【完結】なんちゃって幼妻は夫の溺愛に気付かない?

咲楽えび@改名しました(旧 佐倉えび)

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24.ゾラ(2)

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 茶会は大成功だった。

 マイナはエレオノーラと親しくなれたようで、とても喜んでいたとニコに感謝された。

「エレオノーラさまの嫁ぎ先が、大奥さまのご実家だからと言って親戚面もできないですし、気安くもできないのが貴族ですから。マイナさまはそのあたり、かなりわきまえていらっしゃいますので」と苦笑していた。

 そのことはあの婦人会の夫人たちだって知っているのだ。
 それを逆手に取り、マイナとエレオノーラにちょっかいを出した。
 現在の婦人会の顔役は私たちなんだから、口を出すなと言わんばかりに。

(本当に、何様なのよ!!)

 貴族らしくやり返す方法はいくらでもある。
 あの人たちだって、さんざんやってきたことだ。
 彼女たちの元々よくない評判は落ちるところまで落ちるだろう。
 明日からは前公爵夫人を怒らせた婦人会という噂が流れるのだ。
 ざまあみろとしか思わない。
 ニコはもう、婦人会の夫人たちのことなど、どうでもよさそうだった。

 ニコはいま、最初は閨を怖がっていたはずのマイナが急に、ナイトドレスを薄手の物にして欲しいと言い出し、閨に興味深々の様子を見せたあと、突然しょんぼりするというアップダウンに長いこと悩んでいる。

 先ほども「こういうとき、私はどうしたらいいのでしょう?」と聞いてきたので、いっそレイに閨をお願いしてみたらどうかとアドバイスしておいた。

 ニコがいくらマイナに心境を聞いても、変化の理由をマイナ自身が理解できていないようなのだ。

「前はもう少し怖がってましたよね? 望まれれば、ぐらいの雰囲気でしたよね?」とニコが聞けば「そういえばそうだった」とは答えるのに「それからどんな心境の変化が?」と聞くと「わからない」となるそうだ。

(レイさまが若奥さまを大切にしたい気持ちもわかるけど、それで拗れていたら意味ないわ……若奥さまは三か月の結婚生活の中で自然と愛を深めたのかもしれないし。それなら閨をするべきだと私は思う。そこからまたさらに芽生える感情だってあるだろうし、お二人は正式に結婚しているのだから……。レイさまの気の毒なところは、旦那さまがあまりにも酷いせいで、ご自分は旦那さまのようには絶対にならない、なりたくないと強く思い過ぎてしまっているところね……そして今回のこの騒ぎ……さらに慎重になる気持もわかるわ)


 旦那さまは困った人である。

 リュシエンヌを振り回すくせに気が小さいところがあって、リュシエンヌがご実家に帰ることを一番恐れている。

 実家にはリュシエンヌのことを慕っている者がいるからだ。
 黒髪黒目の非常に美しい執事である。
 絵にかいたような執事像とでも言おうか、執事服がよく似合う。
 訪れた人は皆、数秒は彼を見て立ち止まる。
 執事見習いだったころからそんな様子だった。

 決して公私混同などしない人だから間違いなど起こりはしないのに、昔から旦那さまは彼のことだけは警戒するのだ。

(私に奥さまが実家に帰るときは知らせろなんて言うぐらいなら、浮気の偽装なんてくだらないことを止めたらいいのに)

 とはいえ。
 旦那さまが早馬で駆けつけてくれれば、ようやく帰れる。
 それは素直に嬉しい。
 今回は少し長すぎたように思う。
 マイナは見ていてとても面白かったし、可愛かったけれど。

(さすがにこれ以上、新婚夫婦の邪魔なんてしたくないしね)

 リュシエンヌのコントロールもゾラの仕事だ。
 ニコもマイナをコントロールして、レイと閨ができるよう上手いことやるしかない。



 白い息を吐きながら、厨房の裏口にあるベンチでお茶を飲んだ。
 昔からここはゾラの休憩場所だった。
 北側にあって夜は肌寒いが、それがまたいい。
 頭が冷えて冷静になれるからだ。

「またここにいたのか」

「……ええ」

 ヘンリクが隣に座った。
 近付いてくるなんて珍しい。
『あの日』以来、お互い距離を開けることに必死だったのに。

「座っていいとは言ってないわよ」

「うるせーよ、あんたのベンチじゃないだろ」

 どかりと座ったヘンリクは頭を掻いていた。
 話があるのだろう。
 どうせあの話だ。

「謝罪や同情はいらないわよ。あなたは人助けをしただけ」

 ゾラは、アーレ伯爵に言い寄られていた時期があった。

 男爵家の五女という持参金のあてがない条件の悪い令嬢だったにも関わらず、この見た目のせいで色んな男に声をかけられていた。
 むしろ条件が悪いせいで妾の打診のほうが多かったぐらいだ。

 アーレ伯爵もその一人だった。
 そのことに気付いた嫉妬深いアーレ夫人に、リュシエンヌの夜会に付き添っていたとき媚薬を盛られた。
 使用人用の控室にアーレ夫人の手の者が潜んでおり、飲み物に混ぜられたのだ。

 味の違いに気付いてすぐに吐きだしたけれど、取り込まれてしまったぶんの媚薬にジワジワと蝕まれていった。
 リュシエンヌの侍女を信用できる者と交代し、具合が悪いと言って先に帰らせてもらった。

 ヘンリクは鼻が利く。
 ゾラの異変を感じて、リュシエンヌの護衛を終えたあと、苦しんでいたゾラの部屋をこっそり訪ねて来たのだ。
 ヘンリクは経験も豊富だし、一番信用できる。
 だから彼に身体を預けた。
 思った通り優しかったし、色々と上手だった。

 ヘンリクは、それ以来ずっとゾラの純潔を奪ってしまったことを気に病んでいる。
 貴族女性の純潔の喪失は、まともな結婚の喪失を意味するからだろう。

(私と、ヘンリクと、旦那さましか知らない話……)

 旦那さまは主犯がアーレ夫人だとすぐに突き止め、抹殺しようか? と聞いてくれた。
 珍しく怒りをあらわにする旦那さまを見て、それだけで十分だと思った。
 申し出を断り、その後夫人に会うことがあっても知らぬ顔を貫いた。
 アーレ伯爵はその後、ゾラを避けるようになった。
 旦那さまが脅したのかもしれない。

 リュシエンヌに誠心誠意仕えるのは、旦那さまへの恩もある。

「私はもともと独身のまま一生を終えるつもりだったんだから、変なこと考えないでよね」

 今さら結婚なんてごめんだ。
 同情や強制なんて惨め過ぎてなおさら嫌だ。

 立ち上がり、振り返らずに裏口の扉を開けた。

(変に真面目なのよね。今も昔もあのときヘンリクが来てくれてよかったとしか思ってないのに)

 好きなのかと問われれば、好きだと言える。

 精悍な顔つきなので、黙っていればいい男だし。
 護衛なだけあって無駄のない鍛えられた体をしている。
 馬鹿な男だけど、リュシエンヌに絶対服従だから裏切らない。
 ゾラにとって、それは何よりも信用に値する。

(真剣に悩むから旦那さまの餌食になるのに、馬鹿な男)

 呆れつつもヘンリクを心配してしまうゾラであった。



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