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第8話 剣士、魔王と対峙する
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『――我が名はヴァイフリング! 七つの極魔の担い手にして、全ての理への反逆者なり!』
この世界にとっての魔王を前に、アルムは青い剣を抜いていた。
だが、まだ突っ込めない。色々と確認をしなければならないことがある。
「魔王ヴァイフリング、だと……? ネイムさん達に打倒され、封印されているんじゃないのか?」
『ネイム……ネイム・フローラインだと!? 今でも脳裏にこびり付いているぞあのクソ女のツラは! ヘラヘラ笑いながら我輩の攻撃を全て避け、切り刻んできおって!!』
アルムはその光景が鮮明に見える分、ついつい同情してしまった。その時だけは、魔族の王であるということを忘れてしまったぐらいには。
「……それで、イーリスは何で魔王と一緒にいるんだ?」
一瞬、イーリスも魔族なのかと考えが過ぎったが、すぐにその考えは間違いだったと教えてくれた。
「これは、ですね……その、話すと長くなるんですが……」
『簡単な話だ。あの忌々しい四人組に封印される瞬間、我輩は力の半分を飛ばしたのだ』
ヴァイフリングの話をイーリスが補足する。
「ちょうど一カ月前、王都の外を散歩していたら空から変な光が落ちてきまして……。目が覚めたらヴァイフリングさんに取り憑かれてしまったんですよ」
『とても澄んだ魔力をしていたからな。小汚い魔力の持ち主しかいない中、良くぞここまで綺麗な状態を今まで維持していた。故に、我輩の依り代として選んでやったのだ。喜ぶがいい』
「いくら魔法を使っても全然魔力が減らなくなった以外は全く嬉しくないですよ! 何故か、めちゃくちゃお腹も空くし!」
『魔力が減らなくなるのは当たり前だ。何せ、我輩の魔力が流れているからな。腹が減るのはまあ、我輩の維持にそれだけ燃料がいるということだ』
イーリスがひたすら食事をしていたのはそのせいか、とアルムは今までの行動を振り返る。
「……それで、ヴァイフリングの目的は一体何なんだ? イーリスをどうこうしようって気があるなら覚悟してもらうぞ」
ちらりと、ヴァイフリングはアルムが握っている青い剣へ視線を向けた。その眼にはどこか忌々しげな感情が込められていて。
『先ほどから気になっていたのだが、小僧その剣どこで手に入れた? 尋常ではない力がひしひしと伝わってくるぞ』
ヴァイフリングもこの剣に秘められた力を感じ取っていた。だが、これで益々訳が分からなくなった。
明らかに何かの力が込められているのに、分からないのだ。現状、青い剣はただの質の良い剣である。
そこで、アルムはとある可能性に気付き、浮いているヴァイフリングの傍まで近寄った。
『ん? 何だ小僧? 我輩の身体に手を伸ばしおって。この身体は我輩の力の一部で構成されている。故に実体ではないので、触れることは出来んぞ』
「確かにな。じゃあこれなら……」
触れられないことを確認したアルムは、青い剣の刀身を振り上げた。
「どうだ」
ゴツっと、ヴァイフリングの頭から鈍い音が奏でられた。
『痛っ!? な、何故だ!? 何故我輩に干渉出来るのだその剣は!?』
「分からん。だが、これでイーリスに危害を加えようとしてもどうにか出来るな。……ちなみにこの剣、ネイムさんから貰った」
『ま! た! あの女かぁ! どこまで我輩の邪魔をすれば気が済むのだあのクソ女ぁ!!』
「それで? 結局お前の目的は一体何なんだよ? 内容次第では本気でどうにかさせてもらうぞ」
アルムの剣幕に、ヴァイフリングは少しだけ神妙な面持ちになった。
『我輩は、我輩の力のもう半分を回収できればそれでいい。とりあえずはそれだけが我輩の悲願である』
「本当だな?」
『まあ、気分次第ではまた世界を相手に大暴れするのも一興か! そしてあの忌々しい四人組を血祭りにあげてやる!』
「その時は完全に殺してやるから覚悟しろよ」
見た所、イーリスとは上手くやれているようではあるので、今すぐどうこうするつもりはない。ただし、相手は魔族。いつ気が変わるか分からないので警戒は必要だ。
「最初は怖かったんですけど、ヴァイさん何だかんだ良い人ですよ。だからたぶん、大丈夫なんじゃないかなぁって思いますよ」
『何を言っているイーリス! この泣く子も黙る我輩が“良い人”だぁ!? はっ! 冗談も休み休み言うが良い! 天地を掌握するこの我輩がそのような評価をされる謂れは無いわ!』
「ヴァイさんはすぐ照れますね」
「イーリス、こいつは照れるような殊勝な奴じゃないだろう」
『はぁっ!? 照れてなどおらん! そして小僧、貴様は燃やしてやる』
これから賑やかになりそうだ。異世界に来てからは何だか初めての事が多すぎる。
だが、悪くはない。悪くはないのだ。
ヴァイフリングの指先から出る小型の火球を、両の短剣で撃ち落としながらアルムはそう思った。
◆ ◆ ◆
特に何事もなくファーラ平原から帰ってくることが出来たアルムとイーリスは、冒険者ギルドの前にいた。イーリスから聞くには、依頼の報告をするまでが一連の流れとのこと。
さくっと報告して、さくっとお金をもらおう。そう思い、ドアノブに手を掛けた。
「……ところであいつはこういう所では大人しいんだな」
あいつ、とはヴァイフリングの事である。迂闊に名前を出せば、大混乱になるのが目に見えているので言葉には気を付けなければならない。
イーリスが苦笑交じりに答える。
「『軽率に下々の者に姿を晒さぬのが我輩の美徳よ』、と私の脳裏で喋っていますね、あはは……」
「そのまま一生出てこないでくれるとありがたいがな。っと、依頼達成の報告はここで良いか?」
すると、受付嬢は金属製のトレイを差し出した。
「えっと……アルムさんとイーリスさんはチャージ・カウの討伐ですね。それでは何か証拠となる物を提出していただけないでしょうか?」
「証拠……奴の角がある。これで良いだろうか?」
背嚢から角の一部を取り出し、トレイに置くと、受付嬢はそれに手を翳した。
「ではこれから本物か鑑定しますね。『エクスペルト』」
イーリスに効果を聞いてみると、『エクスペルト』とはその物体の情報を得る魔法らしい。腕を上げれば上げるほど、精密かつ沢山の情報を得られるこの魔法の習得は、冒険者ギルドの受付になるための必須魔法でもある。
「はい、確認しました。この角は間違いなくチャージ・カウのものですね。お疲れ様でした。それでは報酬の5,000エルドになります」
そう言って受付嬢は紙幣の束をアルムに差し出した。それをありがたく受け取り、彼はその内の六割ほどをイーリスに手渡した。
「お前の取り分だ。受け取ってくれ」
「え!? 私の分、多くないですか!? こんなにいただけませんよ!」
「何言ってるんだ。イーリスの魔法があったから俺はあんなに楽に殺せたんだ。受け取ってくれ、そうでなければ困る」
彼女は言葉を出そうと、口をパクパクさせるも、やがて頭を下げた。
「ありがとうございます! では、受け取らせていただきます! 大事に使いますね!」
何度も断るのも失礼だと判断した結果、イーリスはお金を有難く受け取った。
アルムはそれに内心胸を撫でおろしつつ、冒険者ギルドの外へと向かう。
「今日は解散だな。また明日、ここで落ち合おう」
「アルムさんはこれからどこに行くんですか?」
「そうだな……とりあえずまだこの町の事を知らないから、散歩にでも行こうかと思っている」
「なるほど、じゃあ私もご一緒していいでしょうか! その、お腹空いちゃって、どこかで食べようかなと思っていたところなんですよ」
アルムは快諾し、早速二人で町へと繰り出すことになった。
「この町、相当広いよな。一日で回り切れんな」
「とりあえず食べ物があるところに行きましょう! その後はサイファル城に行ってみませんか?」
「サイファル城、あのデカい城か」
歩きながら喋っていると、あっという間にイーリスの両手にはドロウ・イーグルの串焼きが握られていた。どうやら好物らしい。
そうこうしているうちに、何やら四方八方から食欲を刺激する香りが漂ってくる。名前だけではどんな料理か想像出来ないが、それでも香りが良くて不味かった試しがないので、内心期待していたアルムである。
「何かイーリスのおすすめはあるのか?」
「う~ん、全部ですね」
「……そこまではっきり言い切られるとは思わなかったぞ」
『ちなみに我輩はソニック・ポークの丸焼きが大好物だ』
「聞いてない。というか美徳とやらはどうした」
『声だけお前達に送っているから問題ない。我慢ならぬのが、尊い我輩の姿を安売りすることだからな』
「どこかでネイムさんに見つかってまた斬り掛かられるのが怖いだけなんじゃないのか?」
アルムの会心の一撃に、イーリスは思わず口元に手を当てた。この後の流れが容易に想像出来てしまうからだ。
『貴様ー! 言ってはならぬことを言ったな!? 誰があのクソ女が怖いと!? 言ってみろ! いいや言わなくても良い! 今から欠片すら残さぬほどに燃やし尽くしてやるからな!!』
「ヴァイさん、駄目ですって! こんな目立つところで暴れようとしないでください! この辺り食べ物屋さんしかないから、無くなったら私困っちゃいます!!」
『いいや気が変わった! 辺り一帯を火の海にしてもなお、お釣りが帰ってくるわ!』
「ヴァイさん――怒りますよ?」
半目でそう言うイーリスの声から感じる、圧倒的な威圧感。魔王と対峙してきたアルムでさえ、背筋が冷えたほどである。
でも、アルムとすればヴァイフリングが更に激昂するだけでは、と思っていたが――。
『う……む、まあ今日の所は矛を収めてやるとしよう。感謝するが良い』
イーリスはなるべく怒らせないようにしよう、そう心に深く刻み込んだアルムである。
「食い逃げだぁ! 誰か捕まえてくれー!」
ちょうど目の前にあった店から、赤髪の男が飛び出していった。食べ物を詰め込んでいるのか、頬がたっぷり膨らんでいた。
アルムとイーリスは顔を見合わせた後、男を追いかけ、走り出す。
この世界にとっての魔王を前に、アルムは青い剣を抜いていた。
だが、まだ突っ込めない。色々と確認をしなければならないことがある。
「魔王ヴァイフリング、だと……? ネイムさん達に打倒され、封印されているんじゃないのか?」
『ネイム……ネイム・フローラインだと!? 今でも脳裏にこびり付いているぞあのクソ女のツラは! ヘラヘラ笑いながら我輩の攻撃を全て避け、切り刻んできおって!!』
アルムはその光景が鮮明に見える分、ついつい同情してしまった。その時だけは、魔族の王であるということを忘れてしまったぐらいには。
「……それで、イーリスは何で魔王と一緒にいるんだ?」
一瞬、イーリスも魔族なのかと考えが過ぎったが、すぐにその考えは間違いだったと教えてくれた。
「これは、ですね……その、話すと長くなるんですが……」
『簡単な話だ。あの忌々しい四人組に封印される瞬間、我輩は力の半分を飛ばしたのだ』
ヴァイフリングの話をイーリスが補足する。
「ちょうど一カ月前、王都の外を散歩していたら空から変な光が落ちてきまして……。目が覚めたらヴァイフリングさんに取り憑かれてしまったんですよ」
『とても澄んだ魔力をしていたからな。小汚い魔力の持ち主しかいない中、良くぞここまで綺麗な状態を今まで維持していた。故に、我輩の依り代として選んでやったのだ。喜ぶがいい』
「いくら魔法を使っても全然魔力が減らなくなった以外は全く嬉しくないですよ! 何故か、めちゃくちゃお腹も空くし!」
『魔力が減らなくなるのは当たり前だ。何せ、我輩の魔力が流れているからな。腹が減るのはまあ、我輩の維持にそれだけ燃料がいるということだ』
イーリスがひたすら食事をしていたのはそのせいか、とアルムは今までの行動を振り返る。
「……それで、ヴァイフリングの目的は一体何なんだ? イーリスをどうこうしようって気があるなら覚悟してもらうぞ」
ちらりと、ヴァイフリングはアルムが握っている青い剣へ視線を向けた。その眼にはどこか忌々しげな感情が込められていて。
『先ほどから気になっていたのだが、小僧その剣どこで手に入れた? 尋常ではない力がひしひしと伝わってくるぞ』
ヴァイフリングもこの剣に秘められた力を感じ取っていた。だが、これで益々訳が分からなくなった。
明らかに何かの力が込められているのに、分からないのだ。現状、青い剣はただの質の良い剣である。
そこで、アルムはとある可能性に気付き、浮いているヴァイフリングの傍まで近寄った。
『ん? 何だ小僧? 我輩の身体に手を伸ばしおって。この身体は我輩の力の一部で構成されている。故に実体ではないので、触れることは出来んぞ』
「確かにな。じゃあこれなら……」
触れられないことを確認したアルムは、青い剣の刀身を振り上げた。
「どうだ」
ゴツっと、ヴァイフリングの頭から鈍い音が奏でられた。
『痛っ!? な、何故だ!? 何故我輩に干渉出来るのだその剣は!?』
「分からん。だが、これでイーリスに危害を加えようとしてもどうにか出来るな。……ちなみにこの剣、ネイムさんから貰った」
『ま! た! あの女かぁ! どこまで我輩の邪魔をすれば気が済むのだあのクソ女ぁ!!』
「それで? 結局お前の目的は一体何なんだよ? 内容次第では本気でどうにかさせてもらうぞ」
アルムの剣幕に、ヴァイフリングは少しだけ神妙な面持ちになった。
『我輩は、我輩の力のもう半分を回収できればそれでいい。とりあえずはそれだけが我輩の悲願である』
「本当だな?」
『まあ、気分次第ではまた世界を相手に大暴れするのも一興か! そしてあの忌々しい四人組を血祭りにあげてやる!』
「その時は完全に殺してやるから覚悟しろよ」
見た所、イーリスとは上手くやれているようではあるので、今すぐどうこうするつもりはない。ただし、相手は魔族。いつ気が変わるか分からないので警戒は必要だ。
「最初は怖かったんですけど、ヴァイさん何だかんだ良い人ですよ。だからたぶん、大丈夫なんじゃないかなぁって思いますよ」
『何を言っているイーリス! この泣く子も黙る我輩が“良い人”だぁ!? はっ! 冗談も休み休み言うが良い! 天地を掌握するこの我輩がそのような評価をされる謂れは無いわ!』
「ヴァイさんはすぐ照れますね」
「イーリス、こいつは照れるような殊勝な奴じゃないだろう」
『はぁっ!? 照れてなどおらん! そして小僧、貴様は燃やしてやる』
これから賑やかになりそうだ。異世界に来てからは何だか初めての事が多すぎる。
だが、悪くはない。悪くはないのだ。
ヴァイフリングの指先から出る小型の火球を、両の短剣で撃ち落としながらアルムはそう思った。
◆ ◆ ◆
特に何事もなくファーラ平原から帰ってくることが出来たアルムとイーリスは、冒険者ギルドの前にいた。イーリスから聞くには、依頼の報告をするまでが一連の流れとのこと。
さくっと報告して、さくっとお金をもらおう。そう思い、ドアノブに手を掛けた。
「……ところであいつはこういう所では大人しいんだな」
あいつ、とはヴァイフリングの事である。迂闊に名前を出せば、大混乱になるのが目に見えているので言葉には気を付けなければならない。
イーリスが苦笑交じりに答える。
「『軽率に下々の者に姿を晒さぬのが我輩の美徳よ』、と私の脳裏で喋っていますね、あはは……」
「そのまま一生出てこないでくれるとありがたいがな。っと、依頼達成の報告はここで良いか?」
すると、受付嬢は金属製のトレイを差し出した。
「えっと……アルムさんとイーリスさんはチャージ・カウの討伐ですね。それでは何か証拠となる物を提出していただけないでしょうか?」
「証拠……奴の角がある。これで良いだろうか?」
背嚢から角の一部を取り出し、トレイに置くと、受付嬢はそれに手を翳した。
「ではこれから本物か鑑定しますね。『エクスペルト』」
イーリスに効果を聞いてみると、『エクスペルト』とはその物体の情報を得る魔法らしい。腕を上げれば上げるほど、精密かつ沢山の情報を得られるこの魔法の習得は、冒険者ギルドの受付になるための必須魔法でもある。
「はい、確認しました。この角は間違いなくチャージ・カウのものですね。お疲れ様でした。それでは報酬の5,000エルドになります」
そう言って受付嬢は紙幣の束をアルムに差し出した。それをありがたく受け取り、彼はその内の六割ほどをイーリスに手渡した。
「お前の取り分だ。受け取ってくれ」
「え!? 私の分、多くないですか!? こんなにいただけませんよ!」
「何言ってるんだ。イーリスの魔法があったから俺はあんなに楽に殺せたんだ。受け取ってくれ、そうでなければ困る」
彼女は言葉を出そうと、口をパクパクさせるも、やがて頭を下げた。
「ありがとうございます! では、受け取らせていただきます! 大事に使いますね!」
何度も断るのも失礼だと判断した結果、イーリスはお金を有難く受け取った。
アルムはそれに内心胸を撫でおろしつつ、冒険者ギルドの外へと向かう。
「今日は解散だな。また明日、ここで落ち合おう」
「アルムさんはこれからどこに行くんですか?」
「そうだな……とりあえずまだこの町の事を知らないから、散歩にでも行こうかと思っている」
「なるほど、じゃあ私もご一緒していいでしょうか! その、お腹空いちゃって、どこかで食べようかなと思っていたところなんですよ」
アルムは快諾し、早速二人で町へと繰り出すことになった。
「この町、相当広いよな。一日で回り切れんな」
「とりあえず食べ物があるところに行きましょう! その後はサイファル城に行ってみませんか?」
「サイファル城、あのデカい城か」
歩きながら喋っていると、あっという間にイーリスの両手にはドロウ・イーグルの串焼きが握られていた。どうやら好物らしい。
そうこうしているうちに、何やら四方八方から食欲を刺激する香りが漂ってくる。名前だけではどんな料理か想像出来ないが、それでも香りが良くて不味かった試しがないので、内心期待していたアルムである。
「何かイーリスのおすすめはあるのか?」
「う~ん、全部ですね」
「……そこまではっきり言い切られるとは思わなかったぞ」
『ちなみに我輩はソニック・ポークの丸焼きが大好物だ』
「聞いてない。というか美徳とやらはどうした」
『声だけお前達に送っているから問題ない。我慢ならぬのが、尊い我輩の姿を安売りすることだからな』
「どこかでネイムさんに見つかってまた斬り掛かられるのが怖いだけなんじゃないのか?」
アルムの会心の一撃に、イーリスは思わず口元に手を当てた。この後の流れが容易に想像出来てしまうからだ。
『貴様ー! 言ってはならぬことを言ったな!? 誰があのクソ女が怖いと!? 言ってみろ! いいや言わなくても良い! 今から欠片すら残さぬほどに燃やし尽くしてやるからな!!』
「ヴァイさん、駄目ですって! こんな目立つところで暴れようとしないでください! この辺り食べ物屋さんしかないから、無くなったら私困っちゃいます!!」
『いいや気が変わった! 辺り一帯を火の海にしてもなお、お釣りが帰ってくるわ!』
「ヴァイさん――怒りますよ?」
半目でそう言うイーリスの声から感じる、圧倒的な威圧感。魔王と対峙してきたアルムでさえ、背筋が冷えたほどである。
でも、アルムとすればヴァイフリングが更に激昂するだけでは、と思っていたが――。
『う……む、まあ今日の所は矛を収めてやるとしよう。感謝するが良い』
イーリスはなるべく怒らせないようにしよう、そう心に深く刻み込んだアルムである。
「食い逃げだぁ! 誰か捕まえてくれー!」
ちょうど目の前にあった店から、赤髪の男が飛び出していった。食べ物を詰め込んでいるのか、頬がたっぷり膨らんでいた。
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