四本剣の最強剣士~魔王再討伐につき異世界転生~

右助

文字の大きさ
7 / 45

第6話 剣士、出会う

しおりを挟む
 最後に、魔王を復活させる集団の名前を教えてもらった所で、ようやくアルムは解放された。

 ――『魔王の爪』。

 この先、良く聞くことになりそうな名前をしっかりと記憶しつつ、彼は目的の場所まで辿り着いた。
 掲示板にずらりと貼られている依頼書の数々。そう、彼は何か手ごろな依頼でも受けて、美味しい物を食べる算段だった。
 王都に入る前の換金でお金こそあるものの、それがいつまでも使える量ではないことは何となく感じていたからこそだ。
 端から端まで眺めると、実に様々な依頼があった。
 『シュージリア山のグレイドラゴン討伐』という明らかにヤバそうなのから、『猫探し』なんていう実に平和そうなのまで。

(シュージリア山にドラゴンいるんだな。殺っておけば良かったな)

 と言っても、今さら戻る気にもなれない。決して行ったらネイムが笑って斬りかかってきそうだから、というわけではない。
 そんな事を考えていると、ふと目に留まった依頼があった。
 『ファーラ平原でチャージ・カウが暴れている。討伐してきてくれた者に5,000エルド。期間は一週間』、ファーラ平原と言うのがどこか分からないが、この期間なら手近な所だろうというのが、選択理由である。
 チャージ・カウというのがどれほどの強さの魔物か、この報酬はそれに釣り合っているのか、その辺りの相場が全く分かっていないアルムは改めて異世界に来たのだな、と謎の感慨にふける。
 いつまでも突っ立って訳にはいかない。その依頼書を受けようと手を伸ばした――。


「あっ……」


 別方向から伸びて来た手と重なってしまった。
 伸びてきた方向へ顔を向けると、手の主は茶髪ポニーテールのなんとも愛嬌のある少女であった。
 彼女の視線は重なった手と、そしてアルムの顔を何度も行ったり来たりし、そして最後には顔がリンゴのように真っ赤となる。

「す、すいませんすいません! 失礼しました!」
「いや、良い。あんたもこの依頼狙ってたのか、じゃあやるよ」
「いえいえ! どう見ても私の手が上にあったので、そちらに受ける権利があります! 私は違う依頼を探すことにします!」

 アルムは強引に引こうとする彼女を何とか止め、両方が幸せになれる提案をする。

「じゃあ二人でやらないか?」
「二人で……?」

 その発想は全くなかったと、目を丸くする彼女。流れを掴めたアルムはここぞとばかりに畳みかける。

「恥ずかしながら、俺は今日なり立ての冒険者だ。だから、誰か手伝ってくれそうな奴を探していたんだよ」

 嘘も方便、と心の中で言い聞かせながら、彼女の反応を伺う。これで断られたらもう知らない。強引に押し付け、一度冒険者ギルドを出るつもりでいた。
 そんな雰囲気を感じ取ったのか、彼女は何だかそわそわと落ち着かない様子であった。

「そ、そういう事でしたら、その……私も冒険者になって三日目なので、それでも良いのでしたら、あの……お邪魔じゃないですか?」

 煮え切らない。一言、バッサリと切っても良かったのだが、それをグッと飲み込む。今日冒険者になったばかりと言うのは本当のこと。
 万が一、自分の知識不足から来る行動で報酬がおじゃんになるようであれば笑えない話である。だからこそアルムは、最初から同業者に一人――三日目というのが非常に気になるが――付いて来てもらうつもりでいた。
 最初に譲ろうとしたのは、突然の事だった故の反射的な行動であった。

「自信を持ってくれ。三日とはいえ、俺より先輩なのは間違いない。それで、俺の手伝いを引き受けてくれるのだろうか?」

 すると、少女はにこっと笑い、はきはきと答えた。

「はいっ! 私でよければ全力で頑張ります! よろしくお願いしますね!」
「ああ、頼りにさせてもらう。……アルム・ルーベンだ」
「私はイーリス・シルバートンと申します! 頑張りましょうアルムさん!!」

 交わされる手と手。
 イーリス・シルバートンと名乗る少女との出会いは、間違いなく四本剣の剣士アルムに影響を与えた。今は分からずとも、じわりじわりと、確実に。

「さて、じゃあ行くか」
「へ? 行くってどこにですか?」

 アルムはそのままイーリスの手を引き、カウンターまで行き依頼を引き受けてから、町へと飛び出した。

「……アルムさんって結構強引なんですね」
「何の話だ? それよりも。時は有限なんだ。早速、薬を扱っている店に行きたい。案内を頼む」
「何か買うんですか?」
「そうだな、色々と揃えたい」

 イーリスの案内で難なく薬屋に辿り着いたアルムは、店主のところまでずかずかと歩いていく。

「よういらっしゃい。何かお探しかい?」
「傷薬や毒消しの薬、他にも初心者の冒険者に必要そうなのを見繕ってもらいたい」

 “初心者の冒険者”、その単語に薬屋の店主の眼の色が変わった。

「珍しいなあんた。みんな薬なんざ適当に買っていくのに」
「俺は思い込みの知識よりも、専門家の話を重視しているだけだ」
「ははは! 気に入ったよ! そっちの可愛いお嬢ちゃんの分も含めて、いくらかオマケしてやるよ!」
「私もですか!? あ、ありがとうございます!」

 商売トークではなく、本当に薬やら値段やらオマケしてくれたことに感謝を覚えつつ、薬の準備を整えたアルムとイーリスは町の大通りを歩いていた。

「イーリスって言ったか?」
「はい! そうですよ! どうしました?」
「大事な事を聞きたい」

 アルムの神妙な面持ちに、イーリスは思わず姿勢を正した。
 ここまで行動を共にした感想であったが、何だか今日冒険者になった人の行動とはとても思えなかっただけに、彼女は一体何を聞かれるのか内心ドギマギしていた。

「ファーラ平原ってどこだ?」
「……ファーラ平原?」
「ああ。目的地だろう、生憎知らずに引き受けたものでな」

 彼女はぽかんとし、そして微笑んだ。
 断じて嘲笑などではない。この気持ちを言葉に表すのならばそう――安心。

「何を笑っている?」
「いえ! 全然笑ってませんよ! ただ、アルムさんも私と同じでまだまだ駆け出しなんだなぁって」
「だからそう言っていただろう。……ところでイーリス、また一つ良いか?」
「え、何ですか?」

 思えば薬屋を出た時から指摘するべきだったと思いながら、アルムはイーリスを、正確にはへと指さした。

「俺の見間違いじゃなければ、食べるものがどんどん変わっているように見えるんだが……」
「ほうへふか?」

 いつの間にか蒸かした芋を頬張っていた彼女の、一体どこにそんな食欲があるのか。既に五回は食べ物が変わっている。
 食べられるときに食べるというのは戦士にとって基本中の基本ではあるが、それでも限度というものがある。逆に羨ましいぐらいの食べっぷりである。
 などと思っている間にまたどこかの出店で串焼きを買っている光景はもはや微笑ましい。

「とりあえず、飲み込もうな」
「んくっ、あはは……すいません。私って燃費が悪いのか、いつもお腹が空いてしまって……」
「腹は減るもんだしな。仕方ない」
「よ、よぉし! いつまでも食べていられませんよアルムさん! いざファーラ平原へ!」
「待て、引っ張るな!」

 割と力が強いイーリスに引っ張られながら、アルム・ルーベンはこの異世界に来て初めての依頼に勤しむこととなる。
 アルムは自分の胸に手を当ててみた。本当の駆け出しだった頃、未知の敵に立ち向かおうとしたあの時の高揚感。それが今、再びこうして味わえることに、不思議な感覚を覚えていた。

「あ!」
「……どうしたイーリス?」

 引っ張られている途中で止まるものだから少しだけつんのめってしまったアルムは、批判の気持ちを込めながら一睨みすると、彼女は申し訳なさそうに頭を下げた。

「あの……ファーラ平原に行く前に、もう一本だけ、その、ドロウ・イーグルの串焼き食べても良いですか?」

 いつもなら何か言い返すアルムでも、そこまで申し訳なさそうに言われてしまっては、頷くしかなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

主人公に殺されるゲームの中ボスに転生した僕は主人公とは関わらず、自身の闇落ちフラグは叩き折って平穏に勝ち組貴族ライフを満喫したいと思います

リヒト
ファンタジー
 不幸な事故の結果、死んでしまった少年、秋谷和人が転生したのは闇落ちし、ゲームの中ボスとして主人公の前に立ちふさがる貴族の子であるアレス・フォーエンス!?   「いや、本来あるべき未来のために死ぬとかごめんだから」  ゲームの中ボスであり、最終的には主人公によって殺されてしまうキャラに生まれ変わった彼であるが、ゲームのストーリーにおける闇落ちの運命を受け入れず、たとえ本来あるべき未来を捻じ曲げてても自身の未来を変えることを決意する。    何の対策もしなければ闇落ちし、主人公に殺されるという未来が待ち受けているようなキャラではあるが、それさえなければ生まれながらの勝ち組たる権力者にして金持ちたる貴族の子である。  生まれながらにして自分の人生が苦労なく楽しく暮らせることが確定している転生先である。なんとしてでも自身の闇落ちをフラグを折るしかないだろう。  果たしてアレスは自身の闇落ちフラグを折り、自身の未来を変えることが出来るのか!? 「欲張らず、謙虚に……だが、平穏で楽しい最高の暮らしを!」  そして、アレスは自身の望む平穏ライフを手にすることが出来るのか!?    自身の未来を変えようと奮起する少年の異世界転生譚が今始まる!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...