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フリー・ハグ
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FREE HUGS。フリー・ハグズまたはフリー・ハグ。なんでも、街頭なんかでその文字の書かれたプラカードなんかを掲げて、道ゆく人々とハグをするらしい。それがどういう思想や目的からくるモノなのかはよく知らないのだが、おおかた世界平和だとかラブ&ピースみたいな意味合いだろう。
ぼくは別にそれを特段素晴らしいとも思わないし、かといって偽善的だと批判する気も更々ない。自分には関わりのない別世界の出来事ぐらいの印象で、仮にそういったひとを見かけたところでなんら感情を動かされることもなく通り過ぎるだけだ。
ただひとつ問題なのは、いまぼくの目に映っているその文字が、その意味とは対極どころか全くもって似つかわしくない場所、つまりはこの穴の入り口に乱雑に書かれているということだ。
いわゆる廃墟マニア。人里離れた場所に打ち捨てられた廃墟を探検するのがぼくの趣味ってわけ。ターゲットは廃村だったり廃病院だったり廃ラブホだったりとさまざまだ。いまはネットを使えば簡単に情報が得られるから、休みのたびに近くのスポットを探検している。まあ、そんな簡単に見つけられるような場所はある意味では観光地化してしまっていて、お仲間ってやつと鉢合わせすることもままあるのだけれど。
ともかく今日も、気分は人類滅亡後の地球に降り立った異星人。深い森の中の獣道をひたすらに進みようやく辿り着いた廃村。ひいこら言いながら三時間頑張って歩いた甲斐があったというものだ。ただ誤算だったのは、浮かれて長く過ごしすぎたこと。帰りの時間を考えれば、とうの昔に出発していないと日が暮れる前に戻ることはできない。
とまあ、前置きが長くなってしまったけど、要するにぼくはこの深い森の中で遭難したってワケ。懐中電灯やヘッドランプなんて本格的な装備もなく、スマホだって圏外で役に立たない。地図アプリは見れないまでも、懐中電灯代わりにはなるのだろうが、散々っぱら写真を撮ったものだからバッテリー残量だって気になる。
目の前のその穴は、ブラックホールのようにぽっかりと口を開けて、哀れな獲物が迷い込むのを待ち構えていた。
人工的につくられたトンネル、いやおそらく坑道だろうか。コンクリで固められた入口にスプレーで乱雑に描かれたFREE HUGSの文字。ホラー映画の一場面。この中には人間を食べるモンスターが待ち構えているのではないだろうかと身震いしてしまう。まあ、幽霊の正体見たり枯れ尾花というヤツで、実際には不良かなにかが秘密基地にしていて、ふざけて書いたに違いないのだろうけれど。きっとそうに違いない。こんな山奥を根城にする山賊みたいな不良がいるものかと否定する声も聞こえてくるけれど。
太陽は既に熟れた干し柿のようにエネルギーを失って萎んでしまった。辺りが真っ暗になるまであと十分とないだろう。このまま暗闇の中を彷徨い歩くのか、それとも幸いにして明日は日曜日だから今日はここで夜を明かすのか。流石に開けっ広げな場所で野宿するのは気が引ける。だから、この洞窟の中で一晩を過ごすという選択肢はなかなかに魅力的なのだ。
スマホのライトをつけて入口を照らしてみる。結構な奥行きがあるのか、ただただコンクリの側壁がぼんやりと照らされているだけでその先は見えない。さてどうする。恐ろしいのは幽霊やモンスター、果ては不良なんかよりも、ここに住み着く野生動物だ。この辺りにはクマはいないはずだが、イノシシやサルなんかはいるだろうし、なんならネズミやコウモリ、毒蛇だっているかもしれない。やっぱりやめておこうか。でも背に腹はかえられないし、なによりも廃墟マニアの性なのか好奇心が抑えきれない。あわよくば錆びついたツルハシや崩れかけたトロッコなんかもあったりして。
一歩進むごとに靴が砂を噛む音が反響する。もしなにかが飛び出してきてもすぐに逃げられるようにとへっぴり腰なのが情けないが、それでも気分は王家の墓を探索するトレジャーハンターだ。
舗装されているのは数メートルだけだったようで、歩きにくい砂利道、そして剥き出しの土の感触。坑道だったら何百メートルもあるに違いないとワクワクしていただけに拍子抜けだな。掘削途中で技術的な課題に直面したのか、はたまた資金が尽きたのかはわからないが、掘り始めてすぐに打ち捨てられたらしい。まあ脅威がないに越したことはないけれど。
そんな気の緩みがぼくの判断力を鈍らせた。ろくすっぽ足元を見ずに足を伸ばした先には虚空があった。縦穴、落とし穴、トラップ。スマホのライトが北極星のように瞬いて、しとどに打ちつけた背中から押し出された空気とともに意識も薄らいで、ぼくは、気絶した。
「いっ……てえ」
言葉とは裏腹な安堵。よかった、生きている。致命傷は避けられたようだし、たぶん骨だって折れていないはず。擦り傷による出血があるのかは定かではないが、寒気や目眩を感じていないということは大したことはないということだ。
どのくらい意識を失っていたのだろうか。五分か、十分か、一時間か。目を開けると曇りガラスの世界。マズい、メガネが見つからない。この真っ暗な洞窟の中でどれほど役に立つのかは疑問だが、それでも一番大きいランドルト環さえもふやけたドーナツにしか見えないぼくにとっては、この洞窟を脱出して無事に帰り着くための最重要アイテムなのだ。近くにあるだろうか、壊れてなければいいのだが。身体を起こす前にまずは手探りで辺りを調べてみる。
もふっ
「グルル……」
え。うそ。
指先から伝わるゴワついた毛の感触と、それが生きていることを伝える体温。たぶん、これ、クマだ。終わった。どう考えても生き残れる可能性ゼロ。
「……ゲン……ニンゲン……」
わはは。幻聴まで聞こえてきたぞ。イヌやネコの鳴き声が、喋っているように聞こえるアレだろうか。どうする、一か八か戦ってみるか? いや、クマ相手に敵うはずもない。なら、死んだフリか? でもあれってガセネタだってどこかで読んだような。
「ハグ……オイシイ……ニンゲン」
おい! 物騒な単語が混じっていたぞ。逃げ出そうにも腰が抜けて動けないし、目だってさっきからつぶったままだ。閉じても開けても暗闇しか見えないのはわかっているが、身体が反射的にそうしたのだから仕方がない。
「ひいっ!?」
冷や汗でビショビショに濡れた身体が何かに包まれる。それがナニかって、まあ言うまでもなく、あんまり想像したくないけれど。包まれたという表現は不適切かもしれない。獲物を仕留めるためにのし掛かられたと言うべきだろう。
「ハグ……フリー、ハグ」
窮地に立たされた脳が、できるだけ苦しまずに死ねるようにと現実を作り替えたのだろうか。ソレは、ぼくの身体をズタズタに引き裂くわけでもなく、噛みちぎるわけでもなく、なにかをねだるように囁き続ける。
一向に進展しないこの状況。体感としては無限大の時間。ど、どうする。いまのところはまだ危害らしい危害は加えられていないし、このあと殺されるにしても相手の顔くらいは目に焼き付けておきたい。ユーレイになってから呪いをかけられるように。
「フリー、ハグ」
恐る恐る開けた目。滲んだ視界。けど、クッキリと浮かんだ二つの金環。息ができない。かわりに吐き出される生臭い息。目の前に、ぼくの顔を覗き込むソイツがいた。クマほどには鼻面が短くなく、イヌほどの人懐っこさもない。知る限りでは、オオカミが一番近いだろうか。けれども奇妙なことにそのオオカミ頭の下に生える身体は人間のようなシルエットをしている。オオカミ男? 人狼? 暗闇の中だからそう見えるだけだろうか。
ともかくそのオオカミは、ぼくの身体にのし掛かったまま、さきほどから同じ言葉を繰り返し続けている。
「ふ、フリーハグ」
そう言い返すと、どこか満足げに目が細められた。笑ってしまうくらい奇妙な話だ。これが夢の中であればこの程度の意味不明さもありきたりなのだが。つまりは、このオオカミはぼくとのハグを求めていると。導き出された結論にはいくつもの異論の声があがったが、いまできる最善の手はこれしかないだろう。
ヤケクソになって、思い出したように痛みを伝達しはじめた腕をオオカミの背中にまわして抱き寄せる。かなりデカいぞコイツ。腹囲何センチあるんだ。思わず顔を顰めてしまいそうな獣臭。いくらお腹が空いていても食欲も吹き飛んでしまうレベル。「これで満足したか? じゃあ離しておくれ」そう声をかけようにも、クウンと嬉しそうに鼻を鳴らされると無下にはできない。それに、下手なことをして逆上されたらたまったもんじゃないし。
「オイシイ、スル」
いや、微妙に意味がわからないんだけど。ハグに満足したオオカミは、フンフンと鼻息を荒くしながら、首筋から胸へと降りていく。考えたくはないが、意味を推察するに「お前を食べるぞ」ということか。なんだよ、せっかくハグしてやったのに。ちょびっとは心を通わせられたと思ったのに。そりゃあちょっとは匂いのあまり嫌そうな顔をしていたかもしれないけど、それぐらいは勘弁してよ。
とうとう腹に到達した。柔らかくて食べやすいもんなソコは。ガブッとされてから死ぬまでにはどのくらいかかるんだろう。心臓や脳ならともかく、ハラワタを引きずり出されても即死はしないだろう。自分の肉が咀嚼される音を聞きながら失血死って最悪だな、ホント。
「わかった、わかったからちょっと待って!」
これは、人間としての尊厳だ。有無を言わさず襲われて食い殺されるならともかく、どこまで通じているかはわからないが言葉を交わした相手だ。死にたくない、食べられたくない。でも、それがどうしようも避けられないのであれば、せめて、人間らしく。
不満げなオオカミを手で制したまま、服を脱いでいく。
被食者としての矜持みたいなものだ。食べられたくないけど。無様にもがき苦しんで死ぬのでなく、誇り高い死を選びたい。痛いのはいやだけど。本当ならピッカピカのお皿の上に横たわって、サラダなんかも添えて、あとはドレッシングなんかもかけてやりたい。あ、その前に身体を洗いたかったな。まあ時間がないのだから仕方がない。多少は汗臭いだろうが、臭いのはお互い様。綺麗なお皿はないけれど、せめて服くらいは脱ぐからさ。
クン……クンクン
湿っぽい砂利が背中に突き刺さる痛みと、腹を物色されるくすぐったさ。
べろっ
思わず身体がのけぞってしまう。三十九度のナメクジがあちこち這い回り鳥肌が立つ。
べろ、ぺろっ、くんっ……ぺろ
「ちょっ、ちょっと!」
まてまてまて。いや、わかるけど。動物モノのドキュメンタリーでも見たことあるけどさ。獲物を食べるとき、柔らかい部分から、つまり、腹とか、あとは性器から食べるってこと。理にかなっているし、食べられる側がいちいち食べる順番に文句をつけるのも野暮だけどさ。そんなのないよ。まず去勢されるなんて。自慢のモノでもないし、残念ながら誰かに使ったこともないけど、愛着はあるんだぞ!
カプッ
こんなとき、映画や漫画だったら「うわー! やめてくれー!」なんて泣き叫んだりするのだろう。けど、恐ろしさのあまり身体が硬直して息すらまともにできない。怯えて縮みきったちんぽがオオカミに捕まった。
ぴちゃっ、れろっ、っちゅ
小さい頃、キツネうどんのお揚げをチューチュー吸っていたら行儀が悪いと親に叱られたことがあった。一口でぱくりと食べてしまってもいいのだけれど、美味しいものは長く楽しみたいんだよね。このオオカミも最初の一口をできるだけ楽しみたいという魂胆だろう。まったく、行儀が悪いオオカミだこと。
「た、食べるならっ、はやくしろよ」
とてもそんな気分にはなれないはずなのに。子孫を残そうという生存本能だろうか。いつまで経っても噛み付かずに、執拗にちんぽを舐め回すものだから次第に芯を持ち始めてしまう。恥ずかしいし情けない。捕食という崇高な儀式が薄汚れたものとなってしまう。人間としての尊厳を踏み躙られ、辱めを受けて、見当違いな苛立ちが湧いてくる。
くぽっ、じゅぶぶっ、じゅっぽ
「ちがっ、そういう、意味じゃないっ!」
どう取り違えたのか。実直に言葉をそのまま受け取ったのだろうか。オオカミの動きが激しくなって、一層ちんぽに刺激が与えられる。ふざけるなと鼻面にパンチをお見舞いしてやろうか。ただその一方で、鎌首をもたげるもう一つの感情。気持ちいい。もっとしてほしい。こんな場所で、相手はオオカミの化け物だけど、これは紛れもなくフェラチオという性行為だ。とんでもない初体験。でも、これが最後なら。最初で最後になるのなら、どうせなら楽しみたい。
「ああ……気持ちいいっ……なあ、ちんぽおいしいか?」
なにが尊厳だ。なにが矜持だ。そんなものクシャクシャに丸めて捨ててしまえ!
ぬぷぷっ、くぽぬこっ、ぶぽっ
「オイシイ、チンポ、ニンゲン」
機会があれば、ちゃんとした言葉を教えてやりたかった。先走りを舐め取り、カリ首に巻きつく舌。柔らかく肉の壁が包み込みながらも、時折背筋をゾッとさせる硬い牙。洞窟の中に反響する水音が頭の中を埋め尽くす。このオオカミは一体何者なのだろう。オバケの類か、化け物か、はたまた宇宙人なのか。洞窟の入口にFREE HUGSなんてヘッタクソな字で書いて、ぼくのような哀れな獲物が引っかかるのを待っていたのだろうか。いまとなってはどうでもいいことだ。ああ、きもちいい。あったかい。あのハグも、案外悪くはなかったな。
「いく、いくっ! のめよ! ぜんぶ、のんで!」
びゅるるっ、びゅーっ、びゅくっ、ぴゅ……
文字通り、一生分の射精。吐精を続ける間もオオカミの口は乳を絞るように蠢く。口内に放たれた精液を飲み下す喉の動き。こんなにも気持ちいいのに、これが最後だなんて残念だ。
ちゅぽっ
尿道に溜まった精液までも吸い上げるとちんぽが解放された。さあ、これで楽しい時間は終わりだ。
それまでの昂りが気化熱となってちんぽの表面から逃げていく。理性を取り戻し始めた頭が、忘れようとしていたことを思い出させる。痛いのは、やっぱり嫌だなあ。
「ニンゲン……」
ちんぽを口から離したオオカミが、小さく呟きながら這いずり上がってくる。なんだ。息の根を止めるために首筋をガブリといくって寸法か。
だが予想に反して、キスをするのかと近づいたその顔は通り過ぎた。ぼくの顔を太ももで挟み込み、目の前に突き出されたのはオオカミのちんぽ。人間のモノとは似つかわしくないグロテスクなちんぽ。痛いくらいに勃起して、その興奮が手に取るように伝わってくる。
「オ、オイシイ……チンポ……」
甘えるような懇願。なにを望んでいるかなんて、わかりきっている。
鼻をつまみたくなるような臭い。おいしそうなちんぽ。舌を筒状に丸めてレールをつくり、尖った先端を乗せてやるとヌルリと滑り込んでくる。極めて遠慮気味に、小刻みに振られる腰。ちょっとだけこのオオカミのことが好きになれるかもしれない。
あれから何時間、何日、何ヶ月経ったのかも定かではない。
オオカミとお互いのちんぽを食べあって、抱き合って眠り、ときどきは言葉を教えてやった。
不思議なことになにも食べなくても腹は減らないし、視力だって赤外線スコープで覗いたかのように鮮明に見えるようになった。オオカミの精液のおかげだろうか。いまなら、その気になればいつだって逃げ出せるというのに、これっぽっちもそんな気がおこらない。いつまでも、ずっと、ずっとこうしていたい。もしかして、本当はあのときぼくは死んでしまったのかもしれない。
寝息をたてるオオカミの頭を撫でてから、ふとした気まぐれで洞窟の奥へと歩みを進める。いままで気にもしていなかったし、行こうとも思わなかった。ただ、ここに辿り着いたときの冒険心がまたちょっぴり湧いたのかもしれない。
狭い通路を進んだ突き当たりには小さな扉があった。サビひとつない鉛色の扉。掘削工事をしていたときの施設かなにかだろうか。ギイイと音を立てて開かれたその先は、これまで、みたことのない、まるで、いや、それよりも、アレは、ニンゲンの――
背後に感じたオオカミの気配に、振り向くことはできなかった。
ぼくは別にそれを特段素晴らしいとも思わないし、かといって偽善的だと批判する気も更々ない。自分には関わりのない別世界の出来事ぐらいの印象で、仮にそういったひとを見かけたところでなんら感情を動かされることもなく通り過ぎるだけだ。
ただひとつ問題なのは、いまぼくの目に映っているその文字が、その意味とは対極どころか全くもって似つかわしくない場所、つまりはこの穴の入り口に乱雑に書かれているということだ。
いわゆる廃墟マニア。人里離れた場所に打ち捨てられた廃墟を探検するのがぼくの趣味ってわけ。ターゲットは廃村だったり廃病院だったり廃ラブホだったりとさまざまだ。いまはネットを使えば簡単に情報が得られるから、休みのたびに近くのスポットを探検している。まあ、そんな簡単に見つけられるような場所はある意味では観光地化してしまっていて、お仲間ってやつと鉢合わせすることもままあるのだけれど。
ともかく今日も、気分は人類滅亡後の地球に降り立った異星人。深い森の中の獣道をひたすらに進みようやく辿り着いた廃村。ひいこら言いながら三時間頑張って歩いた甲斐があったというものだ。ただ誤算だったのは、浮かれて長く過ごしすぎたこと。帰りの時間を考えれば、とうの昔に出発していないと日が暮れる前に戻ることはできない。
とまあ、前置きが長くなってしまったけど、要するにぼくはこの深い森の中で遭難したってワケ。懐中電灯やヘッドランプなんて本格的な装備もなく、スマホだって圏外で役に立たない。地図アプリは見れないまでも、懐中電灯代わりにはなるのだろうが、散々っぱら写真を撮ったものだからバッテリー残量だって気になる。
目の前のその穴は、ブラックホールのようにぽっかりと口を開けて、哀れな獲物が迷い込むのを待ち構えていた。
人工的につくられたトンネル、いやおそらく坑道だろうか。コンクリで固められた入口にスプレーで乱雑に描かれたFREE HUGSの文字。ホラー映画の一場面。この中には人間を食べるモンスターが待ち構えているのではないだろうかと身震いしてしまう。まあ、幽霊の正体見たり枯れ尾花というヤツで、実際には不良かなにかが秘密基地にしていて、ふざけて書いたに違いないのだろうけれど。きっとそうに違いない。こんな山奥を根城にする山賊みたいな不良がいるものかと否定する声も聞こえてくるけれど。
太陽は既に熟れた干し柿のようにエネルギーを失って萎んでしまった。辺りが真っ暗になるまであと十分とないだろう。このまま暗闇の中を彷徨い歩くのか、それとも幸いにして明日は日曜日だから今日はここで夜を明かすのか。流石に開けっ広げな場所で野宿するのは気が引ける。だから、この洞窟の中で一晩を過ごすという選択肢はなかなかに魅力的なのだ。
スマホのライトをつけて入口を照らしてみる。結構な奥行きがあるのか、ただただコンクリの側壁がぼんやりと照らされているだけでその先は見えない。さてどうする。恐ろしいのは幽霊やモンスター、果ては不良なんかよりも、ここに住み着く野生動物だ。この辺りにはクマはいないはずだが、イノシシやサルなんかはいるだろうし、なんならネズミやコウモリ、毒蛇だっているかもしれない。やっぱりやめておこうか。でも背に腹はかえられないし、なによりも廃墟マニアの性なのか好奇心が抑えきれない。あわよくば錆びついたツルハシや崩れかけたトロッコなんかもあったりして。
一歩進むごとに靴が砂を噛む音が反響する。もしなにかが飛び出してきてもすぐに逃げられるようにとへっぴり腰なのが情けないが、それでも気分は王家の墓を探索するトレジャーハンターだ。
舗装されているのは数メートルだけだったようで、歩きにくい砂利道、そして剥き出しの土の感触。坑道だったら何百メートルもあるに違いないとワクワクしていただけに拍子抜けだな。掘削途中で技術的な課題に直面したのか、はたまた資金が尽きたのかはわからないが、掘り始めてすぐに打ち捨てられたらしい。まあ脅威がないに越したことはないけれど。
そんな気の緩みがぼくの判断力を鈍らせた。ろくすっぽ足元を見ずに足を伸ばした先には虚空があった。縦穴、落とし穴、トラップ。スマホのライトが北極星のように瞬いて、しとどに打ちつけた背中から押し出された空気とともに意識も薄らいで、ぼくは、気絶した。
「いっ……てえ」
言葉とは裏腹な安堵。よかった、生きている。致命傷は避けられたようだし、たぶん骨だって折れていないはず。擦り傷による出血があるのかは定かではないが、寒気や目眩を感じていないということは大したことはないということだ。
どのくらい意識を失っていたのだろうか。五分か、十分か、一時間か。目を開けると曇りガラスの世界。マズい、メガネが見つからない。この真っ暗な洞窟の中でどれほど役に立つのかは疑問だが、それでも一番大きいランドルト環さえもふやけたドーナツにしか見えないぼくにとっては、この洞窟を脱出して無事に帰り着くための最重要アイテムなのだ。近くにあるだろうか、壊れてなければいいのだが。身体を起こす前にまずは手探りで辺りを調べてみる。
もふっ
「グルル……」
え。うそ。
指先から伝わるゴワついた毛の感触と、それが生きていることを伝える体温。たぶん、これ、クマだ。終わった。どう考えても生き残れる可能性ゼロ。
「……ゲン……ニンゲン……」
わはは。幻聴まで聞こえてきたぞ。イヌやネコの鳴き声が、喋っているように聞こえるアレだろうか。どうする、一か八か戦ってみるか? いや、クマ相手に敵うはずもない。なら、死んだフリか? でもあれってガセネタだってどこかで読んだような。
「ハグ……オイシイ……ニンゲン」
おい! 物騒な単語が混じっていたぞ。逃げ出そうにも腰が抜けて動けないし、目だってさっきからつぶったままだ。閉じても開けても暗闇しか見えないのはわかっているが、身体が反射的にそうしたのだから仕方がない。
「ひいっ!?」
冷や汗でビショビショに濡れた身体が何かに包まれる。それがナニかって、まあ言うまでもなく、あんまり想像したくないけれど。包まれたという表現は不適切かもしれない。獲物を仕留めるためにのし掛かられたと言うべきだろう。
「ハグ……フリー、ハグ」
窮地に立たされた脳が、できるだけ苦しまずに死ねるようにと現実を作り替えたのだろうか。ソレは、ぼくの身体をズタズタに引き裂くわけでもなく、噛みちぎるわけでもなく、なにかをねだるように囁き続ける。
一向に進展しないこの状況。体感としては無限大の時間。ど、どうする。いまのところはまだ危害らしい危害は加えられていないし、このあと殺されるにしても相手の顔くらいは目に焼き付けておきたい。ユーレイになってから呪いをかけられるように。
「フリー、ハグ」
恐る恐る開けた目。滲んだ視界。けど、クッキリと浮かんだ二つの金環。息ができない。かわりに吐き出される生臭い息。目の前に、ぼくの顔を覗き込むソイツがいた。クマほどには鼻面が短くなく、イヌほどの人懐っこさもない。知る限りでは、オオカミが一番近いだろうか。けれども奇妙なことにそのオオカミ頭の下に生える身体は人間のようなシルエットをしている。オオカミ男? 人狼? 暗闇の中だからそう見えるだけだろうか。
ともかくそのオオカミは、ぼくの身体にのし掛かったまま、さきほどから同じ言葉を繰り返し続けている。
「ふ、フリーハグ」
そう言い返すと、どこか満足げに目が細められた。笑ってしまうくらい奇妙な話だ。これが夢の中であればこの程度の意味不明さもありきたりなのだが。つまりは、このオオカミはぼくとのハグを求めていると。導き出された結論にはいくつもの異論の声があがったが、いまできる最善の手はこれしかないだろう。
ヤケクソになって、思い出したように痛みを伝達しはじめた腕をオオカミの背中にまわして抱き寄せる。かなりデカいぞコイツ。腹囲何センチあるんだ。思わず顔を顰めてしまいそうな獣臭。いくらお腹が空いていても食欲も吹き飛んでしまうレベル。「これで満足したか? じゃあ離しておくれ」そう声をかけようにも、クウンと嬉しそうに鼻を鳴らされると無下にはできない。それに、下手なことをして逆上されたらたまったもんじゃないし。
「オイシイ、スル」
いや、微妙に意味がわからないんだけど。ハグに満足したオオカミは、フンフンと鼻息を荒くしながら、首筋から胸へと降りていく。考えたくはないが、意味を推察するに「お前を食べるぞ」ということか。なんだよ、せっかくハグしてやったのに。ちょびっとは心を通わせられたと思ったのに。そりゃあちょっとは匂いのあまり嫌そうな顔をしていたかもしれないけど、それぐらいは勘弁してよ。
とうとう腹に到達した。柔らかくて食べやすいもんなソコは。ガブッとされてから死ぬまでにはどのくらいかかるんだろう。心臓や脳ならともかく、ハラワタを引きずり出されても即死はしないだろう。自分の肉が咀嚼される音を聞きながら失血死って最悪だな、ホント。
「わかった、わかったからちょっと待って!」
これは、人間としての尊厳だ。有無を言わさず襲われて食い殺されるならともかく、どこまで通じているかはわからないが言葉を交わした相手だ。死にたくない、食べられたくない。でも、それがどうしようも避けられないのであれば、せめて、人間らしく。
不満げなオオカミを手で制したまま、服を脱いでいく。
被食者としての矜持みたいなものだ。食べられたくないけど。無様にもがき苦しんで死ぬのでなく、誇り高い死を選びたい。痛いのはいやだけど。本当ならピッカピカのお皿の上に横たわって、サラダなんかも添えて、あとはドレッシングなんかもかけてやりたい。あ、その前に身体を洗いたかったな。まあ時間がないのだから仕方がない。多少は汗臭いだろうが、臭いのはお互い様。綺麗なお皿はないけれど、せめて服くらいは脱ぐからさ。
クン……クンクン
湿っぽい砂利が背中に突き刺さる痛みと、腹を物色されるくすぐったさ。
べろっ
思わず身体がのけぞってしまう。三十九度のナメクジがあちこち這い回り鳥肌が立つ。
べろ、ぺろっ、くんっ……ぺろ
「ちょっ、ちょっと!」
まてまてまて。いや、わかるけど。動物モノのドキュメンタリーでも見たことあるけどさ。獲物を食べるとき、柔らかい部分から、つまり、腹とか、あとは性器から食べるってこと。理にかなっているし、食べられる側がいちいち食べる順番に文句をつけるのも野暮だけどさ。そんなのないよ。まず去勢されるなんて。自慢のモノでもないし、残念ながら誰かに使ったこともないけど、愛着はあるんだぞ!
カプッ
こんなとき、映画や漫画だったら「うわー! やめてくれー!」なんて泣き叫んだりするのだろう。けど、恐ろしさのあまり身体が硬直して息すらまともにできない。怯えて縮みきったちんぽがオオカミに捕まった。
ぴちゃっ、れろっ、っちゅ
小さい頃、キツネうどんのお揚げをチューチュー吸っていたら行儀が悪いと親に叱られたことがあった。一口でぱくりと食べてしまってもいいのだけれど、美味しいものは長く楽しみたいんだよね。このオオカミも最初の一口をできるだけ楽しみたいという魂胆だろう。まったく、行儀が悪いオオカミだこと。
「た、食べるならっ、はやくしろよ」
とてもそんな気分にはなれないはずなのに。子孫を残そうという生存本能だろうか。いつまで経っても噛み付かずに、執拗にちんぽを舐め回すものだから次第に芯を持ち始めてしまう。恥ずかしいし情けない。捕食という崇高な儀式が薄汚れたものとなってしまう。人間としての尊厳を踏み躙られ、辱めを受けて、見当違いな苛立ちが湧いてくる。
くぽっ、じゅぶぶっ、じゅっぽ
「ちがっ、そういう、意味じゃないっ!」
どう取り違えたのか。実直に言葉をそのまま受け取ったのだろうか。オオカミの動きが激しくなって、一層ちんぽに刺激が与えられる。ふざけるなと鼻面にパンチをお見舞いしてやろうか。ただその一方で、鎌首をもたげるもう一つの感情。気持ちいい。もっとしてほしい。こんな場所で、相手はオオカミの化け物だけど、これは紛れもなくフェラチオという性行為だ。とんでもない初体験。でも、これが最後なら。最初で最後になるのなら、どうせなら楽しみたい。
「ああ……気持ちいいっ……なあ、ちんぽおいしいか?」
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ぬぷぷっ、くぽぬこっ、ぶぽっ
「オイシイ、チンポ、ニンゲン」
機会があれば、ちゃんとした言葉を教えてやりたかった。先走りを舐め取り、カリ首に巻きつく舌。柔らかく肉の壁が包み込みながらも、時折背筋をゾッとさせる硬い牙。洞窟の中に反響する水音が頭の中を埋め尽くす。このオオカミは一体何者なのだろう。オバケの類か、化け物か、はたまた宇宙人なのか。洞窟の入口にFREE HUGSなんてヘッタクソな字で書いて、ぼくのような哀れな獲物が引っかかるのを待っていたのだろうか。いまとなってはどうでもいいことだ。ああ、きもちいい。あったかい。あのハグも、案外悪くはなかったな。
「いく、いくっ! のめよ! ぜんぶ、のんで!」
びゅるるっ、びゅーっ、びゅくっ、ぴゅ……
文字通り、一生分の射精。吐精を続ける間もオオカミの口は乳を絞るように蠢く。口内に放たれた精液を飲み下す喉の動き。こんなにも気持ちいいのに、これが最後だなんて残念だ。
ちゅぽっ
尿道に溜まった精液までも吸い上げるとちんぽが解放された。さあ、これで楽しい時間は終わりだ。
それまでの昂りが気化熱となってちんぽの表面から逃げていく。理性を取り戻し始めた頭が、忘れようとしていたことを思い出させる。痛いのは、やっぱり嫌だなあ。
「ニンゲン……」
ちんぽを口から離したオオカミが、小さく呟きながら這いずり上がってくる。なんだ。息の根を止めるために首筋をガブリといくって寸法か。
だが予想に反して、キスをするのかと近づいたその顔は通り過ぎた。ぼくの顔を太ももで挟み込み、目の前に突き出されたのはオオカミのちんぽ。人間のモノとは似つかわしくないグロテスクなちんぽ。痛いくらいに勃起して、その興奮が手に取るように伝わってくる。
「オ、オイシイ……チンポ……」
甘えるような懇願。なにを望んでいるかなんて、わかりきっている。
鼻をつまみたくなるような臭い。おいしそうなちんぽ。舌を筒状に丸めてレールをつくり、尖った先端を乗せてやるとヌルリと滑り込んでくる。極めて遠慮気味に、小刻みに振られる腰。ちょっとだけこのオオカミのことが好きになれるかもしれない。
あれから何時間、何日、何ヶ月経ったのかも定かではない。
オオカミとお互いのちんぽを食べあって、抱き合って眠り、ときどきは言葉を教えてやった。
不思議なことになにも食べなくても腹は減らないし、視力だって赤外線スコープで覗いたかのように鮮明に見えるようになった。オオカミの精液のおかげだろうか。いまなら、その気になればいつだって逃げ出せるというのに、これっぽっちもそんな気がおこらない。いつまでも、ずっと、ずっとこうしていたい。もしかして、本当はあのときぼくは死んでしまったのかもしれない。
寝息をたてるオオカミの頭を撫でてから、ふとした気まぐれで洞窟の奥へと歩みを進める。いままで気にもしていなかったし、行こうとも思わなかった。ただ、ここに辿り着いたときの冒険心がまたちょっぴり湧いたのかもしれない。
狭い通路を進んだ突き当たりには小さな扉があった。サビひとつない鉛色の扉。掘削工事をしていたときの施設かなにかだろうか。ギイイと音を立てて開かれたその先は、これまで、みたことのない、まるで、いや、それよりも、アレは、ニンゲンの――
背後に感じたオオカミの気配に、振り向くことはできなかった。
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そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
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