初夜権を行使されて人生ぐちゃぐちゃになった話

うづき

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後編

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「初夜権……」

 父母は席を外していて、家の中には私一人しか居ない。夜になったら領主が来る予定で、私はそのまま領主とセックスをすることになる。
 エイミール侯爵。名前は聞いているけれど、あまり見たことは無い。秘密裏に領内を視察しているとか、そういった噂は色々とあるが、ほとんど謎の人である。そもそも、普通の領民が関わりあうことはないような、そんな人だ。
 それなのに、どうして、ことここに至って初夜権を行使するんだろうか。
 今まで初夜権が行使された記録なんてものは、無いらしい。ほとんど形骸的になっていた権利を、今になって使う。何か理由があるには違いないのだろうけれど、一切の想像がつかない。

「もしや私モテてる……?」

 ――なんて。どう考えても凡人容姿でしかないというのに。一目惚れされるような、そんな器量は一切無い。自分の想像を自分の中で切って捨てて、私は小さく笑う。
 時刻は夕方。時間が過ぎる度に、心臓がどきどきと脈打つのがわかった。

 怖かった。見知らぬ男とすることが。しかも、初夜権だなんていう権利を使われて。
 商家の相手は、家に出入りしたこともあって見覚えがある。私よりも二十は年上だろうが、それでも、見知った相手である分、多少は気心が知れていた。……多少なりとも、色々、こう、舐めるような目で見られたことはあるけれど、そこはそれ、である。前世と合わせると結構な年を生きているし、多少なら我慢は出来る。
 けれど。初夜権の相手は領主だ。もし粗相をしたらと思うと、ぞっとする。呼吸が浅くなっているのが自分でも分かって、慌てて首を振った。

 に、逃げたい。けど逃げたら父母に迷惑がかかる。なんでこんな酷い目に遭う必要があるのだろう。先ほどもしっかり泣いたのに、それでも涙は尽きず、私の眦からぽろぽろと零れていく。
 どうしよう。どうしよう、どうすれば――。

 色々な感情が胸の中を回る。――その途端、考えを寸断するように、こんこん、という音が響いた。
 体が大げさにはねる。き、来た。嘘。夜って話じゃなかった? まだ夕方だよ。
 ちょっと泣きそうだ。しかし待たせるわけにもいかない。私は震えながらゆっくりと扉に近づいた。ノブに触れる。
 ぎ、と蝶番の軋む音が耳朶を打つ。

「い、いらっしゃいま――」
「ノエル」

 声を震わせながら、扉を開くと、同時に抱きつかれる。懐かしい匂いと、聞き知った声がした。ふわふわの耳に、ふわふわの尻尾――。イオだ。

「イオ? どうしたの、士官学校にいたんじゃ」
「結婚するって聞いたから、少しだけ休みを貰って帰ってきたんだ」

 見ないうちにイオは精悍な青年に成長していた。年の頃は十八くらい、のはずである。私の少し下だったはずだから、大幅に間違ってはいないはずだ。
 士官学校の制服に身を包んだ彼は、私をもう一度ぎゅうっと抱きしめると、ゆっくりと体を離した。美しい榛色の虹彩は、変わらない。白銀の髪は少しだけ伸びていて、肩口に着くくらいの長さになっていた。
 夜には領主が来る――という不安が、イオに会えた喜びで、一瞬で吹き飛ぶ。

「成長したね。士官学校はどう?」
「楽しいよ。色んな場所から人が集まるから、色んな知識が手に入って――、それより。ノエル」

 とりあえず中へ案内して、椅子に腰を下ろす。イオは沈痛な面持ちで私を見た。耳と尻尾がしょんぼりしている姿が、なんだか懐かしくて少しだけ笑った。

「会えてうれしい。さよならも言えずに去ることになりそうだったから」
「……ねえ、ノエル、どうして結婚なんて……」

 イオが微かに声を震わせる。彼はぎゅうっと拳を握っていた。太ももの上にのせたそれが、不安を吐露するように僅かに微動しているのが見える。

「どうして……しかも、商家の、ノエルより二十も年上の相手と結婚するなんて……。ま、まさかとは思うけれど、好きな相手だった、とか言わないよね」
「好きな相手、というか……」
「気付かなかった。一番傍に居たのに。誰よりも、何よりも、一緒だったのに――そんなの、一つも、全然……っ」

 イオは首を振った。柔らかな耳が、ふわふわと、彼の挙動にそって、僅かに揺れるのが見える。
 ……結婚する、とは書いたけれど、相手が商家だとは、書かなかった気がする。どこで知ったのだろう。

「ど、どのあたりを好きになったの? 全然わからない。だって、あいつは良い奴でも無い。むしろ悪い奴だ。人の弱みにつけ込んで――」

 そこまで言葉を続けて、イオは口を閉ざした。そうして、ふ、と息を零すようにして笑う。

「……。……、ノエルが大変な時に、金銭を見せびらかしてそそのかしている。お金が必要なら、僕に言ってよ」
「そんなこと出来ないよ」
「どうして。お金が必要なんでしょ。だから、あんな相手と結婚することにしたんだ。そうだろ。そうだよね? だって、そうじゃなきゃ、僕は――僕は」

 僕は。喉を引き絞るように声を出して、イオは視線を落とした。僕の方が、と彼は言葉を続けて、眉根をぎゅうっと寄せる。
 体中が痛むとでも言うような、そんな表情だった。拳を握る手に力が入ったのか、血管が薄く浮き出ているのが見える。イオ、と名前を呼んで、そっと手を伸ばす。指先で拳に触れると、瞬間、その手にこもった力が解けるのがわかった。

「……どうしても結婚するの」
「そう決まったから」
「待っているって言ったくせに。約束を破るつもり?」
「――ごめんね。でも、今日会えたから、良かったよ」

 待っている、という義務は果たせたのではないだろうか。といっても、それもイオが会いに来てくれたから、実現したことなんだけれども。
 イオの拳を握る手に力を込める。彼はは微かに息を飲んで、それから私を見た。

「……本当は」

 静かな暗い声が耳朶を打つ。

「本当は、ノエルが――ノエルが、嫌がっていたら、一緒に逃げだそうと思ったんだ」
「イオ?」
「魔法が使えるなら、冒険者にだってなれる。僕も士官学校で学んだ技術があるから、きっと、二人なら大丈夫だって――。沢山の国を旅して、二人で暮らすのだって、きっと良いって。それなのに」

 それなのに。イオは私を見た。黒目がきゅうっと窄まった、瞳。独特の虹彩は、獣人ならではのものだった。
 獲物を見るような目つき――。

「ノエルは僕のことを受け入れてくれない。あまつさえ、二十も上の商家の嫁になるだなんて言い出す」
「……」
「こんなの裏切りだ。――なら、僕も、良いよね」

 何が、と思うよりも先に私の手をイオが強く握った。直ぐに彼は私の傍に寄ると、そのまま私を横抱きにして抱き上げる。は、とか、え、とか唖然とした声が喉の奥から零れて、直ぐに消えていった。
 向かう先は私の部屋だ。二人で何度か、遊んだこともある。イオは扉を乱雑に開けて、そのまま私をベッドの上においた。獰猛な感情が滲む表情に反して、どこまでも優しい手つきだった。

「い、イオ――?」
「違う」
「な、何が」
「イオルド・エイミール」

 は、と声が零れる。イオは小さく笑うと「僕の名前だ」と続ける。

「そして今から君の処女を奪う男の名前でもある」
「なっ、――」

 何、という言葉が弾き出る前に、唇を塞がれる。少しだけかたい唇が私の唇を食むように動いた。逃さない、とでも言うように頭には手が添えられて、身動きが出来ない。思わずイオの胸を叩くが、鍛えられた体はびくともしなかった。

「イオ、どうしたの……」
「どうしたのじゃない。ずっとこうしたいと思っていた」

 唇が離れた瞬間、慌ててイオを呼ぶ。イオは至近距離で私を見つめたまま、ゆっくりと頬や額に口づけて、もう一度唇を重ねてくる。彼の舌先がすりすりと、入り口を求めるように私の唇を舐めた。くすぐったくて、小さく笑う、と同時に隙間から舌が入り込んでくる。肉厚なそれが歯を舐め、そのまま私の舌先を捉えた。ねぶるように動き、吸われて、小さく体が反応する。ぐちゅぐちゅと音を立てるほどの激しさで口内を責め立てられて、息がしづらい。

「はっ、イオ、やめ――」
「やめない。ノエルが裏切ったのが、悪いよ」

 イオの指先が動いて、私の胸元に触れる。衣服の上から胸の形を辿るように手の平が動いた。緩急をつけたような動きをしながら、何度も何度も口づけられて、舌を吸われる。唾液の一筋すら零れることは許さないとでも言うように、唇の端を舐めて、イオは小さく息を吐いた。熱い吐息が私の頬を掠める。

「ノエル、可愛い。頬が赤くなってる……ねえ、僕、キス上手く出来た?」
「イオ――」
「おしえて。僕のことを躾けてよ。ノエルの気持ち良い所全部教えて」

 指先がそろそろと動いて、私の胸を愛撫していく。衣服の上からやわやわと揉んでいた手の平が、ゆっくりと衣服の中へ入り込もうとしてくるのがわかった。肌が一瞬外気に触れて、すこしだけ粟立つ。腹部から入り込んだ手の平が、ゆっくりと胸の方へ上がってくるのがわかった。
 男の人らしい、少しだけ皮膚の硬い、指先。

 胸元、その先端を指先が軽く掠める。う、と反射的に声が漏れて、慌てて口を押さえた。イオが笑う。

「――くすぐったい?」
「ん――、う……っ」
「反応、全部可愛い。食べちゃいたくなる……」

 イオは耳元で囁くように言葉を続けた。そのまま鼓膜を冒すように耳を舐めてくる。唾液の音が直接脳に響いてくる。耳の輪郭を、イオの少しざらっとした舌が辿るように舐めていく。その間にも指先が動いて、先端の縁を辿るように、つま先がかり、と動いた。体がびくりと跳ねて、息が詰まる。
 イオはくすくすと喉を鳴らして笑って、そのまま首筋に顔を埋めた。すう、と息を吸うような音が聞こえて、その少し後に甘い吐息が零れ落ちるように首筋をくすぐる。

「いいにおい……。汗のにおいがする。ノエルのにおい……」
「は、はずかし、い、からぁ……っ」
「やめてほしい?」

 小さく囁く声に頷く。イオはぐるぐると喉を鳴らすと、「やめない」と甘い声で囁いた。指先が乳首を摘まんで、軽く揉むように動く。

「乳首、少しずつ芯が出来てきてる。きもちいい?」
「やっ、あ、わかんな……」
「うそつき」

 静かな声だった。先端に触れるか触れないかの距離を、つま先でかりかりと掻かれる。僅かな熱を持った乳首が、その度に電気のような刺激が背中を走る。まるで弓のように体が軋んだ。

「胸、突き出してきてる。そんなに触って欲しいの?」
「ち、ちが……」
「ねえ。オナニーの時、胸、触ってたでしょう」

 頬に熱が集まるのを感じた。していない。触ってなんか。首を必死で振ると、イオは小さく笑う。ふ、と息を零すように声を零して、うそつき、と静かに言う。
 うそではない。本当に、そんなこと、していない。していないのに。
 それなのに。

 すりすり、と指先の節で摘まむように乳首を愛撫されて、少しずつ体が熱を持っていく。微かに息を漏らすと、イオが唇を近づけて、私の口内を貪るように舌を動かした。口の中を犯されているような心地を覚える。
 胸元を優しく動いていた指先が、ゆっくりと下に降りていく。衣服の上からすり、と足の隙間を撫でられて大げさに体が跳ねた。
 唇が離れる。獰猛な肉食動物めいた瞳のまま、イオは私の衣服を丁寧に取り払った。下着だけの姿になる。

 ショーツの上から、イオの指先が動いて、敏感な部分をすりすりとなで上げる。

「あっ、ぅ、う、んぅっ」
「可愛い。ここ、濡れてる。わかる?」

 ぐち、ぐち、と音を立てるように指先が少しだけ強く動く。必死に息を飲み込みながら私は首を振った。
 こんな、キスだけで。胸を触られただけで、こんなに濡れているなんて。そんなの、信じたくない。
 柔らかな部分の形を辿るように指先が動いて、つま先が花芯を軽くこすりあげる。すりすり、くりくりと、気持ち良い場所が刺激されて、私は体を軽く跳ねさせた。
 やばい、これ、だめだ。

「まっ、まってぇっ、まって……!」
「やだ、待たない――可愛いよ、ノエル」

 少しだけかたさを増した部分を、狙うように指先が動く。薄い布越しに、まるでこねるように指先を動かされると、びくびくと腰が動いた。待って、やだ、やだ。
 首を必死に振る。イオはゆっくりと私から体を離すと、そのまま足の間に顔を埋めた。何を、という前に、生ぬるい何かが布越しに動めくのがわかる。

「まっ、まってぇ、やだっ、やだぁ……!」
「どうして? ねえ、だって、商家のおじさんと、こういうこと、しようと思って居たんでしょ?」
「うあっ、ああっ、あぅ――~~ッ」

 じゅ、と吸い上げるように陰部を舐められる。舌先がちろちろと動いて、その感触が感じられて苦しい。花芯を弄る指先はそのまま、イオは私の陰部を舐め上げ始めた。
 ざら、とした感触の舌が、まるでくすぐるように陰部を刺激していく。逃げようにも腰を片手で掴まれていて逃げられない。
 やだ、やだ、と悲鳴みたいな声が漏れる。与えられる刺激が、許容値を超えていく。

「ひっ、い、イく、イっちゃうぅ、よぉっ、あっ、あっ、やだぁっ」
「イっていいよ。沢山、可愛い所見せて」

 ちゅ、と唇がショーツ越しにキスをする。と同時に、せき止められていた感覚が溢れ出して、私はびくりと体を揺らした。太ももが痙攣して、背中を電気が流れたみたいな快楽がせり上がっていく。

「ぅうっ、イ、あっ、イっちゃ、あっんんっ」
「びくびくってしてる、体全部……」

 イオが喉を鳴らして笑う。イったばかりで感度の上がった体が、イオの零す呼吸にすら反応するのがわかった。
 イオはゆっくりと私の下半身からショーツを抜き取った。そうして――、

「ひっ!? あっ、ま、まって、イったばっかぁ……!」

 そのまま舌を、私の陰部につけてきた。貪るように舐められて、体が震える。ざらっとした舌先が、私の中を割るようにして入って来た。内部をちろちろと舐めるように、イオの舌が動く。彼が呼吸するたびに、生暖かい息が秘部にあたって、どうしようもなく体が揺れた。

「まってっ、まってぇ、やすみ……やすみたっ、いぃ」
「やひゃ」

 必死に懇願するが、直ぐに否定される。内部を舌先で解されて、腰がすぐに熱を持っていくのがわかった。じゅるじゅる、と吸うような音が響く。途端、恥ずかしさで体がカッと熱くなるような心地がした。

「まって、やだ、もう、イきたくない、許して」
「ひょれで弱音を吐いていたら、商家のおじさんのところになんていけないんひゃない?」
「ひっ、な、なんれぇっ」

 イオは答えない。ただひたすら、私の体を解すようにして、舌を動かしている。
 浅い部分を撫でるように舌で舐められて、脊椎を通るような、快感が体中を支配していく。もうやだ、こんな、クンニされてイくなんて、恥ずかしい、それなのに。それなのに。

「あっ、ンぅうっ、や、やらぁあっ、あっ、あうう――~~!」

 体が痙攣する。イオが唇を離して、「あは、二度目」と言うのが聞こえた。
 その声を聞いた瞬間、ぼろ、と涙が出てくる。どうしてこんな、こんなことをするのだろう。ひどい。

「うっ……ううっ」
「泣いてる?」

 イオが微かに息を吐く。泣いているところをあまり見られたくなくて、慌てて顔を隠すが、イオによって直ぐに開かれてしまう。

「ど、どうして、こんなこと、するの……?」
「どうしてって。何度も言っているよ。ノエルが好きだから」

 まるで明日の天気を口にするかのような声音で、イオは言う。好きだからって。好きだから、で、初夜権なんてものを行使してまで、私とセックスしようと思うのだろうか。
 考えて居ることがそのまま顔に出ていたのかもしれない。イオは、は、と息を軽く零すと、「初夜権を使うなんて思ってもみなかった?」と続けた。

「古い慣習で、廃れているからね。僕だって、ノエルの結婚さえ無かったら、こんなもの使おうとは思わなかったよ」

 けれど、と彼は続けた。

「こうしないと、ノエルは他の人のところに行ってしまう。ねえ、商家で良いなら――、お金持ちでいいなら、それは、僕だって良いはずだ」
「イオ……」
「お金を出してくれるなら、経済的な援助をしてくれるなら誰でも良いなら、僕で良いはずなのに。それなのに、要らないって――言ったのは、そっちだよ、ノエル」

 だから、と彼は私の片足を肩に乗せた。すりすりと指先が下腹部のあたりを撫でて、ゆっくりと中へ入ってくる。舌で解していた浅い部分を進み、そのまま少しだけ奥の方まで、進んでくる。イオの愛撫によって解れた体が、痛みよりも先に快楽を拾って、私の脳に届けてくる。

「ノエルの邪魔をしようと思ったんだ」
「じゃ、ま……?」
「そう。ノエルが――ノエルが、商家に嫁ぐ前も、嫁いだ後も、ずっと」

 指先が動く。内部から腹部の方を押すように、手の平が中を愛撫していく。
 怖い。痛みが、一切感じられない。気持ちよさばかりがさざ波のように押し寄せてくる。いつか私の体を、そのまま浚っていきそうで、恐怖を覚える。

「エイミール侯爵家の嫡子として、ノエルの人生に、ずっと邪魔をするよ」
「な、なんで……っ」
「何度も言っているけれど」

 好きだから、とイオは囁いた。まるで、神聖な――どこまでも厳かな声で、静かに。

「好きだから、ノエルの人生を、ぐちゃぐちゃにして、僕のことしか考えられなくする。商家で暖かな家庭を築くなんて、絶対にさせない。何度も何度も、領主の子息としての権利を行使して、君のことを抱く」

 指が増える。少しずつ質量を増す中に、肌が汗ばんでいく。浅い呼吸を繰り返しながら、イオに言われた言葉を、必死に理解しようと頭を動かすが、あまり上手く行かない。
 ばらばらに動く指先が、快感を与えてくる。ふ、ぐ、と小さく呻くような声が漏れた。体が丸まって、快感を必死に逃がそうとする。

「嫁いだ先で、何度も何度も領主に呼び出されて、その子息にこうやって抱かれて。ノエルの夫はどう思うんだろう。あの意地悪そうな奴は、きっと、同じようにノエルを抱くんだろうね。そうしたら、何度も何度も、僕が塗り替えてあげる。もしもノエルが耐えきれなくなって、精神が壊れても、僕だけはノエルのこと、愛しているよ」

 ――人生をぐちゃぐちゃに、される。

「ねえ、むしろ、心が壊れた方が――商家のおじさんも、諦めるかもしれないね。そうしたら、僕のものだ。ノエル、僕の大好きな人。誰にも渡さない。誰にもあげない、僕だけのものだ。僕だけの……!」

 返答のために口を開いても、喘ぐような声しか漏れない。イオは小さく笑った。丹念に私の中を解してから、ゆっくりと指を引き抜く。そうして、代わりとばかりに腰をすり、とくっつけてきた。彼が衣服の前をくつろげると同時に、勃起した陰茎があらわれる。
 陰部の筋を辿るように、陰茎がすりすりと私の下腹部のあたりを行き来する。

「今日、孕ませても良いかもしれないね。責任はきちんととるよ、だって、ずっと、僕はノエルと番うことだけ夢見てきたんだから」
「い、お、まって……!」
「待たない。――中、挿れるね」

 イオの陰茎がひたり、と私の陰部に当てられる。熱をもったそれが、ゆっくりと中へ入り込んでくるのが、わかった。
 指なんか比較にならないほどの、圧倒的な質量に、僅かに息が詰まる。苦しくて、酸素が足りなくて、視界がちかちかと明滅した。

「は、中……キツい、……あは、はは、処女、貰っちゃったね……」

 ぐ、と腰を押し進められる。初めてなのに、本来なら痛いはずなのに、どうしてこんなに気持ち良いのだろう。私の体は馬鹿になってしまったのだろうか。
 愛撫されて、とろかされて、それだけで、こんな、簡単に人の体を受け入れるような体だとは、思いもしなかった。

「待って、――待って」
「どうして? ――ノエル、痛くないでしょ?」
「うあ、えっ、……えっ?」
「さっきから魔法をきちんとかけてるから。痛みを無くす魔法――ノエルには苦しんで欲しくないからね」

 なに、それ。思わず息を飲む。
 そういえば、以前、手を火傷したとき、魔法をかけてくれた。――ケガした手の平を、元に戻す、魔法。もしかして、あれをかけてくれているのだろうか。私に。
 私が、快楽だけを拾うために。

「そっ、んなっ、うあっ!?」
「今は痛くないでしょ? でも、きっと、商家のおじさんとするときは、痛いよ。だって、魔法なんて使わないだろうし、初夜を領主の子息に奪われているから、相手も初めての相手と思わずにするだろうからね。もしかしたら手荒く扱われる可能性だって、ある」
「は、――は……?」
「なれるまできっと時間がかかると思う。その間、ずっと痛みに耐えながら、セックスすることになるんだ。かわいそうだね、ノエル」

 わ、私をかわいそうなことにしているのはイオでしょう!
 反論めいた言葉が喉の奥から零れ落ちそうになって、すぐに引っ込む。イオが律動を開始した、からだ。
 ぱちゅぱちゅ、と水音が響く。奥の方をぐりぐりと押し込んだり、浅い部分で腰を動かされたりすると、私の体はあっけなく快楽に沈んでしまう。

「あっ、ン、うゥっ、うあっ、あ――っ、ひうぅ!」
「ねえ、どうして僕じゃだめなの?」

 イオが私にキスをする。唇を重ね合わせて、食むように動かして、ゆっくりと離れる。

「どうして待っていてくれなかったの……? 僕のこと、嫌い?」

 その聞き方は、少し、ずるいと思う。嫌いなわけない。首を必死に振ると、なら、とイオは言葉を続けた。

「僕と結婚してよ。ねえ、なんでもするよ。ノエルが望むことなら、なんでもする。少し待たせるかもしれないけれど、士官学校を卒業したらきちんと婚約を申し込むから」

 ねえ、とイオが微かに悲痛な声を出した。ぽろ、と彼の目の縁から、涙が零れるように落ちる。

「ノエルの人生をどうして、僕以外の誰かにあげるの。僕に――僕だけにちょうだい。お願い、だから。お願いっ……!」

 舌先がのびて、私の唇を舐める。開いた唇の隙間からすぐに中に入り込んで、舌を絡められた。粘膜をこすりつけるように舌を動かして、丹念に中を味わってから、イオは口を離す。

「どうして僕じゃ駄目なんだよ……」

 泣いている、と思った。イオが泣いている。尻尾もしょんぼりして、耳もしょんぼりしている。
 ――ああ、だって、私は。私はイオのことが好きだけれど、きっと――そう、沢山の日々の積み重ねを通して、イオはきっと良い身分の人だと、なんとなく悟った。だから、私とは、釣り合わない。
 ならきっと、この気持ちは秘めておくべきだと。沢山の思い出を、私の心の宝箱にしまいこんでおけば良いのだと、そう思ったのに。
 そう思ったのに――どうして、後ろ髪を引くようなことを言うんだろう。

 視界が歪む。私はイオの胸元を軽く叩いた。

「イオのばかっ、あっ」
「ノエル……?」
「イオのばか、ばか、好きだよぉっ、好き……!」

 ほとんど動かない思考を必死に動かす。泣きながら言葉を続けると、イオが小さく息を飲んだ。彼もぼろぼろと涙をこぼしたまま、私の眦を拭うように口づけてくる。

「お金なんかいらないのに、私だって、私だってイオと一緒が良いのに、それなのに」

 どうして、こんな、酷いことをするのだろう。
 神様はひどい。転生した私に、酷いことばかりする。ううう、と恨みがましい声が漏れる。

「もうやだっ、かえる、かえる!」
「――ま、待って。いやだ、かえらないで、ノエル」

 ノエル、と私の名前を何度も呼んで、イオは何度もキスをしてきた。触れるだけのそんな口づけを、繰り返し、繰り返し――まるでなだめるように。

「お願い、――お願い、ねえ、好きだよ、本当に大好き、ノエル以外要らない、だから、お願い」

 縋るような声だった。ぎゅう、と私の体を抱きしめたまま、イオは腰の抽迭を繰り返す。皮膚のぶつかる音が室内に響いた。抜くような動きをされるたびに、私の息に熱が籠もる。
 内部の奥の奥、そこをノックするようにイオの陰茎がこつこつとぶつかる。その度に、下半身から溶けてしまうような気持ちよさが体中に滲む。

「あっ、あっ、う、ぅ、ンぅっ、あっ、――~~い、ィっ」
「好き、ノエル、お願い。僕を選んで、僕のこと好きで居て、僕のこと待っていて――お願い、お願いだから……」

 律動が激しくなる。熱が体中を行き来して、出て行く場所を探している。イオ、イオ、とほとんどふわふわした声で名前を呼ぶと、イオがノエル、と言葉を返してくれた。お互いに体を密着させる。ほとんど隙間が無いくらいに体を重ね合わせると、お互いの鼓動の音が聞こえてくるようだった。
 足がびくびくと震える。イく、という声はキスした唇に吸い込まれていく。みっともないくらい涙が出ている。唾液が唇の端から零れて、落ちていく。

「ひっ、イオ、イ、ぅ――、ん、ぅ~~っ!」
「イっちゃ、ごめ、ノエル、のえる、のえる、すき、すき」

 イオの陰茎がずく、と最奥を穿つ。瞬間、怒濤のように快楽の波が訪れて、私の体の自由を奪う。

「あっ、うあああ、あ――っ! ぅああ……!」

 ぷしゃ、と言いながら自分の陰部から水のようなものが出て行くのがわかった。潮を吹いてしまっている。体ががくがくと震えて、足が突っぱねるように伸びる。内部にどくどくと精液が注がれるのすらなんとなくわかって、私は必死に呼吸を繰り返した。

 は、は、と浅い呼吸が喉を通っていく。イオがゆっくりと私の中から陰茎を引き抜いて、ノエル、と名前を呼んだ。それに答える気力はない。私は軽く瞬きだけで答えて、すぐに目をつむった。
 いやに眠いし、思考が覚束ない。もう、もう、良い。とにかく終わったのだから。
 もう、寝ても、良いよね。良いよ。だって、頑張ったよ。頑張った。
 ふ、と意識が途切れる。その直前、私の手に触れる熱があった。イオの、熱だった。




 朝、起きると体が清潔にされていて、なおかつ服もちゃんと着させられていたので、もしかして昨日のことは夢なのではと思った。だが、立ち上がってみると腰がずくずくと痛むし、体の至る所にキスマークがつけられていたので、夢ではないのだと理解する。

 ……本当に、どうなることかと思った。
 けれど、とにかくこれで、初夜権は行使されたわけだし、私は明日にでも商家の嫁に嫁ぐことになっている。例え思いが通じ合ったとしても、家同士の決め事を後から反故にするだなんて、難しいだろう。
 うん、……うん、良い思い出に、きっと出来るはずだ。イオが人生をぐちゃぐちゃにする、と言っていたけれど、きっとそうはしないだろう。
 イオは優しい。そして嘘がつけない。そんな彼が、他人の家を不幸に陥れてまで、自分の我を通すとは思えなかった。

 軽くストレッチをしてから、ゆっくりと階段を降りていく。

「おはよう、お母さん、お父さん」
「おはよう、ノエル」

 父母は朝の内は、宿屋の待合で食事をしているはずだ。そう思って声をかけたのだが、思ってもみない声が返ってきて、私は小さく息を飲んだ。

「……い、イオ?」
「そうだよ。おはよう。体は大丈夫?」
「は、あの……え、は、はい。大丈夫、です」
「良かった」

 イオは父母と共にお茶を飲んでいた。彼はコップの一つを、私の方へと寄せる。中には白い――牛乳が入っているのが、見えた。華やかな香りがする。花の蜜が入っているのだろう。

「これは」
「牛乳に花の蜜を入れたもの。体力回復効果があるよ」
「……。いただきます」

 イオは嬉しそうに頷くと、そのまま立ち上がった。「それではおいとまします」と言うなり、彼は私の頬にキスをする。
 ちょ、ちょっとまって。

「な、何? どうしたの?」
「何って――未来の花嫁にすることなんだから、キスくらいは普通だよね」

 は。
 未来の花嫁。
 誰が。
 私が?

「えっ!? えっ、しょ、商家は……」
「ノエル、イオくん……イオルド・エイミール侯爵から、話は聞いたよ。二人とも、そんなに愛し合っていたんだね。それなのに私は……娘の厚意に甘えるような親であることを、強く後悔したよ。商家には断りの連絡を入れたんだ。ノエル、お前は大好きな人と一緒になるべきだよ」
「まっ、ま、待って」

 待って。何があったんだろう。何を話したんだろう、イオは。
 状況についていけない。私が一人で目を白黒とさせている間に、イオが父に向かって微笑む姿が見えた。
 人の心をとろかすような、そんな、慈愛に満ちた笑みだ。

「イオ、で結構です。義父上ちちうえ
「ち、ちちうえだなんて……!」

 ぽ、と父が頬を赤くする。いや、まって。まって。

「や、宿屋は……! どうなるの……!」

 元々は資金不足で宿屋の営業も滞るようになって、苦肉の策で私が嫁に出る、という話だったはずである。思わず父母の顔と、イオの顔を交互に見る。イオが小さく笑った。

「元々、エイミール領では宿屋が少なくてね。冒険者を迎えるための宿屋は、これからの領の発展にも大事だろうという話が出ていて、国直々に支援する話があったんだ。だから、ノエルのお家はこれからは国支援の元、経営を行うことが出来るよ」
「つ、つまり……?」
「資金難で閉業する必要はなくなったんだ。――お金のために、どこかへ嫁ぐ必要もね」

 イオは唇の端を持ち上げて笑う。つまり、それって。
 父母が私の視線に応えるように、うんうん、と頷く。イオが私の手を取って、「人生ぐちゃぐちゃにしちゃって、ごめんね」とだけ言った。
 思わず呆けた顔になる。そうしてから、ふ、と笑いが零れた。

 神様は酷いことばかりする。
 けれど時折、良いこともしてくれるようだ。
 人生をぐちゃぐちゃにかき回した、そのついで、くらいの頻度で。

(終わり)
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