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見抜かれた時間
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「いやぁ、久々だなムジナ丼。ちょっと食べます?」
「結構です」
「結構って、面白い言葉で、二つの意味があるんですよね。おお、そりゃ結構ですね、いただきます。いえいえ、結構です、いりませんって。それにしても、、、、」
「?」
「いや、こんなお綺麗な方が来られるとは思ってもみませんでしたよ」
「え、え、え」
「さっきも、待ち合わせで遠くから近づきながら思ったもんです。綺麗だなと」
「やめてください」
言われて不快ではなかったが、初対面の男性に一対一で言われるのには抵抗がある。
わたしはスプーンを手に持ち、カレーの皿へ運んだ。
カレーとご飯は別皿で、カレーはやけにシャバシャバしている。
「あれ、ここのカレー、初めて見たけど、スープカレーだ」
「スープカレー?」
「ねぇ、マスター」
「そうだよ、うちじゃ、カレーはスープカレー」
調理を終えたマスターの声が、厨房の中から聞こえた。なにか食べているらしい。
「札幌発祥のカレーでね、うーん、旨そうだな。揚げた大きなカボチャが見えますね。入ってる具材が大きいのも特徴。マスターがケチじゃなければね」
「底に沈んでるチキンを見て驚け」
「そういえば、佐藤さん、札幌ですか?」
「あぁ、僕は根室なんです」
「根室?」
「日本で一番東の市。酪農とサンマの町です」
「じゃあ、遠かったでしょう」
「いやいや、近くに中標津空港があるんで、そこからヒョイですよ。まあ、近くと言っても車で一時間半だけど。道内では、時間は一時間単位なんです」
「いいなぁ、北海道。行ってみたい」
「行ったことはあります?」
「ないんです」
「じゃあ、あの絵は」
「いくつかの写真の複合体です」
「だからか、、どこか現実的ではなく、形而上的な魅力がある。あれはやっぱり、水彩?」
「はい、水彩が大好きで。特に、重ねて重ねて、緻密に色を出すのが好きなんです」
「うーん、採用権者の主催者が言うことじゃないけど、あのタッチの絵はひとつ出したいな。絵ってね、だいたい画家の方が売れてから、絵も引っ張られるように売れるもんなんですよ。あれから送っていただいた他の絵も見ましたが、貴女の場合、絵の方が引っ張って行ってくれる気がする」
その言葉が何か引っ掛かった。
わたしに魅力がないとも聞こえる。
「貴女と絵には距離がある」
「・・・・・・」
「ほら、ダリの絵なんて、いかにもダリの絵でしょう。モディリアーニだってそう、マティスもそう、ルノワールもそう、ユトリロは写真はないけれど、肖像画やエピソードを見る限りリンクしている。シャガールなんて、シャガールそのもので、モネにしたって、ゴーギャンにしたって、ゴッホにしても、セザンヌにしても、マネも、皆、彼ら自身が描き出されている」
「わかります」
「でも、貴女の印象と、絵とは離れているんですよね。まあ、会って早々で何が分かるというものでもないんですが。そこもね、面白いと思ったんです、面白いと言ったら失礼かな」
「いえ」
途端に、前の画商の目利きを知らしめられた気がした。
確かに、絵と今のわたしには圧倒的な乖離がある。
そんなことは当然で、絵はわたしの青春期に描いたもので、今のわたし自身は、空虚な三年間に描き出された愚にもつかない落書きなのだ。
「結構です」
「結構って、面白い言葉で、二つの意味があるんですよね。おお、そりゃ結構ですね、いただきます。いえいえ、結構です、いりませんって。それにしても、、、、」
「?」
「いや、こんなお綺麗な方が来られるとは思ってもみませんでしたよ」
「え、え、え」
「さっきも、待ち合わせで遠くから近づきながら思ったもんです。綺麗だなと」
「やめてください」
言われて不快ではなかったが、初対面の男性に一対一で言われるのには抵抗がある。
わたしはスプーンを手に持ち、カレーの皿へ運んだ。
カレーとご飯は別皿で、カレーはやけにシャバシャバしている。
「あれ、ここのカレー、初めて見たけど、スープカレーだ」
「スープカレー?」
「ねぇ、マスター」
「そうだよ、うちじゃ、カレーはスープカレー」
調理を終えたマスターの声が、厨房の中から聞こえた。なにか食べているらしい。
「札幌発祥のカレーでね、うーん、旨そうだな。揚げた大きなカボチャが見えますね。入ってる具材が大きいのも特徴。マスターがケチじゃなければね」
「底に沈んでるチキンを見て驚け」
「そういえば、佐藤さん、札幌ですか?」
「あぁ、僕は根室なんです」
「根室?」
「日本で一番東の市。酪農とサンマの町です」
「じゃあ、遠かったでしょう」
「いやいや、近くに中標津空港があるんで、そこからヒョイですよ。まあ、近くと言っても車で一時間半だけど。道内では、時間は一時間単位なんです」
「いいなぁ、北海道。行ってみたい」
「行ったことはあります?」
「ないんです」
「じゃあ、あの絵は」
「いくつかの写真の複合体です」
「だからか、、どこか現実的ではなく、形而上的な魅力がある。あれはやっぱり、水彩?」
「はい、水彩が大好きで。特に、重ねて重ねて、緻密に色を出すのが好きなんです」
「うーん、採用権者の主催者が言うことじゃないけど、あのタッチの絵はひとつ出したいな。絵ってね、だいたい画家の方が売れてから、絵も引っ張られるように売れるもんなんですよ。あれから送っていただいた他の絵も見ましたが、貴女の場合、絵の方が引っ張って行ってくれる気がする」
その言葉が何か引っ掛かった。
わたしに魅力がないとも聞こえる。
「貴女と絵には距離がある」
「・・・・・・」
「ほら、ダリの絵なんて、いかにもダリの絵でしょう。モディリアーニだってそう、マティスもそう、ルノワールもそう、ユトリロは写真はないけれど、肖像画やエピソードを見る限りリンクしている。シャガールなんて、シャガールそのもので、モネにしたって、ゴーギャンにしたって、ゴッホにしても、セザンヌにしても、マネも、皆、彼ら自身が描き出されている」
「わかります」
「でも、貴女の印象と、絵とは離れているんですよね。まあ、会って早々で何が分かるというものでもないんですが。そこもね、面白いと思ったんです、面白いと言ったら失礼かな」
「いえ」
途端に、前の画商の目利きを知らしめられた気がした。
確かに、絵と今のわたしには圧倒的な乖離がある。
そんなことは当然で、絵はわたしの青春期に描いたもので、今のわたし自身は、空虚な三年間に描き出された愚にもつかない落書きなのだ。
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