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第26話 剣士、『黒鳥』と対峙する その3
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《黒鳥のシャロウ》とは、侯爵級の中でも中堅の実力を持つ魔族である。
隔離空間を作り出す次元魔法を操り、彼自身の魔力で構成された黒翼をはためかせることで数々の同類を屠ってきた。その様からついた異名こそが《黒鳥のシャロウ》。
その実力と高い知性から、魔王ヴァイフリングを復活させる為に結成された『魔王の爪』の幹部にまで食い込んだ。
(今回は非常に楽な仕事でした。この遺跡から汲み上げた魔力を補充することによって、アレは完成するのだ)
広場の奥にある祭壇。そこへ、アレが納められている。完成するのも時間の問題だというのに、あの四人組が現れた。
三人の女は眼中にない。多少魔剣や強力な攻撃魔法を扱えるというだけで、取り立て珍しくも何ともない。そのような人間や同族は今まで屠って来た中にごまんといた。……一人だけ妙な気配を持つ女がいたが。
シャロウはそのような人間、ひいては魔族なぞに遅れを取らないだけの実力は間違いなく持っている。
だというのに、それよりも、何故。
(完成する、と言うのに――)
――何 故 、 私 は 今 、 地 に 這 い つ く ば っ て い る ! ?
「ぐぅ……あ、あああ」
石壁にめり込んでいたシャロウは、己の現状を確認する。
黒翼の片方は叩き切られ、左腕も肘から先を持っていかれた。度重なる攻撃を受けてもなお、辛うじて脚に力は入るが、戦闘レベルの行動はもはや出来ない。
――対して! 対して!! 目の前にいる四本剣を扱う剣士はいったいどうだ!?
「『魔王の爪』幹部で、侯爵級、だったか? 上から二番目の階級でこれなら、階級持ちの魔族というのは、随分と平和な集団なんだな。勉強になったよ」
両の短剣を鞘に戻し、青い剣に持ち替えたアルムは、一息つく。戦闘の余波で服が所々痛んでいるが、命にまでは届いていない。
ついアルムが心からの感想を漏らすと、満身創痍のシャロウが激昂する。
「下らない人間如きがァ!!」
残っていた黒翼を振り回し、そこから生み出される鋼鉄の羽根をアルム目掛け、撃ち出した。
その一本一本が、あらゆる物体を紙のように切り裂く、いわゆる名剣と同義の威力を持つ。
そして更にシャロウは魔法陣を展開していた右腕を、射出された羽根ら目掛け振るう。
「――空間を捻じ曲げたか」
真っすぐアルム目掛け飛んでいた羽根の一部が消えた。瞬間、彼はあらゆる方向からの殺意を察知する。
全方向からの時間差攻撃。こういった攻撃をされるのは初めてではなかったアルムは、怯まず左逆手に短剣を抜いた。青い剣と短剣の二刀で打ち負かす算段である。
「全身を串刺されろ!!!」
「御免被る」
そこからはアルムの反射神経、ではなく生存本能の勝負である。数えるのも億劫なほどのおびただしい量。
ならばどうするか。
アルムは防御行動を開始した。高速で振るわれるは両腕、閃くは刀身、叩き落されていくは名剣の切れ味を持つ羽根。
一々視てはいない。ただ、己の命が危ぶまれそうな羽根のみを的確に落とし、致命傷に届かない羽根は甘んじて受ける。たったそれだけのシンプルな行動である。
――時間にして、丁度一分。常人ならばとっくの昔に原形を留めていないであろう死の雨を、アルム・ルーベンは越えてみせた。
「何……だ、貴様は?」
シャロウは、かつてない動揺を感じていた。処理しきれないほどの揺れ。これを一体何と言い表すのか、彼は知らなかった。
「俺としては『魔王の爪』の情報を色々と知りたいところではある。だから、さっさと答えたら楽に殺してやる。答えなくても殺すから黙秘は要らんぞ」
「……何なのだ、貴様は……!?」
「『魔王の爪』のリーダーや組織構成、人数、知っていることを今、ここで洗いざらい喋ろ」
どんどん距離を詰めてくるアルムへ、シャロウは再び羽根による攻撃を試みるが、あっさりと弾かれる始末。ゆっくりと、確実に、歩いてくるソレに対し、シャロウはようやくこの感情に名前を付けることが出来た。
「きょう……ふ? 私が? 人間に? 恐怖? ふざけるな、ふざけるなふざけるなふざけるな!!」
「最後に一回だけ聞く。喋る気は?」
「人間如きに私が恐怖ダァァァァァァ!!!?」
激流のごとく流れてくる怒りが、シャロウに行動を許した。身体を失った痛みなぞ、とうに消えており、ただ剣士アルムを滅殺することのみが頭の中にあった。
片翼を大きくはためかせたシャロウは、ひたすら前へ進むための推進力へと変えた。そして嘴へありったけの魔力を集中させる。
「爆ぜろォ人間!!!」
身体のどこかで良い。嘴から直接魔力を流し込み、体内で暴走した魔力が爆発を引き起こす。
《黒鳥のシャロウ》の奥の手中の奥の手。どんな劣勢でもこれにより、逆転勝利を収めてきた必殺の技。
「その台詞は三下の中でも特に、下が言う台詞だぞ」
青い剣と短剣を魔力で覆ったアルムは避ける訳でもなく、防御する訳でもなく、打ち負かすために走り出した。
二度も瞬きしたら互いが交差する。それはそのままこの戦闘の終焉を意味しており。
あと数歩。
「俺はこの先も倒し進む……!」
跳躍、両腕を上げたアルムは――短く息を吐き、一気に振り下ろした。
「……わた、しが、死ぬ、だと?」
アルムは傷一つ付いていなかった。対し、真っ向から叩き割られたシャロウは、地面にその身を叩きつた。
「ああ、死ぬ。受け入れろ」
アルムの前後の石壁が崩れ、それぞれに通路が現れた。
恐らくシャロウが何か魔法を仕掛けていたのだろう、と踏んだアルムは既に事切れそうな彼へ止めを刺すべく近寄った。
「……ふ、ふふ、ふ。私は、死ぬ。が、な。目的は果たせ、なか……った代わり、に、き、さまの絶望……をもらって、いく」
そう言った瞬間、アルムはシャロウの胸へ青い剣を突き刺した。初の魔族戦はあっけなく終わったが、最期の言葉を聞いた彼は、すぐに広場を後にしていた。
あの言葉から連想出来る状況など、口に出すまでもない。
「死んでるなよ、あいつら……!」
隔離空間を作り出す次元魔法を操り、彼自身の魔力で構成された黒翼をはためかせることで数々の同類を屠ってきた。その様からついた異名こそが《黒鳥のシャロウ》。
その実力と高い知性から、魔王ヴァイフリングを復活させる為に結成された『魔王の爪』の幹部にまで食い込んだ。
(今回は非常に楽な仕事でした。この遺跡から汲み上げた魔力を補充することによって、アレは完成するのだ)
広場の奥にある祭壇。そこへ、アレが納められている。完成するのも時間の問題だというのに、あの四人組が現れた。
三人の女は眼中にない。多少魔剣や強力な攻撃魔法を扱えるというだけで、取り立て珍しくも何ともない。そのような人間や同族は今まで屠って来た中にごまんといた。……一人だけ妙な気配を持つ女がいたが。
シャロウはそのような人間、ひいては魔族なぞに遅れを取らないだけの実力は間違いなく持っている。
だというのに、それよりも、何故。
(完成する、と言うのに――)
――何 故 、 私 は 今 、 地 に 這 い つ く ば っ て い る ! ?
「ぐぅ……あ、あああ」
石壁にめり込んでいたシャロウは、己の現状を確認する。
黒翼の片方は叩き切られ、左腕も肘から先を持っていかれた。度重なる攻撃を受けてもなお、辛うじて脚に力は入るが、戦闘レベルの行動はもはや出来ない。
――対して! 対して!! 目の前にいる四本剣を扱う剣士はいったいどうだ!?
「『魔王の爪』幹部で、侯爵級、だったか? 上から二番目の階級でこれなら、階級持ちの魔族というのは、随分と平和な集団なんだな。勉強になったよ」
両の短剣を鞘に戻し、青い剣に持ち替えたアルムは、一息つく。戦闘の余波で服が所々痛んでいるが、命にまでは届いていない。
ついアルムが心からの感想を漏らすと、満身創痍のシャロウが激昂する。
「下らない人間如きがァ!!」
残っていた黒翼を振り回し、そこから生み出される鋼鉄の羽根をアルム目掛け、撃ち出した。
その一本一本が、あらゆる物体を紙のように切り裂く、いわゆる名剣と同義の威力を持つ。
そして更にシャロウは魔法陣を展開していた右腕を、射出された羽根ら目掛け振るう。
「――空間を捻じ曲げたか」
真っすぐアルム目掛け飛んでいた羽根の一部が消えた。瞬間、彼はあらゆる方向からの殺意を察知する。
全方向からの時間差攻撃。こういった攻撃をされるのは初めてではなかったアルムは、怯まず左逆手に短剣を抜いた。青い剣と短剣の二刀で打ち負かす算段である。
「全身を串刺されろ!!!」
「御免被る」
そこからはアルムの反射神経、ではなく生存本能の勝負である。数えるのも億劫なほどのおびただしい量。
ならばどうするか。
アルムは防御行動を開始した。高速で振るわれるは両腕、閃くは刀身、叩き落されていくは名剣の切れ味を持つ羽根。
一々視てはいない。ただ、己の命が危ぶまれそうな羽根のみを的確に落とし、致命傷に届かない羽根は甘んじて受ける。たったそれだけのシンプルな行動である。
――時間にして、丁度一分。常人ならばとっくの昔に原形を留めていないであろう死の雨を、アルム・ルーベンは越えてみせた。
「何……だ、貴様は?」
シャロウは、かつてない動揺を感じていた。処理しきれないほどの揺れ。これを一体何と言い表すのか、彼は知らなかった。
「俺としては『魔王の爪』の情報を色々と知りたいところではある。だから、さっさと答えたら楽に殺してやる。答えなくても殺すから黙秘は要らんぞ」
「……何なのだ、貴様は……!?」
「『魔王の爪』のリーダーや組織構成、人数、知っていることを今、ここで洗いざらい喋ろ」
どんどん距離を詰めてくるアルムへ、シャロウは再び羽根による攻撃を試みるが、あっさりと弾かれる始末。ゆっくりと、確実に、歩いてくるソレに対し、シャロウはようやくこの感情に名前を付けることが出来た。
「きょう……ふ? 私が? 人間に? 恐怖? ふざけるな、ふざけるなふざけるなふざけるな!!」
「最後に一回だけ聞く。喋る気は?」
「人間如きに私が恐怖ダァァァァァァ!!!?」
激流のごとく流れてくる怒りが、シャロウに行動を許した。身体を失った痛みなぞ、とうに消えており、ただ剣士アルムを滅殺することのみが頭の中にあった。
片翼を大きくはためかせたシャロウは、ひたすら前へ進むための推進力へと変えた。そして嘴へありったけの魔力を集中させる。
「爆ぜろォ人間!!!」
身体のどこかで良い。嘴から直接魔力を流し込み、体内で暴走した魔力が爆発を引き起こす。
《黒鳥のシャロウ》の奥の手中の奥の手。どんな劣勢でもこれにより、逆転勝利を収めてきた必殺の技。
「その台詞は三下の中でも特に、下が言う台詞だぞ」
青い剣と短剣を魔力で覆ったアルムは避ける訳でもなく、防御する訳でもなく、打ち負かすために走り出した。
二度も瞬きしたら互いが交差する。それはそのままこの戦闘の終焉を意味しており。
あと数歩。
「俺はこの先も倒し進む……!」
跳躍、両腕を上げたアルムは――短く息を吐き、一気に振り下ろした。
「……わた、しが、死ぬ、だと?」
アルムは傷一つ付いていなかった。対し、真っ向から叩き割られたシャロウは、地面にその身を叩きつた。
「ああ、死ぬ。受け入れろ」
アルムの前後の石壁が崩れ、それぞれに通路が現れた。
恐らくシャロウが何か魔法を仕掛けていたのだろう、と踏んだアルムは既に事切れそうな彼へ止めを刺すべく近寄った。
「……ふ、ふふ、ふ。私は、死ぬ。が、な。目的は果たせ、なか……った代わり、に、き、さまの絶望……をもらって、いく」
そう言った瞬間、アルムはシャロウの胸へ青い剣を突き刺した。初の魔族戦はあっけなく終わったが、最期の言葉を聞いた彼は、すぐに広場を後にしていた。
あの言葉から連想出来る状況など、口に出すまでもない。
「死んでるなよ、あいつら……!」
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