【完結】伯爵令嬢は悪役令嬢を応援したい!~サファスレート王国の婚約事情~

佐倉えび

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サファスレート王国の婚約事情(1)

ヒース(2)

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 足りない資金と自分の色を贈れないもどかしさをデザインでカバーするために、若い女性に人気のデザインを多く扱う店をアルフレッドに紹介してもらい、耳飾りを購入した。
 安物で申し訳ないと言えば、赤くて可愛いから好きだと言われ、デビュー当日はヒースに見せながら花のように笑ってくれた。とても可愛かった。
 ヒースも、この時ばかりは顔を綻ばせた。

 マーガレットの、釣り目がちな大きな深い緑の瞳が好きだった。
 剣を持てば勇ましくも美しく、馬に乗れば燃えるような赤い髪をたなびかせながら楽しそうに笑う姿が好きだった。
 裏表のない性格が好きだった。


 ——————好きだった。


 ———————そうか、好きだったのか…………



 気付いた時には全てが終わっていた。

 ジークハルトは、近付いてきたマリアを利用し、学園の流行りに乗じて婚約を破棄しようとしていたらしい。ジークハルトは多くを語らないので、なぜそんなことをしたのか本当の理由はわからない。
 ひとり悲しい決断をしたジークハルトのことを想うと胸が痛んだ。
 剣の腕を磨いても、ジークハルトの心までは護れなかった。そんなことはわかっていたはずなのに、護るという言葉の意味が、ヒースの心を酷くなぶった。


 窓際に座って外をぼんやり眺めるジークハルトが呟く。

「巻き込んですまなかった」
「いえ……」

 振り返ったジークハルトがヒースを見た。

「マーガレット嬢のこと、好きだったのだろう?」
「……はい。しかし、閣下は尊敬できる人ですから……」

 ヒースもかなり体格のいい方だが、ガルブレイス辺境伯は桁違いだ。社交界では色気のある美丈夫として人気がある。普通ならマイナスになりかねない頬の刀傷でさえ、美しい顔を引き立てるアイテムだ。纏う覇気は多くの戦場を駆け抜けたそれであり、領民からの信頼も厚い。騎士団でも慕う者が多く、辺境伯領への移動願いが出るほどだ。
 何よりマーガレットの憧れの人物であることは昔からよく知っていた。


「このようなやり方しかできなかった私を許せ」

 そう言って、こんな時ですら泣かないジークハルトは、顔を歪ませて笑った。


 この人はどうしていつも——————


「ジーク、これからはご自分を傷つけるようなやり方は止めて下さい」
「傷ついているのはヒースだろう?」

「ジークもですよ」
「……そうか…………私は傷ついているのか」

 そう言ってまた、窓の方へ顔を向けてしまった。




 留学先へと旅立つ前日、登城していたマーガレットと会った。
 あの赤い耳飾りをつけていた。

「元婚約者の俺と、こんなところで会っていて平気なのか?」
「閣下も登城されていてご存知よ。少しお時間を頂いたの」
「そうか……」

 ガルブレイス辺境伯は、余裕があるのだろう。
 金色の瞳の、黒獅子のような姿を思い浮かべた。

「今回のこと、わたし怒ってるのよ」
「……すまない」

「勘違いしないでね。わたしが怒ってるのは、アリシアに嘘をつかなきゃいけなかったことについてよ」
「嘘か……マーガレットらしくないな」

「お爺様の動きが怪しくなって、わたしとヒースの婚約は破棄か解消になるだろうと思ったの。どういう計画だったのかは知らなかったけど、そうなった時のために言ったの。子供の頃から憧れている人がいるから、その人以外は誰と結婚しても同じだって」
「それは嘘じゃないだろう」

「憧れてたのは嘘じゃないけど、同じじゃない! あの子は人前で泣くなんて絶対に許されないと思ってるの。そんな古臭い考えを押し付けられてる子なの。もし私がヒースを好きだったなんて認めたら悲しむのよ、下手したら泣かせてしまうの。わかる?」

 わからない。
 いまなんて言った?

「鈍感!」
「否定できない」

「馬鹿!」
「それも否定できない」

 俺がそう言うと、デオギニア語の本で胸を叩かれた。
 素直に受け取ることにする。餞別だろうか。

「デオギニアで可愛い子と仲良くなってきなさいよ!!」
「無理だろうな」

「顔はいいんだから」
「そうか?」

「わたしにモテたんだから」
「知らなかった」

「言ってなかったもの」
「俺も好きだったよ」

 なんだその顔は。
 まぁ、知らなかったよな?
 俺も知らなかった————自分の気持ちなんて。

 互いに見つめ合っていたら、いつの間にかガルブレイス辺境伯がマーガレットの隣に来ていた。
 どこから聞いていたのだろう。
 会話に夢中で気配を察知できなかった。
 慌てて頭を下げる。騎士失格だ。

「お元気で、ヒース様……」
「ありがとう、マーガレット嬢も……お元気で」

 マーガレットは泣きそうな顔をしながら笑った。
 並んで歩く二人の背を見送る。

 痛む胸をおさえながら、マーガレットがこの先も笑顔でいられるように願った。



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