小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵

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第2部・第3話:戦士覚醒

第4章

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 ワッと矯声を上げて、十数人からの男達が広場になだれ込んできた。服装や装備の点からも、山賊の一味と思われる。
 昨日の買い出し隊への襲撃、山道の破壊に続いての畳み掛けるような暴挙には、自分達の要求を飲まないサハス村を、何としても陥落させてやろうとの害意が透けて見えるようだ。恐らくは彼らも手勢を何班かに分け、魔法使いの居ない場所を選んで攻撃を仕掛けてきたのだろう。
 幸いにも炊き出しの女性達は、半数以上が第一班分の食事の後片付けに向かっており、留まっていたのは数人の女性と、まだ食事中の第二班の男達だけである。
「女性は家の中へ! 男達は武器を取れ!!」
 居合わせた者の中で最も地位が高く、場馴れしたフィンレーが声高に指示を出した。突然の事態に浮き足立ちかけた村人達は、我に返った様子で、各自が最善の行動を取り始める。
 女性達は手近な民家に駆け込み、男達はわずかな武器や、代わりになる農具を手に、奮然と山賊に立ち向かった。
 それでも、荒事あらごとに長けた犯罪者と善良な村人、力の差は歴然だったはずだ。
 しかし、これを補って余りあるのが、斥候隊せっこうたいの誇る剣士と戦士の二人。
 フィンレーは村人に指示を与えるや、即座に大剣を抜いて、広場の中央に躍り出た。ジェイクもまた戦斧せんぷを軽々と振り回して、敵の戦力を削いでいく。
 ニコラと共に、ネイトの背後に守られたルカは、固唾を飲んで事態の成り行きを見守っていた。ジェイクとフィンレーの活躍は目覚ましく、たかが10人ちょっとの山賊程度、蹴散らすことは容易い。レフがフードの中で、ぬいぐるみ体のままおとなしくしているのも、二人に任せていれば、ルカにまで危害が及ぶことはないと踏んでのことだろう。
 とはいえ、こちらも万全の体制ではないため、捕縛までは不可能なようだった。山賊の一掃を目指す以上は、少なくとも追跡程度は行いたいところだが、圧倒的な人員不足であることは、戦闘に不向きなルカであっても理解できる。
退け!!」
 形勢不利と見た山賊達が、一斉に退却を始めた。比較的あっさりとした引き際から察するに、元々本気の襲撃というよりも、脅しの意味合いが強かったのかもしれない。
 村人達が安堵に気を緩め、ルカも知らぬうち詰めていた息を吐き出した次の瞬間、背後の茂みがザッと揺れた。
 きゃあ、と甲高い悲鳴が聞こえて、反射的に振り返ったルカは、驚愕に目を見開く。森の中を進み、いつの間にかルカ達の背後に回っていたらしい山賊の一人が、ニコラの左腕を捉えていたのだ。悪党なりに、何かしらの成果を上げたいとでも考えたのかもしれない。
「ッ、ニコラ!!」
 慌てて手を伸ばそうとしたルカを、ネイトが強い力で引き寄せる。
 ルカの安全が確保された横を、ジェイクが素早く駆け抜けた。必死の抵抗を続けるニコラの空いた方の手を取り、山賊の顔面に拳を叩き込む。
 重たいパンチを受けて、山賊はニコラから手を離し、後方へ吹っ飛んだ。駆け付けてきた仲間達がほとんど引き摺るようにして、倒れ伏した男を回収していく。捕まってアジトの場所を吐かされることを、恐れているのかもしれない。
「大丈夫か!?」
 負傷者の確認をしていたフィンレーが、血相を変えて走り寄ってくる。
 「ああ」と答えるジェイクに腕を掴まれたまま、ニコラは泣き出しそうな顔で、何度も感謝を口にした。
「…………」
 ルカはネイトの腕の中で、村娘が恋心を一層募らせていく様子を、半ば呆然と見守るしかなかったのである。

                  ●

 午後からの復旧作業を第二班と共に、二か所目の崩落現場で終えたジェイクとフィンレーは、夕方近くになって村長宅の離れへ戻ってきた。
「ジェイク、ちょっといいかな」
 出迎えたルカが声をかけると、気を利かせてくれたらしいフィンレーが、「先にシャワー借りるぞ」と言い残して部屋の奥に消える。
 リビングに鎮座するネイトをチラリと見遣ってから、ジェイクはルカを庭先へと促した。ルカのフードの中には当然のようにぬいぐるみ姿のレフが居たが、「隠れ可愛いもの好き」のジェイクにとっては、ネイトの存在とは比べるべくもないのだろう。
 二人はそのまま、にれの木の木陰に入った。
 第二班と入れ替わるタイミングで村に戻ってきたベリンダとユージーンは、慌ただしく昼食を摂った後、再び山中に分け入ってから、まだ戻って来ていない。山賊の本拠地を探る傍ら、第四番目の崩落箇所を発見したとのことだったので、明日も引き続き復旧作業が行われる予定だ。この分ではアジトの探索にも手間取っているのだろう。
 かげり始めた陽射しからルカを庇うようにして、ジェイクは振り返った。
「――どうした?」
 彼の精悍な顔立ちが優しく微笑んでいるのは、久し振りにルカと二人の時間を持てたからだ。自身のルカに向ける感情が、もう一人の幼馴染み――ユージーンとは違うと思い込んでいるジェイクは、自分がルカと二人だけで話せることを嬉しいと感じている事実に気付いていない。
 ジェイク自身が理解できていないことが、他者からの好意に、ルカにわかるはずもなかった。
 不意に吹き抜けた風に、ルカの明るい色の髪がふわりと呷られる。甲斐甲斐しく撫で付けられた、大きなてのひらを覆う革手袋のほつれを、今また何となく目で追いながら、「あのね」とルカは言いにくそうに口を開いた。
「斥候隊に誘ったのは僕だけど……他にジェイクのしたいことがあれば、そっちを優先してくれていいからね?」
 絶妙に言葉を濁した曖昧な表現は、それでも、ルカなりの大譲歩だった。
 斥候隊として、ジェイクについてきてほしいと思ったのは事実だし、彼の意思で自分を守ると言ってもらえて、本当に嬉しかった。彼が傍に居なくなるなど、考えるだけで寂しくて悲しい気持ちになる。
 しかし、ネイトはジェイクが、ニコラのことを「満更でもなさそう」と言ったし、事実ジェイクは彼女のことを、常になく気に掛けてやっている風でもある。
 フィンレーもまた、ジェイクの気持ちを考えるなら、彼の望む通りにさせてやれと言った。
 降って湧いた結婚の話と、ニコラに優しいジェイクの姿にルカは動揺し、仲間達の発言の真意を見誤ったのである。
 ネイトはそもそもルカに近付くすべての人間を良く思っていないし、フィンレーは「ジェイクがルカの傍を離れたがるはずがない」との確信から、彼を信じてやれとの忠告をくれただけ。
 当然ながら、ルカの意思に反し、ジェイクは憤慨した。
 ルカにだけ見せる優しい表情は硬く凍り付き、強い風からルカを守ってくれていた掌がするりと離れていく。
「――やめろよ、お前まで」
「!」
 冷たい声音に、ルカはビクリと肩を震わせた。
 見上げたジェイクと視線が絡むことはなく、彼はそのままきびすを返して離れに戻ってしまう。
 幼馴染みの些細な心の機微きびまでには気付けなくとも、怒らせてしまったらしいことだけは、嫌というほど理解できた。
 出逢ってからこれまで、こんな風にジェイクに背を向けられたことはない。
 彼を思いやったつもりでいたルカは、縫い止められたように、その場に立ち竦むことしか出来なかった。
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