25 / 121
第1部・第5話:フィンレー
第1章
青い花が一面に咲き乱れる花壇の間を、小柄な少年が歩いていく。
明るいブラウンの髪をふわふわと躍らせながら、彼を慕うように飛び交う蝶達をおどけた様子で躱す姿は、見守る者すべての心を、優しく解きほぐしていくかのようだ。
吹き抜ける風につられるようにして振り返った先、庭園の中に建てられた豪奢な東屋の中から、自分を見詰める眼差しに気付いて、少年――ルカ・フェアリーベルは反射的に手を振った。大きな動作には照れ隠しの意味もあったが、屈託のない挙動が、より一層周囲の気持ちを和ませる。
応えるように手を振り返してくれたのは、ルカとよく似た明るい茶色の髪と、オレンジ色の瞳を持つ妙齢の美女、祖母のベリンダだ。16歳の孫を持つ女性にはとても見えない若々しい外見は、彼女の持つ強大な魔力の故である。本人が望んで若い頃の姿でいるのではなく、細胞の隅々にまで力が浸透しきっているため、結果として老いとは無縁の状態であるらしい。強大な魔力と良き行いを讃えて、人々は彼女を「黄金のベリンダ」と尊称する。
そして、溺愛する孫に向かって白魚のような手を振るベリンダとルカとを交互に見詰め、幸福そうに微笑んでいるのは、この屋敷の先代主人である、クリストファー・ボールドウィン卿だ。
ルカは今日、親友のフィンレーに会うために、領主館を訪れていた。フィンレーは現領主ヘクター・ボールドウィン卿の一人息子であり、現在は父の補佐を務めながら、政務を学んでいる。そのヘクター卿が不在の今、全権を委任され執務が立て込んでいるフィンレーに変わって、彼の祖父であるクリストファー卿が、ルカとベリンダのもてなしを買って出てくれているという訳だ。
季節の花々が爛漫と咲き誇る庭園の東屋で、美味しいお茶と、フィンレーのために持参したアップルパイを一緒にいただいてから、ルカは「お庭を見て来てもいいですか」と席を立った。見掛けは天使か妖精かと誉めそやされるルカも、中身は普通の少年であって、それほど草花に興味はない。20年以上前に妻を亡くしたクリストファー卿が、祖母に気のある風なのを気遣ってのことである。若くて美しいベリンダに興味があるというなら孫としては不快なだけだが、彼は力の大半を失い、歳相応の姿をしていた頃のベリンダに対しても、同じように紳士的に接していた。そのためか、祖母には少なくとも悪感情はない様子だ。ルカとしては、何となく男としてクリストファー卿の味方をしたいような気持ちにさせられても、おかしくはないだろう。
そして、花に興味はなかったとしても、領主館はルカが行き来した二つの世界のどちらにおいても、一番豪華で絢爛な場所であることに間違いはない。庭木も含め、色や種類で分けて植えられた植物は、見ているだけで楽しい気分になってくるから不思議だ。自然と戯れるなど、あちらの世界ではなかったことだが、こちらでは折に触れ、季節の変化を感じることが多い。
ふと、足元に敷き詰められた青い花に懐かしいものを感じて、ルカは足を止めた。祖母に連れられて、初めてこの領主館へ来た時も、咲いていたような気がする。そう、名前は確か――
「――!」
不意に強い風が吹き抜けて、ルカは思わず目を閉じた。同時に背後で靴音が聞こえて、ハッと振り返る。
「――出逢った頃のことを思い出すな」
青い花弁が舞い踊る中、現れたのは、執務を切り上げたらしいフィンレーだった。騎士の家系である彼は、普段から好んで軍服風の衣装を身に纏っているが、舞い散る花びらを背景に、銀色の髪を風になびかせ、紫色の瞳で優しく微笑む姿は、まるで物語に登場する王子様のようだ。それはきっと、彼が群を抜いた二枚目であるためなのだろうが、一緒に育ってきたルカとしては、何となくソワソワさせられるものがある。
――昔は、身長も同じくらいだったのに。
今では見上げなければ視線も合わせられないフィンレーが、それでも自分と同じ記憶を辿っていたということが嬉しくて、ルカは「そうだね」と微笑み返した。
「お茶は? パン屋のおばさんとこのアップルパイ持ってきたよ」
首を傾げると、フィンレーはルカの頭の上から背後の東屋を見遣り、「いや」と頭を振る。
「それは魅力的な提案だが――今はやめとく。邪魔になるだろ」
意味深なウィンクに、ルカは小さく肩を揺らした。生まれる前に祖母を亡くしている彼もまた、ルカと同じように、祖父の新しい恋を見守っている。積極的に協力をするほどではないが、多少なりとも気を遣う自分達のことを、以前フィンレーは「俺達っていい孫だよなぁ」と称したことがあった。その時のノリを思い出し、二人でひとしきり忍び笑う。好物のアップルパイは、後でゆっくり食べて貰えばいい。
「――今日はどうした?」
東屋とは逆方向へルカを促しながら、フィンレーが改めて聞いてきた。見識が広く、中央政界にも顔が利くベリンダの意見を重用する領主の側から彼女を呼び出すことはあっても、ベリンダが自分の意思でルカを連れて館へ遊びに来ることなど、まず有り得ない。ルカとフィンレーの間で遊ぶ約束でもあれば別だが、今日はそのどちらでもないのだ。
ここ数日の計画を、ようやく実行に移せる。
「――あのね」
意を決して、ルカは足を止め、フィンレーに向き直った。
ルカは元々、こちらの世界の生まれではない。
正確に言うなら、こちらに生まれ落ちるはずだったものが、生まれる前に受けた予言のために魔王の怒りを買い、極限状況の中を祖母の魔法で、別な次元へと落ち延びていたのだ。あちらの世界の母の胎内に辿り着いたルカは、数年後にベリンダによって発見され、以来夢を媒介に、あちらとこちらの世界を行き来しながら成長してきた。しかし、本来属するべきでない世界の空気はルカにとっては毒気と同じであり、徐々に身体は衰弱。16年の生涯を終える間際に、祖母の一世一代の大魔術によって、新たにこちらの世界へと転生を果たしたのである。
そして、世界はルカに、予言の履行を願った。「黄金のベリンダの血脈こそが、魔王を打ち倒す能力を持つ者である」――大賢者ホルストの今際の言葉は国を動かし、大規模な魔王討伐隊が結成される。
しかし、ルカの身を案じたベリンダによって、この計画は保留にされ、代わりに魔王軍の動向を探る目的で、斥候隊の派遣が可決された。これはベリンダの詭弁であり、彼女はすべての片を自分ひとりで付けるつもりであったのだが、同じように祖母の身を案じるルカの説得により、形通り斥候隊は組織されることとなる。
隊員の選抜を一任されているベリンダは、異世界育ちのルカを加入させるにあたって、1つの条件を出した。
『闘う力のないあなたを守ってくれる人を、私以外にあと3人連れて来ること』
これに従い、ルカは既に、幼馴染みのジェイクと、正エドゥアルト教会の司祭ネイトの勧誘に成功している。恥ずかしながら二人とも、ルカを最優先で守ってくれることに掛けては、疑いの余地はないという頼もしい存在だ。定員は既に埋まったようなものだが、しかし、ルカは当初から、親友のフィンレー以上に斥候隊加入を熱望している存在はいないと考えていた。
――フィンレー・アクセル・ボールドウィン。「救国の大剣士」と謳われる、グリテンバルド州の領主ヘクター・ボールドウィンを父に持つ彼は、常日頃から父の名に恥じない功績を残したいと望んでいた。その為の研鑽も怠らず、責任感の強さと真っ直ぐな気性は、同世代の友人であるルカであっても、尊敬の対象であるほどだ。魔王討伐隊の結成は、彼にとって千載一遇のチャンスでもあったのだが、他ならぬ父の偉大さのゆえに、この計画は頓挫した。ヘクター卿は国王アデルバート2世直々に隊長職を授かり、そのため優秀な跡取りは政務の全権を委任され、領地に留め置かれることになったのである。
フィンレーがどれほど悔しがっていたか、親友であるルカは誰よりもよく知っていた。
ベリンダによって討伐隊の結成が保留になった今、斥候隊が戻るまで、ヘクター卿が戦場へ出ることはない。フィンレーが活躍の場を求めるならば、それは小規模編成の斥候隊以外にないのではないか。
――きっと彼は、この提案を喜んでくれるはず。
「一緒に行こうよ、フィンレー!」
敢えて祖母に課された条件は持ち出さず、ルカはフィンレーに加入を勧めた。親友の立場で守ってもらうなどとおこがましい、というより、恥ずかしい。そうではなく、フィンレー自身が参加を望むはずだと信じていたからである。
しかしフィンレーは、驚いた様子でスミレ色の瞳を瞬かせた。
「……そうか……」
そう呟いたきり、何か考え込む風である。
――アレ?
想像していたのとは真逆の反応に、ルカもまた小さく瞳を見開いた。何か心境の変化でもあったのだろうか。だが、子供の頃からの信念が、こんな短期間で揺らぐとは思えない。
「……フィン?」
首を傾げたルカに対して、フィンレーは我に返った様子で詫びた。
「――ああ、悪い。実はさ……」
そうしてフィンレーの語ったところによると、実は先日、領内で隣のコノール州の商団が魔王軍に襲われるという事態が起こったらしい。事件自体は単純なものだったが、当の商団が証言を翻し、なぜかグリテンバルド州の別の商団が罪を着せられてトラブルが大きくなった。ヘクター卿が王宮から戻るにはまだ数日かかるらしく、フィンレーがその名代として対応しなければならないのだという。立て込んでいる執務というのも、主にはこれが原因なのだそうだ。
「まずはこっちを解決させてくれないか。こんなことも出来ないようじゃ、斥候隊に入っても足手まといになりかねないからな」
爽やかな笑顔で言い切られて、ルカは困惑した。普段のフィンレーであれば、斥候隊加入を承諾した上で、事態の解決に向けても尽力すると、前向きな宣言をしそうなものだ。斥候隊への加入自体を断られた訳ではないが、彼らしからぬ煮え切らない物言いに、違和感が募る。
「……わかった」
迷った末、ルカはひとまず頷いた。
頑張ってねと微笑んだのは、言いようのない不安が押し寄せて来るのを振り払うためだった。
明るいブラウンの髪をふわふわと躍らせながら、彼を慕うように飛び交う蝶達をおどけた様子で躱す姿は、見守る者すべての心を、優しく解きほぐしていくかのようだ。
吹き抜ける風につられるようにして振り返った先、庭園の中に建てられた豪奢な東屋の中から、自分を見詰める眼差しに気付いて、少年――ルカ・フェアリーベルは反射的に手を振った。大きな動作には照れ隠しの意味もあったが、屈託のない挙動が、より一層周囲の気持ちを和ませる。
応えるように手を振り返してくれたのは、ルカとよく似た明るい茶色の髪と、オレンジ色の瞳を持つ妙齢の美女、祖母のベリンダだ。16歳の孫を持つ女性にはとても見えない若々しい外見は、彼女の持つ強大な魔力の故である。本人が望んで若い頃の姿でいるのではなく、細胞の隅々にまで力が浸透しきっているため、結果として老いとは無縁の状態であるらしい。強大な魔力と良き行いを讃えて、人々は彼女を「黄金のベリンダ」と尊称する。
そして、溺愛する孫に向かって白魚のような手を振るベリンダとルカとを交互に見詰め、幸福そうに微笑んでいるのは、この屋敷の先代主人である、クリストファー・ボールドウィン卿だ。
ルカは今日、親友のフィンレーに会うために、領主館を訪れていた。フィンレーは現領主ヘクター・ボールドウィン卿の一人息子であり、現在は父の補佐を務めながら、政務を学んでいる。そのヘクター卿が不在の今、全権を委任され執務が立て込んでいるフィンレーに変わって、彼の祖父であるクリストファー卿が、ルカとベリンダのもてなしを買って出てくれているという訳だ。
季節の花々が爛漫と咲き誇る庭園の東屋で、美味しいお茶と、フィンレーのために持参したアップルパイを一緒にいただいてから、ルカは「お庭を見て来てもいいですか」と席を立った。見掛けは天使か妖精かと誉めそやされるルカも、中身は普通の少年であって、それほど草花に興味はない。20年以上前に妻を亡くしたクリストファー卿が、祖母に気のある風なのを気遣ってのことである。若くて美しいベリンダに興味があるというなら孫としては不快なだけだが、彼は力の大半を失い、歳相応の姿をしていた頃のベリンダに対しても、同じように紳士的に接していた。そのためか、祖母には少なくとも悪感情はない様子だ。ルカとしては、何となく男としてクリストファー卿の味方をしたいような気持ちにさせられても、おかしくはないだろう。
そして、花に興味はなかったとしても、領主館はルカが行き来した二つの世界のどちらにおいても、一番豪華で絢爛な場所であることに間違いはない。庭木も含め、色や種類で分けて植えられた植物は、見ているだけで楽しい気分になってくるから不思議だ。自然と戯れるなど、あちらの世界ではなかったことだが、こちらでは折に触れ、季節の変化を感じることが多い。
ふと、足元に敷き詰められた青い花に懐かしいものを感じて、ルカは足を止めた。祖母に連れられて、初めてこの領主館へ来た時も、咲いていたような気がする。そう、名前は確か――
「――!」
不意に強い風が吹き抜けて、ルカは思わず目を閉じた。同時に背後で靴音が聞こえて、ハッと振り返る。
「――出逢った頃のことを思い出すな」
青い花弁が舞い踊る中、現れたのは、執務を切り上げたらしいフィンレーだった。騎士の家系である彼は、普段から好んで軍服風の衣装を身に纏っているが、舞い散る花びらを背景に、銀色の髪を風になびかせ、紫色の瞳で優しく微笑む姿は、まるで物語に登場する王子様のようだ。それはきっと、彼が群を抜いた二枚目であるためなのだろうが、一緒に育ってきたルカとしては、何となくソワソワさせられるものがある。
――昔は、身長も同じくらいだったのに。
今では見上げなければ視線も合わせられないフィンレーが、それでも自分と同じ記憶を辿っていたということが嬉しくて、ルカは「そうだね」と微笑み返した。
「お茶は? パン屋のおばさんとこのアップルパイ持ってきたよ」
首を傾げると、フィンレーはルカの頭の上から背後の東屋を見遣り、「いや」と頭を振る。
「それは魅力的な提案だが――今はやめとく。邪魔になるだろ」
意味深なウィンクに、ルカは小さく肩を揺らした。生まれる前に祖母を亡くしている彼もまた、ルカと同じように、祖父の新しい恋を見守っている。積極的に協力をするほどではないが、多少なりとも気を遣う自分達のことを、以前フィンレーは「俺達っていい孫だよなぁ」と称したことがあった。その時のノリを思い出し、二人でひとしきり忍び笑う。好物のアップルパイは、後でゆっくり食べて貰えばいい。
「――今日はどうした?」
東屋とは逆方向へルカを促しながら、フィンレーが改めて聞いてきた。見識が広く、中央政界にも顔が利くベリンダの意見を重用する領主の側から彼女を呼び出すことはあっても、ベリンダが自分の意思でルカを連れて館へ遊びに来ることなど、まず有り得ない。ルカとフィンレーの間で遊ぶ約束でもあれば別だが、今日はそのどちらでもないのだ。
ここ数日の計画を、ようやく実行に移せる。
「――あのね」
意を決して、ルカは足を止め、フィンレーに向き直った。
ルカは元々、こちらの世界の生まれではない。
正確に言うなら、こちらに生まれ落ちるはずだったものが、生まれる前に受けた予言のために魔王の怒りを買い、極限状況の中を祖母の魔法で、別な次元へと落ち延びていたのだ。あちらの世界の母の胎内に辿り着いたルカは、数年後にベリンダによって発見され、以来夢を媒介に、あちらとこちらの世界を行き来しながら成長してきた。しかし、本来属するべきでない世界の空気はルカにとっては毒気と同じであり、徐々に身体は衰弱。16年の生涯を終える間際に、祖母の一世一代の大魔術によって、新たにこちらの世界へと転生を果たしたのである。
そして、世界はルカに、予言の履行を願った。「黄金のベリンダの血脈こそが、魔王を打ち倒す能力を持つ者である」――大賢者ホルストの今際の言葉は国を動かし、大規模な魔王討伐隊が結成される。
しかし、ルカの身を案じたベリンダによって、この計画は保留にされ、代わりに魔王軍の動向を探る目的で、斥候隊の派遣が可決された。これはベリンダの詭弁であり、彼女はすべての片を自分ひとりで付けるつもりであったのだが、同じように祖母の身を案じるルカの説得により、形通り斥候隊は組織されることとなる。
隊員の選抜を一任されているベリンダは、異世界育ちのルカを加入させるにあたって、1つの条件を出した。
『闘う力のないあなたを守ってくれる人を、私以外にあと3人連れて来ること』
これに従い、ルカは既に、幼馴染みのジェイクと、正エドゥアルト教会の司祭ネイトの勧誘に成功している。恥ずかしながら二人とも、ルカを最優先で守ってくれることに掛けては、疑いの余地はないという頼もしい存在だ。定員は既に埋まったようなものだが、しかし、ルカは当初から、親友のフィンレー以上に斥候隊加入を熱望している存在はいないと考えていた。
――フィンレー・アクセル・ボールドウィン。「救国の大剣士」と謳われる、グリテンバルド州の領主ヘクター・ボールドウィンを父に持つ彼は、常日頃から父の名に恥じない功績を残したいと望んでいた。その為の研鑽も怠らず、責任感の強さと真っ直ぐな気性は、同世代の友人であるルカであっても、尊敬の対象であるほどだ。魔王討伐隊の結成は、彼にとって千載一遇のチャンスでもあったのだが、他ならぬ父の偉大さのゆえに、この計画は頓挫した。ヘクター卿は国王アデルバート2世直々に隊長職を授かり、そのため優秀な跡取りは政務の全権を委任され、領地に留め置かれることになったのである。
フィンレーがどれほど悔しがっていたか、親友であるルカは誰よりもよく知っていた。
ベリンダによって討伐隊の結成が保留になった今、斥候隊が戻るまで、ヘクター卿が戦場へ出ることはない。フィンレーが活躍の場を求めるならば、それは小規模編成の斥候隊以外にないのではないか。
――きっと彼は、この提案を喜んでくれるはず。
「一緒に行こうよ、フィンレー!」
敢えて祖母に課された条件は持ち出さず、ルカはフィンレーに加入を勧めた。親友の立場で守ってもらうなどとおこがましい、というより、恥ずかしい。そうではなく、フィンレー自身が参加を望むはずだと信じていたからである。
しかしフィンレーは、驚いた様子でスミレ色の瞳を瞬かせた。
「……そうか……」
そう呟いたきり、何か考え込む風である。
――アレ?
想像していたのとは真逆の反応に、ルカもまた小さく瞳を見開いた。何か心境の変化でもあったのだろうか。だが、子供の頃からの信念が、こんな短期間で揺らぐとは思えない。
「……フィン?」
首を傾げたルカに対して、フィンレーは我に返った様子で詫びた。
「――ああ、悪い。実はさ……」
そうしてフィンレーの語ったところによると、実は先日、領内で隣のコノール州の商団が魔王軍に襲われるという事態が起こったらしい。事件自体は単純なものだったが、当の商団が証言を翻し、なぜかグリテンバルド州の別の商団が罪を着せられてトラブルが大きくなった。ヘクター卿が王宮から戻るにはまだ数日かかるらしく、フィンレーがその名代として対応しなければならないのだという。立て込んでいる執務というのも、主にはこれが原因なのだそうだ。
「まずはこっちを解決させてくれないか。こんなことも出来ないようじゃ、斥候隊に入っても足手まといになりかねないからな」
爽やかな笑顔で言い切られて、ルカは困惑した。普段のフィンレーであれば、斥候隊加入を承諾した上で、事態の解決に向けても尽力すると、前向きな宣言をしそうなものだ。斥候隊への加入自体を断られた訳ではないが、彼らしからぬ煮え切らない物言いに、違和感が募る。
「……わかった」
迷った末、ルカはひとまず頷いた。
頑張ってねと微笑んだのは、言いようのない不安が押し寄せて来るのを振り払うためだった。
あなたにおすすめの小説
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
マリオネットが、糸を断つ時。
せんぷう
BL
異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。
オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。
第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。
そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。
『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』
金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。
『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!
許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』
そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。
王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。
『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』
『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』
『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』
しかし、オレは彼に拾われた。
どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。
気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!
しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?
スラム出身、第十一王子の守護魔導師。
これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。
※BL作品
恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。
.
滅びる異世界に転生したけど、幼女は楽しく旅をする!
白夢
ファンタジー
何もしないでいいから、世界の終わりを見届けてほしい。
そう言われて、異世界に転生することになった。
でも、どうせ転生したなら、この異世界が滅びる前に観光しよう。
どうせ滅びる世界なら、思いっきり楽しもう。
だからわたしは旅に出た。
これは一人の幼女と小さな幻獣の、
世界なんて救わないつもりの放浪記。
〜〜〜
ご訪問ありがとうございます。
可愛い女の子が頼れる相棒と美しい世界で旅をする、幸せなファンタジーを目指しました。
ファンタジー小説大賞エントリー作品です。気に入っていただけましたら、ぜひご投票をお願いします。
お気に入り、ご感想、応援などいただければ、とても喜びます。よろしくお願いします!
23/01/08 表紙画像を変更しました
処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる
猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。
しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。
当然そんな未来は回避したい。
原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。
さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……?
平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。
ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)
【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!
煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。
処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。
なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、
婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。
最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・
やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように
仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。
クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・
と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」
と言いやがる!一体誰だ!?
その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・
ーーーーーーーー
この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に
加筆修正を加えたものです。
リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、
あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。
展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。
続編出ました
転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668
ーーーー
校正・文体の調整に生成AIを利用しています。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!
ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。
ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。
これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。
ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!?
ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19)
公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年の乙女ゲー転生BLです。
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。