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第7話 剣士、初依頼に挑む
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ファーラ平原とは王都サイファルの南側に存在する広大な大地の名称である。
魔物こそいるがそこまで凶悪な類はおらず、そこをメインで行き交う商隊も、雇った護衛で何とか対処できるほどである。
この魔物が跋扈する世界基準で、平和と呼んで差し支えないそこに厄介者が現れた。
凶悪な突進力といくら攻撃を加えても怯まないタフネスを併せ持つ猛牛『チャージ・カウ』。
「なあ、イーリス」
「はい?」
アルムの予想では本当によくある牛サイズだと思っていた。だからこそさっくり殺して、ありがたく報酬を受け取ろうと画策していたのだ。
だというのに、この更に二回りは大きなこのサイズは一体どう説明を付ければいいのだろうか。
「チャージ・カウとやらはあんなに大きいのか?」
「え!? チャージ・カウと言ったら巨大生物の代名詞ですよ!? 知らなかったんですか!?」
あんなものに、まともに突っ込まれたらまず間違いなく死ぬ。踏みつぶされるのが先か、跳ね飛ばされて全身を強く打つのが先か。
それよりも、あの牛は割と有名な魔物だったようだ。イーリスにだいぶ驚かれたのは失態と言って良いだろう。
……思考を切り替える。
今は目の前のデカブツをどうにかして倒す方向に精を出さなければいけない。
「生憎と、話に聞いていただけでな。それで、こいつには何か弱点があるのか?」
「弱点……う~ん、聞いたことないですね」
真っ向勝負。得意分野ではあるが、最初の依頼ぐらい、こうスマートに済ませてみたい気持ちがあるアルムは、まだこちらに気付いていないチャージ・カウ相手に思考を巡らせる。
「ところでイーリス。魔法ってどういう類のを使える? ちなみに俺は使えない」
「ええっ!? アルムさん、それ冗談じゃないですよね!?」
イーリスがあまりにも大仰なリアクションだったので詳しく聞いてみたアルムは、なんなら聞かなければ良かったというレベルで後悔した。
要はこういうことである。
――冒険者になろうという者が、攻撃魔法の一つも覚えていないのは中々いない。
胸に矢を喰らったような思いである。だが、そう言われてまず思い出すのが、冒険者ギルド内で魔法をぶっ放そうとしたキール・バームサスである。
アルムのいた世界でも当然攻撃魔法は存在していた。何せ魔王ガルガディア率いる軍団が皆、当たり前のように使っていたのだ。
かといって、詳細を思い出そうとしても、件の魔王ガルガディアの慈悲の欠片もない攻撃魔法のことしか思い出せないのが何とも哀れと自嘲するところである。
「……魔力の扱いは昔から苦手なんだよ」
これは事実である。アルムが昔からやってきた魔力の使い方と言えば、武器に魔力を纏わせて強引に相手の攻撃魔法を打ち破る、これだけである。
「き、気にすることはありませんよ! ちなみに私の得意な魔法は、水を操る魔法です!」
と言いつつ、彼女は手のひらから小さな水球を生み出した。
「おお、水か。色々使えそうだな」
『ウォーターボール』、という基本的な水属性の魔法らしい。魔力を調整することで大きさを自由に変えることができるその魔法のことを頭の片隅に置き、チャージ・カウをいかに屠るか思考を巡らせる。
真っ向勝負で挑んでもいいが、何もいたずらに傷つく必要はない。使えるものは最大限に使ってみせる。
「あ、ちなみにいくつか数も増やせますよ」
「数もか……」
一つ案を思いついた。イーリスに話してみると、中々に現実的な案だったようですぐ頷いてくれた。
「そういう事だったら『ウォーターボール』よりもうってつけの魔法があります! それならやれますよ! 頑張ります!」
『ふん、お手並み拝見といこうではないか』
「よし、じゃあ早速仕掛ける。……ん? 何かイーリス、今なんか声がしなかったか?」
彼女の表情が一瞬固まった。
「き、気のせいですよ。さあやりましょう!」
イーリスにぐいぐいと背中を押されている内に、先ほどの謎の声について一旦忘れることにした。
それよりも、集中だ。
アルムは背中の固定具から大剣を抜き、構える。デカブツを叩くにはうってつけの得物である。
改めてチャージ・カウを見てみると、やはりデカい。しかしあの突進を封じる算段がついているアルムの声は、リラックスしていた。
「チャージ・カウがこっちを向きました!」
「動き出す前にケリをつける。頼むぞイーリス!」
「はい!」
返事と共に、イーリスは身体の内から湧き出る魔力に意味を与え、形を与える。
自然と湧き上がる、その言葉を叫んだ。
「水の鉄槌、『アクア・スフィア』!」
チャージ・カウの前後左右に現れた魔法陣から、巨大な水球が発生した。水球が高速回転を始め、強烈な水流がチャージ・カウ目掛け、噴出される。
中々の水圧のようで、うめき声をあげながらも、動けない様子。
「いいぞイーリス!」
好機を感じ取ったアルムは走り出した。
狙いは一点。この大剣の質ならばそう難しくはない。あっという間に間合いを詰め、アルムは大きく跳躍した。
「喰らえ!」
気合と共に、チャージ・カウの首を一撃で落とし、軽やかに着地する。遅れて首が落ちる音がした。
アルムは大剣を満足げに眺める。やはり質の良い一振りは手ごたえが違う。
彼は武器を背中の固定具に戻し、イーリスの元まで戻る。
「良い魔法だったなイーリス」
「ありがとうございます! アルムさんもすごかったです! 一振りでチャージ・カウを倒すなんて!」
想像以上に上手くいったことに、イーリスの表情に歓喜の色がありありと浮かんでいる。
「完璧な連携だったな」
「はい! 次の依頼も頑張りましょうね!」
「ああ、そうだな。……次?」
アルムの問いに、イーリスは瞬きを二度した後、顔を赤くする。
「で、出来れば私と組んでこれからも依頼をこなしていただけたら嬉しいなぁ……と」
なるほど、とアルムはその申し出について考えた。
一人で出来ることには限りがある。魔王ガルガディアとの戦いでそれを経験した。『あの時、攻撃魔法を撃っていてもらったら』、『回復魔法があればもっと余裕をもって戦えた』などなど、洗い出せばキリがない。
そういうことなので、アルムの返事は固まっていた。
「一人よりは二人、だな。改めてよろしく頼むな、イーリス」
イーリスの水魔法は非常に応用が利く。これを上手い事使えば、依頼をこなすのがグッと楽になる。むしろこちらからお願いしたいくらいであった。
その旨伝えると、不安げにしていた彼女の顔がパッと明るくなった。
「はい! ありがとうございます! よろしくお願いします!」
握手を交わそうと、互いが手を伸ばす。その瞬間――。
『フハハハ! 中々に見どころがある小僧ではないか!』
先ほども聞いた謎の声がした。同時に、イーリスが項垂れる。
「また声が……一体どこから?」
『ここだ!』
イーリスの頭辺りから、見るからに偉そうな紫色の髪を持つ男性がにゅっと出て来た。
アルムは固まった。目の前の出来事に、理解が追い付かない。
黙っていると、男が腕組みをしながらイーリスの隣に移動する。だが足は使っていない、何せ足が無く、浮いているのだから。おまけに、身体が半透明になっているのだから尚、理解不能。
『ふ、ふふふ、フハハハ! 分かるぞ! 我輩から発せられる絶大な魔力! 闘気! その全てにアテられ、恐れ慄いているとな!』
確かに、凄まじい力を感じていたアルムの右手は、さりげなくいつでも武器を抜ける位置にあった。
これほどのプレッシャーは、魔王ガルガディア以外では感じたことが無い。
悪霊の類かと思っていたが、これはそんなちゃちな存在ではなさそうだ。
「……イーリス」
「……はい」
「……当然説明はあるんだろうな?」
「……たっぷりさせていただきます」
『その必要は無いぞイーリス! 従者に我輩の偉大さ、そして深淵を説明出来るとは到底思えぬわ!』
男性は腕を組み、ひたすら高笑いをしている。
――拳に魔力を込めれば、殴られるか?
とりあえず一発、殴りたい衝動に駆られているアルムであった。
『我輩の名を聞かせてやろう! 刮目せよ! そして聞け! 我が名を魂に刻む事を赦してやろう!』
男は高らかに、そして尊大に名乗りを上げる。
『――我が名はヴァイフリング! 七つの極魔の担い手にして、全ての理への反逆者なり!』
ヴァイフリング。
それは、ネイム達『暁の四英雄』が対決し、そして打倒したとされる魔王の名。
そして――この世界の魔王が、アルムの目の前にいた。
魔物こそいるがそこまで凶悪な類はおらず、そこをメインで行き交う商隊も、雇った護衛で何とか対処できるほどである。
この魔物が跋扈する世界基準で、平和と呼んで差し支えないそこに厄介者が現れた。
凶悪な突進力といくら攻撃を加えても怯まないタフネスを併せ持つ猛牛『チャージ・カウ』。
「なあ、イーリス」
「はい?」
アルムの予想では本当によくある牛サイズだと思っていた。だからこそさっくり殺して、ありがたく報酬を受け取ろうと画策していたのだ。
だというのに、この更に二回りは大きなこのサイズは一体どう説明を付ければいいのだろうか。
「チャージ・カウとやらはあんなに大きいのか?」
「え!? チャージ・カウと言ったら巨大生物の代名詞ですよ!? 知らなかったんですか!?」
あんなものに、まともに突っ込まれたらまず間違いなく死ぬ。踏みつぶされるのが先か、跳ね飛ばされて全身を強く打つのが先か。
それよりも、あの牛は割と有名な魔物だったようだ。イーリスにだいぶ驚かれたのは失態と言って良いだろう。
……思考を切り替える。
今は目の前のデカブツをどうにかして倒す方向に精を出さなければいけない。
「生憎と、話に聞いていただけでな。それで、こいつには何か弱点があるのか?」
「弱点……う~ん、聞いたことないですね」
真っ向勝負。得意分野ではあるが、最初の依頼ぐらい、こうスマートに済ませてみたい気持ちがあるアルムは、まだこちらに気付いていないチャージ・カウ相手に思考を巡らせる。
「ところでイーリス。魔法ってどういう類のを使える? ちなみに俺は使えない」
「ええっ!? アルムさん、それ冗談じゃないですよね!?」
イーリスがあまりにも大仰なリアクションだったので詳しく聞いてみたアルムは、なんなら聞かなければ良かったというレベルで後悔した。
要はこういうことである。
――冒険者になろうという者が、攻撃魔法の一つも覚えていないのは中々いない。
胸に矢を喰らったような思いである。だが、そう言われてまず思い出すのが、冒険者ギルド内で魔法をぶっ放そうとしたキール・バームサスである。
アルムのいた世界でも当然攻撃魔法は存在していた。何せ魔王ガルガディア率いる軍団が皆、当たり前のように使っていたのだ。
かといって、詳細を思い出そうとしても、件の魔王ガルガディアの慈悲の欠片もない攻撃魔法のことしか思い出せないのが何とも哀れと自嘲するところである。
「……魔力の扱いは昔から苦手なんだよ」
これは事実である。アルムが昔からやってきた魔力の使い方と言えば、武器に魔力を纏わせて強引に相手の攻撃魔法を打ち破る、これだけである。
「き、気にすることはありませんよ! ちなみに私の得意な魔法は、水を操る魔法です!」
と言いつつ、彼女は手のひらから小さな水球を生み出した。
「おお、水か。色々使えそうだな」
『ウォーターボール』、という基本的な水属性の魔法らしい。魔力を調整することで大きさを自由に変えることができるその魔法のことを頭の片隅に置き、チャージ・カウをいかに屠るか思考を巡らせる。
真っ向勝負で挑んでもいいが、何もいたずらに傷つく必要はない。使えるものは最大限に使ってみせる。
「あ、ちなみにいくつか数も増やせますよ」
「数もか……」
一つ案を思いついた。イーリスに話してみると、中々に現実的な案だったようですぐ頷いてくれた。
「そういう事だったら『ウォーターボール』よりもうってつけの魔法があります! それならやれますよ! 頑張ります!」
『ふん、お手並み拝見といこうではないか』
「よし、じゃあ早速仕掛ける。……ん? 何かイーリス、今なんか声がしなかったか?」
彼女の表情が一瞬固まった。
「き、気のせいですよ。さあやりましょう!」
イーリスにぐいぐいと背中を押されている内に、先ほどの謎の声について一旦忘れることにした。
それよりも、集中だ。
アルムは背中の固定具から大剣を抜き、構える。デカブツを叩くにはうってつけの得物である。
改めてチャージ・カウを見てみると、やはりデカい。しかしあの突進を封じる算段がついているアルムの声は、リラックスしていた。
「チャージ・カウがこっちを向きました!」
「動き出す前にケリをつける。頼むぞイーリス!」
「はい!」
返事と共に、イーリスは身体の内から湧き出る魔力に意味を与え、形を与える。
自然と湧き上がる、その言葉を叫んだ。
「水の鉄槌、『アクア・スフィア』!」
チャージ・カウの前後左右に現れた魔法陣から、巨大な水球が発生した。水球が高速回転を始め、強烈な水流がチャージ・カウ目掛け、噴出される。
中々の水圧のようで、うめき声をあげながらも、動けない様子。
「いいぞイーリス!」
好機を感じ取ったアルムは走り出した。
狙いは一点。この大剣の質ならばそう難しくはない。あっという間に間合いを詰め、アルムは大きく跳躍した。
「喰らえ!」
気合と共に、チャージ・カウの首を一撃で落とし、軽やかに着地する。遅れて首が落ちる音がした。
アルムは大剣を満足げに眺める。やはり質の良い一振りは手ごたえが違う。
彼は武器を背中の固定具に戻し、イーリスの元まで戻る。
「良い魔法だったなイーリス」
「ありがとうございます! アルムさんもすごかったです! 一振りでチャージ・カウを倒すなんて!」
想像以上に上手くいったことに、イーリスの表情に歓喜の色がありありと浮かんでいる。
「完璧な連携だったな」
「はい! 次の依頼も頑張りましょうね!」
「ああ、そうだな。……次?」
アルムの問いに、イーリスは瞬きを二度した後、顔を赤くする。
「で、出来れば私と組んでこれからも依頼をこなしていただけたら嬉しいなぁ……と」
なるほど、とアルムはその申し出について考えた。
一人で出来ることには限りがある。魔王ガルガディアとの戦いでそれを経験した。『あの時、攻撃魔法を撃っていてもらったら』、『回復魔法があればもっと余裕をもって戦えた』などなど、洗い出せばキリがない。
そういうことなので、アルムの返事は固まっていた。
「一人よりは二人、だな。改めてよろしく頼むな、イーリス」
イーリスの水魔法は非常に応用が利く。これを上手い事使えば、依頼をこなすのがグッと楽になる。むしろこちらからお願いしたいくらいであった。
その旨伝えると、不安げにしていた彼女の顔がパッと明るくなった。
「はい! ありがとうございます! よろしくお願いします!」
握手を交わそうと、互いが手を伸ばす。その瞬間――。
『フハハハ! 中々に見どころがある小僧ではないか!』
先ほども聞いた謎の声がした。同時に、イーリスが項垂れる。
「また声が……一体どこから?」
『ここだ!』
イーリスの頭辺りから、見るからに偉そうな紫色の髪を持つ男性がにゅっと出て来た。
アルムは固まった。目の前の出来事に、理解が追い付かない。
黙っていると、男が腕組みをしながらイーリスの隣に移動する。だが足は使っていない、何せ足が無く、浮いているのだから。おまけに、身体が半透明になっているのだから尚、理解不能。
『ふ、ふふふ、フハハハ! 分かるぞ! 我輩から発せられる絶大な魔力! 闘気! その全てにアテられ、恐れ慄いているとな!』
確かに、凄まじい力を感じていたアルムの右手は、さりげなくいつでも武器を抜ける位置にあった。
これほどのプレッシャーは、魔王ガルガディア以外では感じたことが無い。
悪霊の類かと思っていたが、これはそんなちゃちな存在ではなさそうだ。
「……イーリス」
「……はい」
「……当然説明はあるんだろうな?」
「……たっぷりさせていただきます」
『その必要は無いぞイーリス! 従者に我輩の偉大さ、そして深淵を説明出来るとは到底思えぬわ!』
男性は腕を組み、ひたすら高笑いをしている。
――拳に魔力を込めれば、殴られるか?
とりあえず一発、殴りたい衝動に駆られているアルムであった。
『我輩の名を聞かせてやろう! 刮目せよ! そして聞け! 我が名を魂に刻む事を赦してやろう!』
男は高らかに、そして尊大に名乗りを上げる。
『――我が名はヴァイフリング! 七つの極魔の担い手にして、全ての理への反逆者なり!』
ヴァイフリング。
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そして――この世界の魔王が、アルムの目の前にいた。
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