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第6話 剣士、出会う
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最後に、魔王を復活させる集団の名前を教えてもらった所で、ようやくアルムは解放された。
――『魔王の爪』。
この先、良く聞くことになりそうな名前をしっかりと記憶しつつ、彼は目的の場所まで辿り着いた。
掲示板にずらりと貼られている依頼書の数々。そう、彼は何か手ごろな依頼でも受けて、美味しい物を食べる算段だった。
王都に入る前の換金でお金こそあるものの、それがいつまでも使える量ではないことは何となく感じていたからこそだ。
端から端まで眺めると、実に様々な依頼があった。
『シュージリア山のグレイドラゴン討伐』という明らかにヤバそうなのから、『猫探し』なんていう実に平和そうなのまで。
(シュージリア山にドラゴンいるんだな。殺っておけば良かったな)
と言っても、今さら戻る気にもなれない。決して行ったらネイムが笑って斬りかかってきそうだから、というわけではない。
そんな事を考えていると、ふと目に留まった依頼があった。
『ファーラ平原でチャージ・カウが暴れている。討伐してきてくれた者に5,000エルド。期間は一週間』、ファーラ平原と言うのがどこか分からないが、この期間なら手近な所だろうというのが、選択理由である。
チャージ・カウというのがどれほどの強さの魔物か、この報酬はそれに釣り合っているのか、その辺りの相場が全く分かっていないアルムは改めて異世界に来たのだな、と謎の感慨にふける。
いつまでも突っ立って訳にはいかない。その依頼書を受けようと手を伸ばした――。
「あっ……」
別方向から伸びて来た手と重なってしまった。
伸びてきた方向へ顔を向けると、手の主は茶髪ポニーテールのなんとも愛嬌のある少女であった。
彼女の視線は重なった手と、そしてアルムの顔を何度も行ったり来たりし、そして最後には顔がリンゴのように真っ赤となる。
「す、すいませんすいません! 失礼しました!」
「いや、良い。あんたもこの依頼狙ってたのか、じゃあやるよ」
「いえいえ! どう見ても私の手が上にあったので、そちらに受ける権利があります! 私は違う依頼を探すことにします!」
アルムは強引に引こうとする彼女を何とか止め、両方が幸せになれる提案をする。
「じゃあ二人でやらないか?」
「二人で……?」
その発想は全くなかったと、目を丸くする彼女。流れを掴めたアルムはここぞとばかりに畳みかける。
「恥ずかしながら、俺は今日なり立ての冒険者だ。だから、誰か手伝ってくれそうな奴を探していたんだよ」
嘘も方便、と心の中で言い聞かせながら、彼女の反応を伺う。これで断られたらもう知らない。強引に押し付け、一度冒険者ギルドを出るつもりでいた。
そんな雰囲気を感じ取ったのか、彼女は何だかそわそわと落ち着かない様子であった。
「そ、そういう事でしたら、その……私も冒険者になって三日目なので、それでも良いのでしたら、あの……お邪魔じゃないですか?」
煮え切らない。一言、バッサリと切っても良かったのだが、それをグッと飲み込む。今日冒険者になったばかりと言うのは本当のこと。
万が一、自分の知識不足から来る行動で報酬がおじゃんになるようであれば笑えない話である。だからこそアルムは、最初から同業者に一人――三日目というのが非常に気になるが――付いて来てもらうつもりでいた。
最初に譲ろうとしたのは、突然の事だった故の反射的な行動であった。
「自信を持ってくれ。三日とはいえ、俺より先輩なのは間違いない。それで、俺の手伝いを引き受けてくれるのだろうか?」
すると、少女はにこっと笑い、はきはきと答えた。
「はいっ! 私でよければ全力で頑張ります! よろしくお願いしますね!」
「ああ、頼りにさせてもらう。……アルム・ルーベンだ」
「私はイーリス・シルバートンと申します! 頑張りましょうアルムさん!!」
交わされる手と手。
イーリス・シルバートンと名乗る少女との出会いは、間違いなく四本剣の剣士アルムに影響を与えた。今は分からずとも、じわりじわりと、確実に。
「さて、じゃあ行くか」
「へ? 行くってどこにですか?」
アルムはそのままイーリスの手を引き、カウンターまで行き依頼を引き受けてから、町へと飛び出した。
「……アルムさんって結構強引なんですね」
「何の話だ? それよりも。時は有限なんだ。早速、薬を扱っている店に行きたい。案内を頼む」
「何か買うんですか?」
「そうだな、色々と揃えたい」
イーリスの案内で難なく薬屋に辿り着いたアルムは、店主のところまでずかずかと歩いていく。
「よういらっしゃい。何かお探しかい?」
「傷薬や毒消しの薬、他にも初心者の冒険者に必要そうなのを見繕ってもらいたい」
“初心者の冒険者”、その単語に薬屋の店主の眼の色が変わった。
「珍しいなあんた。みんな薬なんざ適当に買っていくのに」
「俺は思い込みの知識よりも、専門家の話を重視しているだけだ」
「ははは! 気に入ったよ! そっちの可愛いお嬢ちゃんの分も含めて、いくらかオマケしてやるよ!」
「私もですか!? あ、ありがとうございます!」
商売トークではなく、本当に薬やら値段やらオマケしてくれたことに感謝を覚えつつ、薬の準備を整えたアルムとイーリスは町の大通りを歩いていた。
「イーリスって言ったか?」
「はい! そうですよ! どうしました?」
「大事な事を聞きたい」
アルムの神妙な面持ちに、イーリスは思わず姿勢を正した。
ここまで行動を共にした感想であったが、何だか今日冒険者になった人の行動とはとても思えなかっただけに、彼女は一体何を聞かれるのか内心ドギマギしていた。
「ファーラ平原ってどこだ?」
「……ファーラ平原?」
「ああ。目的地だろう、生憎知らずに引き受けたものでな」
彼女はぽかんとし、そして微笑んだ。
断じて嘲笑などではない。この気持ちを言葉に表すのならばそう――安心。
「何を笑っている?」
「いえ! 全然笑ってませんよ! ただ、アルムさんも私と同じでまだまだ駆け出しなんだなぁって」
「だからそう言っていただろう。……ところでイーリス、また一つ良いか?」
「え、何ですか?」
思えば薬屋を出た時から指摘するべきだったと思いながら、アルムはイーリスを、正確には彼女の手に持っている物へと指さした。
「俺の見間違いじゃなければ、食べるものがどんどん変わっているように見えるんだが……」
「ほうへふか?」
いつの間にか蒸かした芋を頬張っていた彼女の、一体どこにそんな食欲があるのか。既に五回は食べ物が変わっている。
食べられるときに食べるというのは戦士にとって基本中の基本ではあるが、それでも限度というものがある。逆に羨ましいぐらいの食べっぷりである。
などと思っている間にまたどこかの出店で串焼きを買っている光景はもはや微笑ましい。
「とりあえず、飲み込もうな」
「んくっ、あはは……すいません。私って燃費が悪いのか、いつもお腹が空いてしまって……」
「腹は減るもんだしな。仕方ない」
「よ、よぉし! いつまでも食べていられませんよアルムさん! いざファーラ平原へ!」
「待て、引っ張るな!」
割と力が強いイーリスに引っ張られながら、アルム・ルーベンはこの異世界に来て初めての依頼に勤しむこととなる。
アルムは自分の胸に手を当ててみた。本当の駆け出しだった頃、未知の敵に立ち向かおうとしたあの時の高揚感。それが今、再びこうして味わえることに、不思議な感覚を覚えていた。
「あ!」
「……どうしたイーリス?」
引っ張られている途中で止まるものだから少しだけつんのめってしまったアルムは、批判の気持ちを込めながら一睨みすると、彼女は申し訳なさそうに頭を下げた。
「あの……ファーラ平原に行く前に、もう一本だけ、その、ドロウ・イーグルの串焼き食べても良いですか?」
いつもなら何か言い返すアルムでも、そこまで申し訳なさそうに言われてしまっては、頷くしかなかった。
――『魔王の爪』。
この先、良く聞くことになりそうな名前をしっかりと記憶しつつ、彼は目的の場所まで辿り着いた。
掲示板にずらりと貼られている依頼書の数々。そう、彼は何か手ごろな依頼でも受けて、美味しい物を食べる算段だった。
王都に入る前の換金でお金こそあるものの、それがいつまでも使える量ではないことは何となく感じていたからこそだ。
端から端まで眺めると、実に様々な依頼があった。
『シュージリア山のグレイドラゴン討伐』という明らかにヤバそうなのから、『猫探し』なんていう実に平和そうなのまで。
(シュージリア山にドラゴンいるんだな。殺っておけば良かったな)
と言っても、今さら戻る気にもなれない。決して行ったらネイムが笑って斬りかかってきそうだから、というわけではない。
そんな事を考えていると、ふと目に留まった依頼があった。
『ファーラ平原でチャージ・カウが暴れている。討伐してきてくれた者に5,000エルド。期間は一週間』、ファーラ平原と言うのがどこか分からないが、この期間なら手近な所だろうというのが、選択理由である。
チャージ・カウというのがどれほどの強さの魔物か、この報酬はそれに釣り合っているのか、その辺りの相場が全く分かっていないアルムは改めて異世界に来たのだな、と謎の感慨にふける。
いつまでも突っ立って訳にはいかない。その依頼書を受けようと手を伸ばした――。
「あっ……」
別方向から伸びて来た手と重なってしまった。
伸びてきた方向へ顔を向けると、手の主は茶髪ポニーテールのなんとも愛嬌のある少女であった。
彼女の視線は重なった手と、そしてアルムの顔を何度も行ったり来たりし、そして最後には顔がリンゴのように真っ赤となる。
「す、すいませんすいません! 失礼しました!」
「いや、良い。あんたもこの依頼狙ってたのか、じゃあやるよ」
「いえいえ! どう見ても私の手が上にあったので、そちらに受ける権利があります! 私は違う依頼を探すことにします!」
アルムは強引に引こうとする彼女を何とか止め、両方が幸せになれる提案をする。
「じゃあ二人でやらないか?」
「二人で……?」
その発想は全くなかったと、目を丸くする彼女。流れを掴めたアルムはここぞとばかりに畳みかける。
「恥ずかしながら、俺は今日なり立ての冒険者だ。だから、誰か手伝ってくれそうな奴を探していたんだよ」
嘘も方便、と心の中で言い聞かせながら、彼女の反応を伺う。これで断られたらもう知らない。強引に押し付け、一度冒険者ギルドを出るつもりでいた。
そんな雰囲気を感じ取ったのか、彼女は何だかそわそわと落ち着かない様子であった。
「そ、そういう事でしたら、その……私も冒険者になって三日目なので、それでも良いのでしたら、あの……お邪魔じゃないですか?」
煮え切らない。一言、バッサリと切っても良かったのだが、それをグッと飲み込む。今日冒険者になったばかりと言うのは本当のこと。
万が一、自分の知識不足から来る行動で報酬がおじゃんになるようであれば笑えない話である。だからこそアルムは、最初から同業者に一人――三日目というのが非常に気になるが――付いて来てもらうつもりでいた。
最初に譲ろうとしたのは、突然の事だった故の反射的な行動であった。
「自信を持ってくれ。三日とはいえ、俺より先輩なのは間違いない。それで、俺の手伝いを引き受けてくれるのだろうか?」
すると、少女はにこっと笑い、はきはきと答えた。
「はいっ! 私でよければ全力で頑張ります! よろしくお願いしますね!」
「ああ、頼りにさせてもらう。……アルム・ルーベンだ」
「私はイーリス・シルバートンと申します! 頑張りましょうアルムさん!!」
交わされる手と手。
イーリス・シルバートンと名乗る少女との出会いは、間違いなく四本剣の剣士アルムに影響を与えた。今は分からずとも、じわりじわりと、確実に。
「さて、じゃあ行くか」
「へ? 行くってどこにですか?」
アルムはそのままイーリスの手を引き、カウンターまで行き依頼を引き受けてから、町へと飛び出した。
「……アルムさんって結構強引なんですね」
「何の話だ? それよりも。時は有限なんだ。早速、薬を扱っている店に行きたい。案内を頼む」
「何か買うんですか?」
「そうだな、色々と揃えたい」
イーリスの案内で難なく薬屋に辿り着いたアルムは、店主のところまでずかずかと歩いていく。
「よういらっしゃい。何かお探しかい?」
「傷薬や毒消しの薬、他にも初心者の冒険者に必要そうなのを見繕ってもらいたい」
“初心者の冒険者”、その単語に薬屋の店主の眼の色が変わった。
「珍しいなあんた。みんな薬なんざ適当に買っていくのに」
「俺は思い込みの知識よりも、専門家の話を重視しているだけだ」
「ははは! 気に入ったよ! そっちの可愛いお嬢ちゃんの分も含めて、いくらかオマケしてやるよ!」
「私もですか!? あ、ありがとうございます!」
商売トークではなく、本当に薬やら値段やらオマケしてくれたことに感謝を覚えつつ、薬の準備を整えたアルムとイーリスは町の大通りを歩いていた。
「イーリスって言ったか?」
「はい! そうですよ! どうしました?」
「大事な事を聞きたい」
アルムの神妙な面持ちに、イーリスは思わず姿勢を正した。
ここまで行動を共にした感想であったが、何だか今日冒険者になった人の行動とはとても思えなかっただけに、彼女は一体何を聞かれるのか内心ドギマギしていた。
「ファーラ平原ってどこだ?」
「……ファーラ平原?」
「ああ。目的地だろう、生憎知らずに引き受けたものでな」
彼女はぽかんとし、そして微笑んだ。
断じて嘲笑などではない。この気持ちを言葉に表すのならばそう――安心。
「何を笑っている?」
「いえ! 全然笑ってませんよ! ただ、アルムさんも私と同じでまだまだ駆け出しなんだなぁって」
「だからそう言っていただろう。……ところでイーリス、また一つ良いか?」
「え、何ですか?」
思えば薬屋を出た時から指摘するべきだったと思いながら、アルムはイーリスを、正確には彼女の手に持っている物へと指さした。
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「ほうへふか?」
いつの間にか蒸かした芋を頬張っていた彼女の、一体どこにそんな食欲があるのか。既に五回は食べ物が変わっている。
食べられるときに食べるというのは戦士にとって基本中の基本ではあるが、それでも限度というものがある。逆に羨ましいぐらいの食べっぷりである。
などと思っている間にまたどこかの出店で串焼きを買っている光景はもはや微笑ましい。
「とりあえず、飲み込もうな」
「んくっ、あはは……すいません。私って燃費が悪いのか、いつもお腹が空いてしまって……」
「腹は減るもんだしな。仕方ない」
「よ、よぉし! いつまでも食べていられませんよアルムさん! いざファーラ平原へ!」
「待て、引っ張るな!」
割と力が強いイーリスに引っ張られながら、アルム・ルーベンはこの異世界に来て初めての依頼に勤しむこととなる。
アルムは自分の胸に手を当ててみた。本当の駆け出しだった頃、未知の敵に立ち向かおうとしたあの時の高揚感。それが今、再びこうして味わえることに、不思議な感覚を覚えていた。
「あ!」
「……どうしたイーリス?」
引っ張られている途中で止まるものだから少しだけつんのめってしまったアルムは、批判の気持ちを込めながら一睨みすると、彼女は申し訳なさそうに頭を下げた。
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