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激変(2)

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「この土地の前の所有者が、医療器具販売の会社でして、赤堀の土地は、そこの倉庫が昔あったところだったので・・・・」加えて
「予想されるのは、この医療器具販売会社が、病院から回収してきた廃棄物を、正規の処理をせずにこの自社敷地内に、違法な埋設処理をしていたのではないかと・・・」
矢部は額に汗を浮かべて答えた。

「ばかものーっ。なんでよく土地の状況を調査したうえで事を進めなかったのか?あーっつ!!専務、あなたは素人かね!」
社長の激怒は最高潮に達していた。

矢部は、(不動産業者に任せていて、自分ではそんなことがあろうとは、つゆぞ知らなかった)などとはとても口に出せなかった。

「家を買い取れというクレームが1件。そしてもう二件は敷地内の土を全部掘り起こして、その医療廃棄物を完全に取り出して、廃棄して、終了しましたとの証明書をだせと言ってきている!!」
ここでまた再度、熊田は机をバンバンと叩いた。

「そして、なんだとっ!原島地区についてはだな!」
「・・・・・・」矢部は下を向いたままだった。
「こっちの方は、そんな甘いものじゃないぞ!法令違反だ!実に問題だ!!」

熊田がそう言ったのは次の内容だった。

矢部専務は、小高い丘の中腹のかなり広い土地を、とある不動産業者を通して買い付けた。
通常、建売を販売する場合はお客に対し、横鷹ホーム側はきちんと「重要事項説明書」を作成し、販売する物件がどのようなものであるか、それはその土地が、容積率〇〇%、けんぺい率△〇%など、重要なことを分かり易く説明する必要があった。
要は、購入者が後々に「えっつ、そんな変な土地だったんですか!聞いてなかった」と損害を被ることがないようにしなければならなかった。

例えばの話、その物件内部でそう遠くない昔に自殺があり、その事実を横鷹側が知っていたら、先の書類の「備考欄」にでも記載する必要がある。

その、横鷹が売った原島地区の土地の四分の一が、市が定める「土砂災害警戒区域」に引っかかっていたのだ。これは、住民の生命に関する超重大な事柄である。
見つけたのは住民側だった。

しかし、そんな重たいことを、「重要事項説明書」に横鷹ホームは記載していなかった。
「説明は口頭でやりました」は通用しない世界である。完全な宅建業法違反となる。
当局が察知して横鷹に行政処分を与えるなら、それはそれは・・かなり重たい沙汰になる。

原島地区内でも、かろうじて土砂災害警戒区域にかからなかった残りの四分の三の区画であっても、住民は将来への不安から、間違いなく
「買い戻してくれ!」となる。
事実、すでに半分の世帯が「代金を返してくれ。買い取らなければ訴訟に持ち込む!」
そういう事態に発展しそうだった。

人のクチに戸は立てられない。
この話は瞬く間に県内の建築業者や不動産業者に広がった。

横鷹ホームの売り上げは坂道を転がり落ちるように下落していった。
そして、それは斉藤木材にも伝わった。
東郷らの銀行の大分支店を通して・・・・瀬良の支店にも・・・・伝わった。



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