四本剣の最強剣士~魔王再討伐につき異世界転生~

右助

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第1話 剣士、始める

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 それはとても熟睡出来た時のような、そんな清々しい目覚めとも言えた。

「ここは……」

 起き上がってみると、男は柔らかなベッドと暖かな布団が目についた。触ってみるとその手触りの良さに思わず男は驚く。
 自分が寝ていたのはとても質の良い寝具だったようだ。だが、それだけで不信感が湧く理由としては十二分過ぎて。
 あの魔王を倒した時には既に血塗れのぐしゃぐしゃの状態であった。だからこそ、この状況に対する心当たりが一切ない。

「これが……転生という奴なのか」

 だが男には唯一の解答がその手にあった。
 自分の世界を守護しているという女神サクシリアから施された『リライフ』なる転生魔法。
 近くにあった姿見で自分を見てみると、嫌でも彼女の魔法を信じざるを得なかった。
 魔王と戦っていた時よりも、若い。そして、何より――。

「力が、湧いてくる。なんだこれは、あの守護女神とやらの力なのか? あの頃よりも速く動けそうな気がする」

 あの転生魔法には何かしらの付加効果が付けられていたのだろうか。自分が思う以上に身体を動かせる気がする。
 この場に木剣があれば素振りでもやったのだが、ないものねだりをしても仕方のないこと。まずは今自分がいるこの場所の情報を探る事が先決。
 
 ――その前に、やる事が出来た。

「誰だ」
「目を覚まされたのですね」

 扉の向こうから現れたのは、目も見張るような美女だった。
 歩くたびに白藤色の長髪がさらりと揺れる。

「身体の具合はどうですか?」

 美女は柔和な笑みを浮かべたまま男へ水差しを渡し、そのまま手近な椅子へ腰を下ろした。

(……何だ? 何か違和感が……)

 上手く言葉には出来なかったが、男は彼女に対し、何か引っ掛かりを感じていた。第一印象に悪い所が微塵も無かっただけに、不思議な感覚であった。

「どうぞ。この辺りの水はとても美味しいですよ」

 喉も乾いていたので、男は水差しを一息で煽る。彼女の雰囲気のせいだろうか、毒の可能性を考慮に入れていなかったのは自分でも驚いた。

「怖いほど何ともない。……あんたがここまで?」
「ええ。貴方が倒れていた場所が場所だっただけに、少々焦りはしましたけどね」

 そう言ってくすくすと笑う美女に、感じるものが無かったわけではないが、今の男には色々と気になる事が多すぎた。

「あんたの名前は? それに、ここは一体どこだ? 周りに強い気配を沢山感じるんだが」
「あら、周囲が分かるのですね?」
「ここまで敵意を感じればな」
「せいかー……んんっ。ええ。少々気の荒い魔物しかいないので紹介しようにもそれは難しいですが」
「なるほどな……ならあとで挨拶にでも行くとするか」
「お、中々血気盛んだね…………コホン。とまあ、先に名乗っておきましょうかね」

 咳払いを一つしたあと、美女は右手を胸元に、左手は軽く広げた。さながら役者のように、彼女は名乗る。

「私はネイム・フローラインと申します。そしてここは大陸の東方面、サイファル地方に存在するシュージリア山の山頂にある私の家です」

 サイファル地方、シュージリア山。全く聞いたことのない単語に男は動揺を悟られないよう努めた。
 少なくとも、このネイムと名乗る女性にだけは隙を見せてはいけないと本能が警鐘を鳴らしている。

(油断できないな)

 そこでようやく男はずっと感じていた違和感を口にすることが出来た。

「……ところで何であんた、そんな喋り方なんだ? 楽に話せないのか? 無理して話されても集中できないんだが」

 ピシリ、とそんな擬音が出るくらいに固まった彼女。
 何かマズい事でも触れたのか、そんな風に男が少しばかり言動を振り返っていた辺りで彼女は言った。

「……いつから、そんな風に感じてたの、でしょうかな?」

 後半“でしょうかな?”などというおかしな語尾になっていたのは流石に含めず、男はストレートに言ってやった。

「最初から、何だかこう無理しているというかそんな感じがした」
「……はぁ。やっぱりこういうキャラって似合わないのかなぁ」

 誰に言うでもなく、自問自答し、やがて諦めたように大きく頷いた。

「もー! 君が鋭すぎるから折角作り上げようとしたザ・余裕のあるお姉さま感崩れちゃったよー!」
「……見たところそっちが年上なのは間違いなさそうだが」
「それはそれ、これはこれなの!」

 ぷりぷりと怒りながらも、彼女は続ける。

「それよりも君! そろそろ君の名前を教えてよ!」
「アルム。アルム・ルーベンだ」
「アルム君ね! 改めてよろしくね!」

 自己紹介が終わったところで、アルムはベッドから起き上がった。
 やらなくてはならないことがある。この世界のどこかに現れたのであろう魔王の痕跡を見つけ出し、今度こそ完全に滅殺するという目的が。
 一分一秒すら惜しい。すぐにでも行動を起こす……ためにはこの世界の住人であるネイムの知識を借りることが必要不可欠であった。

「あの、あんたに――」
「そのあんたは禁止ー! 私にはネイムって名前があるんだし、年上? なんだよ! だからネイム“さん”!」

 すぐにでも口を返すのがアルムの性分なのだが、中々どうしてネイムの言葉に反抗する気が起きなかった。

「分かった。……俺には目的がある。そのためにネイム、さんに色々と教えて欲しい」

 そう前置き、アルムは目的を語る。
 流石に魔王やら守護女神やら転生魔法の事を喋っても頭の心配をされそうなので、要点だけを簡潔に。

「なるほど正体不明の化物に肉親を殺されたからその復讐、か」
「ああ。人型の魔物だ。この世界の魔物で思い当たる節は無いか?」
「え、この世界?」
「……気にしないでくれ。ネイムさんの思い当たる範囲で良いから、教えて欲しい。頼む。苦しい事にその時のショックで色々とすぐには思い出せないんだ」

 魔物という言葉が出てくるということはこの世界も自分が元居た世界に近い可能性が高い。
 そう踏んだ男は動機を捏造するのにさして苦労はしなかった。

「人型の魔物で、正体不明ってことはあまり見かけない種類ってことだよね……となれば、魔族なんじゃないんかな?」
「魔族……」
「何か人の言葉を使ってたりしてた?」
「……ああ、それはもう流暢に使っていたな」

 嘘は言っていない。
 “ぶっ潰れろ”や“しゃらくせえ攻撃してんじゃねえ!”なんて言葉を戦闘中ずっと聞かされていたのだ。自分の頭が狂ってでもいなければ間違いなくあの魔王は人の言葉を使っていた。
 それを聞いた彼女の顔が少しだけ引き締まる。

「じゃあ……魔族の中でも上の存在、階級持ちの魔族かな?」
「階級持ちの魔族、か。そいつらにはどこで会える?」
「うーん……」

 そこでネイムは一旦言葉を止め、近くのクローゼットの扉を開いた。
 その中に武器がびっしりと揃えられていた。剣、弓、槍、斧、杖、鎖などなど一体何本あるのか、数えきれないほどに。
 彼女はその中から木剣を二振り取り出し、その内の一本をアルムへと渡す。

「はいこれ!」
「良い木剣だ。だいぶ質の高い木を使っているんだな」
「ボクスリの木を使っているからねー強度は申し分ないよ!」
「……それで、何で今俺に渡す?」
「んーっとね。アルム君ってどうも色々と分かっていないみたいだし、それにこれからの事を考えるために確かめておかなきゃならないこともあるから――」

 笑顔で、彼女は言った。

「外に出ようか! 軽く君の実力を見せてよ! 話はその後にしてあげる!」
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