【完結】なんちゃって幼妻は夫の溺愛に気付かない?

咲楽えび@改名しました(旧 佐倉えび)

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8.湯豆腐

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病みあがりに余計なことをごちゃごちゃ考えるのはよくない。
ということを、ひとしきり悩み終わった後、ひしひしと感じるわけである。

ヴィヴィアン殿下がプリンを食べたいと言うのであれば作ればいいし、毒見を通せば一緒にお茶ができるのだから、それでいいではないか。

結婚だって、レイに求婚されて嬉しかったのだからそれが答えだろう。
社交界デビューしてからの三年間、婚約者不在のまま夜会に出席する恥ずかしさといったら。
思い出すだけでも身の毛がよだつ。

あの針の筵のような状態から救ってくれたレイには感謝しかない。
求婚された日は、レイが帰ったのを見送った後、うれしさのあまり飛び跳ねてはしゃいだのだ。

浮名を流したレイの終着点(?)がマイナであったことは、女性たちには不評だろうけれど諦めてもらうしかない。
今は新婚なので控えているようだけど、そのうちまた女性と……そういうこともあるだろうし。
それに関しては、口をはさむ余地はないというか。

(浮気はちょっと嫌だけど……ちょっとというか、だいぶ嫌だけど)

レイならマイナが気付かないよう、こっそり上手くやってくれるだろう。
マイナが閨事のお相手になれないのであれば、仕方がないのである。

(……でも、やっぱり嫌だけど!! だからといって、浮気はしないで欲しいなんてお願いできる立場じゃない気がするし? あれ? そういえば後継どうするか話し合ってなかったな!?)

大事なことを忘れていた。
危なかった。
浮気容認云々の前に確認することがあった。
場合によっては、レイに閨事をお願いしなければならないだろう。

「うん。それは確認しよう」

ひとつ頷いて、高級な――超高級な豆腐に包丁を入れた。

「いや、待って!? 何て言えばいいの!?」

(子どもはどうしますか? でいいのかしら!?)

昆布で出汁をとった鍋にそっと豆腐を入れた。
つるつるの豆腐が出汁の中で揺れた。

「ヤバいわ、これ絶対旨いやつ」

「ぷっ、久しぶりに聞いた、その言葉」

「わあっ!! ごめんなさい、起こしちゃった!? 静かに作ってたつもりだったんだけど」

(ビックリした!! どこから見られてたんだろう!?)

考えすぎたのと、昼間寝すぎたせいで眠れなかったので、思い立って贅沢な湯豆腐を作っていたのだが。

シルクのパジャマにガウンを羽織ったレイが厨房の扉に体を預けて、そんなマイナを見ていた。

夜に見るレイはさらに色気が増すので目のやり場に困る。
頬にかかってる髪とか、パジャマの開襟から覗いてる鎖骨とか、すごい。

「いや、まだ寝てなかったよ」

「何ですって!? 疲れてるのに駄目じゃないですか」

「いいものが見れたから起きててよかった」

「いいもの?」

マイナが料理を作るのは珍しくもなんともないのだが。
首を傾げるマイナの元へレイが近付いてくる。

「その敬語と素の喋り方が混ざるところ」

「えぇ……そこ?」

(お兄さまの言う通り、レイさまってもしかして『大概』ってやつ? いやいやそんなことは)

「なんか失礼なこと考えてるよね?」

「考えてないです!!」

「あぁ。敬語ってほんと面白くないね。遠い感じがして」

「そう?」

「うん、いいね。外では無理だろうけど、そんな感じで話して欲しい。わたくし、じゃなくて私でもいいんだよ?」

腰を抱かれながら耳元で言われた。
急な体温と吐息と香りに肩が跳ね上がる。

「それはお父さまとの約束なので無理です。お父さまが『とりあえず言葉に出すときは、わたくしと言っておけ』と。そうすれば、なんとなく、それらしいからと」

「さすが、べイエレン公は豪胆だ。それらしいか。いいな」

レイは何が面白いのかわからないが、喉を鳴らして笑っていた。

「湯豆腐を作ったので一緒に食べま……えっと、食べない?」

「うん。いただこうか」

「わたくしに敬語を使うなといいながら、ご自分は品がある喋り方って、ちょっとズルいです」

「ズルい? でも私のこれは癖みたいなものだし。マイナにはべイエレン公爵家にいたときみたいに、ここでものびのびして欲しいんだよ。私は自然な振舞いのマイナが好きだから。マイナは私の我がままを聞いてあげてるぐらいの気持ちでいてくれたらいいよ」

「屁理屈に聞こえるー」

「そう?」

レイはニコニコしながら湯豆腐を運んでくれた。

「これどうやって食べるの?」

「これはこうやって豆腐をすくって小鉢に入れて、ショウガやネギをのせて、この土佐醤油をかけて食べるの」

土佐醤油も鰹節を使った贅沢なものである。

(ただのお醤油もいいけど、やっぱり、みりんと酒と鰹節の入った土佐醤油で食べるの、最高なんだよねぇぇぇ)

「夜中にこんな贅沢しちゃってごめんなさい」

「その話はもう無しね。贅沢なんて誰も思わないよ。ドレスも装飾品も全然ねだってくれないのだから、このぐらい貢がせて欲しいね」

「貢ぐって、そんな……あっ、美味しい~!!」

「うん。なんともいえない豆腐の甘さがいいね」

「え、わかる?」

「わかるよ」

「凄い。うちでは誰にも理解されなかったんだけど。お父さまなんてニンニクをのせて食べてたし」

「あぁ、ニンニクか。合うかもね?」

「レイさまって柔軟だよねぇ」

「ねぇ、そのレイさまっていうのも、そろそろやめない?」

「それこそ無理ですねぇ」

「他人みたいで寂しいんだけど」

「寂しいですか?」

「そうだね。レイって呼ばれたいかな」

「うーん……考えておくので一旦保留で」

「了解」

湯豆腐は、二人で食べたらあっという間になくなってしまった。
でも夜中だから、このぐらいでちょうどいいだろう。

「私が食べてしまったから少なくなちゃって、ごめんね?」

「そんなことないよ。一緒に食べたから余計に美味しかった」

「そう?」

「うん」

「ところで」

「何でしょう?」

「確認することって、何?」

レイはいい笑顔で、お腹が膨れて気が緩んでいたマイナに気まずいことを聞いてきた。

(なんか笑顔がめっちゃ怖いんだけど)

湯豆腐であたたまったはずの体をぶるりと震わせたマイナであった。



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