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会長斉藤良子の怒り
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融資担当の副島次長から電話連絡を受けたその日の午前に、瀬良は斉藤木材を訪問した。
訪問の主旨はアポイントの時に電話に出た総務課の人に事前に伝えてあった。
その方がこのややこしい交渉にスムーズに入って行けるだろうと思ったからだ。
応接で待つこと三分ほど。経理部長の松田が入ってきた。
挨拶を交わしたのちに、本題を瀬良は話した。
「な、な、な、何を言ってるのかね君は!!あーっ!!」
松田の顔は怒りにゆがんでいた。
「西都銀行はウチに『潰れろ』とでも言うのかっ!!」
自分の右ひざを拳で大きくたたきながら怒号を発した。
いきなりである。
瀬良は面食らった。
瀬良としては、銀行を出る前に頭の中で整理していた松田への説明内容を、丁寧に、それも腰を低くして言ったつもりだった。
そんな松田の態度のため、全くもって、話が半歩も先に進まなかった。
いみじくも、松田は宮崎の銀行に勤めていた。よって、西都銀行の本店が言っている意味を松田が理解できないはずは無い。
最近の一連の横鷹ホームに関する不祥事について、斉藤木材でも会議の場で協議はされていた。
瀬良が本店審査部の意向を伝えるために訪問した前日にも、幹部ら八名が集まって「自社の対応方針」ならぬものを話していたのである。
その会議の冒頭だった。
「斉藤純一社長!」
社長は、斉藤良子会長の目を見た。
「今のこの状況が、相当良くないことを認識していますか?!」
「はあ・・・もちろんですが・・」
「なら、どうして!自分から、幹部に招集をかけて、連絡会とか、今後の方針を協議しないのですか!」
「はぁ・・」
「今日のこの会議だって、私が動かないとこのような会議は開かれなかったでしょう!違いますか」
純一と会長の良子とでは、現状の認識と事態解決に向けた意識が全く違っていた。
良子の眼には純一が、こそこそと動いて、何とかこの燃え上がり始めた火を一人で消そうと躍起になっているのが見て取れた。まさに経営者失格である
「横鷹にはこちらから出向いて、詳しい現状と、今後の横鷹が考える打開策を聞いてきたんですか!?」
「いえ、・・・四日前に電話で、そして昨日も電話で先方とは話を・・・」と純一社長が力なく応えた。
「何を言っているのですか!実に動きが遅い!」続けて
「松田部長!あ・な・た・は、何をどこまで知っているのですか!?」一言ひとことに力を入れてそう言った。
「向こうの経理課長と電話でいろいろと話はしておりまして・・・」
松田は会長の顔をきちんと見ることができずに、しょぼしょぼとした感じで応えた。
「自分の仕事について、『やってる感だけ出す』のはやめてくださいよ。松田部長!」そして
「資金繰りの全面的な担当者はあなたです!資金がショートしたらどうなるか、その恐ろしさが分からないのですか!」そして
「あなたは前の銀行でなにをやって来たんですか。どうなんです!?」とも言った。
会長の厳しい語気は、これまでどの社員も聞いた事が無いくらいのものだった。
「明日さっそく、社長と松田部長、よいですかっ」そして厳しく指示した
「午後に横鷹ホームに行って、現状を調べつくしてきなさい!」
はっきりしない松田に対して
「アポを入れなさいよ!!すぐに動いて!!」と言い渡した・・・・・・
松田は、昨日のそんな事から来た動揺を引きずって、興奮し、ゆがんだ表情になり・・・・先の、瀬良と担保の件で面談した時に、激昂していたのだった。
重い気持ちで斉藤の本社ビルをでて、敷地内の駐車上に向かおうと歩いていたところ、声をかけられた。
「あなたの銀行は、なんかぐちゃぐちゃとウチに注文を付けているみたいだねぇ」
「(えっ)」と瀬良は思い、その声の主の方に振り向いた。
瀬良は、全くらちがあきそうにない先ほどの松田部長との交渉について悶々とした気分になっていたために、その人が自分の近くを歩いていたのも気が付いていなかった。
「そ、相談役!ご無沙汰しています。ついぞ気が付きませんで失礼しました」瀬良はあわてて頭を下げた。
斉藤博子、良子の実母であり創業者の娘だった。肩書は一応‘相談役’であった。但し、経営には一切の口出しはしない人物であった。
「あんた。横鷹ホームの件が心配になって、ウチに色々ともの言いに来たんじゃろう?」
相談役はもう八十五才のはず。しかし、足腰も判断力も全く衰えてはいなかった。
瀬良は、これまでにもこんな風にばったりと顔を合わせることがあり、その時は世間話をしたり、銀行内での自分の仕事の話をしたりしていたので、気まずい間柄ではなかった。
「担保の追加が必要(いる)とか言いよるらしいのぅ。あんまり無茶いったらいかんよ。お宅とは、あんたが生まれた時くらいから・・・・三十年の付き合いやからなあ」
斉藤良子会長が言うには、相談役は会社の資金繰りに関することには、まだまだ敏感な様子だった。
訪問の主旨はアポイントの時に電話に出た総務課の人に事前に伝えてあった。
その方がこのややこしい交渉にスムーズに入って行けるだろうと思ったからだ。
応接で待つこと三分ほど。経理部長の松田が入ってきた。
挨拶を交わしたのちに、本題を瀬良は話した。
「な、な、な、何を言ってるのかね君は!!あーっ!!」
松田の顔は怒りにゆがんでいた。
「西都銀行はウチに『潰れろ』とでも言うのかっ!!」
自分の右ひざを拳で大きくたたきながら怒号を発した。
いきなりである。
瀬良は面食らった。
瀬良としては、銀行を出る前に頭の中で整理していた松田への説明内容を、丁寧に、それも腰を低くして言ったつもりだった。
そんな松田の態度のため、全くもって、話が半歩も先に進まなかった。
いみじくも、松田は宮崎の銀行に勤めていた。よって、西都銀行の本店が言っている意味を松田が理解できないはずは無い。
最近の一連の横鷹ホームに関する不祥事について、斉藤木材でも会議の場で協議はされていた。
瀬良が本店審査部の意向を伝えるために訪問した前日にも、幹部ら八名が集まって「自社の対応方針」ならぬものを話していたのである。
その会議の冒頭だった。
「斉藤純一社長!」
社長は、斉藤良子会長の目を見た。
「今のこの状況が、相当良くないことを認識していますか?!」
「はあ・・・もちろんですが・・」
「なら、どうして!自分から、幹部に招集をかけて、連絡会とか、今後の方針を協議しないのですか!」
「はぁ・・」
「今日のこの会議だって、私が動かないとこのような会議は開かれなかったでしょう!違いますか」
純一と会長の良子とでは、現状の認識と事態解決に向けた意識が全く違っていた。
良子の眼には純一が、こそこそと動いて、何とかこの燃え上がり始めた火を一人で消そうと躍起になっているのが見て取れた。まさに経営者失格である
「横鷹にはこちらから出向いて、詳しい現状と、今後の横鷹が考える打開策を聞いてきたんですか!?」
「いえ、・・・四日前に電話で、そして昨日も電話で先方とは話を・・・」と純一社長が力なく応えた。
「何を言っているのですか!実に動きが遅い!」続けて
「松田部長!あ・な・た・は、何をどこまで知っているのですか!?」一言ひとことに力を入れてそう言った。
「向こうの経理課長と電話でいろいろと話はしておりまして・・・」
松田は会長の顔をきちんと見ることができずに、しょぼしょぼとした感じで応えた。
「自分の仕事について、『やってる感だけ出す』のはやめてくださいよ。松田部長!」そして
「資金繰りの全面的な担当者はあなたです!資金がショートしたらどうなるか、その恐ろしさが分からないのですか!」そして
「あなたは前の銀行でなにをやって来たんですか。どうなんです!?」とも言った。
会長の厳しい語気は、これまでどの社員も聞いた事が無いくらいのものだった。
「明日さっそく、社長と松田部長、よいですかっ」そして厳しく指示した
「午後に横鷹ホームに行って、現状を調べつくしてきなさい!」
はっきりしない松田に対して
「アポを入れなさいよ!!すぐに動いて!!」と言い渡した・・・・・・
松田は、昨日のそんな事から来た動揺を引きずって、興奮し、ゆがんだ表情になり・・・・先の、瀬良と担保の件で面談した時に、激昂していたのだった。
重い気持ちで斉藤の本社ビルをでて、敷地内の駐車上に向かおうと歩いていたところ、声をかけられた。
「あなたの銀行は、なんかぐちゃぐちゃとウチに注文を付けているみたいだねぇ」
「(えっ)」と瀬良は思い、その声の主の方に振り向いた。
瀬良は、全くらちがあきそうにない先ほどの松田部長との交渉について悶々とした気分になっていたために、その人が自分の近くを歩いていたのも気が付いていなかった。
「そ、相談役!ご無沙汰しています。ついぞ気が付きませんで失礼しました」瀬良はあわてて頭を下げた。
斉藤博子、良子の実母であり創業者の娘だった。肩書は一応‘相談役’であった。但し、経営には一切の口出しはしない人物であった。
「あんた。横鷹ホームの件が心配になって、ウチに色々ともの言いに来たんじゃろう?」
相談役はもう八十五才のはず。しかし、足腰も判断力も全く衰えてはいなかった。
瀬良は、これまでにもこんな風にばったりと顔を合わせることがあり、その時は世間話をしたり、銀行内での自分の仕事の話をしたりしていたので、気まずい間柄ではなかった。
「担保の追加が必要(いる)とか言いよるらしいのぅ。あんまり無茶いったらいかんよ。お宅とは、あんたが生まれた時くらいから・・・・三十年の付き合いやからなあ」
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