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46.鯛茶漬け
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レイの瞳にかかる髪を避け、そっとレイの頬を撫でた。
そのマイナの手に、レイの手が重なった。
包み込むように握られ、頬から離される。
レイはその手を自分の口元に引き寄せ、指先からそっと唇を這わせた。
人差し指から中指へ、薬指から小指を辿った唇は手首へのキスのあと、手の平を下からベロりと舐められた。
「レイさまっ!!」
思わず声を上げたら、レイは目を細めただけで指の間を舐め始めた。
「ばっちいから駄目!! わたくし絵具を触ってたの!! 洗ってない手なんか舐めたらばっちいよ!!」
レイが驚いたように目を見開いた隙を狙って、手をひっこめた。
ポケットから取り出したハンカチで、レイの口元を拭った。
「もう、わたくしの手はお菓子じゃないんだからね!?」
混乱と戸惑いから出た言葉に自分で納得してしまった。
レイはお腹がすいているのである。
マイナの手を食べてしまうほどに。
「やっぱり、わたしくも食堂に行きます」
手を食べてしまうぐらいお腹がすいているのなら、軽いものなんて言わずに、しっかり食べていただかねば。
それを隣で見守るのだ。
なんならお疲れのレイの口に食べ物を運んであげてもいい。
(それだとむしろ私のご褒美!?)
「……うん」
息を漏らす様に返事をしたレイの手を握ろうとして、自分の手がびしょびしょなことに気付いた。
ささっと拭いてから手を繋ぐ。
「さ。行きましょう」
「…………うん」
ふと視線を下げたところで、大人しく歩き出そうとするレイのシャツのボタンが開き過ぎていることに気付いた。
(三つも!? なんで!? いつの間に!?)
「レイさま、メイドたちに見られちゃうからボタンはちゃんと閉めてください!!」
なぜかマイナの唇は突きだすように尖ってしまった。
こんな色気むんむんのレイを人の目に晒してはいけない。倒れる人が続出してしまう。
「うんっ」
(えええ、なんで急にそんな笑顔!?)
さっきからレイの行動原理が全くわからない。
今までわかったためしがないという突っ込みは無しにしていただきたい。
これでも最近は頑張っているのだ。
(着替えをメイドに手伝わせない人でよかったぁ~!! ボタンを三つ開けるって、めっちゃエロいんだな!?)
マイナはまたひとつ大人の階段をのぼってしまった。
結論から言おう。
しっかりしたものを食べていただきたいというマイナの要望は通らなかった。
というよりバアルが用意していたものが凄すぎた。
鯛茶漬けである。
「レイさま、レイさま、どうしてバアルが鯛茶漬けを知ってるんでしょう!?」
「私がリクエストしたからね。以前、べイエレン公爵家でご馳走になったことがあったのを思い出して、食べたくなって。まさか今日、出てくるとは思ってなかったけど」
「え、レシピは?」
「まぁ、こんな感じってざっくり伝えたよ? そこはほら、バアルだし?」
天才である。
バアルは最近和食に凝りだしたようなので、自然と合う食材の組み合わせがわかるようになってしまったのだろう。
伝えるレイの和食力の向上も凄い。
そして!!
ちゃんとマイナの分まで鯛茶漬けが出てくるというバアルの気遣いが嬉しい。
「素敵!! さすがバアル!!」
目を輝かせて目の前に置かれた鯛茶漬けを見つめる。
なんと胡麻ペーストに鯛を漬け込んだバージョンである。
鯛をのせて出汁をかけるだけでも贅沢だというのに、この凝りよう。
「三つ葉と海苔と漬けられた鯛の上にワサビがのってる!!」
夕食もしっかり食べたという事実は忘れることにして、ポットに入った出汁をそっとかけた。
ポットが洋風なのはご愛嬌だ。
(本当はお椀を持って食べたいけど、さすがにタルコット公爵家でそれはまずいよね。なんだかお茶漬けって思うと持ちたくなっちゃうんだけど……お味噌汁みたいなものだと思えば持ってもいいのかなぁ?)
「持って食べてもいいよ?」
「なぜ」
わたくしの言いたいことがわかったの?
なんて無粋なことは言わない。
最近のレイは凄いのである。
ときどきこうやって、マイナの心を読んでしまう。
「大丈夫」
「でも」
「人払いしようか?」
「……うん」
レイがそっと手を振ると、給仕をしていた使用人たちは静かに出ていった。
「ごめんね」
「なんで謝るの?」
レイは心底わからないという顔をして首を傾げた。
先ほどの色気とのギャップが凄い。
今度は恐ろしく可愛いのである。
ときめきと愛おしさと鯛茶漬け。
一曲書けそう。
売れなそう……。
くだらないことを考えながら、香り豊かで上品な鯛茶漬けを堪能するマイナであった。
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