやアプリ開発に携わりたいと夢を叶えたはずの男が、なぜかある日、営業職になっていた。
「営業だと成績に応じて手当がつくからさあ。ほぼ給料一律のSEより断然稼げるんだって。」
「稼げるって。だってお前、SEの仕事に就きたかったんじゃないの?」
「んあ?そうだっけー?」
プリンを食べ終えた男が手を合わせて「ごちそうさま」をする。
意味が分からなかった。
そもそも晩がALISSのSEを選んだのは、ホス業と両立しやすいからだ。納期さえ間に合わせればなんとでもなると言っていたはず。
「ミウさんの分、ホス業だけで補填しなくてもよくね?別に昼間の仕事で補填したっていいわけじゃん?」
「そ、そうかもしんないけど。」
茂道さんに言われた2倍稼げという言葉を鵜呑みにし、本当にこいつは稼ごうとしていたのだ。
そこまでする意味が、まるで分からない。
実際晚が、キャッシュで茂道さんに手渡している現場に遭遇したことがある。分厚い茶封筒を手渡しながら、「ミウさんから手を引いてやってよ。」と軽く言っていたのを覚えている。
ただ本気でその金を受け取った茂道さんも茂道さんだ。この世界を支える裏方の反社会的組織という存在を肌で感じた瞬間でもあった。
ミウちゃんが辞めて落ち込んでいたのは、何も茂道さんや客だけじゃない。コマキちゃんや沙耶乃もダメージを喰らっていた。
「私、けっこうミウミウのこと友達だと思ってたのに。」
「ミウ、クールだけど意外とかわいいところもあるし、愉しかったよね?せめて連絡先くらいは聞いておけばよかったかな。」
ミウちゃんが彼女たちをどう思っていたのかは知らないが、少なくともトップ3を争った戦友だ。
せめて卒業パーティーぐらいはしてやりたいという2人の意見を尊重し、俺が晩に頼んだのが、晩が営業職に転身してすぐだった。
「“客はなし”ってことならいんじゃね?」
客がいればそれだけ売上に貢献できるだろうに。そこまでミウちゃんにはもう客の相手をさせたくないということなのだろうか。
でもミウちゃんの意思は固かったらしく、なかなか来てくれなかったというのが現実だ。
それでも上手くミウちゃんを誘い出した晩。
ミウちゃんの卒業パーティーを決行する数時間前のことだった。
「俺が倒れたら、ミウさんと一緒に俺を運んで。」
裏の喫煙所で、電子タバコをふかしながら晩がそんなことを言い出した。
「なんだよ、その倒れる前提みたいな言い草。」
「なんか俺、熱あるっぽい。頭ぐらぐらするしぼーっとするわ。」
「だ、大丈夫なのか?」
「俺んちに運んでね。」
「は?お前のうち知られてもいいの?」
「ミウさんなら、成世秋奈ならいいよ。むしろすぐ帰らないよう上手いことやって。俺とシュンヤの仲じゃん。」
丈夫なはずの晩が、身体壊してまで彼女の売上分まで稼ごうとする意味。それほどまでに惚れていることが、ようやく理解できた瞬間だった。
晚が家に女を上げたことがあっただろうか?少なくとも俺は知らない。昔からストーカーされやすいバイトをしているせいか領域のガードは固いはずだった。
でも、どうみたってミウちゃんは普通の世界の一般女性。とても釣り合うとは思えない。
俺はその場で反対した。
「やめとけ晩!ミウちゃんは普通のOLだ。どう考えたってお前と釣り合わない。無理だろ。」
「うん。知ってる。」
「え?」
「だから、俺が普通のリーマンになれば釣り合うってことじゃね?」
「どうやって?お前が、ただのリーマン?」
そして今まで女を利用し稼ぐことばかりに執着してきた男が、ついに口にした。
「俺さ、ホスト辞めようかと思ってんの。」
母親に捨てられたトラウマを引きずるせいか、晚は昔から女をどこか馬鹿にしていた部分があった。だからホストは適職だと思っていた。
「へ??お前が昼間の仕事クビにならずにやってけるのか?!」
「これでも今俺、営業部で1位。」
「うわ器用なやつー。羨ましいわ。俺なんてもうホストで金稼ぐことに慣れすぎちゃって他の仕事が出来ないっての。」
「まーな。でも茂道さんには辞めさしてもらえねえだろうし。」
「そりゃそうだろう。だってお前、ここ入ってほぼずっとトップ3よ?殿堂入りじゃん。」
「でも俺、ちゃんとこの半年間ミウさんの分まで稼いで茂道さんにキャッシュで手渡してたんだよ?」
「それはミウちゃんをこの世界から辞めさせるための金であって、お前が辞めるためじゃない。」
晩がホストから足を洗うのは難しいだろう。巷では一晩で億単位稼ぐ輩もいるといわれているが、晚だって4桁ならザラにある。あれだけ稼げる男は早々いない。
晩をこのMo-mentに引き込んだのは俺だ。
俺は昔、昼間はプリカフェ、夜はホストを兼業して働いていた。今はホス業一本に絞っている。
前のプリンスカフェをクビになった晩は、同じようなコンセプトカフェ界隈では、すでに晩の売春行為が知れ渡っていた。
だからクビになった晩を見兼ねて、俺が働いていたMo-mentに誘い込んだのがきっかけだった。俺はすでにMo-mentoで働き6年目。晚は4年目に突入する。
金を稼ぐことに必死だった男が、いつの間に社会で働く普通のリーマンになる道を選ぶまでに成長したのか。
いや、ミウちゃんがそうさせたのだろう。同じ目線で生活していきたいと思わせた、ミウちゃんの力だ。
でもこの世界から完全に抜け出すのは難しい。一度入れば、何度も連れ戻される。
実際晚は、ミウちゃんの売上分をここ半年で補填しているにも関わらず、茂道さんはミウちゃんにヘルプを頼んだ。
それが、サクラのあの事件だ。でもあの時の事件はそれだけじゃない。
QUONにミウちゃんと晚の会社の先輩が来てしまったと沙耶乃からラインが入った。晚も見つかるとまずいため、晚もMo-mentからはしばらく外には出ない方がいいという忠告だった。
そして新人ホストが俺と晚に報告しにきたのをきっかけに、晚の怒りが頂点に達した。
「今ジャグジーの個室使用中なんでよろしくお願いします。」
2時間で30万も取る個室が使用中になるのは相当な太客が来ている時だ。主語を言わない新人に、俺と晩が顔を見合わせた。
「誰が使ってるの?」
「サクラさんです。」
「サクラの太客って、今日来てないよね?」
「……」
何も返さない新人を見て、不審に思った俺と晚が問い詰めた。
「あの、サクラさんには黙っておけって言われてるんですけど。実は、隣の店のミウさんと入っていまして。しばらく誰も入れるなって言われているんです。」
「あのねえ。そういうことはもっと早く言ってよ。」
「す、すみません。。」
俺が新人にトップ3のヒエラルキーを熱弁していれば、晚がどこかから持ってきた空き瓶を片手に階段を上っていく。
その様子は不穏そのもので、俺でも肝を冷やした。顔に塗りたくられた真っ黒な闇は、沸点到達の予兆だった。
でもその時たまたま、ホールから女性の悲鳴が上がったのだ。
「きゃあっ!」
「何様よこのガキ!!キラのストーカーか何か知らないけど私の方がずっとキラに貢いできてんのよ?!」
「この年増!!私なんてキラからプレゼント貰ってんだから!!私の方がぜったいキラの恋人に相応しいんだからっ!!」
「っな、なによそれ!!」
どうやら花音と磨白が喧嘩を始めたらしい。
他のホストに聞けば、磨白がキラにドンペリを入れ始めたのがきっかけらしい。花音がこれみよがしに高い酒を入れ、交互に高い酒を頼んでいるうちに磨白がキレたのだ。花音の席まで喧嘩をふっかけに行ったんだとか。
花音の首には、前に沙耶乃が客から貰ったリボンのネックレスが着けられている。間違いなく俺が晚にくれてやったものだ。
麿白の方が花音よりも長くキラを指名しているのだから、どう考えたって磨白に渡すべきだろう。あれじゃさらに磨白を妬ませるだけだ。
「2人とも、落ち着けって!!」
周りがなだめる中、他の客も怯えて席を移動し始める。このままじゃ他の客が帰ってしまうと思った俺は、晚に収集をつけさせるために個室へと向かった。
個室のドアを開けば、そこには手が付けられないほどの猛獣がサクラに馬乗りになっていた。
その傍らでは、ミウちゃんが必死に晩を止めようとしている。
俺でも今の晩に立ち向かうのは相当勇気がいる。それなのにミウちゃんは、晩のために止めようと必死になっているのだ。
俺も彼女に触発されて、晩の元まで踏み込んだ。
「おい!!!それどころじゃないから正気に戻れよ晩!!」
「俺の女寝取られそうになってそれどころじゃねえってどういうことだよああ"ぁッ?!!」
剣道で培った筋力を集結させて、晩に重い平手打ちを放った。
ようやく正気を取り戻した晩は、自分のしでかした失態に顔が強張っていた。ミウちゃんの前でやってしまった後悔の念が、徐々に追いつき始めたのだろう。
「お前、花音にネックレスやったのか。」
「うん。シュンヤがいらないってくれたんじゃん。」
「磨白がキレて、花音に喧嘩ふっかけてホールが大変なことになってるぞ。」
「ふうん。」
目の前の事件よりも、俺からすれば麿白と花音の事件の方が深刻だ。
昔、プリカフェ時代に晩は涼羽に刺されそうになったことがある。
元々一斗に入れ込んでいた涼羽だったが、晩が涼羽に売春行為を持ちかけたのがきっかけだった。
涼羽と磨白はどことなく似ている気がする。執着心とか、晩に送るメッセージや着信の量だとか。
俺にとって晩は大事な弟みたいなものだ。ただ心配で、だからこそミウちゃんにも晩から手を引いて欲しいと頼んだ。
「ミウちゃんみたいなまともな子が相手にしていい男じゃない。それに、これ以上深みにハマって晩が傷つくのもみたくないんだ。」
晩を守るために言った言葉だった。
でも、もう手遅れだった。すでに晩は深みにハマっていたのだ。
その日の夜中、晩が磨白を見送る際に言ったひと言が、未だに忘れられない。
店内がようやく落ち着いた頃、俺も自分の客の見送りで外に出た時だった。たまたま、晩と麿白が言い合いをしている場に遭遇した。
「ねえ、なんでよ!なんであの子にブランドのネックレスなんてやったの?!私まだキラから何も貰ってない!!」
「うるせーよ。他の客に手を出す女にやれるもんなんてあるかよ。」
「わたしがッ、私がどれだけあんたに貢いできたか分かってる?!なんであの子なの?!あんな貧相な女のどこがいいっていうのよ!!」
麿白の怒りが収まらない中、晩が麿白にあるものを手渡した。
「ならこれでも持ってけよ。むしゃくしゃしたら、それで俺を刺しにでも来い。」
「なッ」
「他の客に手を出すぐらいなら俺を刺しに来い。」
「……」
「ジョークだよジョーク。愛してるよ磨白。」
晩が磨白に手渡したのは、折りたたみ式の果物ナイフだ。
アウトドア用として売られているものだが、刃先はそれなりに鋭い。
それを磨白に贈った晩の思考が、その時はまるで読めなかった。
「シュンヤー。一番やばい急所ってどこ?」
磨白と花音の事件から何日か経ったある夜。
それは、唐突な質問だった。
「頭とか、目とか?あと心臓は勿論だけど、脇腹?」
「ふうん。じゃあ背中から刺されそうになったらどう避ければいいの?」
「はあ?……まあ、横に避けれるならいいんじゃない?」
「剣道って横に避ける動きあるの?」
「あるよ。てか剣道で背中を見せるのは義に反するけどな?」
俺が剣道をやっていたからか、人体の急所を聞いてきた。なぜそれを聞くのかは分からない。
晩がスマホをスクロールしながら、ため息を吐く。
晩は最近元気がないように思う。ミウちゃんと何かあったのかもしれない。
「あのさあ。一斗って、やっぱシュンヤからみてもいい男だと思う?」
今度は突然なにを言い出すのかと思えば。プリカフェで一緒に働いていた晚の親友、本浪一斗のことを聞いてきた。
「思う。」
「例えばさ、シュンヤが女だとして、俺と一斗だったらどっちを選ぶ?」
「一斗。」
「秒かよ。」
特に考えて言ったわけじゃないが、プリカフェでの一斗の女性集客力はとにかく凄まじかった。
ずっと俺や晩を指名していた女性客も、気付けば一斗の虜になっていた、なんてことは多々あった。
でも一斗のあの純で誠実な性格を知れば、妬みなんてものも湧き起こらなかったのだ。それぐらい一斗の人気には箔がついていた。
「……一斗に勝てる要素なんてないけど、怪我でもすりゃ俺一筋になってくれるかなー。」
「はア??」
「なんでもなーい。」
その言葉の真意が現実となったのは、割とすぐのことだった。
晩がホストの出勤途中、磨白に後ろから刺されそうになったのだ。
晩が渡した果物ナイフで。
俺は現場を見てはいなかったが、すぐに周りが磨白を取り押さえて数分で場は収まったらしい。
晩が自ら俺に入れた電話で、俺はその事実を知った。
『俺、ついに磨白に刺されたよ。ハハッ。』
晩は笑っていた。電話越しからでも伝わる起伏する感情。
まるで、刺されるのを待っていたかのような言葉だった。
茂道さんに連絡を入れた俺は、すぐに現場に茂道さんがかけつけた。救急車を呼ぶことなく、晩は茂道さんの車で郊外の病院まで連れて行かれた。
俺も急いでその病院に行けば、思っていたよりもずっと元気そうでがっくりと項垂れた。刺されたというよりも、実際は避けた拍子に刃が腰をかすめたらしい。
病室での晩と茂道さんの会話を、俺は間近で聞いていた。
「磨白、ずっとキラをストーキングしてたもんね。花音が同伴で来る日を狙って来てたし、相当なサイコパスよね。」
「茂道さん、もう俺怖いっすよ。ホス業ほんと辞めたい。」
膝を抱える晩が、顔を伏せてか細い声で言った。弱味をみせるのは珍しい。
「……女が、怖い……もういやだ………。」
喉がかすれたような声でつぶやけば、ついに茂道さんが音を上げた。
「そうね……。これ以上今日の事件が広まっても困るし。分かったわ。もう辞めてもいいわよ。ハアー。」
「おれ、この半年間頑張って2倍稼ぎましたよね?」
「そ、そうね。」
「なら、ミウさんももう呼ばないでやって下さいよ。」
「わ、分かったわ。今まで、ごめんなさいね、キラ。」
そこで、はっきりとした。俺の中で引っかかっていたこれまでの晚の言動が、全て繋がったのだ。
いつからなのか。一体いつから晩は磨白を煽り続けていたのか。
晩は、これを狙っていたのだ。ホス業から足を洗うために。
わざと花音にプレゼントをやって磨白を煽って。いつか磨白の怒りを買って、本気で刺されようと。
殺傷事件に巻き込まれたとなれば、さすがの茂道さんも晩が辞めるのを認めざるを得なくなる。
自分の身体を犠牲にしてまで、どれだけミウちゃんに入れ込んでるんだよ、晩――――。
茂道さんが飲み物を買ってくると出て行った病室。
膝を抱えていた晩が足を伸ばし、顔を上げて伸びをする。
「シュンヤー、悪いんだけど、秋奈に連絡してやってくんない?」
「……は。」
「シュンヤからした方がさ、緊迫感が出るっていうの?秋奈は血相変えて飛んできてくれるはずだし。」
ベッドの上からスマホを取った晩がロックを解除し、俺に手渡す。
「と、飛んでこなかったらどうするんだよ。」
スマホを受け取れば、晩が不敵に口角を上げた。
「いや?その可能性は俺の中にはないけど。」
「なぜそう言い切れる?」
「だって俺の手、握り返してくれたし。」
「は?」
ふっと笑いを孕ませる晩の表情が、俺の背筋を凍りつかせる。さっきまで泣き言を言っていたのが嘘のようだ。
単純に怖くなった。七三倉晩という男の、歪みに歪んだ策略が。
一体どこからどこまでが計画だったのか。考えるだけで冷や汗が止まらなくなった。
だから言ったんだよミウちゃん。
「晚がどれだけ常識外れか、ミウちゃんはまだ知らないんだよ。」って。
【FIN】
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