ケモホモ短編

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同窓会で再開したオオカミくんとの話

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「きみたちはこの先、高校や大学、就職していろんな出会いがあるけど、いちばんの友達はきっと中学の頃の友達ですよ」
 中学校の卒業式の日に担任の先生が涙ながらにそんなことをいっていた。
 細かいニュアンスは正直うろ覚えだけど、ともかく中学の頃にできた友達は一生モノなんだと。正直、当時は眉唾だと思っていたけれど、いまにして考えてみると確かにそうかもしれない。
 いろんな地域から集まってくる高校や大学とは違って、たいていの場合はお互いの家も近いだろうし、小学生や幼稚園のころからの付き合いという場合もあるだろう。卒業して全国に散り散りになったとしても正月や盆の帰省の時には顔を合わせる機会もあるし、なんせ多感な思春期の頃に思い出を作った相手だから。
 まあ、自分の中学生時代を思い返してみると輝かしいものではなかったけれど。いわゆる陰キャってやつ。いじめられていたとか、友達がひとりもいなかったわけじゃない。それなりには楽しかった。けど、特筆すべきコトもない。同窓会に行ったって周りからは「えーっと、名前なんだっけ?」なんていわれて、端っこの方でチビチビお酒を飲むぐらいが関の山だ。
 だから、同窓会の案内の葉書が来たとき、とっとと不参加にマルをつけて返して投函するはずだったのに。ふと思い出してしまったんだ。あの時のことを。修学旅行の夜、オオカミの彼との出来事を。

 そう、あれは――

「あ、あの、星川くん。よかったらお茶とか飲む?」
 精一杯ひねり出した提案も、そのオオカミにとっては読書を邪魔するノイズでしかないらしい。こちらに顔を向けることもなく耳だけがピコリと跳ねたが、すぐにまた読書の世界に没頭する。なんの本だかわからないが、きっと難しそうな本なんだろう。
 一日中歩き回ってヘトヘトになり、ちょっぴり豪華な食事で腹を満たし、ようやく訪れた平穏な時間。旅館の和室、四人部屋。残る二人は仲のいい友達の部屋へと早々に出かけてしまい、取り残されたぼくたちは気まずい時間を過ごしていた。
 星川くんはつい数ヶ月前に転校してきたばかりのオオカミの獣人だ。ぼくも含めて人間ばかりの地域に獣人が転校してきたとあって、初めは物珍しさから彼の机の周りには常に人だかりができていた。けれどオオカミの気質なのか、星川くんの性格によるものなのか、彼はともかく無口で誰とも関わろうとはしなかった。そのうちに彼は孤立して、休み時間もひとりで本を読んで過ごしているような、そう、ぼくと同じように空気のような存在になっていった。
 別にふたりきりだからといって話しかける義務はない。お互いに黙って静かに過ごせばいい。彼は誰からの干渉も受けたくないのだろうし。だけど、ちょっとだけ話してみたかったんだ。なんとなく彼にシンパシーを感じていたから。
「おい、ポチ川!」
 静寂を破ったのはクラスのガキ大将の声だった。金魚のフンも二人ばかり引き連れてドタドタと無遠慮に入ってくるなり、ポチ川もとい星川くんを取り囲む。屈辱的なアダ名で呼ばれたのも関わらず、彼はさきほどと同じように迷惑そうに耳を動かしただけだった。
「なあ、獣人ってチンコでけぇんだろ!?」
「は?」
 さすがに黙ってはいられなかったらしい。眉間と鼻先に皺を寄せて苛立った声。一触即発の空気。
「脱がすぞ! やれ!」
 一瞬怯んだガキ大将だったが、すぐに気を取り直して指示を飛ばす。
 そこからは早いものだった。オオカミが何かを言い返す前に慣れた手つきでの羽交い締め。ふたりがかりで押さえ込んでいる間に残ったひとりが浴衣の帯を持ってきて、服を脱がすや否や手足を縛り、そして最後には吠えられぬように、噛み付かれないようにと口を縛り上げる。
 そんな狩猟じみた光景をぼくはただ呆然と見つめることしかできなかった。割って入って阻止するのは無理だったかもしれないけれど、せめて先生を呼びに行くことくらいはできたはずなのに。
「なんだよ、引っ込んじまって見えねぇじゃん」
 石像のように固まったぼくは、目だけを動かして盗み見る。
 全身ふさふさの身体。顔や手足と違って白っぽい毛。そして、大事なモノがぶら下がっているはずの場所には、腹にへばりつくように縫い付けられた鞘があるだけ。ああそうだった、普段は収納されているんだ。人間とは異なる構造に対する純粋な好奇心と、見てはいけないものを目の当たりにしている背徳感。
「若月、おまえシコってやれよ」
 唐突に自分の名前を呼ばれて心臓が飛び出そうになる。この馬鹿どもも、自分たちの手は汚したくないらしい。
「はやくこい!」
 口答えなんてできなかった。逆らったら今度は自分が標的にされるかもしれない。だから仕方ないんだ。睨みつけるオオカミの目に心の中で謝罪を繰り返す。
 彼の正面に正座して、そっと手を伸ばした。神聖な儀式。手のひらをくすぐるフワリとした感触。小さな筋肉の硬直のあと、怒りに燃える体温が伝わってくる。鞘の中に収まっているそれを撫でるようにさすってみると、確かに存在するオオカミの陰茎。ぼくが、ぼくなんかが触れても許されるのだろうか。
「うわっ、出てきた! キモッ!」
 そんな声もどこか遠くに聞こえるノイズでしかなかった。星川くんはいま誰を睨みつけているのだろうか。彼の顔をみるのが怖い。隠されていた赤い先端が姿をあらわすにつれて、地響きのように空気を震わせていた唸り声が途切れがちになる。別個の意思をもった生命体のようなソレから目が釘付けになってしまう。痛くないようにできるだけ優しく粘膜質の竿を手のひらで包み込み上下させると、動きに呼応してビクビクと痙攣して透明な液体を撒き散らした。先走りを掬い取り、それを潤滑剤にして、いまやすっかり腫れ上がった臓器を一心不乱に擦り続ける。手が汚れるのなんてこれっぽっちも気にならなかった。
 呻めきに近い唸り。刹那、オオカミの身体が大きく跳ねたかと思うとその時はあっけなく訪れた。
「げえぇ、きったねぇ!! ぎゃはは!」
 勢いよく吹き出した熱いほとばしりが、腹の毛を、ぼくの手を白く染め上げていく。
 狂ったような笑い声。囃し立てる声。手の中で硬さを失っていく陰茎。いまでも、その熱量を、匂いを、そして耳の中に反響するすすり泣きを覚えている。
 気がついたときには、あれほどやかましかった嵐が過ぎ去っていて、また部屋の中は静けさに包まれていた。
 それからのことは記憶が定かではない。縛られた彼を解放してからどんな会話をしたのか、あるいはどんな罵声を浴びせかけられたのか。覚えているのは、トイレに駆け込んで三回もオナニーをしたこと。卒業するまで彼とは一度も会話をしなかったこと。あとは、星川くんは「ホモ犬」と呼ばれ、ぼくは「ホモ犬の恋人」と呼ばれていたこと。

 迷った挙句に出席した同窓会は、無味乾燥以外のなにものでもなかった。
 みんな大人になって、丸くなって、都合の悪い過去なんてキレイさっぱり洗い流して、上っ面だけの会話。
 誰が社長になっただとか、海外に住んでいるだとか、子供が三人もいるだとか、そんな自慢話のあとには決まって「あの頃は楽しかったね」ときたもんだ。
 ぼくをこの場にとどめている理由はただひとつ。大人になった星川くんだけだった。どうせ彼は来ないだろうと高を括っていたから、挨拶だけすませたら適当な理由をつけて帰ってしまおうと思っていたのに。
 星川くんは、ここぞとばかりに着飾った女性陣に囲まれる中で、ひどく興味なさげにタバコをふかしていた。彼が転校してきたあの日を思い出す。
「なあ、この後ちょっといいか?」
 結局彼とは口をきけぬまま、二次会への誘いも断ってひとり駅へと歩いていると後ろから声をかけられる。
 まさか、彼の方から声をかけられるとは思ってもいなかった。
 ぼくはただ頷き、促されるままに彼の後についていく。無言の道中。いったいどこに、いや、それよりもなぜ、ぼくなんだ。
「え? ここって……」
 辿り着いたのはマンションの一室。表札には星川の文字。返事はない。
「おじゃまします」
 胸の中からゾワゾワとしたものが込み上げてくる。嫌な予感しかしない。
 案内されるがままにソファーに座って待っていると、彼は缶ビールを差し出しながらこう切り出した。
「あのときのこと、覚えてるか?」
 ざわめきがいっそう大きくなる。彼との唯一ともいえる接点。つまり、アレしかない。
「あの、星川くん」
 しらばっくれることもできただろうし、ガキの頃のバカ話だよなと笑い飛ばすこともできたはずだ。
「ごめん、なさい。ぼくのせいで」
 不可抗力を言い訳にして、星川くんを助けなかったから。いくらでも助けようはあったのに。ぼくの記憶の中では薄れつつあることも、彼にとっては十年二十年経とうとも鮮明で、むしろ鋭さを増して心をえぐり続けているのだろう。
 だから彼は同窓会に来たのだ。過去の精算をするために。膨れ上がった利子は土下座ごときで払い切れるかはわからない。言葉だけでは済まないのであれば、殴られても、刺されてもかまわない。そりゃあ、元を正せばあのガキ大将が発端かもしれないけれど、手を下したのはぼくなんだ。
「そんなこと言わせるためにわざわざ呼び出したりしないって」
 笑っているのか、呆れているのか、表情からは読み取れない。
「おかえし、してやるから脱げよ」
 その意図がまったくつかめない。あのときのこと、おかえし、服を脱ぐ。いや、いやいやいや、そんなまさか。どういう展開だよ。そんなバカな、冗談でしょ。
「オンナじゃないと勃たないか? ニオイがしないからコッチ側だと思ったんだけどな。ま、無理そうなら目つぶっててくれよ」
 えっと、つまり、そのアッチとかコッチってのは。
「星川くんって、その、ホ……ゲイなの?」
「ホントにホモ犬になるだなんて、笑っちゃうよな」
 そういってカラカラと笑ってみせる。いや、とても笑えない。
「ぼくのせい、だよね。つまりその、あのときの」
 あのときのことが、彼の性的嗜好を、人生を滅茶苦茶に破壊してしまった。鼻の奥がツンと痛くなると同時に吐き気が込み上げてくる。とりかえしのつかないことをしてしまったんだ。
「ちがうちがう。確かにキッカケの一つではあったけど……って。そんなことはいいから早く脱げって」
 どうすればいいのかわからない。けれど、彼がそれを望むのであれば。それで満たされるのであれば。こんな身体なんていくらでも差し出しても構わない。
「よかった、ちゃんとコッチは反応してくれてるな?」
 恥ずかしくて消えてしまいたい。なんのかんのと屁理屈を並べたてながらも、これから行われる性行為にちんぽを勃たせているのだから。あの時のオオカミのちんぽを思い出すと、それだけで触れてもいないのに射精してしまいそうだ。
「ウマそうなちんぽ。いただきます」
 かぷっ
 呆然と立ち尽くしているぼくの前にひざまずくなり、大きく口をあけて丸呑みにしてしまう。初めてのフェラチオ。あの時触れたのと同じ、焼けつきそうな体温。
 くぷっ、にゅりゅりゅっ、ちゅぷ
「あっ……! ほ、ほしかわ、くんっ!」
 行きどころのない両手が彷徨ったあげく、オオカミの頭を掴んで浅ましくちんぽを喉奥へと押し付ける。長いマズルの中にすっぽりちんぽが収まって、先端から根本まで余すところなく肉壁に包み込まれる。
「んぐっ、いいぞ……なあオレ、いじめられるの好きなんだ。ホモ犬って呼んでくれよ」
 感情が濁流となって渦巻いている。やっぱり自分のせいなんじゃないかという気持ちが、まち針になって心臓を何回も突き刺す。でも、それでも、彼が望んでいるから。彼のためなんだ。これは彼に対する奉仕と、そして贖罪なのだと言い聞かせる。
 ぬぽっ、ぐぼっ、ぬちゅっぬこっ
「あっ、あっ! ホモ犬の口の中あったかい……」
 くちゅっ、ちゅぶぶっ、ぬっこぬっこ
 亀頭の表面が溶け出してしまったのかと思うほどに痺れる。オオカミの頭を揺り動かすたびに、舌の上に溢れた唾液がカリ首でこそぎ取られて口角から白い泡となってボタボタと落ちていく。されるがままにマズルを使われながらも、いつの間にかオオカミはズボンを脱ぎ去っていて、あの頃よりもさらに大きく成長したちんぽを真っ赤に腫れ上がらせていた。
「ホモ犬、ちんぽおいしいね? んっ、はあっ、い、いっぱい食べてっ!」
 その言葉にビュッと先走りが吹き出した。星川くんは、ホモ犬はこうされるのが嬉しいんだ。もっと気持ちよくなってほしい。どちらのものともつかない荒い鼻息の中に、ピーピーと甲高い音が混じる。
 あの時の光景がフラッシュバックする。そうだ、口輪が必要だ。
 後頭部を掴んでいた手をマズルにやって、口輪のように包んで握り込む。また先走りが床を汚した。あの日のことを覚えていてくれたんだ、嬉しい。自らの手でちんぽを扱きながらも、きっとぼくの手の感触を思い出しているに違いない。
「いくっ、ホモ犬の口の中でちんぽいく! 口内射精しちゃうっ!」
 びゅーっ、びゅ、びゅっ、びゅるっ
 脳裏に浮かんでいるのはあの日の射精。口内にうち放たれた精液は、音を立てて飲み込まれていった。

「あの、星川くん」
 ふたりして床にへたり込んで息を整えながら、落ち着きを取り戻し始めた頭の中に浮かんだモノ。
「星川くんって、その……恋人とかって、いるの?」
 彼にとってはこの行為は、スポーツと同じくらいの感覚かもしれない。いい大人なんだから、節度さえ守れば恋愛関係なしに身体を重ねることを楽しんでもいいだろう。単なる気まぐれで、ちょっとした火遊び。
「いるよ」
 そうだよな。適当な理由をつけて一晩限りの相手を探せればそれでよかっただけなんだ。たった一度、いや二度、そういうことをしただけで抱いてしまったこの気持ちは、恋心なんてものじゃない。ただの気の迷いにしかすぎない。ぼくだけが大人になりきれていなくて、青臭いガキのまま、性行為に神聖さを求めすぎているんだ。
「そうなんだ、どんなお相手さんなの?」
 うまく笑えたかな。声は震えていなかっただろうか。あくまでこれはなんでもない雑談なんだ。
「はあ……まったく」
 苦笑い。呆れられた。見透かされた。面倒なヤツだと思われてしまう。もう帰ろう。いま、何時だろう。
「若月はホモ犬の恋人、だろ?」
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