戦闘員の日常

和平 心受

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現実転生

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「ん……」

 悪の組織、その地下基地。
 第六研究室に併設された実験スペース。
 大人一人がスッポリ収まるスペースを有した手術台の上、少女は目を覚ました。

「やあ」

 決して広いとは言えない室内には、ヘラクレスを除く俺たち三名と第六研究室の面々が揃っている。
 いつものように凝り固まった笑顔で語りかけるフレイ。その対面では揚羽が左腕を握り、深い安堵の息を吐いた。

 研究員の四人は機器のモニターにかかりっきりだ。

「フレイ、様」

 麻酔から覚め、いまだ意識の朦朧とした表情、少女はフレイの名を呼ぶ。

「何だ?」

「ごめんなさい……」

「気にするな」

 短くそう答える。
 少女の取った行動は決して歓迎されるものではなかった。それは通常の社会に置いても同様だ。最終的には子供と言う事で理解を示すべきであろうが、罰は罰として扱う事は引いては子供を育てる事に繋がる。
 ましてや、俺達は悪の組織である。

 反社会的行動を取るからには大きなリスクが伴う事は覚悟せねばならず、それでも叶えたい願いがあるからこその行動だ。子供の我儘一つが組織の命運を左右する可能性すらある、綱渡りなのだ。

 だがフレイは優しく微笑むだけで、それ以上何も言わない。
 只の子供好きなのか、しかし組織を導く者としては致命的な欠点であると言える。

「では、俺たちはこれで」

 最悪に備え控えていた俺と揚羽は、告げてその場を下がる。

 少女は半怪人となった。

 無事、と言うべきなのか。日本支部が手がける怪人は人に変異細胞を組み込み細胞レベルからの怪人化を促す物である。しかし未だにその技術は完成を見ず、最大の欠点として自我と知性を失う。

 それをある程度コントロールする為の実験が半怪人化の処置であるが、しかし半怪人化は逆に怪人が得る多種生物の強靭な力が発揮されないデメリットがある。だが俺がヒトデの半怪人であるように、再生能力の付与は実験例として成功を収めた事例があり、少女もまた変異細胞から齎された生命力により瀕死の縁より自我を保ったまま生還した。

 但し、それもまた一つの賭けであった。半ば変異細胞に支配される怪人化と違い、変異細胞と元の細胞との共存バランスが必要な半怪人化が非常に不安定な事は、俺の後に続く実験で確認されており、実質俺の後に半怪人は生まれていない。

 幸か不幸か、瀕死の縁にあった俺とαだけが変異細胞の受け入れに成功したのだ。

「一件落着か」
 第六研究室のドアを抜け、揚羽が零す。
 時刻は既に日付変更線を跨いでいる。大変な残業である。

「お疲れ様です」

 無事追手もなく基地に帰還する事が出来たのは僥倖と言うべきか。はたまた合流間際に揚羽がバラみた置き土産が功を奏した結果か。
 何でもかんでも抱え込み、旨いことこなす彼を見ていると、何とかサボろうと躍起になっている自分の矮小さがホトホト嫌になる時が多い。

「そういえばヘラクレスは無事ですかね」

 自己嫌悪の意識から逃れるべく、俺はこの場に居ない今作戦最大の功労者の話題を振る。揚羽は片手を顔の高さにヒラヒラ振り、

「あんにゃろうは大丈夫だ。上体の上半分も残ってれば死ぬ事はまず無いからな」
 人の良い揚羽だが尽くヘラクレスには辛辣である。過去に何かがあったのだと邪推するが、それに踏み込むのは面倒だとスルーしている。

「彼は、一体何ですか」

「んー、全身義体って奴だ。脳みそ以外は全部機械だよ。てもまぁ、試作型なのは俺と一緒だがな」

 歩きだす揚羽。後に続く。

「試作型?」

「最終的には俺の左腕と同じく、ナノマシン群体で身体を構成する予定なのさ。今はどうか解らないが、俺にしろアイツにしろ、馴染むまでに相当時間がかかる。それが機械化怪人のネックだな。特にナノマシン群体は同調に難があってな」

「どこも大変なんですね」

 とは言えそれでも日本支部の生体怪人に比べれば稼働率はずっと高いのだろうが。
 眠気の襲う頭で相槌を打つ。

「あーっ、もう”!!」

 目の前で急に発せられた声に思わず身体が跳ねる。
 眠気のあまり曖昧になっていた意識が瞬間叩き起こされた。

「んだよ、うっせーな」

 見れば通路の先には機械の上半身をさらけ出すヘラクレスの姿。基地の技術エンジニアの手で仮処置を施される際に、焼けただれ使い物にならなくなった人工皮膚のコーティングを全て引剥された為であった。

「だってぇ、スペアは送れないから頭だけ外して帰って来いなんて言うのよ!?」

 ゴリラさながらの凶暴振りが遠い過去のようだ。未だに違和感全開のオカマ口調、鋼鉄のガイコツみたいな外見で身をクネらす。

「送料が安く済んでいいじゃねぇか」

「家電扱いで送られる身にもなってよぉ!」

 生物や生物扱いだと送れないケースも多いと聞く。それ故だろうか。

 そして首から上と指定したのは北米本部の者だろうが、もしヘラクレスの巨大をジャストフィットに梱包し送れと言われたら笑ってしまうだろう。
 機械の生首もそれはそれで怖いが。

 翌朝、首と胴体部の生体ユニットだけと指示以上にコンパクト化されたヘラクレスは、天地無用の札を貼り付けたコンテナに箱詰めされ、北米へと送り返された。

 梱包材にプチプチを要求したりと最後まで喧しくしていた凶悪なターミネーターは、「また戻ってくる」と告げたとか何とか。
 
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