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夜更けのガトーショコラ
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連休の予定はと聞かれれば、家でのんびりしていることですと答えるタイプのわたしである。
積んである本を読んで、積んであるドラマの録画を崩し、積んである映画を見て、少しピラティスなんかやっちゃったりして。
ちょっとした散歩以外は徹底してインドアで通してきた。友達とたまに旅行に行くことはあるけれど、今回の予定ではそんなこともない。
(連休全部、うちでぼーっとしてすごすかもしれないな……)
一日くらいどこかにでかけようか、どうしようか……そんなことを思いながら眠りについた。
出勤もないけどいつもの時間に起きてしまったあとは、何となくもったいなくて二度寝で惰眠をむさぼる。
二回目に起きた時はもう夕方近かった。
早めにレトルトで夕飯を済ませて、テレビや雑誌を見てダラダラすごす。そして、そんなことで一日過ごしたのがちょっと惜しい気がしてくるのが、深夜に差し掛かった頃合だ。
「どっか行こうかな……」
独りごちる。
そうだ。わたしにはあの店があるじゃないか。
こんな時間から出かけるのもどうかと思いながら、普通の日にはなかなかできない深夜の外出に心躍るのも確かである。
深夜のまれぼし菓子店は大体一人かふたりが交代で店に出ている。今日は星原さんと木森さんがいるようだった。
「こんな時間は珍しいですね。」
星原さんがそう言ってコーヒーを供してくれる。今日はちょっと酸味のあるモカがおともだ。
一応社会人のわたしは、星原さんの言う通り、飲み会帰り以外は普通はアフターファイブか休日の夕方などに訪れることが多い。
「せっかくの連休だから夜更かししちゃおうと思って」
「ふふ、普段できない贅沢っていいですよね」
「いいですよね!わたしもそう思うんですよ」
「連休の過ごし方のひとつに、うちを選んでくれて嬉しいな」
星原さんのセリフに、なんだかこっちの方がすっかり嬉しくなって、あれこれ世間話も弾んでしまう。
ご機嫌になっているうちに、今日選んだケーキが運ばれてきた……運んできてくれたのは木森さんだ。
「ありがとな。連休にうちにきてくれて」
木森さんもガトーショコラを出しながらそう言ってくれた。
ここの人達は、連休なのにうちに来てくれて、みたいな言い回しはしない。
連休にうちを選んでくれてありがとう。そう言われるのは、下手な日本人的謙遜を含めた言い回しをするより、さっぱりしていて私好みだった。
「〝夜空の漆黒〟ガトーショコラです」
目の前のお皿には、良い色に焼きあがったガトーショコラ。粉砂糖が振られて白い部分があるのが、素敵なコントラストになっている。ホイップされたクリームが添えられていて、お皿にはベリーのソースで簡単なデコレーションもある。
粉砂糖とホイップクリームは雲。ベリーソースはかすかに見える星灯りか街の灯りか。
夜空のような様々な彩りに想像が膨らむ。
フォークを入れると、ずっしりとした重厚感のある手応え。ガトーショコラのこの重さが大好きだ。
一口大に切ったガトーショコラと、生クリームを一緒にすくって口に運ぶ。濃厚なチョコレートの甘みに被さってくる軽やかな生クリームの爽やかさ。
外はよく焼けているようで、中はチョコレートのしっとりとした食感が嬉しく、木森さんのお菓子作りの腕の良さを実感する。パサパサ感がないのだ。
そして口の中にしっかりと残るチョコレートの濃厚な甘味は、その後コーヒーをすする時の楽しみになる。
ガトーショコラの背中の縁は、他のところよりちょっと良く焼けているのが好きだ。フォークで刺してほろりと崩れそうになるのを、おっとっとと気をつけながら口に運ぶ。
一口、もう一口と食べ進めるうちに、あっという間にひと皿分ぺろりと平らげてしまった。
「あんたがいい食べっぷりだと安心するよ」
「ちょっと、よしてくださいよ木森さん」
「本当のことさ」
そういえば先日ちょっと食欲がなかった時には、星原さんにも手嶌さんにも心配されたっけ。
そのままわたしは、チョコレートとコーヒーの余韻を楽しみながら、深夜のティータイムを贅沢にすごした。
お客さんはわたしひとり、なんだか悪い気さえする、貸切の時間だった。
帰り道は、ガトーショコラのように星も月もない漆黒の空。
風はすっかりあたたかくて、特別な時間を過ごしたあとのわたしを更に甘やかしてくれる。
まれぼし菓子店と出会った日も、そういえば星のない夜空だったなあと思い出しながら、のんびりと歩みを進める。
まだまだ出会ってから短いけど、その割に色んな出来事や出会いがあった気がする。それにちょっとだけ不思議な出来事にあう頻度も増えた……かも?
そんなことを考えているうちに、深夜の散歩は終わり。いつのまにか家の前まで帰りついていた。
結局連休中はまれぼし菓子店に二回行って、お持ち帰りなんかもして、他の外出は全然しなかった。
でも、たまにはこんなのもいいよね。
心底そう思っているわたしでした。
……体重以外は。
積んである本を読んで、積んであるドラマの録画を崩し、積んである映画を見て、少しピラティスなんかやっちゃったりして。
ちょっとした散歩以外は徹底してインドアで通してきた。友達とたまに旅行に行くことはあるけれど、今回の予定ではそんなこともない。
(連休全部、うちでぼーっとしてすごすかもしれないな……)
一日くらいどこかにでかけようか、どうしようか……そんなことを思いながら眠りについた。
出勤もないけどいつもの時間に起きてしまったあとは、何となくもったいなくて二度寝で惰眠をむさぼる。
二回目に起きた時はもう夕方近かった。
早めにレトルトで夕飯を済ませて、テレビや雑誌を見てダラダラすごす。そして、そんなことで一日過ごしたのがちょっと惜しい気がしてくるのが、深夜に差し掛かった頃合だ。
「どっか行こうかな……」
独りごちる。
そうだ。わたしにはあの店があるじゃないか。
こんな時間から出かけるのもどうかと思いながら、普通の日にはなかなかできない深夜の外出に心躍るのも確かである。
深夜のまれぼし菓子店は大体一人かふたりが交代で店に出ている。今日は星原さんと木森さんがいるようだった。
「こんな時間は珍しいですね。」
星原さんがそう言ってコーヒーを供してくれる。今日はちょっと酸味のあるモカがおともだ。
一応社会人のわたしは、星原さんの言う通り、飲み会帰り以外は普通はアフターファイブか休日の夕方などに訪れることが多い。
「せっかくの連休だから夜更かししちゃおうと思って」
「ふふ、普段できない贅沢っていいですよね」
「いいですよね!わたしもそう思うんですよ」
「連休の過ごし方のひとつに、うちを選んでくれて嬉しいな」
星原さんのセリフに、なんだかこっちの方がすっかり嬉しくなって、あれこれ世間話も弾んでしまう。
ご機嫌になっているうちに、今日選んだケーキが運ばれてきた……運んできてくれたのは木森さんだ。
「ありがとな。連休にうちにきてくれて」
木森さんもガトーショコラを出しながらそう言ってくれた。
ここの人達は、連休なのにうちに来てくれて、みたいな言い回しはしない。
連休にうちを選んでくれてありがとう。そう言われるのは、下手な日本人的謙遜を含めた言い回しをするより、さっぱりしていて私好みだった。
「〝夜空の漆黒〟ガトーショコラです」
目の前のお皿には、良い色に焼きあがったガトーショコラ。粉砂糖が振られて白い部分があるのが、素敵なコントラストになっている。ホイップされたクリームが添えられていて、お皿にはベリーのソースで簡単なデコレーションもある。
粉砂糖とホイップクリームは雲。ベリーソースはかすかに見える星灯りか街の灯りか。
夜空のような様々な彩りに想像が膨らむ。
フォークを入れると、ずっしりとした重厚感のある手応え。ガトーショコラのこの重さが大好きだ。
一口大に切ったガトーショコラと、生クリームを一緒にすくって口に運ぶ。濃厚なチョコレートの甘みに被さってくる軽やかな生クリームの爽やかさ。
外はよく焼けているようで、中はチョコレートのしっとりとした食感が嬉しく、木森さんのお菓子作りの腕の良さを実感する。パサパサ感がないのだ。
そして口の中にしっかりと残るチョコレートの濃厚な甘味は、その後コーヒーをすする時の楽しみになる。
ガトーショコラの背中の縁は、他のところよりちょっと良く焼けているのが好きだ。フォークで刺してほろりと崩れそうになるのを、おっとっとと気をつけながら口に運ぶ。
一口、もう一口と食べ進めるうちに、あっという間にひと皿分ぺろりと平らげてしまった。
「あんたがいい食べっぷりだと安心するよ」
「ちょっと、よしてくださいよ木森さん」
「本当のことさ」
そういえば先日ちょっと食欲がなかった時には、星原さんにも手嶌さんにも心配されたっけ。
そのままわたしは、チョコレートとコーヒーの余韻を楽しみながら、深夜のティータイムを贅沢にすごした。
お客さんはわたしひとり、なんだか悪い気さえする、貸切の時間だった。
帰り道は、ガトーショコラのように星も月もない漆黒の空。
風はすっかりあたたかくて、特別な時間を過ごしたあとのわたしを更に甘やかしてくれる。
まれぼし菓子店と出会った日も、そういえば星のない夜空だったなあと思い出しながら、のんびりと歩みを進める。
まだまだ出会ってから短いけど、その割に色んな出来事や出会いがあった気がする。それにちょっとだけ不思議な出来事にあう頻度も増えた……かも?
そんなことを考えているうちに、深夜の散歩は終わり。いつのまにか家の前まで帰りついていた。
結局連休中はまれぼし菓子店に二回行って、お持ち帰りなんかもして、他の外出は全然しなかった。
でも、たまにはこんなのもいいよね。
心底そう思っているわたしでした。
……体重以外は。
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