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番外編〜サイラスの決意〜
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もうすぐ夜明けだ。シュバルツ侯爵に言われた事が頭から離れない。
「俺は…間違っていた…」
やり方を間違えた…。それは…いつから間違っていたのだろうか。生まれた時からかも知れない。
俺は幼い頃から何でも周りの言いなりだった。何でも完璧に熟す兄上と比べられるのが辛くて、だったら望まれるようにしていれば文句も言われないだろうと。
「もっと…意見を出していれば良かったのかな…」
ブランシュとの婚約も、父上がそう決めたから。特に彼女に何も思わなかった。初めて会った時には、気の強そうな子だな、とだけ。その後は会う度に嫌味を言われ、睨まれた。そんな子と仲良くなれるはずもない。でもブランシュは自分の意思をきちんと言葉にして伝えてくれていた。俺もたまに彼女に意見することもあった。そこに恋や愛は無かった。同じ歳だが彼女は俺の姉みたいな存在だった。学園も早々に卒業資格を取得したくらいに優秀な婚約者。それに劣等感を抱えていたのは確かだ。
「ブランシュ…幸せになってくれ…」
俺なんかより、アマンダ王国のライオット第三王子の方が余程頼りになる。彼は自国の宝石をより価値のある物にする為に何年も前から準備していた。リアの工房に弟子入りしていると聞いた時は驚いたけど、王子が単身で他国に技術を学びに来るなんて発想は俺には無かった。趣味で彫金をしている俺とは違う。
「そりゃダンもライオット王子を弟子にするよな…」
リアの天才彫金師のダンは気難しく厳しい事で有名だった。ただ、彫金技術は天才だがデザインは壊滅的で全く売れていなかった時にリアのオーナーと手を組んだのだとか。そんな彼に俺も弟子入りを志願したが、鼻で笑われて断られた。彼は俺が王子だとは知らないし、興味もなかった。ただ、彫金に対する熱が所詮趣味レベルだと見抜いたのだろう。しかし、ライオット王子はダンを頷かせるだけの情熱を持っていたんだと思う。そんな男にブランシュが惚れるのもわかる気がした。彼女もまた、熱い女性だったから。
「でも…あそこまで言わなくても良くないか…」
ブランシュに評価と批判を散々されたのを思い出して思わず笑ってしまった。あれは忘れられない。人生の中であんなに酷評を受ける事はあるだろうか。俺はブランシュを相当イラつかせていたらしい。
「わたくし、ずっとあなたに言いたい事があったの。聞いて下さる?」
そう始まったブランシュの話に俺はこくりと頷いた。それから始まった彼女の俺評価があまりにも酷い内容で。気を抜いたら泣いてしまいそうだった。
「だいたいあなたは王子でありながら、一体何をして生きてきたのです?ただ言われた通りにしている事で何の益が生まれますか?そんなのはただの木偶人形と変わりませんわ」
「わたくしはあなたの為に何かをしようと思った事は一度もありませんの。だって無駄ですもの、何を言ってもあなたはただ受け入れるだけ。それでやっと自我を出したかと思ったら好きな人が出来たですって?もう王族…いえ、貴族でいる事すら図々しいですわね。自覚はあって?」
「あなたみたいな人がこの国の貴族だなんて、わたくし恥ずかしいわ。さっさと貴族籍を抜けて、趣味の彫金で食べていく!くらい言えないのかしら?どこまでも情けない男ね?吐き気がするわ!」
「あなたみたいな男に好かれたシュバルツ侯爵家のアリーシャさんも気の毒ね?未来を潰されたのと同じじゃないの。あぁ、ティアラ様が一番気の毒ね?わたくし、あの方を見るともっと頑張ろうと思えていたのに、何て事をしてくれたの?馬鹿が揃うと周りが巻き添えを食うのよ。ねぇ?あなたも、後ろのあなたも人の人生をめちゃくちゃにして楽しい?一体どんな成功を夢見てるのか知らないけれど、寝言は寝てから言いなさい?あら、ごめんなさい!あなた達とわたくし達被害者は住んでる世界が違ったわね、ほほほ!みんなで夢の国に移住してはいかが?もう二度と戻って来ないで欲しいけれど」
あぁ…思い出したら頭が痛い。でも、それは全て事実だった。侯爵が言っていたのはそういう事だ。
「人を巻き込み、数多の人を犠牲にして成り立つ自分だけの幸せを手に入れようとして…何をしているんだ…俺は…」
ちゃんと考えたらわかる事だったのに。ブランシュの努力を無駄にして、リュダールの婚約を壊し、国民を裏切って…自分の事だけを考えていた。ただ、アリーシャと共にいたいとだけ。
父上も、母上も、兄上も…俺を恥だと思っているだろう。王子のくせに、国の事も考えないで。ただ及第点を取っていればいいと浅はかな思いで生きていた。今回の件で、慰謝料は発生するし俺が失わせた王家の信頼を取り戻すには父上も何らかの裁きをしなければならない。
「父上…愚かな息子をお許し下さい…」
俺の目から溢れた涙がぼたぼたと落ちる。父上にこんな決断をさせるのは苦しい。それでも、俺は責任を取らなきゃいけない。
愚か者は、ここにいちゃいけない。
ブランシュも、ティアラ嬢も、リュダールも…俺のせいで…。
俺は白み始めた空を見上げて、祈りを捧げた。
残りの全人生を懸けて、償う事を誓う…。神よ、どうか俺の今後を見ていて欲しい。
愛しい彼女を俺の懺悔に巻き込むわけにはいかない。ずっと側にいたいけど、それは俺の我儘になってしまうから…。焦がれるほど苦しい彼女への想いを宝箱の中に閉じ込めた。
目を開けた時、キラリと光る朝日が眩しかった。
俺の決意が固まった瞬間だった。
「俺は…間違っていた…」
やり方を間違えた…。それは…いつから間違っていたのだろうか。生まれた時からかも知れない。
俺は幼い頃から何でも周りの言いなりだった。何でも完璧に熟す兄上と比べられるのが辛くて、だったら望まれるようにしていれば文句も言われないだろうと。
「もっと…意見を出していれば良かったのかな…」
ブランシュとの婚約も、父上がそう決めたから。特に彼女に何も思わなかった。初めて会った時には、気の強そうな子だな、とだけ。その後は会う度に嫌味を言われ、睨まれた。そんな子と仲良くなれるはずもない。でもブランシュは自分の意思をきちんと言葉にして伝えてくれていた。俺もたまに彼女に意見することもあった。そこに恋や愛は無かった。同じ歳だが彼女は俺の姉みたいな存在だった。学園も早々に卒業資格を取得したくらいに優秀な婚約者。それに劣等感を抱えていたのは確かだ。
「ブランシュ…幸せになってくれ…」
俺なんかより、アマンダ王国のライオット第三王子の方が余程頼りになる。彼は自国の宝石をより価値のある物にする為に何年も前から準備していた。リアの工房に弟子入りしていると聞いた時は驚いたけど、王子が単身で他国に技術を学びに来るなんて発想は俺には無かった。趣味で彫金をしている俺とは違う。
「そりゃダンもライオット王子を弟子にするよな…」
リアの天才彫金師のダンは気難しく厳しい事で有名だった。ただ、彫金技術は天才だがデザインは壊滅的で全く売れていなかった時にリアのオーナーと手を組んだのだとか。そんな彼に俺も弟子入りを志願したが、鼻で笑われて断られた。彼は俺が王子だとは知らないし、興味もなかった。ただ、彫金に対する熱が所詮趣味レベルだと見抜いたのだろう。しかし、ライオット王子はダンを頷かせるだけの情熱を持っていたんだと思う。そんな男にブランシュが惚れるのもわかる気がした。彼女もまた、熱い女性だったから。
「でも…あそこまで言わなくても良くないか…」
ブランシュに評価と批判を散々されたのを思い出して思わず笑ってしまった。あれは忘れられない。人生の中であんなに酷評を受ける事はあるだろうか。俺はブランシュを相当イラつかせていたらしい。
「わたくし、ずっとあなたに言いたい事があったの。聞いて下さる?」
そう始まったブランシュの話に俺はこくりと頷いた。それから始まった彼女の俺評価があまりにも酷い内容で。気を抜いたら泣いてしまいそうだった。
「だいたいあなたは王子でありながら、一体何をして生きてきたのです?ただ言われた通りにしている事で何の益が生まれますか?そんなのはただの木偶人形と変わりませんわ」
「わたくしはあなたの為に何かをしようと思った事は一度もありませんの。だって無駄ですもの、何を言ってもあなたはただ受け入れるだけ。それでやっと自我を出したかと思ったら好きな人が出来たですって?もう王族…いえ、貴族でいる事すら図々しいですわね。自覚はあって?」
「あなたみたいな人がこの国の貴族だなんて、わたくし恥ずかしいわ。さっさと貴族籍を抜けて、趣味の彫金で食べていく!くらい言えないのかしら?どこまでも情けない男ね?吐き気がするわ!」
「あなたみたいな男に好かれたシュバルツ侯爵家のアリーシャさんも気の毒ね?未来を潰されたのと同じじゃないの。あぁ、ティアラ様が一番気の毒ね?わたくし、あの方を見るともっと頑張ろうと思えていたのに、何て事をしてくれたの?馬鹿が揃うと周りが巻き添えを食うのよ。ねぇ?あなたも、後ろのあなたも人の人生をめちゃくちゃにして楽しい?一体どんな成功を夢見てるのか知らないけれど、寝言は寝てから言いなさい?あら、ごめんなさい!あなた達とわたくし達被害者は住んでる世界が違ったわね、ほほほ!みんなで夢の国に移住してはいかが?もう二度と戻って来ないで欲しいけれど」
あぁ…思い出したら頭が痛い。でも、それは全て事実だった。侯爵が言っていたのはそういう事だ。
「人を巻き込み、数多の人を犠牲にして成り立つ自分だけの幸せを手に入れようとして…何をしているんだ…俺は…」
ちゃんと考えたらわかる事だったのに。ブランシュの努力を無駄にして、リュダールの婚約を壊し、国民を裏切って…自分の事だけを考えていた。ただ、アリーシャと共にいたいとだけ。
父上も、母上も、兄上も…俺を恥だと思っているだろう。王子のくせに、国の事も考えないで。ただ及第点を取っていればいいと浅はかな思いで生きていた。今回の件で、慰謝料は発生するし俺が失わせた王家の信頼を取り戻すには父上も何らかの裁きをしなければならない。
「父上…愚かな息子をお許し下さい…」
俺の目から溢れた涙がぼたぼたと落ちる。父上にこんな決断をさせるのは苦しい。それでも、俺は責任を取らなきゃいけない。
愚か者は、ここにいちゃいけない。
ブランシュも、ティアラ嬢も、リュダールも…俺のせいで…。
俺は白み始めた空を見上げて、祈りを捧げた。
残りの全人生を懸けて、償う事を誓う…。神よ、どうか俺の今後を見ていて欲しい。
愛しい彼女を俺の懺悔に巻き込むわけにはいかない。ずっと側にいたいけど、それは俺の我儘になってしまうから…。焦がれるほど苦しい彼女への想いを宝箱の中に閉じ込めた。
目を開けた時、キラリと光る朝日が眩しかった。
俺の決意が固まった瞬間だった。
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