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21. 学園へ行きました。
しおりを挟むエルメルトには止められたものの、なんとか説得して久しぶりに学園に来た。これが最後の登園になるだろう。
レナを遠巻きに見てコソコソ言う令嬢はいたが、前のようにあからさまに避けるような仕草をする人は減ったように思う。
色彩差別者がかなり捕縛されたので、その影響は学園にも及ぶだろうとイグナートに言われていた。アドラの実家のヘストン男爵家のお家取り潰しは、多方面に影響を及ぼしたという。
レナを愛妾にしようとしたガードナー商会の会頭も、金髪碧眼の奴隷を買っていたらしく、捕縛されたとのこと。斡旋をしたのがヘストン男爵だったらしい。他にも多数、男爵家の使用人の供述を元に捕縛しているらしく、イグナートとフェルミンはとても忙しそうだった。
そんな中ではあるが、マリエッタとサーシャにどうしても会いたくて登園したのだが。会うなり二人は、エルメルトとレナの話を詳しく聞きたがったので、三人は学園内のカフェへ急ぎ、顔を寄せ合った。
二人にはエルメルトは国外の貴族で、まだ正式に発表されてないので婚約のことは内緒にして欲しいとお願いしてある。
エルメルトに、デートの約束をどうしても果たしたいと言われ、マリエッタの実家の飲食店とサーシャの実家の装飾店へ赴いたのだ。
「【めっちゃ、かわいー!!】」
花柄のワンピースに編み上げブーツを履いたレナを見るなりエルメルトが絶叫した。
斜め後ろでアーロンが苦笑しているが、レナはエルメルトの絶叫に慣れてしまい気にならなかった。
前世の言葉で叫んでるときは、後から聞くと褒めてくれてることばかりなので、この格好を気に入ってくれたのだと思う。
エルメルトもアーロンも、庶民風の服を着ていた。二人とも品までは隠せておらず、とても素敵だった。整った容姿だと何を着ても似合うのだろう。
「町娘風です。今はこの格好をした娘がたくさん歩いてるらしいので」
恥ずかしさを誤魔化しながら言うと、三度頷いたエルメルトにエスコートされた。
「エルメルト殿下、市井でエスコートはダメですよ?」
「うん、馬車までね。レナも町に入ったら殿下はダメだよ? エルって呼んでね?」
コクコク頷いて、馬車に乗り込んだ。
お忍び用なので馬車は狭く、どうしても体が密着してしまう。
アーロンと共に乗り込んだアンは困った顔をして縮こまっていた。
アンと二人並んで乗ろうと思ったけれど、エルメルトとアーロンが横並びするとぎゅうぎゅうだったのだ。
狭い車内でくっついているとドキドキしてしまう。
ファルエイネはスキンシップの多い国らしく、エルメルトにとっては意識するほどのものではなさそうだけれど。
頬が熱いので顔は真っ赤だろう。
目の前に座るアーロンやアンの顔を見ることができないまま、最初の目的地である飲食店を訪れた。
マリエッタを通して予約したので、とても広い個室に通された。
アンとアーロンももちろん一緒に食事をする。エルメルトとしては、デートだろうと一緒にいるならご飯は一緒でしょ?という感覚らしい。
「これだとこの前とあまり変わらないけど、楽しいからいいよね」
エルメルトは、庶民的なお店にも慣れているらしく、皆に好き嫌いを確認した後は、お薦めを聞いてさくさく注文を済ませてしまった。
「レナのお友達も一緒に食べたらいいのに」
「誘ったのですが、さすがにデート中は遠慮しますと言われました」
レナだって逆の立場ならやんわりお断りしただろう。
「そっかぁ、残念だね。まだ食べてないけど、また来ようね。僕はこのお店の雰囲気がすごく好きだよ。料理で勝負してそうな感じで」
エルメルトいわく、とても前世風なのだと言う。
清潔感のある店内はスッキリしたデザインで、余計な装飾品も飾っていない。貴重な品を飾り格式を高くする貴族御用達のような居心地の悪さがないそうだ。
王族なのに貴族御用達が居心地が悪いというのが面白いけれど。
「あの、前世のお話って私たちが聞いても大丈夫なのでしょうか?」
「アーロンは元々知ってるし、レナにはもちろん知っておいて欲しいから言ったし、侍女のアンちゃんにも知っておいて欲しいんだよね。ファルエイネまで一緒に来てくれるんでしょ?」
「はい、どこまでもお嬢様に付いて行きます!!」
「うんうん、ならなおさら緊張せずに一緒にご飯を食べられるようにならないとね?」
エルメルトにそう言われてしまえばアンも諦めるしかないだろう。緊張しないというのは無理そうだけれど。
食事は貴族にはウケないであろうものが多かったが、とても美味しかった。パン生地を伸ばしたような生地に、トマトソースをかけてチーズとバジルをのせて焼いたものがとても好みだった。
市井でこの料理はとても人気があるらしく、マリエッタのお店は特に美味しいと評判なのだそう。
「レナ様の婚約者様、とてもお優しいかたでしたねぇ」
あれこれ気さくに質問をし、美味しい美味しいと手掴みでモリモリ食べている様子にマリエッタも胸を撫で下ろしたとのこと。
「貴族の方がいらしたときは、フォークとナイフをお出しするのですが、それでも顔を顰める方もいらっしゃるので大抵パスタのほうをお薦めするのですが、ピザがお口に合ってよかったです」
「また来たいと仰ってましたよ」
「ありがとうございます。安心しました」
マリエッタのお店を出ると真っ直ぐサーシャの待つ装飾店へと向かい、あれこれ悩んだ末に琥珀色の髪留めを買ってもらった。
お返しに、エルメルトにはレナから金色の綺麗な装飾のリボンを贈った。細いので男性でも使えるだろう。
結局、お互いの色を贈りあってしまい、二人で気恥ずかしさにモジモジしていた様子をサーシャに鮮明に再現されてしまった。
「婚約者様はレナ様のことが好きで好きでたまらないといった感じでしたぁ~!」
サーシャがニヤニヤしながら語ると、マリエッタも口を押さえながら頬を緩める。
「うちでもそうでしたよ。レナ様の食べる分を取り分けたり、それそれは甲斐甲斐しく」
「お、お二人とも、もう恥ずかいのでお許しください」
恥ずかしさに身を縮めながら言えば、マリエッタもサーシャも不思議そうな顔をしながら首を傾げた。
「私たち、とても嬉しいのですよ。レナ様のお幸せそうな姿を拝見できて」
「そうですよ!! レナ様には幸せになって頂きたいですもの!!」
「あ、ありがとうございます……」
ここが学園内でなければ泣いていたかもしれない。
二人の気持ちがとても嬉しかった。
思わず震えてしまった声を誤魔化すように、ファルエイネへ行っても手紙を出すと約束した。
授業を終え、ビルバリ子爵家の馬車に乗り込むと、なぜかエルメルトが先に乗車しており手首を引かれて抱き込まれてしまった。
「殿下、苦しいですっ」
強い力にビックリして思わず漏れた声に、慌てたエルメルトが力を弱めてくれた。
「ごめん、あんなことがあった学園だから、気が気じゃなくて」
吐息のように小さく吐かれた言葉が耳を掠めた。
ケビンの暴挙を聞いたエルメルトは取り乱し、直ぐに会いに行くと言ってイグナートを困らせたのだと、最近になって聞かされていた。
かなり過激な言葉を口にしていたからレナには会わせられなかったと言われたが、いつも穏やかなエルメルトからは想像がつかず、信じられなかったのだけれど。
思いつめたような表情に、昨日までずっと学園へは行かせたくないと何度も何度も説得されたことを思い出す。酷く心配させてしまったようだ。
「アーロン様は?」
アーロンだけでなく、いつもなら乗ってるアンも居ない。
どうしたのかとキョロキョロするレナの顎をエルメルトの指が遮った。
擦るように指を動かしながら、困ったように眉を下げている。
「ごめん、嫌だったら断って」
顔を近付けてくるエルメルトは、不安そうな顔をしていた。存在を確かめるように背中を這う手が震えているような気さえする。
エルメルトが何をしたがっているのか、疎いレナにもわかった。
ゆるゆると首を振った。エルメルトにされて嫌なことなどない。
エルメルトが身じろぎするたびに舞う、濃い香りにくらくらした。
「嫌じゃないです。私は、エルメルト様をお慕いしておりますので」
レナがそう呟けば、エルメルトは一瞬眉を寄せて何かを堪えるように呻いたあと、再び顔を寄せてきた。
エルメルトの震える長い睫毛を見たあと、そっと瞳を閉じた。
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