死に戻り令嬢は、歪愛ルートは遠慮したい

王冠

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人は怒りの頂点に達すると、笑うんだって事が判明した朝でした。
久しぶりにジャスティンの隣で眠ったのはいいとして。
急遽王宮に来てもらったダリが、着替えの時に絶句したのを不思議に思い。
鏡を見たらあら不思議。
全身に病気みたいな鬱血痕!!!
制服で隠しきれてないし、もうこれ外に出られないレベルだから!!!


「…ダリ…ジャスティンはどこ…?」
「あ、朝の…鍛錬に行くと…出ていかれました…」
「そう。今すぐ呼んで来てもらえるかしら…」
「わ、わかりました!」


にこぉっと笑った私の顔が、どれだけの怒りを孕んでいるのかを測ったダリはすぐさま吸い付き大魔王を呼びに行ってくれた。


「…ここまでしなくても…」


所詮は鬱血痕。
治癒魔法ですぐに消えるって最近気付いたけど!!
それにしたって!!
昨日の痴態を思い出すと首まで赤くなるくらい恥ずかしい。
ジャスティンも燃え上がりすぎて、最後までしちゃうのかと思ってたけど。
そこの理性は働くのに、どうしてこうなるんでしょうかね。


「お嬢様、ジャスティン殿下がお戻りです」
「ありがとう」
「では、私は外で待機しておりますね…」


ダリの脳内はどうやってこの跡を消すかでいっぱいでしょうね。
大丈夫!すぐに消すから!!


「おはよう、ミリオネア」
「…おはよう、ジャスティン…。私が言いたい事、わかるわね?」
「ジャスティン愛してる?」
「違っ…わないけど、違うわ!」
「ふはっ…!ミリオネアのそういう所、可愛い…愛してるよ」
「ありがと…いや、違うわ!見て!私病気みたいじゃない!?」
「誰だ?こんな芸術的なバランスで模様を描いて…」
「もう!馬鹿!」


すっとぼけるジャスティンは結構貴重…いやいや、そうじゃないのよ、ミリオネア!!
さっさと消してやるんだから!!


「治癒」
「あっ!」


キラキラと銀色の光に包まれて、すぅっと跡が消え去った。
ジャスティンは不服そうな素振りを見せて、バサリと服を脱ぐ。
着替える為なんだろうが、何もここで脱がなくても…と思って目を逸らそうとした瞬間に私はびしりと固まった。
ジャスティンの鎖骨には、くっきりと歯形が残っている。
それに…胸元に無数の鬱血痕も。


「…ジャスティン…それ…あの…」
「あぁ、これ?俺の愛しい人が昨日、情熱的につけてくれたんだ」
「ぶっ…!じょ、情熱的って…!」
「グズグズに惚けた顔で、私以外見ないでって…」
「わあああ!もういい!もういいから!!」


一生分の恥ずかしさという池に頭から突っ込んだ気分だわ!!
わた、私ったら!!
何て事を!!何て事を!!


「今日は暑いから、シャツのボタンを開けておこう」
「やめ、やめてぇ!!ち、治癒!」


ふわっと銀色が舞い散る。
ジャスティンの鍛え上げた身体から、すっと跡が消えた。


「あーあ…折角の跡が…」


しゅんとしたジャスティンは、ペタペタと鎖骨を触って残念そうに溜息を吐いた。
何がそんなに残念なのよ!!


「は、早く着替えて神殿に行くわよ!!」
「あぁ…女神に会いに行くんだったな…」
「ちょっと!?何でそんなに落ち込んでるのよ?」
「ミリオネアの跡が…」
「もう!」


私はジャスティンの鎖骨にキツく吸い付いた。
ぢゅうぅ!と凄い音がして、くっきりと赤紫色の跡がつく。


「これで我慢しなさい」
「うん。さ、神殿に行こう」


ジャスティンはさっさと着替えを終えて、頬を緩めていた。
大丈夫かしら、この人…。
彼の未来に不安を覚えるわ、私。


「女神様、来てくれるかしら…」
「俺も話してみたいな」


二人で神殿の祈祷室に入り、祈りを捧げる。
でも、女神様からの応答はなかった。
忙しいと言っていた通り、まだ式典に行っているのね。


「いらっしゃらないみたいね」
「そうか、残念だな」


私達は女神様に会うのは諦めて、学園へに向かった。
久しぶりの二人での登場に、周囲はほっとした様子で私達も安心する。
私が仲間に入ったことにより、目立ってしまう可能性を鑑みて話し合いは授業中に生徒会長室で行われた。


「女神様に会えなかったんで、やはりここは私が行くのが一番有力かと…」
「まだ言ってるのか…無謀だ」
「そうねぇ、ミリオネアちゃんばかり危険よねぇ」
「我の妖術でジャスティンをミリオネアに変化させるのはどうじゃ?」


気怠げに座っていた天京様が、思いついたように発言する。
カタギリ様がはっとして「それいいわね!」と手を打った。


「…それはどれくらいの完成度がある?ジュエルを出し抜くには完璧に擬態しないと…」
「どれ、今見せてやろう」


ふいっと天京様が手を振るとぼわんとジャスティンが煙に巻かれ、現れたのは私だった。


「私だ…」
「見た目は完璧ね…後は、中身か…」
「ジャスティン、ミリオネアに成り切れるか?」


もう一人の私がいるのが不思議で、じっと見てしまう。
本当にそっくりで、私は驚きを隠せない。


「とりあえず、今日一日これで過ごしてみるか」
「え、じゃあ、私は?」
「ミリオネアはジャスティンにしてやろう」


またしてもぼわんと煙が上がり、私はジャスティンになったようだ。
目線が高い。


「わぁ!目線が高い!凄いわね!」
「…ミリオネア、俺はそんなにはしゃがない。今日は一日喋るなよ。バレるぞ」
「まぁ、私だってそんな冷たい表情はしないわ…あ!!」


私はいい事を思い付いた。
私がジャスティンになって、カタギリ様と仲睦まじく過ごせば、ジャスティンが扮する私はジュエルに心変わりしたと言っても信じられやすいのでは!?
私はすぐさまその案を口にする。


「おぉ、それは良い考えじゃ」
「ミリオネアちゃんとならベタベタできるわよ!天京も怒らないし」
「え、天京様はヤキモチ焼く方なんですか?」
「焼く所じゃないわよ、身体に術を施されていて男性に一定時間触れると相手の男性が術に掛かって死ぬわ」
「怖っ!!」
「我の妻には何人たりとも触れさせん。のう?ジャスティン」
「気持ちはわかります」


天京様とジャスティンの間に仲間意識が生まれたわ…。
似た者同士なのね…!


「出会った時からこんな感じで、お陰で呪われた子として国から追い出されたのよ。今は天京といられて良かったと思ってるけど」
「あぁ…なるほど…」


天京様の独占欲怖ぁっ!!
どこにでも重たい愛情を注ぐ人はいるのね…。


「俺もしたい…」
「ダメよ、ジャスティン。社交が出来なくなるから!」
「ちっ…!」


今までで一番悔しそうに舌打ちをしたジャスティンに呆れながら、私はカタギリ様と腕を組んでみたりして色々と試してみた。


「これは…やっちゃダメですね…」
「そうねぇ…周りの方から襲撃されちゃうわねぇ…」
「しかもこれ、見た目だけじゃなくてちゃんと身体もジャスティンなんですね!中身だけ私!」
「そうじゃ。ただ強い衝撃を受けたりすると術が解ける事もあるから、気をつけろ」
「ジャスティンが攻撃される事はないわね、多分。私も…攻撃はされないでしょうね、ジュエルには」


ジャスティンは、さっきからずっと黙っている。
どうしたのかと思って側によると、ジャスティン目線で私を見ているから不思議な気分だ。
ジャスティンにはいつも、この角度で私を見ているのね…!
へぇ…新鮮な感覚だわ…。


「…ジャスティン?どうしたの?」
「ミリオネア…この身体交換は、昼休みとジュエルに仕掛ける時しか使えない…」
「え?どうして?」
「あの…」


ジャスティンはちょっと赤くなって、私の顔を引き寄せてぼそりと呟いた。


トイレはどうするんだ、と。


「あぁっ!!そうだわ!!」
「俺はまだいいけど、お前は困らないか?」
「こここ困るわ!!あんな…そんな事…!」


私はふとジャスティンの「ティン」を思い浮かべて、ぼん!と音がしそうな程真っ赤になった。


「だろ?だから、今日の昼休みに変装なしで俺はミリオネア達の前をわざと通るから……死ぬほどイラつくけど、ミリオネアはジュエルに心変わりしたように演技してくれ」
「それで?」
「放課後にまた会いたいと言って別れて、放課後からは俺が代わりに行く」
「なるほど!」


わぁっと光明が見えた私に、天京様が待ったをかけた。


「そのまま昼休みに連れ去られたらどうする?」
「俺達は離れた所から見てるつもりだが…ジュエルならするかもな。ミリオネアが欲しくて仕方ないだろうから」
「私がダメだと言えば大丈夫じゃないのかしら…」
「そういう時の男性はかなり強引よ!?ミリオネアちゃん!」


カタギリ様が真剣な表情で私に詰め寄る。
…実体験か…とチラリと天京様を見てしまった。
天京様は苦笑いをしているから、強引に迫ったんだろうなぁ…と予想がつく。


「もしくは、昼休み明けにミリオネアがいないと俺が気付くのを避ける…か」
「そうか、まぁ…万が一の話だからな。我らもいるし、大丈夫か」
「目が据わったら危ないから逃げるのよ!ミリオネアちゃん!!何か合図してくれてもいいわ!!」
「はい、カタギリ様、ありがとうございます」


カタギリ様…苦労したんだろうなぁ…。
必死の形相だもの…。
天京様にちょっとだけ非難の目を送ってしまった。
すると天京様と目が合い、腰が抜けそうな程の妖艶な笑みを向けられる。
ジャスティンにはまだ、あんな雰囲気は出せないな…と思っていたら「どこを見てるんだ?」と氷華の王太子様が降臨したので一旦持ち帰り案件とした。


「もうすぐ昼休みだな。俺達も教室に戻ろう」
「そうね」
「じゃあ、ミリオネアちゃん。くれぐれも、くれぐれも気を付けてね!!」
「ふふ…カタギリ様、ありがとうございます」
「ねぇ、私だけカタギリなのちょっと寂しいわ!マナカで良いわよ!!私も勝手にミリオネアちゃんって呼んでるし」
「わかりました、マナカ様」


穏やかに会話をして、私達は別れた。
そうして来たる昼休み。
私達の計画を実行する時が来た。
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