四本剣の最強剣士~魔王再討伐につき異世界転生~

右助

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第28話 剣士、『黒鳥』と対峙する その5

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「教えてやろうって……どうやって?」
「一体誰に話しかけているのか分かりませんが、貴方からはどうにも妙な気配がします。従って、念入りに叩いてあげましょう」

 一段と近づく恐怖。だが、シャロウに気を取られないだけの気迫で、魔王は言う。

『幸い、ここはどうにも魔力の巡りが良い。これならば我輩も……』
「私は、どうしたら良いんでしょうか?」
『……一応、謝罪しておくぞイーリスよ』
「え? それってどういう――」

 イーリスの言葉を遮るように、魔王は呪文を紡いだ。

『――『サイコ・シフト』』

 瞬間、イーリスは視界が変わっていくような感覚を覚えた。ちゃんと視えているはずなのに、どこかのような、いいや、更に近い言葉があった。
 そう、まるで夢を見ている最中のような。自分自身の眼なのに、どこか一歩後ろで眺めている時の、あの感覚。


「……ふうむ? なるほどなるほど。まあ、これならば我輩が力を放ってもここが木端微塵になることはないだろうな」


 その時、見た光景は後にも先にも忘れる事はないだろう、とイーリスは思った。
 何せ、自分自身の身体が勝手に動いているのだ。今は、肩をぐるぐると回し、調子を確認している最中。
 続いて衝撃的な出来事としては、動かしているつもりもない唇から紡がれる口調は紛れもなく――魔王ヴァイフリングのものであったのだ。

『え、えええ!? 私が!? 勝手に!? ヴァイさん!? ええっ!?』
「喧しいぞイーリス。これから戦おうという時に、集中を乱すでない」
『だ、だってこれじゃまるで――』
「そう逆転シフトしたのだ。まあ、詳しいことは後で話してやる」

 槍を握り締めたイーリス魔王がゆらりと振り向き、シャロウを眼前にする。
 黒翼の魔族を視界に入れる彼女魔王の瞳の色が、ヴァイフリングの髪の色と同じ、紫に変わっていた。

「何だ……貴様? いきなり、纏う空気が変わったように見えるが?」
「そうさな。纏うモノは変わった」
「――ッ!?!?!?」

 シャロウが、目を見開いた。視線は己の足元。あまりにも、あり得ないことが起きていた。
 《黒鳥のシャロウ》とまで呼ばれ、先ほどは三人の人間を軽くあしらっていた侯爵マーキス級魔族が――退
 あろうことに、ゴミクズ同然の実力しか持たぬ、ただの人間如きに、だ。

「ッ!!」

 この事実を確認した刹那、シャロウはまた地を這うような滑空を以て、あっという間にイーリスを間合いに詰めた。
 黒翼に入る力が一段、いいや二段程強く込められた。

 ――この攻撃で粉砕する。

 遊びは一切無しの本気中の本気である。戦いに身を置いていた本能が強烈にシャロウへ警告するのだ。
 これで潰せなければ死ぬ、と。そうガンガン訴えてくる。

「死ネェ!!」

 音を置きざりにするような速度で左右の黒翼は振るわれた。直撃すればあっという間に五体が弾け飛ぶであろう威力。


「ずっと貴様の動きを視て思っていたが、随分と遅いよな。鍛えてるのか?」


 突き出した槍の穂先だけで、双翼がビタリと止められていた。シャロウが力を込めても、まったく動かない。
 それどころか、彼女魔王が槍を一振るいするだけで、強烈な衝撃がシャロウを襲い、気づけば石壁に思い切り叩きつけられていた。

「それに軽いな。情けない」
「貴様……何者だ?」
「そしてもう一つ言っておくぞ。こと戦闘で、無駄口ばかり叩いているな。全盛期の我輩なら、この間にもう五十は貴様を殺せている」

 イーリス魔王が槍で魔法陣を描く。その巨大で精緻な紋様を視たシャロウはソレを何かの間違いだと、理解を拒む。
 何せその魔法陣は! そこから起こりうる次の事態は!!

「何を……やっている貴様? その攻撃魔法を何故知っている……!?」

 《黒鳥のシャロウ》は魔法陣を確認した段階で“逃走”を選択していた。
 与えられた二つ名に誓って断言できる。あの魔法陣から感じる力は、ブラフではないのだと。
 だが、一手遅かった。

「ぐゥ……!?」
「ほう、これが『アクア・バインド』か。中々使い勝手が良いな」
「拘束魔法……! いつの間に!!」

 シャロウを襲ったのは、先ほどの比ではない強力堅固な水流の輪であった。五体を拘束され、もはやぴくりとも身体を動かせない。
 その間にも魔法陣の書き出しは続き、徐々に水球が無数に宙を浮き始める。

「フハハハ! 運が良いぞ貴様は! これから貴様は我輩の必技を受けるのだからな!」

 浮いていた水球がどんどんシャロウ目掛け飛んでいく。無数の水球はその身をどんどん他の水球と混じり合わせ、やがて巨大な水球へとその身を変えていった。
 ここまではきっと基本的な魔法である『ウォーターボール』でも頑張れば出来るであろう。
 だが、魔王がこれから放つ魔法にはその先がある。
 今まさに、絶技が放たれる寸前、シャロウが絶望した表情で呟いた。

「ま、さか……まさかまさか! ……私があの小娘から感じていた違和感、とは! なら、何故!? 何故なのですか……!?」

 イーリス魔王は指を鳴らす。


「圧殺の水獄! 『ゲフェグニス・ヴァッシャー』!」


 号令を受けた水球がゆっくりとだが、確実に圧縮されていく。中心核に座しているシャロウは、四肢を拘束されている故、その水圧を甘んじて受けるより他ならない。
 意識が完全に失せる刹那、シャロウは水球の中から叫んだ。


「魔王様ァァァァァァァァァァァァ!!!」


 だが、その叫びはイーリス魔王まで届くことはなく、やがて巨大だった水球は握り拳くらいの大きさになり、そして完全に消えていった。
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