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第27話 剣士、『黒鳥』と対峙する その4
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「イーリス、ウィスナ、生きてる?」
「ええ……どうにか」
「……強い」
現在、イーリス達三人の戦況は最悪中の最悪であった。
いくら攻撃を仕掛けても、あの黒翼に阻まれるか避けられるかの二択。おまけに翼から撃ち出される羽根によって薄皮を削がれるよう、徐々に徐々にダメージを与えられる始末。
「三人掛かりでこれですか? もう少し楽しめると思ったのですがね」
シャロウがくつくつと笑いを漏らす。完全に遊ばれている、というのはとっくの昔に皆が気づいている事実。
「これからもっと楽しませてやる、わよ!」
しかし、それで反抗を諦めるような三人ではない。
エイルは、イーリスとウィスナの眼を見る。それだけで、二人は理解したように頷いた。
「……よし、行く」
息を整えたウィスナが、双剣を握り直してから跳躍し、独楽のように回転する。
その直後、イーリスが準備をしていた拘束魔法を発動する。
「『アクア・バインド』! 縛って!」
水流の輪が、シャロウを拘束する。さしもの階級持ちと言えど、拘束を解除するのには一瞬でも時間が掛かる。
それだけの時間が稼げれば、黒翼に阻まれることなく、ウィスナの双剣を走らせることに全く問題はなかった。
「シッ――」
胸部を中心として、斬撃を交差、そのままシャロウを横切った彼女は成果には目もくれず、即その場を離脱した。
何も、この攻撃だけで倒せるとは思っていない。その次があるのだ。
「電刃一閃――『ボルティック・ザンバー』」
両腕を掲げていたエイルがそう詠唱すると、組まれた握り拳を基点に、瞬く間に雷の刀身が伸びていく。その長さはその場でシャロウに届くかと思われるほどで。
気合一声。エイルが視界にあるもの全てを薙ぎ払わんばかりの勢いで、雷刃を振るう。
風を切る音、空気を焼く雷、いま風雷となりてシャロウの胴体へ着撃する!
「オオオオオオオ……!!」
がら空きの状態に、イーリスの水流の輪、ウィスナの双撃――そして、エイルの雷撃が一度に押し寄せた。
黒翼で防げなかったシャロウは、その怒涛を一気に叩き込まれ、とうとう明確なダメージを負うこととなった。
「や、やった……! 即席コンビネーション!」
その一応の成功を確認したイーリスは喜びを隠せなかった。先ほどまではバラバラに攻撃をしていたが故に、軽く防がれていた。
だが、シャロウの予想を上回る連続攻撃を行えば、まだ勝機はある。
――そう、三人は思い、そして気持ちが緩んだ。
「オオオォ……どうやら、手を抜き過ぎていたようだ」
だが、たった一回の攻撃で階級持ちの魔族を倒せる訳がない。
「ならば次からは――ん?」
ピタリと動きを止めたシャロウは斜め上を見上げた。その様は誰かと話しているようにも見える。
「……ああ、何という事だ。まさか……まさか、私のオリジナルが……ならば、ここに来るのも時間の問題ですか」
首だけ、三人の方へ動かしたシャロウ。先ほどまでのような紳士然とした雰囲気はいつの間にか消えており、非常に無機質な空気だけが、この場を支配していた。
「では、あの人間に絶望をくれてやらなければいけませんね」
黒翼を一度大きく動かしたシャロウは滑るように地を滑空すると、ほんの瞬き程度の時間を以て、エイルの元まで距離を縮めてきた。
「しまっ……!!」
「遅い遅い」
逃げる時間など無かった。片翼を振るうだけで、エイルが石壁まで飛ばされていった。
イーリスが緩衝材代わりの魔法を放とうとするも、間に合わない。彼女は吹き飛ばされたままの勢いで、石壁へ身体を打ち付けた。
「カッ――ァ」
「エイルさぁん!!」
ずるりと落ちたエイルの身体は上下している。即死でなかったことに関し、神に感謝をしつつ、すぐ治療のため駆け寄ろうとする。
だが、それを許すような魔族なぞどこにも存在する訳がない。
「適当にぐちゃぐちゃになってもらいます。それでなければオリジナルに申し訳が立たない」
「ひっ……!」
左の黒翼を二、三振るうと、名剣の切れ味を持つ羽根が射出された。濃厚な弾幕。まともに喰らえば、間違いなく四肢が無くなるどころか、挽き肉になるであろう。
シャロウに背後を見せていたイーリスに、防御魔法を展開する時間はない。
そんな絶体絶命の状況、破壊を生み出す死の雨に――ウィスナが飛び込んだ。
「凍える太陽! 燃える月!!」
ウィスナの両腕が鞭のように高速でしなる。
紺碧の剣を振るえば、その軌跡からは氷の壁が生まれ、羽根を凍てつかせる。真紅の剣を振るえば、その軌跡からは炎の牙が燃え盛り、羽根を炭に変えていく。
過去に経験をしたことがないほどの超高速防御。だが、それを十全にこなすには、まだまだ技量不足である。
「ッ痛……!」
数が多すぎた。捌き切れない羽根が徐々にウィスナに突き刺さっていく。だが、彼女は痛みに顔を歪めるだけで、剣を手放さない。
あと数秒。そこを超えることが出来れば――!
「ゥ…………!」
右肩に羽根が刺さり、燃える月による防御が一瞬遅れた。その開いた守りの隙間を縫って、あと僅かであった羽根が全てウィスナの足や左腕へ突き刺さる。
「イーリス……ごめん、しくじった」
その言葉を最後に、ウィスナは意識を手放した。
「ウィスナさん!!」
「あとは、貴方だけですね。良い声で鳴いてください」
シャロウの声は、耳に入っていなかった。
イーリスはただ、己の中に湧き出るこの感情にどう名前を付ければいいのだろう、と考えていた。
静かに、冷たく、燃え盛るように。この七色に形を、そして色を目まぐるしく変えるこの感情は――、
『よう、だいぶやられたな』
魔王ヴァイフリングが内から声を掛ける。久々に聞くこの声に、どこか安心感を覚えつつも、イーリスは返す。
(……私は悔しいです。私には、皆がこんな目に遭わされたというのにあの人を、シャロウさんに何かする力がありません……!)
『だろうな、貴様は弱い。弱すぎる』
(ヴァイさん、私には何が出来るのでしょうか? どうやれば、シャロウさんを倒せるのでしょうか?)
イーリスの言葉に、魔王は高笑いをあげた。まるで、何かに挑戦する子供を見守る親のような笑みだった。
『――ならば研ぎ澄ませろ! 貴様の背後には一体誰がいると思っているのだ!』
「は、はい!」
魔王の後押しを受け、シャロウへ向き直るイーリス。その身体、もはや震えは無かった。
「ほう……?」
よし、と言った魔王が更に続ける。
『今までの味覚共有の礼だ。――――イーリス、貴様に本当の力とは何なのかを教えてやろうではないか』
「ええ……どうにか」
「……強い」
現在、イーリス達三人の戦況は最悪中の最悪であった。
いくら攻撃を仕掛けても、あの黒翼に阻まれるか避けられるかの二択。おまけに翼から撃ち出される羽根によって薄皮を削がれるよう、徐々に徐々にダメージを与えられる始末。
「三人掛かりでこれですか? もう少し楽しめると思ったのですがね」
シャロウがくつくつと笑いを漏らす。完全に遊ばれている、というのはとっくの昔に皆が気づいている事実。
「これからもっと楽しませてやる、わよ!」
しかし、それで反抗を諦めるような三人ではない。
エイルは、イーリスとウィスナの眼を見る。それだけで、二人は理解したように頷いた。
「……よし、行く」
息を整えたウィスナが、双剣を握り直してから跳躍し、独楽のように回転する。
その直後、イーリスが準備をしていた拘束魔法を発動する。
「『アクア・バインド』! 縛って!」
水流の輪が、シャロウを拘束する。さしもの階級持ちと言えど、拘束を解除するのには一瞬でも時間が掛かる。
それだけの時間が稼げれば、黒翼に阻まれることなく、ウィスナの双剣を走らせることに全く問題はなかった。
「シッ――」
胸部を中心として、斬撃を交差、そのままシャロウを横切った彼女は成果には目もくれず、即その場を離脱した。
何も、この攻撃だけで倒せるとは思っていない。その次があるのだ。
「電刃一閃――『ボルティック・ザンバー』」
両腕を掲げていたエイルがそう詠唱すると、組まれた握り拳を基点に、瞬く間に雷の刀身が伸びていく。その長さはその場でシャロウに届くかと思われるほどで。
気合一声。エイルが視界にあるもの全てを薙ぎ払わんばかりの勢いで、雷刃を振るう。
風を切る音、空気を焼く雷、いま風雷となりてシャロウの胴体へ着撃する!
「オオオオオオオ……!!」
がら空きの状態に、イーリスの水流の輪、ウィスナの双撃――そして、エイルの雷撃が一度に押し寄せた。
黒翼で防げなかったシャロウは、その怒涛を一気に叩き込まれ、とうとう明確なダメージを負うこととなった。
「や、やった……! 即席コンビネーション!」
その一応の成功を確認したイーリスは喜びを隠せなかった。先ほどまではバラバラに攻撃をしていたが故に、軽く防がれていた。
だが、シャロウの予想を上回る連続攻撃を行えば、まだ勝機はある。
――そう、三人は思い、そして気持ちが緩んだ。
「オオオォ……どうやら、手を抜き過ぎていたようだ」
だが、たった一回の攻撃で階級持ちの魔族を倒せる訳がない。
「ならば次からは――ん?」
ピタリと動きを止めたシャロウは斜め上を見上げた。その様は誰かと話しているようにも見える。
「……ああ、何という事だ。まさか……まさか、私のオリジナルが……ならば、ここに来るのも時間の問題ですか」
首だけ、三人の方へ動かしたシャロウ。先ほどまでのような紳士然とした雰囲気はいつの間にか消えており、非常に無機質な空気だけが、この場を支配していた。
「では、あの人間に絶望をくれてやらなければいけませんね」
黒翼を一度大きく動かしたシャロウは滑るように地を滑空すると、ほんの瞬き程度の時間を以て、エイルの元まで距離を縮めてきた。
「しまっ……!!」
「遅い遅い」
逃げる時間など無かった。片翼を振るうだけで、エイルが石壁まで飛ばされていった。
イーリスが緩衝材代わりの魔法を放とうとするも、間に合わない。彼女は吹き飛ばされたままの勢いで、石壁へ身体を打ち付けた。
「カッ――ァ」
「エイルさぁん!!」
ずるりと落ちたエイルの身体は上下している。即死でなかったことに関し、神に感謝をしつつ、すぐ治療のため駆け寄ろうとする。
だが、それを許すような魔族なぞどこにも存在する訳がない。
「適当にぐちゃぐちゃになってもらいます。それでなければオリジナルに申し訳が立たない」
「ひっ……!」
左の黒翼を二、三振るうと、名剣の切れ味を持つ羽根が射出された。濃厚な弾幕。まともに喰らえば、間違いなく四肢が無くなるどころか、挽き肉になるであろう。
シャロウに背後を見せていたイーリスに、防御魔法を展開する時間はない。
そんな絶体絶命の状況、破壊を生み出す死の雨に――ウィスナが飛び込んだ。
「凍える太陽! 燃える月!!」
ウィスナの両腕が鞭のように高速でしなる。
紺碧の剣を振るえば、その軌跡からは氷の壁が生まれ、羽根を凍てつかせる。真紅の剣を振るえば、その軌跡からは炎の牙が燃え盛り、羽根を炭に変えていく。
過去に経験をしたことがないほどの超高速防御。だが、それを十全にこなすには、まだまだ技量不足である。
「ッ痛……!」
数が多すぎた。捌き切れない羽根が徐々にウィスナに突き刺さっていく。だが、彼女は痛みに顔を歪めるだけで、剣を手放さない。
あと数秒。そこを超えることが出来れば――!
「ゥ…………!」
右肩に羽根が刺さり、燃える月による防御が一瞬遅れた。その開いた守りの隙間を縫って、あと僅かであった羽根が全てウィスナの足や左腕へ突き刺さる。
「イーリス……ごめん、しくじった」
その言葉を最後に、ウィスナは意識を手放した。
「ウィスナさん!!」
「あとは、貴方だけですね。良い声で鳴いてください」
シャロウの声は、耳に入っていなかった。
イーリスはただ、己の中に湧き出るこの感情にどう名前を付ければいいのだろう、と考えていた。
静かに、冷たく、燃え盛るように。この七色に形を、そして色を目まぐるしく変えるこの感情は――、
『よう、だいぶやられたな』
魔王ヴァイフリングが内から声を掛ける。久々に聞くこの声に、どこか安心感を覚えつつも、イーリスは返す。
(……私は悔しいです。私には、皆がこんな目に遭わされたというのにあの人を、シャロウさんに何かする力がありません……!)
『だろうな、貴様は弱い。弱すぎる』
(ヴァイさん、私には何が出来るのでしょうか? どうやれば、シャロウさんを倒せるのでしょうか?)
イーリスの言葉に、魔王は高笑いをあげた。まるで、何かに挑戦する子供を見守る親のような笑みだった。
『――ならば研ぎ澄ませろ! 貴様の背後には一体誰がいると思っているのだ!』
「は、はい!」
魔王の後押しを受け、シャロウへ向き直るイーリス。その身体、もはや震えは無かった。
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