燦々と青がいた 〜3人のオメガが幸せな運命と出会うまで〜

鳴き砂

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第一章

青木さんと嘉月さん

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 既に気心が知れているコンシェルジュの多岡に挨拶をして、青木は佐伯の元へと向かっていた。そして、いつも通りドアを開けてくれた佐伯の顔色が、優れていない事にすぐに気がついた。

「先生、寝不足ですか?」

「ん、いや。アオの体調が優れなくてね。」

 青木がアオを初めて佐伯から紹介されたのは、三ヶ月ほど前の夏の終わりであった。梅雨の時期、佐伯のデビュー10周年を記念する祝賀会で二人は出会っていたのだが、青木はその場を抜け出した二人の為に何かと奔走してしまい、なかなか挨拶ができないでいた。
 その時の青年と佐伯が、一緒に生活をすると聞いた時は流石に驚いたが、みるみると自身の請け負う担当作家の表情が和らいでゆく変化に、これはきっと例の青年のおかげではないのだろうか、と青木は考え始めるようになっていた。そして、あの佐伯雅史に生気を吹き込んだ青年に会うことを、彼は密かに楽しみにしていたのだった。

「やはり先日の通院は、俺が付き添わない方がよかったのかもしれませんね。何がなんでも先生の休みを捥ぎ取るべきでした。」

 青木個人も着々とアオと交流を深めていく中で、佐伯から二人が番になったと報告された時は、年甲斐もなく胸に熱いものが込み上げてきたものだ。だからこそ、先月の自分の仕事振りについては納得できないでいた。

「いいや。その件について君が気にする事は何もない。会談予定日を急に変更したのは、大御所様の俺への嫌がらせだったんだろうな。君は担当として最善を尽くしてくれたどころか、アオの付き添いまでしてくれた。一色も君の人柄を随分と買っていた。俺も感謝している、ありがとう。」

 今まで見たこともない朗らかな笑顔で述べられた礼に、青木は再び驚きを感じながらも、佐伯先生が遂に人間になった・・・・!などと、かなり場違いな感動をしていた。

「それでなんだが、今日はゲストルームの方で待っていてくれないか?」

困ったように表情を歪めて佐伯が言った。いつも通りなら、ゲストルームの先にあるプラベートルームへと通され、佐伯とアオの食卓にまで通されるのだが、些か今日は事情が異なるようだった。

「もしかしてアオくん、かなり不安定だったりします?」

 青木は、アオに付き添うに当たって、彼の悲惨な生い立ちをざっくりとだが佐伯から教えてもらっている。そのため、声を顰めて訊ねれば、佐伯はアオの症状について打ち明けてくれた。

「・・・・ああ。昨夜からフラッシュバックが酷い。今やっと眠れたところなんだ。」

「そう、ですか。それでは、今日は早めに退散しますね。先生はアオくんに付き添っていてくださいね。」

「すまないが、そうさせてもらうよ。」

佐伯は原稿の詰まった封筒を青木へ渡すと、玄関まで送ってくれた。早く番であるアオの元へと戻りたいだろうと思い、青木は急いで靴を履いた。

「あ、でも、あんまりにも酷いようでしたら嘉月先生でしたっけ?あの方に診てもらった方がいいかもしれませんね。」

 青木は先日会った、アオの主治医の姿を思い浮かべた。小柄で色素の薄いブロンドの長い髪をゆるく一つに纏めた姿で、女性的にも見える医師だった。目尻が少し垂れているせいか、受けた印象も柔らかく、深く傷ついたオメガが多く来るあの場所にはぴったりな存在だろう。充分に信頼を置けたその医師に、何故だか青木は名刺まで渡してしまった。彼は少し驚いた様子であったが、差し出された名刺をふっと笑って快く受け取ってくれたのだった。

「ああ、そうだな。そうするよ。」

「先生も、くれぐれもご無理はなさらないように。それでは、また。」

大切な原稿を鞄に入れて、青木は足早に佐伯のマンションを出た。


 季節は秋が終わり、冬がやって来ようとしていた。改めて外気の寒さに触れた身体が僅かに震える。

(こんな寒い時期に、アオくんのコーヒーが飲み放題な佐伯先生は、幸せ者だよなぁ。)

「番か・・・・」

 ベータである青木には、あまりにも縁のないものだから、番に対しての実感はピンと来ない。それでも、体調に浮き沈みがあるアオを思えば、佐伯との番関係がどれだけ彼の心の安寧を支えるものになっているのかは、手に取るように分かる。

(そう言えば、あの嘉月先生にも番はいるのだろうか。)


「あなたが、青木さんなんですね。噂は佐伯さんと一色から聞いていました。非常に優秀な男である、と。」

 あの日、儚げに微笑んだ彼の姿が、ずっと青木の心に刻み込まれていた。

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