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第13話 剣士、魔剣娘と出会う その3
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背嚢に入れてあった縄で気絶させた四人を縛り上げたアルムとイーリスは、早速赤茶色の髪の男性を介抱する。
ぐったりしてはいるが、まだ死んでない。
イーリスは彼のひとまずの無事を確認すると、両手のひらを向けた。
「『アクア・ヒール』。ささやかな癒しを」
光輝く水が、男性の傷ついたところを覆う。優しく沁み込むように水は無くなり、それに呼応するように、男性の目がゆっくりと開かれた。
「こ、こは……?」
「大丈夫ですか!? 痛むところはありませんか?」
「ああ、すっかり良くなったよ。これは、癒しの魔法だね? ありがとう……」
「上手く掛けられて良かったです……最近、下手くそになってしまっていたので」
――我輩は破壊の魔法しか使えんからな。その影響でイーリスの癒しの魔法とやらに支障をきたしているのだろう。
ヴァイフリングはそう、アルムの脳内に語り掛けてきた。彼は一言、“役立たずの魔王め”とだけ返す。
「……これは?」
縛り上げた四人の左耳に目がいった。狼の装飾が施されたイヤリング。
一人だけならまだしも、四人が全く同じものを身に着けている所を見ると、この集団について、とあることを推測せざるを得ない。
「おじさん!? 大丈夫ですか!?」
イーリスの声に、振り返ると、そこには立とうとして体勢を崩した赤茶色の髪の男性がいた。
癒しの魔法。体の傷は癒せても、精神までは癒せないのだろう。
「イーリス、外に行って馬車が通り掛かっていないか探して来てくれないか?」
「分かりました! アルムさん、気絶しているとはいえ、そこの四人から気を抜かないでくださいね!」
男性に肩を貸し、とりあえず廃墟の外まで歩みを進めるアルム。隣の男性が、一言だけ、ぼそりと呟いた。
「ああ、すまない。すまない――――」
そのまま男性が緊張から解放されたからか、すっと意識を失ったのが肩越しに伝わった。
最後の方が何を言っていたのか分からない。前の言葉から察するに、誰かに謝っていたようではあるが。
歩く振動で、男性の首元から花のネックレスが現れた。種類こそ分からないが、きっと誰かからの贈り物だろうという予想は出来る。
「アルムさん! ちょうど、王都に行く馬車を見つけましたよ! 事情を話したら送ってくれるそうです!」
「それはありがたい」
御者に改めて事情を話し、治安維持部隊まで届けるよう多めのお金と共に、男性を引き渡した。ついでに治安維持部隊にここまで来るようにも言伝を依頼する。
これでとりあえずの問題は解決だろう。
本来ならばこの武装集団が引き渡されるのを見届けるまで、待機しておくのが筋なのだろうが、今は時間が惜しい。
アルムとイーリスは、本来の目的通り『銀の狼団』の潜伏している村への進軍を選択した。
◆ ◆ ◆
村だった場所とは良く言ったものである。アルムとイーリスは現在、茂みの中から彼らの潜伏先を観察していた。
所々しっかりした民家があるのだが、それでも既に死んだ村特有の重たい空気が流れている。
前の世界でも、魔族に滅ぼされた村や町を見たアルムは問題なかった。だが、イーリスはどうだろうか。
声を掛けてみると、“大丈夫です”と答えた。思ったよりも強い奴だ、そうアルムは感心しながら、そろそろ覚悟を決める。
「ということでイーリス、これから俺達は仕掛けに行く。例の“用心棒”が不安要素だが、俺からすれば問題ない」
「そうなんですか?」
「ああ。俺は必ず勝つからな」
村の入口へと歩を進める二人。
その間に、ヴァイフリングはイーリスだけに語り掛けていた。
『イーリス。とりあえず我輩は何もしない。が、しかし。貴様がいよいよ以てヤバくなったら我輩は好きにさせてもらうぞ』
(ありがとうヴァイさん)
『アァ!? 何故礼を言う!? 精々死ぬ寸前までいけ! それで我輩にストレス解消をさせろ!』
不器用ながらの叱咤激励に、彼女は確かな勇気をもらった。怖いものはない。
「どうしたイーリス? 良い事でもあったのか?」
「はい! ヴァイさんが励ましてくれました!」
「あいつが? 嵐でも来そうだな」
ヴァイフリングの抗議の声が聞こえてくるが、それは一切取り合わず、アルムは感覚を研ぎ澄ませる。
入口まであともう少しの所で、
「――イーリス、構えろ」
濃厚な戦気。アルムは一度立ち止まり、庇うようにイーリスの前に位置取りする。
村の方からたった一人だけ、歩いてくる者が見えた。
「……帰れ。今ならまだ、怪我をさせる気はない」
フード付きの外套を羽織った人間が、村とは真逆の方向を指さすが、アルムは聴く耳持たずにただ注視する。
外套で体のシルエットが分からず、声も低いので、男か女かも分からない。だが、両腰の剣と立ち振る舞いを見る限り、アルムは只者では無い事を察した。
――だいぶやるな。
それがアルムの素直な感想であった。
「こっちの台詞だ。今なら治安維持部隊に引き渡さないでおいてやる」
「……警告はした」
フードの人物は両腰から剣を引き抜き、構える。右手の剣は順手に握り、左手の剣は逆手に握る。
二刀流――アルムの選択した武器は青い剣と短剣の二刀流。片方のリーチに不安はあるが、今回の短剣の役割は盾だ。
あまり時間を掛けられない。イーリスとアイコンタクト、すぐに通じ合う。隙を見て、また水の魔法で妨害および決着。卑怯者と罵られようが、これが今一番の最善策。
「……この村に入ってくる者を追い払うのが与えられた、仕事!」
二歩で距離を詰め、次の瞬きで、フードの人物とアルムは、互いを剣士特有の間合いに入れていた。
ぐったりしてはいるが、まだ死んでない。
イーリスは彼のひとまずの無事を確認すると、両手のひらを向けた。
「『アクア・ヒール』。ささやかな癒しを」
光輝く水が、男性の傷ついたところを覆う。優しく沁み込むように水は無くなり、それに呼応するように、男性の目がゆっくりと開かれた。
「こ、こは……?」
「大丈夫ですか!? 痛むところはありませんか?」
「ああ、すっかり良くなったよ。これは、癒しの魔法だね? ありがとう……」
「上手く掛けられて良かったです……最近、下手くそになってしまっていたので」
――我輩は破壊の魔法しか使えんからな。その影響でイーリスの癒しの魔法とやらに支障をきたしているのだろう。
ヴァイフリングはそう、アルムの脳内に語り掛けてきた。彼は一言、“役立たずの魔王め”とだけ返す。
「……これは?」
縛り上げた四人の左耳に目がいった。狼の装飾が施されたイヤリング。
一人だけならまだしも、四人が全く同じものを身に着けている所を見ると、この集団について、とあることを推測せざるを得ない。
「おじさん!? 大丈夫ですか!?」
イーリスの声に、振り返ると、そこには立とうとして体勢を崩した赤茶色の髪の男性がいた。
癒しの魔法。体の傷は癒せても、精神までは癒せないのだろう。
「イーリス、外に行って馬車が通り掛かっていないか探して来てくれないか?」
「分かりました! アルムさん、気絶しているとはいえ、そこの四人から気を抜かないでくださいね!」
男性に肩を貸し、とりあえず廃墟の外まで歩みを進めるアルム。隣の男性が、一言だけ、ぼそりと呟いた。
「ああ、すまない。すまない――――」
そのまま男性が緊張から解放されたからか、すっと意識を失ったのが肩越しに伝わった。
最後の方が何を言っていたのか分からない。前の言葉から察するに、誰かに謝っていたようではあるが。
歩く振動で、男性の首元から花のネックレスが現れた。種類こそ分からないが、きっと誰かからの贈り物だろうという予想は出来る。
「アルムさん! ちょうど、王都に行く馬車を見つけましたよ! 事情を話したら送ってくれるそうです!」
「それはありがたい」
御者に改めて事情を話し、治安維持部隊まで届けるよう多めのお金と共に、男性を引き渡した。ついでに治安維持部隊にここまで来るようにも言伝を依頼する。
これでとりあえずの問題は解決だろう。
本来ならばこの武装集団が引き渡されるのを見届けるまで、待機しておくのが筋なのだろうが、今は時間が惜しい。
アルムとイーリスは、本来の目的通り『銀の狼団』の潜伏している村への進軍を選択した。
◆ ◆ ◆
村だった場所とは良く言ったものである。アルムとイーリスは現在、茂みの中から彼らの潜伏先を観察していた。
所々しっかりした民家があるのだが、それでも既に死んだ村特有の重たい空気が流れている。
前の世界でも、魔族に滅ぼされた村や町を見たアルムは問題なかった。だが、イーリスはどうだろうか。
声を掛けてみると、“大丈夫です”と答えた。思ったよりも強い奴だ、そうアルムは感心しながら、そろそろ覚悟を決める。
「ということでイーリス、これから俺達は仕掛けに行く。例の“用心棒”が不安要素だが、俺からすれば問題ない」
「そうなんですか?」
「ああ。俺は必ず勝つからな」
村の入口へと歩を進める二人。
その間に、ヴァイフリングはイーリスだけに語り掛けていた。
『イーリス。とりあえず我輩は何もしない。が、しかし。貴様がいよいよ以てヤバくなったら我輩は好きにさせてもらうぞ』
(ありがとうヴァイさん)
『アァ!? 何故礼を言う!? 精々死ぬ寸前までいけ! それで我輩にストレス解消をさせろ!』
不器用ながらの叱咤激励に、彼女は確かな勇気をもらった。怖いものはない。
「どうしたイーリス? 良い事でもあったのか?」
「はい! ヴァイさんが励ましてくれました!」
「あいつが? 嵐でも来そうだな」
ヴァイフリングの抗議の声が聞こえてくるが、それは一切取り合わず、アルムは感覚を研ぎ澄ませる。
入口まであともう少しの所で、
「――イーリス、構えろ」
濃厚な戦気。アルムは一度立ち止まり、庇うようにイーリスの前に位置取りする。
村の方からたった一人だけ、歩いてくる者が見えた。
「……帰れ。今ならまだ、怪我をさせる気はない」
フード付きの外套を羽織った人間が、村とは真逆の方向を指さすが、アルムは聴く耳持たずにただ注視する。
外套で体のシルエットが分からず、声も低いので、男か女かも分からない。だが、両腰の剣と立ち振る舞いを見る限り、アルムは只者では無い事を察した。
――だいぶやるな。
それがアルムの素直な感想であった。
「こっちの台詞だ。今なら治安維持部隊に引き渡さないでおいてやる」
「……警告はした」
フードの人物は両腰から剣を引き抜き、構える。右手の剣は順手に握り、左手の剣は逆手に握る。
二刀流――アルムの選択した武器は青い剣と短剣の二刀流。片方のリーチに不安はあるが、今回の短剣の役割は盾だ。
あまり時間を掛けられない。イーリスとアイコンタクト、すぐに通じ合う。隙を見て、また水の魔法で妨害および決着。卑怯者と罵られようが、これが今一番の最善策。
「……この村に入ってくる者を追い払うのが与えられた、仕事!」
二歩で距離を詰め、次の瞬きで、フードの人物とアルムは、互いを剣士特有の間合いに入れていた。
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