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しおりを挟む「ねぇ、君たちって小説が作家の実体験だと思っている人たちの集まりなの?」
大きな声で話しながらゴットロープのすぐ側まで歩いてきたのはカールだった。
カールが教室でこんな大声を出すことなどない。
学年が違うため、カールの声すら初めて聞いたであろうゴットロープは目を丸くしている。
その手から一瞬で小説を取り上げたカールは、大切な物だとわかっているような手つきでアルヤに渡してくれた。
「みんなミステリーとか読まないの? あんな事件、そうそう身の回りで起こらないと思うけど、作家はどうやって書いてるんだろうね? みんなは創作って言葉の意味、知らないの?」
カールの視線はゴットロープからアルヤをからかっている令息たちに移り、最後は令嬢たちを一瞥していた。
「想像で物語を創るのが作家だよ」
カールの視線がふわりとアルヤに向けられた。
「これだけの量を書くのは大変だったでしょう。凄いね」
「……あり……がとう、ございます」
アルヤが呆然と見上げると、カールは人好きのする可愛い顔で笑っていた。
カールのお陰で騒ぎはおさまったかに見えたが、翌日からアルヤは『たんぽぽ令嬢』と呼ばれるようになっていた。
たんぽぽに込められた意味は色々あったようだ。
眼鏡が茶色くてたんぽぽの根っこみたいだ、とか。
綿毛みたいにふわふわと夢のような妄想をしている、とか。
髪が黄色寄りの亜麻色だったせいもあるが、『頭がお花畑』というのがこの陰口の本質で『妄想癖の痛い令嬢』という意味が込められているのだと思う。
(言いたい人には言わせておけばいいや……)
どうせもうすぐ卒業だ。
エスコート相手がいないアルヤは卒業パーティーには参加できないので、学園へ通うのをやめてもよかったのだが。
(図書館が惜しいのよね……)
王立学園の図書館は、王立なだけあり蔵書量が豊富で資料がすぐに見つかる。
とりあえず修道院に持っていく本の選別が終わるまでは通おうと思っていた矢先の「別れよう、アルヤ」だった。
(だから……別れようって、何?)
ゴットロープの言葉のチョイスはおかしくないだろうか。
それを言うなら婚約破棄ではないだろうか。
何度考えても、ゴットロープの表情と、私たちの状況が合わない気がするのだ。
婚約破棄後の身の振り方は決まっているので、婚約破棄を匂わされても取り乱すことはなかった。
入りたい修道院は二つにまで絞ってあり、その一つには見学の申し込みまで済ませてある。
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