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一枚の紙
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瀬良が支店の融資課の副島次長から「横鷹の不渡り発生」の電話を受ける少し前、会長の斉藤良子は会議室に、社長の斉藤純一と経理の松田部長、営業部長の丸田、そのほかに関係する社員五名を呼んでいた。
「大変な事態です!」会長の声が飛んだ。
「西都銀行から『横鷹振り出しの四千二百万円の不渡り発生』と、それに伴う、午後一番での『割引きした横鷹ホーム手形の買戻しをお願いしたい』との連絡をさきほど電話で受けました」
そう切り出したあと、厳しい形相で続けた。
「まずは今から指示することを直ちにやってください。諸々の細かいことは後で話します!」と言い
「ウチがこの二カ月間に横鷹ホームに納品したすべての木材の所在を突き止めること。そして直ちに回収して来なさい。他社の誰にも手を触れさせないように!よいですねっ!」
全員が(分かりました)と弱々しく答えた。
「ところで純一社長、あなたは過去に何度も大分に行っていますから、どこの倉庫にわが社の木材が置いてあるかは当然知ってますよね」
社長の斉藤純一はその答えを知らないらしく「えっとぉ・・・」とはっきりしなかった。
「丸田部長。あなたはどうなんですか?」
丸田も要領を得ない様子でもじもじとしていた。
「すいません、それがはっきりとは・・・」
会長が言った
「この前、横鷹に行ってすべてを調べてくるように言い渡したのに、あなたたちは何をやって来たのですか」さらに松田の方を向いて
「あなたは。松田部長どうなんです!」
松田はついぞ(自分は知らん・・)みたいなすっとぼけた表情をしていたが、急に名指しされて、はっとした顔になった。
「このような事態が来ることを想定して、手を打っておくこと・・・例えばウチが出荷した商品が相手のどこの倉庫にあるのか押さえておくのは、銀行出身者のあなたが一番ピンと来なければいけなかったのですよ!他人ごとのような顔はしないでっ!」
斉藤良子が気にしていたのが、この二カ月で、斉藤木材が横鷹ホームに収めた五千万円分の木材の件だった。横鷹ホームの通常の建築スケジュールからして、まだ、建築現場には持っていかれてないはずである。
毎月の横鷹への出荷は、事件以降減少しており、いまでは平均して月額九百万円くらいに低下していた。よって、二カ月間のその五千万円という額は、非常に突出した異常な数字だった。
「トラックはあとで回しますから、三人で今すぐ、横鷹ホームの材料ストックヤードに行ってきなさい!」
そして付け加えた
「あなたたちの今後の処分は、追って下します!」「心しておきなさい」・・・と。
会議参加メンバーは散って行った。
そして、会長は女性事務員ひとりを連れて、クルマに乗り、新庄支店に走った。
向かったのは西都銀行ではなくて、斉藤木材がほとんど取引をしていない「福徳銀行の新庄支店」だった・・・・。
一方で瀬良は、急ぎ車を走らせて、午後一時には斉藤木材本社に着いた。
「こんにちは!西都銀行の瀬良です」
いつものように明るく、はっきりした声で挨拶をし、ドアの所でいつものように一礼した。
事務員が小走りで出てきた。
「いらっしゃいませ。会長が応接室でお待ちになっていらっしゃいます。さ、どうぞ」
会長の良子は先ほどの外出から、少し前に戻ったところだった。
「失礼します」そう言って良子の前に座った。
そして、緊張のあまり‘えへん’と極めて小さく咳払いして
「あのぉ・・・・」
その時、それを制するかのように良子が言った。
「用意しております」そして
「このたびはご迷惑をかけてすいません」
良子は、深々と瀬良に頭を下げたのだった。
それは、瀬良が、来社の理由とこれからのきびしい話を始めようとした矢先だった。
「今日の不渡り手形の買戻しですよね」
良子は瀬良の目をじっと見た。
そして彼女は、バッグの中から一枚の紙を取り出した。
銀行が発行した、四千二百万円分の振込依頼書のお客様控えだった。
瀬良は、まったく予想していなかった展開に目をぱちくりさせた。下手したら口論も予想していたからだ。
そして会長は穏やかな口調で
「先ほど、福徳銀行のすぐそこの支店から、おたくの支店の、斉藤木材当座預金にこの額を振り込みました。もう五~六分もしない内に送金完了するでしょう」続けて
「そしてこれが、あなたが上司から言われて、取に来た斉藤木材の小切手です。これで買い戻してください」
そう言った。
「大変な事態です!」会長の声が飛んだ。
「西都銀行から『横鷹振り出しの四千二百万円の不渡り発生』と、それに伴う、午後一番での『割引きした横鷹ホーム手形の買戻しをお願いしたい』との連絡をさきほど電話で受けました」
そう切り出したあと、厳しい形相で続けた。
「まずは今から指示することを直ちにやってください。諸々の細かいことは後で話します!」と言い
「ウチがこの二カ月間に横鷹ホームに納品したすべての木材の所在を突き止めること。そして直ちに回収して来なさい。他社の誰にも手を触れさせないように!よいですねっ!」
全員が(分かりました)と弱々しく答えた。
「ところで純一社長、あなたは過去に何度も大分に行っていますから、どこの倉庫にわが社の木材が置いてあるかは当然知ってますよね」
社長の斉藤純一はその答えを知らないらしく「えっとぉ・・・」とはっきりしなかった。
「丸田部長。あなたはどうなんですか?」
丸田も要領を得ない様子でもじもじとしていた。
「すいません、それがはっきりとは・・・」
会長が言った
「この前、横鷹に行ってすべてを調べてくるように言い渡したのに、あなたたちは何をやって来たのですか」さらに松田の方を向いて
「あなたは。松田部長どうなんです!」
松田はついぞ(自分は知らん・・)みたいなすっとぼけた表情をしていたが、急に名指しされて、はっとした顔になった。
「このような事態が来ることを想定して、手を打っておくこと・・・例えばウチが出荷した商品が相手のどこの倉庫にあるのか押さえておくのは、銀行出身者のあなたが一番ピンと来なければいけなかったのですよ!他人ごとのような顔はしないでっ!」
斉藤良子が気にしていたのが、この二カ月で、斉藤木材が横鷹ホームに収めた五千万円分の木材の件だった。横鷹ホームの通常の建築スケジュールからして、まだ、建築現場には持っていかれてないはずである。
毎月の横鷹への出荷は、事件以降減少しており、いまでは平均して月額九百万円くらいに低下していた。よって、二カ月間のその五千万円という額は、非常に突出した異常な数字だった。
「トラックはあとで回しますから、三人で今すぐ、横鷹ホームの材料ストックヤードに行ってきなさい!」
そして付け加えた
「あなたたちの今後の処分は、追って下します!」「心しておきなさい」・・・と。
会議参加メンバーは散って行った。
そして、会長は女性事務員ひとりを連れて、クルマに乗り、新庄支店に走った。
向かったのは西都銀行ではなくて、斉藤木材がほとんど取引をしていない「福徳銀行の新庄支店」だった・・・・。
一方で瀬良は、急ぎ車を走らせて、午後一時には斉藤木材本社に着いた。
「こんにちは!西都銀行の瀬良です」
いつものように明るく、はっきりした声で挨拶をし、ドアの所でいつものように一礼した。
事務員が小走りで出てきた。
「いらっしゃいませ。会長が応接室でお待ちになっていらっしゃいます。さ、どうぞ」
会長の良子は先ほどの外出から、少し前に戻ったところだった。
「失礼します」そう言って良子の前に座った。
そして、緊張のあまり‘えへん’と極めて小さく咳払いして
「あのぉ・・・・」
その時、それを制するかのように良子が言った。
「用意しております」そして
「このたびはご迷惑をかけてすいません」
良子は、深々と瀬良に頭を下げたのだった。
それは、瀬良が、来社の理由とこれからのきびしい話を始めようとした矢先だった。
「今日の不渡り手形の買戻しですよね」
良子は瀬良の目をじっと見た。
そして彼女は、バッグの中から一枚の紙を取り出した。
銀行が発行した、四千二百万円分の振込依頼書のお客様控えだった。
瀬良は、まったく予想していなかった展開に目をぱちくりさせた。下手したら口論も予想していたからだ。
そして会長は穏やかな口調で
「先ほど、福徳銀行のすぐそこの支店から、おたくの支店の、斉藤木材当座預金にこの額を振り込みました。もう五~六分もしない内に送金完了するでしょう」続けて
「そしてこれが、あなたが上司から言われて、取に来た斉藤木材の小切手です。これで買い戻してください」
そう言った。
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