公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ

文字の大きさ
36 / 100

33.到着、オルコット公爵領

しおりを挟む
「着いたわよ、ふたりとも」
「んー……もう着いたのね、思ったより早かった?」
「馬を長めに休ませたから、予定通りだよ。キャシーはずっと、寝ていたじゃないか」

 起こされると、そこはもう我がオルコット公爵領の、領主邸であった。王城付近にある私達の家と比べると、庭や屋敷の規模が大きく、全てが広い。
 馬車を降りると、荷物を積んだものはそのまま、宿泊する屋敷へ向かっていく。本来ならば私達は家族であるし、領主邸の中にも泊まるべき部屋はある。しかし今回は、移動等の都合上、他のゲストと一緒の屋敷に泊まることとなった。そのため、荷を積んだ馬車が向かうのは、来客用の屋敷である。
 私達は挨拶のため、そのまま領主邸へ入った。入り口を抜けた途端、ぽふん、と軽い感触が私を襲った。同時にふわりと香る、砂糖のように甘い匂い。

「キャシー、いらっしゃい!」

 兄嫁のマリアである。純粋な喜びに満ちた表情が愛しい。卑怯なくらい可愛い。私とマリアの抱擁を見て、両親とアルノーが微笑んだ。

「マリアとキャシーは仲が良いのね」
「ええ。大好きですわ!」
「私もお義姉様のこと、お慕いしていますわ」

 マリアとお互いの好意を確認しあっていると、腰の辺りに何かが引っ付いた。

「ぼくも」

 リアンである。嫉妬したのか何なのか、磁石のようにくっ付くリアンに「まずはお義姉様にご挨拶しなさい」と促すと、素直に「こんにちは」と挨拶をした。マリアは、リアンのこともふわっと抱き締め、歓迎の意を示す。
 他家が来るまで、まだ時間の余裕がある。家族が集まったときの恒例で、それぞれ、情報交換の時間を取る。私は母とマリアと、屋敷でお茶を飲むことになった。

「これ、ハーバリウムですね」
「そうよ。気に入ったから、購入させてもらったわ」

 テーブルの上に、ピンクの花と白い花が封じ込められた、可愛らしいハーバリウムが置かれている。マリアらしい選択だ。実際に、自分が作ったものがこうして使われているのを見ると、心が浮き立つ。

「最近、王都の方は、いかがですか?」

 湯気の立つカップを口に運び、マリアが母に尋ねる。今日の紅茶は、領地で取れた茶葉を使っている。お茶菓子は名産の果物を使っていて、これまた美味しい。私がその調和を楽しんでいると、母が答えた。

「陛下の快癒、ベイル様のご婚約、殿下のご結婚と、最近はめでたいこと続きよ」

 しれっとベイルの婚約を「めでたい」と言ってのけるあたり、母はすごい。マリアも、「それは何よりです」と応じる。肝の太いふたりである。

「何か流行のものはありますか? ここは自然も豊かで、領民も良い人ばかりで、大好きなのですが、王都に住んでいた頃よりは情報に疎くなってしまって」

 頬に手を添えて質問するマリアも、元々は、流行りに敏い令嬢だ。今でも王都周辺に住む女友達と、情報収集を兼ねた手紙のやり取りがあるだろうけれど、ここは情報の伝達にやや時間がかかる。以前よりも情報に疎くなってしまうのは、仕方のないことだ。

「そうねえ。このハーバリウムは、ありがたいことに、最近あちこちのお茶会で目にするようになったわ」

 倉庫での生産を始めたハーバリウムは生産数が増え、そしてどんどん売れている。私自身も、お茶会に招かれた時に見かけることが多くなり、その広がりを実感している。色や内容で差を付けられるし、同じ内容でも配置が違って、同じものがふたつとないところが良いようだ。相手や目的に応じて使い分ける工夫することや、集めることの楽しさがあるらしい。もしかしたら私の行くお茶会にハーバリウムがあるのは、単に気を遣われているだけかもしれないが。

「あとは、タマロ王国の品がどんどん入ってきているわ。薬やアクセサリーが主だけど、とにかくブランドン侯爵家が、大々的に売り出しているの」
「ブランドン侯爵家といえば、陛下の」
「そう、病を治す薬を勧めたんですって。陛下の後押しもあって、かなりの勢いで広まっているわ」
「そうなのですね」

 先日のエリーゼのパーティでも、タマロ王国の品を紹介することに力を入れていた。一家を挙げての取組のようだ。薬も質が良いという噂のおかげか、陛下のお墨付きがあるからか、貴族がこぞって手に入れているらしい。

「キャシー達は明日は、ブランドン侯爵領に泊まるんでしょう?」
「ええ。立派な迎賓館があると言うから、そこに泊まるとお父様が話していましたわ」
「いいわね。何か珍しいものがあったら、私も見てみたいわ」
「もちろん、お土産にふさわしいものがあったら、お送りします」

 小首を傾げたマリアにおねだりされると、何でも買いたい気持ちになる。これが素なのだから、男性なんて、マリアに何か頼まれたらメロメロだろう。アルノーが良い例だ。あの兄は、マリアのためなら何でもしそうに見える。

「マリアは、どうなのかしら、近頃は。アルノーは仕事ばかりで、あなたを放っておいてはいない?」
「ええ。良くして頂いています。それに……あの、実は、新しい命が宿りましたの」
「まあ……!」

 こそ、と悪戯を告白するように囁くマリア。私と母は同時に、驚きと喜びの入り混じった声をあげる。マリアは穏やかな笑顔で、まだ膨らんではいない自分のお腹に触れる。

「まだ、どうなるかわからない時期ではあるので、公にはできないのです。でも、お母様達には、是非お伝えしたくて」
「ありがとう! 嬉しいわ、マリア。体を大事にしてね」
「お姉様、おめでとうございます!」

 口々に祝福を述べると、照れたようにはにかむマリアの、幸せそうなことと言ったら。無事に子が生まれ、すくすくと育てば、我が家の今後も安泰である。

「そろそろ、ハミルトン侯爵家の馬車が到着すると、知らせがありました」

 良い知らせを喜び合っていると、そう報告が入る。私達は家族でのお茶会を切り上げ、来客を迎える準備に動き始めた。
 ハミルトン侯爵家の人々は、私はあまりよく知らない。どんな人達なのだろうか。ほぼ初対面の人を迎える緊張感で、肩の辺りが強張っている感じがする。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

巻き込まれて婚約破棄になった私は静かに舞台を去ったはずが、隣国の王太子に溺愛されてしまった!

ユウ
恋愛
伯爵令嬢ジゼルはある騒動に巻き込まれとばっちりに合いそうな下級生を庇って大怪我を負ってしまう。 学園内での大事件となり、体に傷を負った事で婚約者にも捨てられ、学園にも居場所がなくなった事で悲しみに暮れる…。 「好都合だわ。これでお役御免だわ」 ――…はずもなかった。          婚約者は他の女性にお熱で、死にかけた婚約者に一切の関心もなく、学園では派閥争いをしており正直どうでも良かった。 大切なのは兄と伯爵家だった。 何かも失ったジゼルだったが隣国の王太子殿下に何故か好意をもたれてしまい波紋を呼んでしまうのだった。

異世界で悪役令嬢として生きる事になったけど、前世の記憶を持ったまま、自分らしく過ごして良いらしい

千晶もーこ
恋愛
あの世に行ったら、番人とうずくまる少女に出会った。少女は辛い人生を歩んできて、魂が疲弊していた。それを知った番人は私に言った。 「あの子が繰り返している人生を、あなたの人生に変えてください。」 「………はぁああああ?辛そうな人生と分かってて生きろと?それも、繰り返すかもしれないのに?」 でも、お願いされたら断れない性分の私…。 異世界で自分が悪役令嬢だと知らずに過ごす私と、それによって変わっていく周りの人達の物語。そして、その物語の後の話。 ※この話は、小説家になろう様へも掲載しています

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない

おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。 どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに! あれ、でも意外と悪くないかも! 断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。 ※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

処理中です...